4 / 43
第4話
しおりを挟む
一人手持ち無沙汰になったシドもリモータを弄り始めた。趣味のプラモの設計図を眺めてからゲーム麻雀の続きに熱中する。敵は別室戦術コン、これは手強くも面白い。
咥え煙草でツモ切り、次で鳴いて風牌を晒す。
何故に別室戦術コンなのかといえば、このガンメタリックのリモータは惑星警察の官品に似せてはあるが別モノということだ。官品よりもかなり大型でハイファの持つシャンパンゴールドと色違いお揃いの、惑星警察と別室とをデュアルシステムにした別室カスタムメイドリモータである。
これは別室からの強制プレゼントで、ハイファと今のような仲になってまもないある日の深夜、ゲリラ的に宅配されてきたのだ。それを寝惚け頭で惑星警察のヴァージョン更新と勘違いして嵌めてしまったのは一生の不覚だった。
こんなブツはシドにとって無用の長物だ。
だが別室リモータは装着者が一度生体IDを読み込ませてしまうと、自分で外すか他者から強制的に外されるかに関わらず、『別室員一名失探』と判定した別室戦術コンがビィビィ鳴り出すという話で、迂闊に外すこともできなくなってしまったのである。まさにハメられたのだ。
その代わりにあらゆる機能が搭載され、例えば軍隊用語でMIA――ミッシング・イン・アクション――と呼ばれる任務中行方不明に陥っても、部品ひとつひとつにまで埋め込まれたナノチップが発振し、有人惑星上空に必ず上がっている軍事通信衛星MCSが感知するので捜して貰いやすいなどという利点もあった。
他にも様々なデータベースとしても、手軽なハッキングツールとしても使えるという、まさにスパイ用特殊アイテムなのである。
だが何故に刑事のシドがMIAの心配をせねばならないのか。
それは別室が出向させてもハイファを放っておいてくれるような、スイートな機関ではなかったということだ。未だに任務を振ってくる。そしてそれは統轄組織の違いもなんのそので、イヴェントストライカという言い換えれば『何にでもぶち当たる奇跡のチカラ』を当て込み、今ではシドにまで名指しで任務が降ってくるのだ。
拒否権など何処にもない任務、そのたびに惑星警察サイドを『出張』だの『研修』だので誤魔化して出掛けなければならない。ハイファが別室員だという事実は軍事機密だからだ。
そして出掛けた先では大概ドえらい目に遭わされる。
他星のマフィアファミリーと銃撃戦などは可愛い方で、ガチの戦場に放り込まれ、砂漠で干物になりかけ、他人の宙艦を盗んで宇宙戦を繰り広げるハメになるのだ。
半荘やって勝ったにも関わらず、ふいに思い出して怒りがこみ上げシドは低く呟いた。
「くそう、別室長ユアン=ガードナーの妖怪野郎……」
「でも外して外せないこともないそれを、貴方は外さずにいてくれるんだよね」
作業を進めながらハイファがチラリとこちらを見る。
「ああ、誓いは破らねぇよ」
「一生、どんなものでも一緒に見ていく。そうだよね?」
「まあな」
「それに貴方には責任も取って貰わなきゃならないしねえ」
笑うハイファにシドは黙って頷いた。責任、それはハイファが別室から出向という建前で左遷の憂き目に遭った原因の一端がシドにもあるからだ。
別室員ハイファに転機が訪れたのは、やはり一年半ほど前のことだった。
超法規的スパイの実働組織である別室でハイファが何をやっていたかと云えば、やはりスパイだった。ノンバイナリー寄りのメンタルとバイである身、それにミテクレとを武器に、敵をタラしては情報を盗るというなかなかにエグい手法ながら、まさに躰を張って別室任務をこなしていたのだ。
だがそんなハイファが別室命令で、とある事件を捜査するために刑事のフリをして、七年来の親友であり想い人でもあったシドと組んだ。二人の捜査の甲斐ありホシは当局に拘束された。しかしそれで終わりにはならなかった。ホシの雇った刺客に二人は狙われたのだ。
暗殺者が手にしていたビームライフルはシドを照準していた。だがビームの一撃を食らって倒れたのはハイファだった。シドを庇ったのだ。
お蔭でハイファの上半身は半分以上が培養移植モノである。
ともあれ奇跡的に病室で目覚めたハイファを待っていたのは、シドの一世一代の告白という嬉しいサプライズだった。失くしかけてみてシドは失いたくない存在に気付いたのである。
完全ヘテロ属性のシドを相手に一生の片想いを覚悟していたハイファは七年間ものアタックが実を結び、『この俺をやる』と宣言されて天にも昇る気持ちだった。
だがその影響は思わぬ処にまで波及した。想いの深さからかシドと結ばれた途端にそれまでのような任務が務まらなくなってしまったのである。敵をタラしてもその先ができない、平たく云えばシドしか受け付けない、シドとしかコトに及べない躰になってしまったのだ。
使えなくなったハイファを救ったのは当時の別室戦術コンが弾き出した御託宣の『昨今の事件傾向による恒常的警察力の必要性』なるモノで、故に惑星警察に出向となったのである。
「俺はお前が誰かと……アレだ、ナニするのが耐えられなかったしな」
「僕だって今の方がよっぽど幸せだしね」
「三日と開けずに銃撃戦、別室時代よりもある意味、危険でもか?」
「シドと一緒なら僕はいつでも幸せなんです。貴方だって単独より今の方がいいでしょ」
「まあ、一人で始末書書くのも虚しいしな」
始末書が倍に増えたヴィンティス課長の嘆きは二人に聞こえない。
そこにマスターがカウンター内からプレートを差し出した。手早くハイファがシドの分もセッティングする。本日はカレーのランチ、エビフライとサラダにカップスープ添えだった。
咥え煙草でツモ切り、次で鳴いて風牌を晒す。
何故に別室戦術コンなのかといえば、このガンメタリックのリモータは惑星警察の官品に似せてはあるが別モノということだ。官品よりもかなり大型でハイファの持つシャンパンゴールドと色違いお揃いの、惑星警察と別室とをデュアルシステムにした別室カスタムメイドリモータである。
これは別室からの強制プレゼントで、ハイファと今のような仲になってまもないある日の深夜、ゲリラ的に宅配されてきたのだ。それを寝惚け頭で惑星警察のヴァージョン更新と勘違いして嵌めてしまったのは一生の不覚だった。
こんなブツはシドにとって無用の長物だ。
だが別室リモータは装着者が一度生体IDを読み込ませてしまうと、自分で外すか他者から強制的に外されるかに関わらず、『別室員一名失探』と判定した別室戦術コンがビィビィ鳴り出すという話で、迂闊に外すこともできなくなってしまったのである。まさにハメられたのだ。
その代わりにあらゆる機能が搭載され、例えば軍隊用語でMIA――ミッシング・イン・アクション――と呼ばれる任務中行方不明に陥っても、部品ひとつひとつにまで埋め込まれたナノチップが発振し、有人惑星上空に必ず上がっている軍事通信衛星MCSが感知するので捜して貰いやすいなどという利点もあった。
他にも様々なデータベースとしても、手軽なハッキングツールとしても使えるという、まさにスパイ用特殊アイテムなのである。
だが何故に刑事のシドがMIAの心配をせねばならないのか。
それは別室が出向させてもハイファを放っておいてくれるような、スイートな機関ではなかったということだ。未だに任務を振ってくる。そしてそれは統轄組織の違いもなんのそので、イヴェントストライカという言い換えれば『何にでもぶち当たる奇跡のチカラ』を当て込み、今ではシドにまで名指しで任務が降ってくるのだ。
拒否権など何処にもない任務、そのたびに惑星警察サイドを『出張』だの『研修』だので誤魔化して出掛けなければならない。ハイファが別室員だという事実は軍事機密だからだ。
そして出掛けた先では大概ドえらい目に遭わされる。
他星のマフィアファミリーと銃撃戦などは可愛い方で、ガチの戦場に放り込まれ、砂漠で干物になりかけ、他人の宙艦を盗んで宇宙戦を繰り広げるハメになるのだ。
半荘やって勝ったにも関わらず、ふいに思い出して怒りがこみ上げシドは低く呟いた。
「くそう、別室長ユアン=ガードナーの妖怪野郎……」
「でも外して外せないこともないそれを、貴方は外さずにいてくれるんだよね」
作業を進めながらハイファがチラリとこちらを見る。
「ああ、誓いは破らねぇよ」
「一生、どんなものでも一緒に見ていく。そうだよね?」
「まあな」
「それに貴方には責任も取って貰わなきゃならないしねえ」
笑うハイファにシドは黙って頷いた。責任、それはハイファが別室から出向という建前で左遷の憂き目に遭った原因の一端がシドにもあるからだ。
別室員ハイファに転機が訪れたのは、やはり一年半ほど前のことだった。
超法規的スパイの実働組織である別室でハイファが何をやっていたかと云えば、やはりスパイだった。ノンバイナリー寄りのメンタルとバイである身、それにミテクレとを武器に、敵をタラしては情報を盗るというなかなかにエグい手法ながら、まさに躰を張って別室任務をこなしていたのだ。
だがそんなハイファが別室命令で、とある事件を捜査するために刑事のフリをして、七年来の親友であり想い人でもあったシドと組んだ。二人の捜査の甲斐ありホシは当局に拘束された。しかしそれで終わりにはならなかった。ホシの雇った刺客に二人は狙われたのだ。
暗殺者が手にしていたビームライフルはシドを照準していた。だがビームの一撃を食らって倒れたのはハイファだった。シドを庇ったのだ。
お蔭でハイファの上半身は半分以上が培養移植モノである。
ともあれ奇跡的に病室で目覚めたハイファを待っていたのは、シドの一世一代の告白という嬉しいサプライズだった。失くしかけてみてシドは失いたくない存在に気付いたのである。
完全ヘテロ属性のシドを相手に一生の片想いを覚悟していたハイファは七年間ものアタックが実を結び、『この俺をやる』と宣言されて天にも昇る気持ちだった。
だがその影響は思わぬ処にまで波及した。想いの深さからかシドと結ばれた途端にそれまでのような任務が務まらなくなってしまったのである。敵をタラしてもその先ができない、平たく云えばシドしか受け付けない、シドとしかコトに及べない躰になってしまったのだ。
使えなくなったハイファを救ったのは当時の別室戦術コンが弾き出した御託宣の『昨今の事件傾向による恒常的警察力の必要性』なるモノで、故に惑星警察に出向となったのである。
「俺はお前が誰かと……アレだ、ナニするのが耐えられなかったしな」
「僕だって今の方がよっぽど幸せだしね」
「三日と開けずに銃撃戦、別室時代よりもある意味、危険でもか?」
「シドと一緒なら僕はいつでも幸せなんです。貴方だって単独より今の方がいいでしょ」
「まあ、一人で始末書書くのも虚しいしな」
始末書が倍に増えたヴィンティス課長の嘆きは二人に聞こえない。
そこにマスターがカウンター内からプレートを差し出した。手早くハイファがシドの分もセッティングする。本日はカレーのランチ、エビフライとサラダにカップスープ添えだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。


王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる