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第24話

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 やがて僅かな振動が起こり、無事に艦がマイネ宙港に接地したことをアナウンスが告げる。ハイファが頃合いを見計らってシドの毛布を畳み、手荷物のショルダーバッグを担いで、三人はシートを立ち人々の列の最後尾に並んだ。

 ここでもリムジンコイルで宙港メインビルに運ばれた。ビルは新しくはなかったが清潔かつ機能的で、ここの行政が上手く機能していることを思わせた。
 通関も無事にクリアし、一階のロビーフロアにオートスロープで降りる。

 だが突然ラッパの音が響き渡り、三人は何事かと身構えた。
 周囲の利用客も固まっている。

 ラッパの音はいわゆる栄誉礼というもので、国賓や国の重要人物が軍や王宮を訪問する際に演奏されるものだ。その栄誉礼をラッパ手はチカラいっぱい五回も繰り返し吹き鳴らした。

 それが終わると待機していた楽団によっておごそかな曲が奏でられ、同時にホワイトタイの燕尾服を着た上品な紳士がジャイルズ=ライトの許に進み出てきて、シマシマの長袖プルオーバーにジーンズ姿の肩からロイヤルブルーのマントを掛ける。

 それだけではない。一緒に出てきたこれも燕尾服の男が掲げた黒塗りの箱から王冠らしきモノを恭しく持ち上げると、ジャイルズの薄い金髪頭にすっぽりと被せた。

 シマシマにジーンズが非常な違和感を醸す中、老紳士がよく通る声で宣言する。

「ジャイルズ公爵は、今このときよりリマライ王室の主、リマライ王となりました」

 あんぐり口を開けている観衆の前で更に老紳士は継いだ。

「前女王は本日退位を表明、第一王子は残念ながら昨日身罷りましてございます」
「えっ、じゃあ第二王子は?」

 ここで思わず訊いたハイファも天晴れである。だがそれにも丁寧に答えられた。

「これも誠に残念ながら第二王子は第一王子と同じ病に臥せられましてございます」

 何もこんな儀式を宙港ロビーでやらかさなくてもいいだろうとシドは思ったが、見回してみると同業者の目つきをしたマイネ六分署の捜三であろう迎えが、これも口を開けていた。

 一団は拍手の中を移動し宙港メインビルから出る。

 エントランス前には黒塗りコイルがびっしりと駐まっていた。その中の一台に押し込められて、攫われるようにジャイルズ王は囚人服のようなシマシマのまま去った。
 唖然とするシドとハイファは地元民らしき人々の囁きにより、このあとジャイルズ王は元の顔を取り戻してから正式な戴冠式に臨むのだということを知った。

 コソ泥サマは消えたがここまできて挨拶なしではいられない。シドとハイファは目を付けていたマイネ六分署捜三の二人を捕まえ、緊急コイルで六分署まで同行させて貰う。
 捜三課長に対し、言葉にするには難しい説明を何とか終えると捜査共助依頼の件は終わり、シドはハイファと共に一階に降り、ここの機動捜査課を訪ねた。

 何故かと云えばリマライFC支社長襲撃事件について探りを入れるためである。

「ああ、それなら二班の奴が……おい、コウ! 客だぞ!」

 デカい声の同僚に呼ばれてきたのは金髪で小柄な、少年のような刑事だった。
 少年のようだが、その後ろからはバディであろう黒髪の美丈夫がついてくる。

「お客さん……あ、どうも。コウ=ブランシュ巡査部長です。コウと呼んで下さい」
「俺は結城ゆうき和臣かずおみ警部補だ。ユウキでいい」

「忙しいところをすまん。若宮志度巡査部長だ。テラ本星セントラルから来た」
「ハイファス=ファサルート巡査長です」

「そうか、遠いところをご苦労だな。忙しくはないから構わない。泥水並みでもいいならコーヒーでもどうだ? 煙草は吸うのか?」

 なかなかに親切なユウキは右耳に蒼炎色の菱形ピアスを嵌めていた。ドラール星人だ。最近まで相争っていた近隣星系の人員が惑星警察に勤めているのをシドは何となく不思議に思う。
 とにかくユウキに空いた席を勧められ、妙に懐かしい何処も同じ泥水を出され、灰皿も用意されて、辞書に遠慮の文字がないシドは全て利用した。

「で、FCの件は帳場が立ってるんですかね?」
「いや、襲撃犯六名も全員死亡で被疑者死亡のまま書類送検だ」

 というユウキのあとを引き取ってコウが柳眉を寄せる。

「ただ都市中心部・ビル内での銃撃ということで、危険性と再犯防止の観点からも関係者の任意聴取は続けているんですが……肝心のFC支社長が第四惑星シャリムの鉱山視察に出掛けたまま、聴取に応じようとしないんですよね」

「ふうん。FC支社長はミントじゃねぇ、第四惑星シャリムにいるのか」
「あ、そういやシャリムにはFCの大型出張所があるんだっけ」
「なるほどな……って、お前ハイファ、行く気かよ?」
「同じことばっかり訊かないでよ。行くに決まってるでしょ」

 煙草を二本吸い泥水の紙コップを空にするとシドとハイファはコウとユウキに礼を述べてから機捜課長に敬礼をして機捜課を出た。そのまま六分署の外に出ると無人コイルタクシーで再び宙港に戻る。第四惑星シャリム行きシャトル便は毎時出ていた。

「それにしてもレアメタルの恩恵はすげぇよな」
「幾ら何でもメタルクレジットばかりのお蔭じゃないよ」
「一財産こさえてからやってきた第一次入植者のお蔭か」

「まあね。リマライ星系のレアメタルは百パーセントFCが扱ってるけど、別にそれはFCのものって意味じゃないし、セフェロやガムルに比べたらそんなに採掘量も多くないし」
「でも主要産業で、ここまで発展させたのはFCだろ?」

 と、シドは宙港メインビル屋上の透明な風よけドーム越しに、林立する超高層ビル群とそれを繋ぐスカイチューブ、間を埋めるビルと飛び回るBEL群を眺めて溜息をつく。郊外には森があり、王宮や貴族の城が幾つかの尖塔を見せていた。

「でもほら、こっち側は牧歌的もいいとこだし」

 定期BELを避けて反対側のドーム壁に近づくと、豊かに果実を実らせた農園や、ハイファの髪のような麦が海の如くさわさわと波打っている。遠くに動いているのは牛か羊か。

「あれは羊だよ。繊維を取るための綿羊だね」

 考えを読んだように別室入りする前の二年間スナイパーをしていた抜群の視力を披露する。それだけではなくブドウだの桃だのといった果実も丁寧に説明した。

 毎時間出ているシャトル便だが、二人が宙港に着くと出航したばかりだったのだ。仕方なくこうしてヒマ潰ししているのだが、定期BEL離発着場になった片隅にはベンチに喫煙ブース、オートドリンカもあって困らない。

 そのオートドリンカで買ったアイスティーを飲みながら、ハイファは明るくシドと話しつつも、何処か上の空でふいに考え込むことがあった。自分が拉致られ別室とFCとの癒着の証拠を吐かされる危険があるのだ。それも敵はFC支社内に潜んでいるかも知れないのである。

 だが自らそこに飛び込んで敵のしっぽを掴もうとしている……シドは相棒の意外なまでの精神力の強さを再確認するとともに、だからこそ護り抜かなければと改めて心に誓っていた。

「二十五分前、少し早いけど移動しようか」
「ああ、ここのシャトル便はロビーにエアロック接続したりしねぇんだっけな」
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