マスキロフカ~楽園7~

志賀雅基

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第31話(BL特有シーン・回避可)

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 狂おしくも切羽詰まった切れ長の黒い目を薄闇に見つめ、ふっと息を吐くとハイファはシドの被っている毛布を足元まで剥がす。
 薄い患者服の上からもはっきりと分かるシドの躰の変化が愛おしい。ベッドに腰掛けるとシドの患者服の紐を解き、前をはだける。

 あちこち浅く切られた痕があった。これは再生液で洗い流したので跡形もなく消えると言われていたが、滑らかな象牙色の肌にくっきりと浮かぶ切創は痛々しい。
 けれどなお逞しい躰からは男の色気が立ち上っているようだった。

 そんなシドは既に躰の中心を熱く太く張り詰めさせていた。
 ようやく手を離したシドは、もう吐息を荒くしている。ハイファは汗でほんの少ししょっぱい肌に舌を這わせた。傷痕を辿るように引き締まった腹から逞しい胸を舌で愛撫してゆく。
 胸の小さな尖りを唇で挟んで甘噛みすると、シドの躰がビクリと揺れ動いた。

「っく……あっ、ふ……ハイファ」

 無事だった指で長い金髪を梳きながらシドは押し殺せずに喘ぎを洩らす。いつになく敏感に反応する愛し人にハイファは自分も熱くなるのを感じた。象牙色の肌に指と舌先での愛撫も続けながら右手ではシドの熱くしたものを掴んでゆったりと扱く。

 幾らも経たないうちにシドは滾らせた先端から蜜を溢れさせハイファの手を濡らした。自分を欲しがるシドが酷く愛しくて堪らずハイファはシドを咥えて攻め始める。
 堪らなく切なく、怖かった想いをぶつけるように激しく舐めしゃぶり攻め立てた。

「うっ、あ、ハイファ……っく……はあっ!」

 シドがいつにない甘い喘ぎを洩らす。低く甘い喘ぎと、溢れる蜜をねぶり啜る水音が静けさの満ちた病室内に響いた。
 もっともっと感じて欲しくてハイファは更に深く咥え込み、形を舌でなぞりながら口内の全てで愛し人のものを包み込んで唇を上下させた。

 自らの喉を突かんばかりに深く咥えて蜜を啜る。

「くっ……ハイファ、あっ……くうっ!」
「ん……ん、んんぅ……んっ」

 一切の攻めが受けられないものの、自分を求めてやまないシドの様子にハイファも完全に欲情し、いつしか喉の奥で喘ぎを洩らしていた。

 一方でシドは甘い声に急激に追い詰められる。腰を突き上げてしまわぬよう背を反らして堪えるだけで精一杯だった。快感の波に押し流されてしまう前に訴える。

「ハイファ……んっ、だめだ……お前が、欲しい、から」
「んんぅ、んっ……僕も、欲しいよ!」

 存分に舐め唇で扱いてから、ハイファはシドを解放した。

 寝るのに皺になるスーツは上下とも脱いであって、ドレスシャツ一枚と下着のみだったハイファはするりと全てを取り去りベッドに上がる。横たわる躰に跨るとシドは上体を起こしてハイファの細い躰を抱き締めた。胸に耳を押し当て鼓動を聴く。

 この存在が自分の心を、精神をこちら側に繋ぎ止めていてくれたのだ。
 あのとき傷つけられ繰り返し絶叫する自分から意識を意図的に切り離したシドは、この温もりへ精神的に逃げることで、助けがくるまでの長い時間を耐え抜いたのだ。

 薄闇に浮かび上がるような白く滑らかな肌にシドは舌を這わせた。

「あ、あっ……ふ……シド、はぁん」

 薄い肩を引き寄せられ首筋と鎖骨とを舌で愛撫され甘噛みされてハイファは抑えられずに声を洩らす。幾度も唇で挟んで吸い上げられ、シドの証しを穿たれて甘い痛みは疼きに変わり背すじを駆け下りてゆく。しっとりと手に吸い付くような象牙色の肌が酷く愛しい。

 だが自分が理性を失くすわけにはいかない。シドに負担を掛ける。

「はあっ、あんまり、シド……傷に、障るか、ら」
「大丈夫だ、ハイファ……我慢する方がきつい。だから、頼む」
「そんな、ああんっ、だめ、だめだよ、シド……や、あん!」

 胸の小さな尖りを舌で転がすように刺激されハイファは既に思考が白熱して、シドの舌での愛撫の感触と自らの腰に溜まった疼きだけしか頭になくなる。
 気付いたときにはもう、あられもなくハイファは乞うていた。

「はあっ、ん……シド、お願い……もう」
「俺も……もう、お前の中に入りたくて堪んねぇよ」

 ずっと互いの躰の間で刺激され続け、二人とも張り裂けんばかりに熱く勃ち上がらせきっている。零れた蜜が濡れ混じって二人の間で糸を引いた。

「欲しいよ……いい?」
「待てよ。そのままじゃハイファ、お前がつらいだろ」

 二人から溢れた蜜を無事だった右手の人差し指と中指に絡め、シドがハイファの後ろにそっと触れた。ハイファも更に自ら身体を開く。指が体内に侵入してきた。
 残る指も食い込み易々と呑み込んだハイファだったが中は狭くきつく、強く締めつけてくる。ゆるやかに指を動かすとハイファは腰をうねらせ背を反らせた。

「ハイファ……ハイファ、愛してる。お前の強さが俺を護ってくれた」
「シド、愛してる。貴方だけだよ。んっ、僕の誇り、シド……ああんっ!」

 増やした指は蠕動する内襞に誘われ何処までも奥深く引き込まれそうになる。シドは増やした指でハイファの中を擦り上げては幾度も抽挿入し掻き回した。
 深くまでは届かず、いつもほどの快感を与えられそうにない。悦ばせてやれないかも知れないと思ったがシドはもう己を止められない。
 そのうちハイファが腰を前後させ始める。
 あまりに美しくも淫らな白い躰にシドは痛いような疼きを溜めた。

「そんなに動くと傷つけちまうぞ」
「シド……だめ、躰が勝手に……もう、頂戴……本当に無理――」
「分かった。俺も欲しくてさ。頼んでいいか?」
「うん。たまには任せて、って、ああっ……そんな、はうんっ!」

 咥え込ませた人差し指と中指をバラバラに動かしてハイファを一際高く鳴かせてからシドは指を抜いた。快感を追うように細い腰が揺れ、シドは堪らない愛しさで胸が焦げつきそうな想いを抱く。薄暗さで今はグリーンに見えるハイファの瞳に頷いた。

 膝立ちでシドのものを掴みハイファは自らに押し当てる。

 向かい合って抱き締められながら指とは比べものにならないものの上に体重を落とし、ゆっくり受け入れてゆく。張り詰めたシドの反り返りが白く華奢なハイファを貫いてゆく光景は危うくも目が離せない、妖しさすら感じる淫らさだった。

 目を瞑り片手の爪をシドの背に立てながらハイファは高く喘いだ。

「あっ、あっ、すっごい、僕の中がシドでいっぱい」
「くうっ、きつい! ハイファ、ちょ、マジで……あっく!」
「はぁんっ、だって……いい、すごい、堪んないよ、シド!」

 ゆっくりとシドを根元まで受け入れたハイファだったが自らを縫い止め、暫し動けない。だがきつく包まれ我慢できなくなったシドは横になり、腰を突き上げ始める。
 何度も奥を突いては腰を捩り抉っては擦り立てた。

「あんっ! シド、無理は……はぅんっ! 無茶したら、ああんっ!」

 もっと鳴かせたかったがシド自身が思っているより消耗しているようで体力が続かず、それを見計らって呼吸の整ったハイファが腰を持ち上げては落としだした。
 自らの体重で穿つ熱く硬い楔は苦しいほど奥まで届いている。やがてハイファの躰が追い付いてきて淫らな音を立て出すと同時に苦しさが反転し快感の海に溺れていた。

「ああんっ、シド、シド! 僕のシド、ああっ、だめ!」

「何処がだめなんだよ、こんなに中は俺を捕まえて離さねぇクセに」
「でも、あ。ああっ……深、いよ……こんなに、はぅんっ、すごい、ああ――」

 両手はきつくシーツを握り締め、背をしならせて白い喉を仰け反らせ、長い髪を乱したハイファはまさに妖艶だった。
 そんな姿にシドは思考の全てを奪われ自らの怪我のことも忘れてのめり込み、またも幾度となく激しく下から突き上げ始める。

「ああ、気持ちいい……ハイファ、お前が俺を溶かしてくれてるぜ」
「貴方こそ、はうんっ……僕をとろとろにしてる、こんなに、はぁんっ!」

 絡みつく温かなハイファは異様に居心地が良く、ハイファが腰を持ち上げるたびに追おうとしてしまう。半ば以上引き抜かれ再び包まれ擦られる快感に目が眩みそうだった。
 そのうち互いに同時にぶつけ合い始めて急激に快感が高まり疼きが溢れだす。

「シド……もう、僕……だめ、かも」
「俺も、一緒に、いくからな」

 静けさの中、不規則な吐息と喘ぎ、ベッドの軋みと粘膜の立てる淫らな音が病室の空気を震わせる。二人を更なる疼きの昂ぶりが襲った。

「あっ、お願い、シド、早くきて……いく、いっちゃう、はうっ!」
「っく……ハイファ、うっ……くっ!」

 ハイファはシドにたっぷり注ぎ込まれるのを感じながら、自身もシドの腹から胸にかけて迸らせた。二人は幾度も身を震わせたのち何も考えられない刻を過ごす。

 すぐに動けないハイファはシドと共に暫し横になったのち、ベッドを降りて下着とドレスシャツを身に着けた。洗面所の湯でタオルを絞りシドの肌を綺麗に拭って着衣を整えてやりながら、切れ長の黒い目を覗き込む。

「大丈夫? 一応、見せて」
「何ともねぇよ」
「だめ、見せて……見た目では変わりないみたいだね」

 ぴったりと手袋をしたように柔軟性のあまり無い医療用ゴムスプレーで固められているのだ。枕元のライトを点けてみたが透明なゴムの下の傷は出血も見られない。

「もういいから、お前も座るか横になってろよ」
「ん、そうだね」

 タイタンの自転周期は十五日と二十二時間四十一分、約八日間続いた夜も黎明だ。窓外は真の闇ではなくなってきている。このまま数日をかけて夕闇程度には明るくなるのだ。

 こちらも黎明を迎えたかの如く昏い夜から脱してシドは落ち着き安らいだ表情を取り戻していた。そんな愛し人に毛布をかけ直し、ハイファは傍の椅子に腰掛ける。

「ここにいるから眠っていいよ」
「お前も寝ろよな」
「貴方が寝たらね。傍にいたいから」

 翌朝シドが目を覚ますとハイファは毛布にくるまってはいたものの、椅子に座ったままでシドのベッドに突っ伏して眠っていた。
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