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第44話
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怒りに任せて霧島はDSR1を五発全弾撃ち尽くし、黒塗りに放り込むと運転席に滑り込んだ。そうしながらも一ノ瀬本部長に連絡を取って手短に状況説明する。
アームホルダーと格闘しながら今度は霧島会長にコールした。必要事項を聞き出すと同時にようやくアームホルダーが外れたので携帯を切り県警本部に向かう。
県警本部で覆面に乗り替えるとパトライトを出し緊急音を響かせて、夜の雨を切り裂くように高速で都内に向け走らせた。
二時間近く走らせ首都高速の都心環状線に乗って芝公園で降りる。
目的地は会長から聞いた東麻布にあるミラード化学薬品の斑目社長邸だ。あのヨットハウスでのパーティーの時、カマを掛けただけで斑目社長は落ちる寸前だった。今のところ揺さぶる相手が斑目しかいないというのもある。
これを逃す訳にはいかない。
斑目邸は青銅の柵に囲まれた巨大な洋風家屋で、門扉には雨に濡れながら警備員が二名立っている。あとは鋭士の件でメディアの人間たちが大勢柵に張り付いていた。
彼らのド真ん前に覆面を停めた霧島はウィンドウを下げて大声を出す。
「霧島カンパニーの霧島忍が来たと斑目社長に伝えろ!」
既に有名人の霧島に「わっ!」とメディアの人間たちが群がった。効果抜群で速やかに霧島の要求は受け入れられ青銅の門扉が開く。
乗り入れて車寄せに覆面を駐めるなり引きずり込まれるようにして屋敷に招き入れられ、到着五分後には屋敷一階のサロンで紅茶のカップを前に顔色の悪い斑目社長と相対していた。
「挨拶抜きだ。新・暗殺肯定派の実行部隊たる元SAT三名の居場所を教えてくれ」
「そ、そんなことをわたしが知る訳がないだろう。き、き、きみは何か勘違いをしているんじゃないのかね?」
「ならば言い方を変えよう。ネタは挙がっているんだ、さっさと吐け!」
低くドスの利いた声で迫ったが、今度は脅しが効き過ぎたらしい。
「なっ、何を……ふざけないでくれ。脅迫だ、警察に連絡させて貰うぞ!」
「ここの所轄署長も新・暗殺肯定派なのか?」
静かな声に切り替えた霧島は、だがシグ・ザウエルP230JPを抜いていた。やや小型のそれを手元で弄びながら銃口は斑目社長の方に向けている。そして灰色の目で真っ直ぐ斑目社長を見据えた。
「腕を撃たれた影響だろうか、どうも指が攣って仕方がない」
トリガに指を掛けたまま、遊び分を引き絞った状態で銃を上下に振る。警察官とはいえ完全に銃刀法違反の加重所持だが、そんなことに思い至らないほどテンパったようで斑目社長は震え上がった。
「わ、分かった。知っていることは何でも話す、だ、だから銃を収めてくれ」
「言った通り、今訊きたいのは元SATの三名及び鳴海京哉の居所だ」
けれど本当に斑目社長は彼らの居場所を知らないらしかった。
そこであちこちに連絡して聞き回り、やっと実行部隊のヘリパイが今夜フライトプランを出したことと、同じく実行部隊のバックアップを務める人員がミラード化学薬品の持つ大型クルーザーを貝崎市のマリーナから出港させたことを探り当てた。
「クルーザーはオケアノス号、航行予定は貝崎マリーナと日の出埠頭の往復だな?」
「あ、ああ、間違いない。だがわたしが洩らしたとは、あの三人には……」
「しっかり伝えてやるから安心しろ。ではな」
嫌がらせ紛いに言い捨て霧島はサロンをあとにする。斑目邸を出ると覆面の車底まで点検してから乗り込んだ。
メディアの人間たちを振り切るように走らせながら再度一ノ瀬本部長に連絡して得た情報を伝え、人員を動かす許可を求める。
「ですから一刻を争うと何度言えば分かるんですか!」
《しかし実行犯逮捕で大きな『何か』が出た際に保秘の問題がある。故に所轄の水上警察は動かせん。これは本部長見解と受け取りたまえ》
「では足はこちらで用意しますから人員だけでもお願いします」
《ふむ。霧島警視のスタンドプレイ再びも拙い上に鳴海くんは貴重な人材だ。人員の手配はする。SITの突入班を召集してマリーナに向かわせよう》
「有難い、感謝します」
緊急音を鳴り響かせながら再び首都高速都心環状線に乗った霧島は覆面のアクセルを思い切り踏み込んだ。
目が眩みそうな怒りで左腕の痛みも高熱も吹き飛んでいた。
アームホルダーと格闘しながら今度は霧島会長にコールした。必要事項を聞き出すと同時にようやくアームホルダーが外れたので携帯を切り県警本部に向かう。
県警本部で覆面に乗り替えるとパトライトを出し緊急音を響かせて、夜の雨を切り裂くように高速で都内に向け走らせた。
二時間近く走らせ首都高速の都心環状線に乗って芝公園で降りる。
目的地は会長から聞いた東麻布にあるミラード化学薬品の斑目社長邸だ。あのヨットハウスでのパーティーの時、カマを掛けただけで斑目社長は落ちる寸前だった。今のところ揺さぶる相手が斑目しかいないというのもある。
これを逃す訳にはいかない。
斑目邸は青銅の柵に囲まれた巨大な洋風家屋で、門扉には雨に濡れながら警備員が二名立っている。あとは鋭士の件でメディアの人間たちが大勢柵に張り付いていた。
彼らのド真ん前に覆面を停めた霧島はウィンドウを下げて大声を出す。
「霧島カンパニーの霧島忍が来たと斑目社長に伝えろ!」
既に有名人の霧島に「わっ!」とメディアの人間たちが群がった。効果抜群で速やかに霧島の要求は受け入れられ青銅の門扉が開く。
乗り入れて車寄せに覆面を駐めるなり引きずり込まれるようにして屋敷に招き入れられ、到着五分後には屋敷一階のサロンで紅茶のカップを前に顔色の悪い斑目社長と相対していた。
「挨拶抜きだ。新・暗殺肯定派の実行部隊たる元SAT三名の居場所を教えてくれ」
「そ、そんなことをわたしが知る訳がないだろう。き、き、きみは何か勘違いをしているんじゃないのかね?」
「ならば言い方を変えよう。ネタは挙がっているんだ、さっさと吐け!」
低くドスの利いた声で迫ったが、今度は脅しが効き過ぎたらしい。
「なっ、何を……ふざけないでくれ。脅迫だ、警察に連絡させて貰うぞ!」
「ここの所轄署長も新・暗殺肯定派なのか?」
静かな声に切り替えた霧島は、だがシグ・ザウエルP230JPを抜いていた。やや小型のそれを手元で弄びながら銃口は斑目社長の方に向けている。そして灰色の目で真っ直ぐ斑目社長を見据えた。
「腕を撃たれた影響だろうか、どうも指が攣って仕方がない」
トリガに指を掛けたまま、遊び分を引き絞った状態で銃を上下に振る。警察官とはいえ完全に銃刀法違反の加重所持だが、そんなことに思い至らないほどテンパったようで斑目社長は震え上がった。
「わ、分かった。知っていることは何でも話す、だ、だから銃を収めてくれ」
「言った通り、今訊きたいのは元SATの三名及び鳴海京哉の居所だ」
けれど本当に斑目社長は彼らの居場所を知らないらしかった。
そこであちこちに連絡して聞き回り、やっと実行部隊のヘリパイが今夜フライトプランを出したことと、同じく実行部隊のバックアップを務める人員がミラード化学薬品の持つ大型クルーザーを貝崎市のマリーナから出港させたことを探り当てた。
「クルーザーはオケアノス号、航行予定は貝崎マリーナと日の出埠頭の往復だな?」
「あ、ああ、間違いない。だがわたしが洩らしたとは、あの三人には……」
「しっかり伝えてやるから安心しろ。ではな」
嫌がらせ紛いに言い捨て霧島はサロンをあとにする。斑目邸を出ると覆面の車底まで点検してから乗り込んだ。
メディアの人間たちを振り切るように走らせながら再度一ノ瀬本部長に連絡して得た情報を伝え、人員を動かす許可を求める。
「ですから一刻を争うと何度言えば分かるんですか!」
《しかし実行犯逮捕で大きな『何か』が出た際に保秘の問題がある。故に所轄の水上警察は動かせん。これは本部長見解と受け取りたまえ》
「では足はこちらで用意しますから人員だけでもお願いします」
《ふむ。霧島警視のスタンドプレイ再びも拙い上に鳴海くんは貴重な人材だ。人員の手配はする。SITの突入班を召集してマリーナに向かわせよう》
「有難い、感謝します」
緊急音を鳴り響かせながら再び首都高速都心環状線に乗った霧島は覆面のアクセルを思い切り踏み込んだ。
目が眩みそうな怒りで左腕の痛みも高熱も吹き飛んでいた。
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