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第21話

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 もう象徴でしかなくなったリマライ王宮だが、人々は決してないがしろになどしていない。それどころか愛される王宮として崇める者も多数いるくらいである。

 そんな王は長子相続が原則だ。王は三人の妻か夫を持ち、必ず継嗣を残すのである。

 だがここにきて現女王は十八人もの王女・王子を産んだ。彼らは上から順に公爵や侯爵に伯爵位を与えられることとなる。しかし人数が人数で、あとになるほど与えられる爵位も適当になったのは仕方ない。
 ジャイルズが与えられたのは子爵位、そしてたった二人の侍従とともに王宮の隅にある、さながらウサギ小屋のような部屋で暮らすこととなったのだ。

「そこで私はたびたび抜け出しては街で悪い仲間と遊ぶようになりましてね」
「サイキを利用しての泥棒も覚えたってか」

「まあ、そういうことです。とにかくそういう身分ともなると、自力で貴族の娘や息子と結婚して玉の輿に乗るか、会社でも興すかしなければ食べることすら難しくなる訳ですよ」

 幾ら愛される王宮といっても、代替わりするたびにネズミ算の如く爵位持ちが出現しては、懐事情も厳しくなるのだろう。

「そして先月、第三・第四・第五王子と第七から第十八の王女たち、合計十五人もの王子・王女の乗った宙艦がドラール星系の宙港で爆破されましてですね」
「水資源の問題でテロか?」
「そちらはもう解決済みで、テロはアラキバ解放運動旅団によるものだと断定されました」

「アラキバ……ヴィクトル星系発祥の大規模テログループだね」
「ええ。それで残ったのは第一・第二王子と第六王子の私だけになったんですよ」
「でもあんたの上には二人いるじゃねぇか」

「第一王子は病床に就いている身、実際に動けるのは私と第二王子だけなんです。女王もそこそこ高齢で、譲位したあと第二王子をサポートするのは私しかいないという訳でして」

 再びシドは溜息をついた。このコソ泥が王宮を盛り立てる役目を負うという馬鹿馬鹿しい事実と、何で十五人もの王子・王女が危険分散しなかったのかと、アホ臭くなったのだ。

「んで、子爵殿は何だって?」
「王宮に戻れば公爵位が待っています」
「ふん、結構な話だな」

「そう思われますか? 私は嫌なんですよ、天職を捨てて公爵なんて」
「確かにガラじゃねぇ気がするが、他人のモノを盗む生活もどうかと思うぜ?」
「そうでしょうか……」

 長話をしている間に一度のワープ、四十分ごとなのであと二時間の旅だ。

「そろそろシートに戻ってワープラグ対策しとこうよ」

 ワープラグとは他星に行った際の時差ぼけのことだ。素直に残り二人も同意し、客席に戻って備え付けの毛布を被った。ハイファは一枚の毛布をシドと一緒に被って、手を繋ぐのも忘れない。ただコソ泥王子の護送中なので本格的に眠る訳にもいかず、ジャイルズの動きには細心の注意を払っている。
 
 この大型艦内で、それこそネズミのごとく隠れられては堪らない。
 そのジャイルズは一人、気持ちよさそうに軽いイビキをかいていた。

◇◇◇◇

 パライバ星系第三惑星アジュルの自転周期は二十七時間四十八分十六秒で、ほんの少し長い。

 着いてみれば首都セピオ時間では十九時前でまだ青空から恒星パライバが光を燦々と振り撒いていた。三人はテラ標準時と並べてセピオ時間をリモータに表示すると、暑さに閉口してさっさとリムジンコイルに乗り込んだ。

 文明の風に満たされたコイルで運ばれ、宙港メインビルで通関を無事クリアする。そのまま二十階に上がり、双子ビルのような宙港ホテルにスカイチューブで移った。
 出た所がもうホテルのフロントで、ここではハイファが口を利き広めのツインにエキストラベッドを入れて貰い、トリプルルーム仕様にして貰う。

「三十二階、三二〇二号室になります」

 キィロックコードはシドとハイファだけが受け、さっさと部屋に向かった。

 所詮は宙港ホテルで華美さはなくベッドが増えて狭くもあったが、機能的で清潔な部屋には飲料ディスペンサーなどのサーヴィスもついていた。

 そして小容量のダートレスまで完備されたバスルームも検分したのち、三人は窓から外の光景を観賞する。窓からは水平線まで拝める大海原が望めたのだ。碧い海のあちこちには船が浮かび、白く輝くビーチでは波打ち際で戯れる人々も見える。

「何度見ても、こいつはいいな」
「綺麗だよね」
「気持ちよさそうですねえ、散歩にでも出掛けたくなりませんか?」

 本来なら眠って起きれば即、リマライ星系便に乗らなければならないのだが、まだテラ標準時では夕方だ。そう簡単に眠れない。それにシドは海が大好きで、それも初プライヴェート旅行で人生初の海体験をしたのがきっかけである。
 思い出の海は何度訪れても魅力的に思われ、ハイファと目で相談したのちジャイルズの提案に乗って散歩に出ることにした。

 部屋を出てロックすると廊下を歩いてエレベーターに乗る。エレベーターの中に貼られた電子案内板でビルの下層にはショッピングモールがあることを知った。最上階はオーシャンビューのレストラン街となっている。
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