スターゲイザー~楽園12~

志賀雅基

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最終話(ここからまた、始まる)

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《そうだな、『納得して生きろ』とだけ――》

 身動きする気配に気付いて二人が見るとギルは碧い目を見開いていた。すぐに状況を掴んだらしく、跳ね起きるなり大声を出す。

「フレド、フレド! だめです、引き返して下さい!」
《いや、あとはお前に任せた。もう五分だ、ワープする》
「スイングバイでウイルス艦をTF557に振り落として下さい!」
《不成功の確率、約七パーセントだ。俺は行く。じゃあな》
「フレド、フレド! ……あっ!」

 膨大なデータが流れ込んだためでもあろうか、ギルは数秒の間凍ったように身を硬直させていた。次には大型モニタの艦外映像に目をやる。白熱する恒星の放射光に紛れ、既にブリップは表示されてはいなかった。

「G2V型スペクトル……太陽ソル系の太陽と同じですね」

 呟いた声は震えている。

「ギル、貴方泣いてる……?」

 シドとハイファが見たギルは、無表情の頬に熱い液体を流していた。

「フレドも泣いていました。それなのに行ってしまった。生きたいクセに、あんなに明日を生きたいクセに、何故犠牲になれるのかメモリの中にも答えがないのに――」
「あんたはあんたでその意味を掴み取っていけ、そういうことじゃねぇのか?」

「私にもフレドと同じ答えが得られる、そんな日がくるでしょうか?」
「別に同じじゃなくてもいいだろ、あんたはフレドのクローンじゃねぇんだからさ。あんたにはあんたの人生が待ち受けてる。ほら、フレドからのプレゼントだ」

 対衝撃ジャケットのポケットから取り出したものをシドはギルに手渡した。受け取ったものをギルは暫しじっと見つめる。それは麻雀牌の白だった。何も彫りつけられていない牌を握り締め、ギルは二人に宣言する。

「還りましょう、太陽系へ」

 メイン航法コンにリードを繋ぎなおしたギルが小型宙艦をワープさせた。ワープアウトして右側の窓外に見えたのは惑星、それはスターゲイザーから昨夜見たのと同じくらい、ゴルフボールくらいの土星だった。

「ちょっとギル、タイタンから離れすぎちゃったんじゃないの?」
「誰もタイタンに行くとは言っていませんよ」
「って、何処に行く気だよ。エウロパの航空宇宙監視局本部か?」
「違います、もう目の前にありますよ。反対側の窓から見えています」

 言われて二人は左の窓に張り付いた。そこには小惑星らしき物体が浮かんでいた。注視すると凸凹の地表面には様々な人工物が立ち並んでいるらしいのが確認できる。

「裏に回り込みます」

 小型宙艦は小惑星と相対距離を保ったまま軌道を変えた。

「わあ、これにも水がある。ねえ、これってもしかして?」
「スターゲイザー・ザ・セカンドですよ。直径約十キロの土星の第二十二衛星イジラックを改造したものです。海にはストロマトライトも育成されていますよ」

「あんたはこれに乗るのか?」
「ええ。そのようにテラ連邦議会から通達がなされているとメモリに書き込まれていましたから。宙港に着艦します。そろそろスチュアートたちも着いている頃です」

「って、俺たちはどうなるんだよ?」
「クリームチーズを載せた艦が明日、タイタンから来る予定です。それに乗って帰られてはいかがでしょうか?」
「クリームチーズって……マジかよ?」
「いいえ、冗談です」

 そう言ったギルの表情は、ぎこちないながらも確かに笑っていた。                                  
                               

                           了
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みんなの感想(3件)

高峠美那
2023.09.10 高峠美那

志賀さん こんばんは
読みに来るのが遅くなり申し訳ございません。
読了して参りました。

私は、未来宇宙の知識が、映画「スターウォーズ」や、USSエンタープライズの航海を描いた「スター・トレック」くらいしかなく、志賀さんが作り出す世界に、圧倒してしまいました!
凄いですね! 
艦のドッキングや、ワープなどは、映画でもお馴染みですので、すんなり想像できました。

この楽園シリーズは、全てがハイファとシドが中心になっているお話なのでしょうか?
そうすると、凄くたくさんの話を、宇宙を舞台にして書かれているんですね…
本当に凄い。
フレドの最後は…本当に、これしか方法はないのかと読了後も考えてしまいました。
ギルの幼い行動も、当然の行動で…。
でも、きっとギルのとった行動に、フレドも嬉しさを感じていたのではないかと思ってしまいます。

↑映画をあげた通り、SFは大好きなんです。
「スター・トレック」は、昔のTVは見た事ないのですが、パイン演じる熱血漢で向こう見ずのカーク船長と「それは論理的ではありません」が口癖の、クイント扮する冷静沈着な副長スポックの男二人がイイんです。

話がそれてしまいましたが(^^ゞ
長さをまったく感じる事無く、無事読み終えました。
読了後も、しばしこちらにとどまっていた程に、満足でいっぱいです♡
ありがとうございました。

私などからでは、本当に小さな贈り物になるとは思いますが、エールと、投票を置いて行きますね♡

志賀雅基
2023.09.11 志賀雅基

高峠さん、志賀です。

拙作をお読み下さったのみならず、貴重な輝きをたくさん頂戴し、感謝の言葉も……なんて形式ばった言葉じゃなくてもいいですか? いいですよね?

読んで貰えてすごくすごく嬉しい! ありがとうございます!! 票もエールも超嬉しい。でも貴重なお時間を割いて拙作を読んで貰えたのが堪らなく嬉しいです♪♪
自分もスターウォーズは1~3のDVDを持っているくらいに映像のSF好き、書籍は中学生の頃からハヤカワ文庫を漁っていました。それらのとても良く出来た世界観と拙作はかけ離れていますが(苦笑)SFって自由なのですよ。上手くすれば『こういう風にしたい』が全部叶っちゃいます。

お蔭で離れられず、楽園シリーズは現在なんと31作にまで。ハルイチ氏が愛してくれているシリーズなので、今は(おそらく年単位の)書けない時期に差し掛かってしまいましたが、古い最初期のボツ稿まで探す始末。

こちらも少々話が逸れましたが、楽園シリーズは基本の二人に対し、それぞれの作で絡む人物を登場させています。気に入ってそのまま残したり、ひょいと出てきてレギュラー入りしたりと、随分賑やかになりました。

書いているとどうしても助けられない人物も出てきます。生かしたくて、もっと活躍させたくて、でも何度書き直しても結末は同じ……でも、そういうときは諦めるんじゃなくて、拙作がこうしてある限り考え続けるんですよ。
だってSFなんですから。きっと未来のいつかに解決法が見つかるから、待っててくれって。

長くなりました、すみません。
どうも語り出すとくどくていけませぬ。
本当に有難うございました☆ミ 

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2023.09.02 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

志賀雅基
2023.09.02 志賀雅基

ハルイチさん、2周目ありがとうございます。志賀です。

最初の方でギルは「付き合い……とても人間らしいですね。いいでしょう」という科白を口にしています。自身がテラ連邦の最高機密物と分かっているので『人間らしい言動』を取ることにこだわりがあったのだと思います。それは人間という製造者に依る命令ではなく、バレてはならない秘密を護るのは当然と考えられるほどの高い知能の現れでしょう。

しかし高い知能からそのような考えを導き出し実行しているようでも、ギルのそれは未だ論理と真似事の合体にすぎません。そんなギルが『自然に愉しむ人間と変わらぬフレド』に衝撃を受けて固まり、更にはフレドが『人間と何ら変わらないのに犠牲になる』ことに疑問を持ち抵抗を示す。

それは、いつかやってくる自分自身の姿かも知れないから。自分たちは人間より能力も高いのに。

この話はアンドロイドでなくても成立するんですよ、じつは。長く生きて誰より知恵を持つ賢人が犠牲になると立候補しても。有名なSF小説の『たったひとつの冴えたやり方』では賢い少女が似たようなシチュエーションを演じました。

誰もが何かの途中で逝きます。こればかりは人生の中で一度だけという点でフェアにやってくる出来事です。志賀は誰もに精一杯生きて欲しい。思い切り愉しんで……でも明日が惜しくて堪らない程、この世のあらゆる物事を愛して欲しい。そう思い『スターゲイザー』を書きました。

彼らをアンドロイドにしたのは、愛しく惜しい世界をまだまだ愉しんでくれる者がいてくれたら、それはとても幸せな事だと思ったからです。今はまっさらでも成熟し納得して、世界を愛して明日を愛してくれればと。

挿絵を有難うございます☆ミ 
大変に豪華になりました。ご感想も感謝致します<(_ _)>

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2023.08.10 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

志賀雅基
2023.08.10 志賀雅基

お、おう。志賀です。

そこまで言って頂けるなんて書き物を始めて以来、夢にも思いませんでした。「嬉しい」だけでは表現できない……もうね、冗談抜きで「生きてて書いて良かった!!」の涙、涙です。

このスターゲイザーは少し短いんですよ、10万字に足りません。んで、ファンタジーのイヴェントに絡めてお得な書き足しキャンペーンに乗っかろうと思ったのですががが、、、何処にもナニもエピソードを挟む余地がねえ! こいつら勝手に生活感を滲ませやがって(例えば裏で余ったチーズケーキを女性陣が喰ってるとか)もう世界が出来上がっちまってます。

きっと彼らは土星の第二十二衛星イジラックで新しい生活をしてるのでしょう。

こんなに拙作を愛して下さるハルイチさん、愛してるぜ!! ありがとうございます、百万の感謝を!

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