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第7話

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「惑星警察だ、両手を挙げて頭の上で組め!」

 大喝と抜いたレールガンは脅し、だが男は紐を握りハイファを背負うようにして首を絞め続けていた。シドは男のみぞおちに膝蹴りを食らわせる。続けて腹を殴るも効いた様子はない。首を絞められたままハイファの足が浮く。

 このままでは頸骨が折れる。折れても治るがハイファをそんな目に遭わせる訳にはいかない。判断は一瞬、貫通してハイファを傷つけないようレールガンのパワーを落とし撃った。二連射は両肩に命中。男は紐を手放す。ハイファが咳き込んで頽れた。

 それで終わりにはならなかった。男がベルトの背から銃を取り出したのだ。発射されたのはレーザー、シドのジャケットのシールドファイバで射線が弾かれる。そのままレーザーガンの銃口がハイファの方へ向く。シドはレーザーガンを狙い再度発砲。

 爆発的に壊れたレーザーガンを投げ捨てた男は今度はものも言わずにシドに掴みかかってきた。やむなしとシド、腹にダブルタップ。強烈なマン・ストッピングパワーで崩れ落ちるように膝をつき、腹から黒々と血を噴き出させた男は、それでも不気味な無表情で起き上がった。

 男はシドを強敵と見たか、くるりと振り返ってハイファの金髪の頭を掴んだ。ファイバの地面に叩きつけようとするに及んでシドはヘッドショット。

 棒きれのように斃れた男には構わずハイファに駆け寄る。

「ハイファ、おい、大丈夫か!?」

 絡んだままの紐を解いてやり、薄い肩を揺さぶった。

「ハイファ、ハイファ、しっかりしろ!」
「ん、シド……ゴホッ、ゲホッ!」

 縛った髪が解けて乱れたハイファを腕に抱いたまま、シドはリモータで救急機と緊急機を要請する。何度も咳き込んだのちハイファは大きく息をついた。

「あー、死んだかと思ったよ」

 意外にも滑らかに発声したハイファにシドは胸をなで下ろす。

「ったく、ビビらせるなよ。いいから座ってろ」

 細い首には夜目にも索状痕がくっきり残っていたが、ハイファはシドの心配をよそに立ち上がった。しっかりした足取りでフレシェット弾で頭を砕かれた男に近づく。

 二人で男の死に顔を覗き込んだ。

「六分署の帳場の主人公、フランソワ=ジプレかあ。残念だけど仕方ないね」

 幾ら現代医療が発達していても、頭をここまで割った人間を甦らせる術はない。
 まもなく緊急音が響いてきて最初に現着したのは七分署機捜課の深夜番だった。

「これはイヴェントストライカらしい現場ですね。お蔭で深夜番も飽きません」

 そう言って手配犯の顔を涼しい顔で眺めたのは、シドの先輩のマイヤー警部補だ。

「うわ、派手っスね! またヴィンティス課長の血圧が下がりますよ」

 顔をしかめて喚いたのは、カードゲームに負けた後輩のヤマサキだった。

 次に飛来したのは白いボディに赤い十字をペイントした救急BEL、シドとハイファが乗れ乗らないでモメているうちに次々と緊急機が増え、辺りは何の祭りかという騒ぎとなる。

 追加で増えた人員は連絡を受けて六分署の帳場から駆け付けた者や、緊急連絡網で呼び出されたヘイワード警部補以下、七分署捜一の捜査協力本部、鑑識などだ。

 主任クラスの相談の結果、帳場まで立てた以上譲れない六分署も実況見分の他、全てに合同で当たることに決まった。勿論シドとハイファも実況見分に付き合わねばならない。事情聴取も待っている。

「ハイファ、無理するなよ。気分が悪ければすぐに言えよな」
「大丈夫だって。貴方そんなに心配性だったっけ?」

 お前だけが心配なんだという言葉を呑み込んで、シドは実況見分の現場に立った。それが終わると被害状況を明らかにするため、やっとハイファが救急機に乗る。当然とばかりにシドも付き添った。他には六分署から二名の捜査員が同行した。

 数分のフライトで救急機が滑り込んだのは七分署管内のセントラル・リドリー病院だった。救急機がそのまま駐機できるよう天井が高く取られた五階は救急救命のフロア、シドとハイファも馴染みとなっている。

 スタッフとも馴染みで、看護師らがシドに声を掛けていく。

「あら、シド。今日は何処が折れたの?」
「今日は俺じゃねぇよ。早く医者を呼んでくれ」
「まあっ、ハイファス、その首! こっちに来て。そこに座って。痛くない?」
「えらく待遇が違うじゃねぇか」
「僕の人徳ってヤツじゃないかな?」
「どの口で言ってんだ、この二枚舌が」

 やがてやってきた医者にハイファは簡易スキャンを受けた。そのあとで首のアザに消炎スプレーを吹きかけられる。

「骨にも咽喉にも異常は見当たりません。体重が軽かったのと、髪が挟まっていたのが幸いでしたね。消炎スプレーをまめにすれば、あざは二、三日で消えるでしょう。無罪放免です。正式な所見はのちほど署の方に流します」

 携帯用の消炎スプレーを手渡されて病院は釈放パイとなった。今度はヤマサキが緊急機で迎えに来て、七分署での事情聴取だ。

 六分署員も一緒なので何度も同じ事を喋るハメにならないのはいいが、タイタン一分署までが追うホシを射殺逮捕で終わらせたのだ。なかなか釈放されず何もかもを終わらせて二人が自室に帰ったのは午前五時に近かった。

 帰り着くとリフレッシャだ。シドはホシの血飛沫のこびりついた対衝撃ジャケットから下着まで、脱ぐ片端からダートレス――オートクリーニングマシン――に放り込み、スイッチを入れておいてバスルームに入る。

 リフレッシャをオンにして洗浄液で黒髪からつま先まで丁寧に洗い、熱い湯で流した。バスルームをドライモードにして全身を乾かすと、僅かな疲れも一緒に蒸発していくようだった。

 バスルームから出ると部屋着のグレイのスウェットを身に着ける。ソファで煙草を二本灰にしているうちにハイファも戻ってきた。寝間着代わりの柔らかな紺のドレスシャツに黒の薄いズボン姿だ。解かれた明るい金髪が背に流れている。

 ハイファを伴って寝室へと引き上げたシドは、ベッドに座って消炎スプレーを片手にリモータを見た。

「五時過ぎ、寝るヒマも殆どねぇな」
「今日の予定は巣の掃除と大人しく仮眠だね」
「寝る前にほら。これぶっかけておかねぇと痕が残るぞ」

 抱き寄せられ髪をそっと除けられたハイファは退き、抵抗する。

「今はだめ。貴方の口に入っちゃう」
「って、今から寝ても二時間そこそこなんだがな」

 ペアリングをしたシドの手を取り、目元を赤らめながらもハイファは言い募った。

「帰ったらご褒美って約束したじゃない、忘れちゃった?」
「覚えちゃいるが、お前、首はいいのか?」
「病院で聞いたでしょ、大丈夫だよ」

 覗き込んでくる若草色の瞳に乞われ、染めた目元の色っぽさにシドは負ける。消炎スプレーを放り出して細い躰を抱き締めた。
 赤い唇を奪い、割った歯列から舌を侵入させると柔らかな舌を絡め取り、唾液ごと貪るように吸った。
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