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第34話
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シドとハイファは一瞬顔を見合わせたのち、オートドアへと駆け出した。筆を投げ捨てたマイケルもベルトの腹からレーザーガンを引き抜いて追い縋る。
エレベーターは使わないのがセオリー、三人は階段を駆け上った。十四階に辿り着く前、踊り場で上から銃弾が降ってくる。シド、応射。手すりを僅かな掩蔽にして黒い戦闘服の脚を狙う。ハイファも初弾を撃ち出していた。フレシェット弾と九ミリパラに膝を砕かれた男たちが三人、階段を転げ落ちてくる。
だが次には重々しい音と共に何かが弾みをつけて転がってきた。
「シド、手投げ弾!」
「くそう、ふざけんなよ!」
階段の中腹辺りでそれを狙い撃ち、爆発させる。同時にシドはハイファに覆い被さった。腹に響く轟音がして大ぶりの建材の破片が降り注いでくる。
「チクショウ、痛いってんだよ!」
跳ね起きるなりシドはレールガンをマックスパワーにセット、上階の天井に向けてフルオートで薙いだ。強烈な反動を押さえ込むこと数秒、天井に五十センチほどの穴がバキバキと穿たれ、建材が五人の敵に降り注ぐ。
「ハイファ、無事か!」
「うん。でもマイケルが……」
振り向くと足元にマイケルが頽れていた。抱え起こしてその場に横にさせるとマイケルは手投げ弾の破片を食らって腹を血で染めている。
そこに援軍、手下たちがレーザーガンを片手に五人駆け付けた。シドとハイファはマイケルを彼らに任せて階段を上る。まだ二十名以上の敵がビル内にいる筈だった。
階段を上りきり、建材と下敷きの敵をよけて進んだ。
と、通路の先の角から飛来した弾がシドの胸に着弾。二射を受けて一歩後退しながら、シドはトリプルショット。マックスパワーのままだったフレシェット弾が廊下の角を削り敵を斃す。更に反対側の角から姿を現した敵二人にハイファが速射でヘッドショット。
「シド、胸は!?」
「腹が立ちすぎて痛くも痒くもねぇよ。行くぞ!」
「ヤー!」
そこから十五階まで敵影はなかった。だが十五階に出るなり出会い頭に七人の黒いハンドガン集団と激しい火線の応酬となる。
シドはハイファを背に庇い、至近距離で対衝撃ジャケットに銃弾を受けて吹っ飛ばされながらも、フルオートでフレシェット弾を叩き込んだ。ハイファもシドの肩越しに九ミリパラを容赦なくぶち込む。
ガチンコの殴り合いに敵の背後から現れた味方の手下たちがレーザーで参戦した。挟撃したお蔭であっという間にこの場は片がつく。シドが手下たちに大声で訊いた。
「残り約十人、何処だ!」
「もう片方の階段ですっ!」
十五階の通路を総勢十二人で駆け抜け、もうひとつある階段を駆け下りた。十四階の階段の踊り場ではオリバーまでが手下たちとともに奮戦中だった。ここでは敵の得物が高級でサブマシンガン、発射速度が速く脅威であるそれを有質量弾を持つシドとハイファが積極的に潰す。
だが幾つかの手投げ弾が下方に投げ落とされ味方の手下らが弾けるように散った。
怒りに燃えたシドはまたもフルオート作戦だ。
「お前ら、伏せてろ!」
叫ぶと同時に黒い敵に銃弾を叩き込む。貫通したフレシェット弾が踊り場の壁に三十センチほどの穴を穿ち、外の夜が見えた。
五秒ほどで撃ち止めると立っている敵はもういなかった。
「オリバー、屋上のBELはどうした?」
「敵のものは鹵獲した。こちらのものと合わせて三機、怪我人を病院に移送する」
手下たちがオリバーの指示で右往左往する間に、シドは足元に倒れた黒い戦闘服の男の胸ぐらを掴み締め、頬を張り飛ばして覚醒させると訊いた。
「テメェらは調別の黒組か?」
男は目を泳がせたのちに諦めて頷いた。黒組とは調別に属しながらも表には決して出ない影の実働部隊だ。シドが男を突き放すと男は後頭部を手すりにぶつけて気を失った。
負傷した手下たちを優先して皆で屋上のBELに運び入れ病院へと向かわせたのちに、これもオリバーの指示で黒戦闘服たちも自前のBELに載せ、いずこかへと送り出した。
「まだテラと表立って全面戦争する訳にはいかないのでね」
屋上で遠ざかる航法灯を眺めながらオリバーはそう言って苦笑いをして見せたが、シドは当然ながら不機嫌なままである。ここまでして絵の一枚を手にせんとするテラに、そんなものを護ろうとする組織に足を突っ込んでいる自分に、腹が立って仕方がなかった。
「蛇の道は蛇じゃなかったのかよ?」
「そう凄まないで欲しいね。テラ連邦議会も意見が割れているようだ」
「第二波、第三波がくるかも知れねぇぞ」
「根回しはしてあるつもりだ。取引は互いを信用するしかない」
「ふん、その取引も空手形になりそうだぜ、どうするつもりだ?」
「まだ丸三日ある、諦めるには早い。きみたちも協力してくれるんだろう?」
「ふん。何処もここも人使いの荒いことだぜ、全く」
そこにビル内のルームクリアリング、いわゆる残敵が隠れていないかどうかを確かめ終えた手下たちが走ってきてシドはオリバーに背を向けた。
十四階のツインに戻ろうと歩き出した、途端にシドはこみ上げる吐き気を堪えきれずに、その場で吐く。真っ赤な血が胸を汚した。
「シドっ!」
「うっ、ぐっ……ゲホッ、ゴホッ!」
蒼白になったのはシドよりもハイファ、そのまま躰を折ったシドを座らせオリバーとフィリップの手を借りて寝かせると顔を横にさせる。震える手でハイファは対衝撃ジャケットの前を開け、綿のシャツのボタンを外した。
銃弾を食らった胸の透明の固定帯が胸腺辺りで真っ二つになっていた。おまけに象牙色の肌には元からの二ヶ所のあざに、どす黒いあざが二ヶ所追加されている。
「オリバー、救急機!」
「今、呼んだ。五分くらいで着くだろう」
「シド、シド、しっかりして!」
「ん、大丈夫、だから、泣くな……ハイファ」
泣きそうなハイファにシドは手を伸ばし、滑らかな頬を撫でたところで意識が途切れた。
エレベーターは使わないのがセオリー、三人は階段を駆け上った。十四階に辿り着く前、踊り場で上から銃弾が降ってくる。シド、応射。手すりを僅かな掩蔽にして黒い戦闘服の脚を狙う。ハイファも初弾を撃ち出していた。フレシェット弾と九ミリパラに膝を砕かれた男たちが三人、階段を転げ落ちてくる。
だが次には重々しい音と共に何かが弾みをつけて転がってきた。
「シド、手投げ弾!」
「くそう、ふざけんなよ!」
階段の中腹辺りでそれを狙い撃ち、爆発させる。同時にシドはハイファに覆い被さった。腹に響く轟音がして大ぶりの建材の破片が降り注いでくる。
「チクショウ、痛いってんだよ!」
跳ね起きるなりシドはレールガンをマックスパワーにセット、上階の天井に向けてフルオートで薙いだ。強烈な反動を押さえ込むこと数秒、天井に五十センチほどの穴がバキバキと穿たれ、建材が五人の敵に降り注ぐ。
「ハイファ、無事か!」
「うん。でもマイケルが……」
振り向くと足元にマイケルが頽れていた。抱え起こしてその場に横にさせるとマイケルは手投げ弾の破片を食らって腹を血で染めている。
そこに援軍、手下たちがレーザーガンを片手に五人駆け付けた。シドとハイファはマイケルを彼らに任せて階段を上る。まだ二十名以上の敵がビル内にいる筈だった。
階段を上りきり、建材と下敷きの敵をよけて進んだ。
と、通路の先の角から飛来した弾がシドの胸に着弾。二射を受けて一歩後退しながら、シドはトリプルショット。マックスパワーのままだったフレシェット弾が廊下の角を削り敵を斃す。更に反対側の角から姿を現した敵二人にハイファが速射でヘッドショット。
「シド、胸は!?」
「腹が立ちすぎて痛くも痒くもねぇよ。行くぞ!」
「ヤー!」
そこから十五階まで敵影はなかった。だが十五階に出るなり出会い頭に七人の黒いハンドガン集団と激しい火線の応酬となる。
シドはハイファを背に庇い、至近距離で対衝撃ジャケットに銃弾を受けて吹っ飛ばされながらも、フルオートでフレシェット弾を叩き込んだ。ハイファもシドの肩越しに九ミリパラを容赦なくぶち込む。
ガチンコの殴り合いに敵の背後から現れた味方の手下たちがレーザーで参戦した。挟撃したお蔭であっという間にこの場は片がつく。シドが手下たちに大声で訊いた。
「残り約十人、何処だ!」
「もう片方の階段ですっ!」
十五階の通路を総勢十二人で駆け抜け、もうひとつある階段を駆け下りた。十四階の階段の踊り場ではオリバーまでが手下たちとともに奮戦中だった。ここでは敵の得物が高級でサブマシンガン、発射速度が速く脅威であるそれを有質量弾を持つシドとハイファが積極的に潰す。
だが幾つかの手投げ弾が下方に投げ落とされ味方の手下らが弾けるように散った。
怒りに燃えたシドはまたもフルオート作戦だ。
「お前ら、伏せてろ!」
叫ぶと同時に黒い敵に銃弾を叩き込む。貫通したフレシェット弾が踊り場の壁に三十センチほどの穴を穿ち、外の夜が見えた。
五秒ほどで撃ち止めると立っている敵はもういなかった。
「オリバー、屋上のBELはどうした?」
「敵のものは鹵獲した。こちらのものと合わせて三機、怪我人を病院に移送する」
手下たちがオリバーの指示で右往左往する間に、シドは足元に倒れた黒い戦闘服の男の胸ぐらを掴み締め、頬を張り飛ばして覚醒させると訊いた。
「テメェらは調別の黒組か?」
男は目を泳がせたのちに諦めて頷いた。黒組とは調別に属しながらも表には決して出ない影の実働部隊だ。シドが男を突き放すと男は後頭部を手すりにぶつけて気を失った。
負傷した手下たちを優先して皆で屋上のBELに運び入れ病院へと向かわせたのちに、これもオリバーの指示で黒戦闘服たちも自前のBELに載せ、いずこかへと送り出した。
「まだテラと表立って全面戦争する訳にはいかないのでね」
屋上で遠ざかる航法灯を眺めながらオリバーはそう言って苦笑いをして見せたが、シドは当然ながら不機嫌なままである。ここまでして絵の一枚を手にせんとするテラに、そんなものを護ろうとする組織に足を突っ込んでいる自分に、腹が立って仕方がなかった。
「蛇の道は蛇じゃなかったのかよ?」
「そう凄まないで欲しいね。テラ連邦議会も意見が割れているようだ」
「第二波、第三波がくるかも知れねぇぞ」
「根回しはしてあるつもりだ。取引は互いを信用するしかない」
「ふん、その取引も空手形になりそうだぜ、どうするつもりだ?」
「まだ丸三日ある、諦めるには早い。きみたちも協力してくれるんだろう?」
「ふん。何処もここも人使いの荒いことだぜ、全く」
そこにビル内のルームクリアリング、いわゆる残敵が隠れていないかどうかを確かめ終えた手下たちが走ってきてシドはオリバーに背を向けた。
十四階のツインに戻ろうと歩き出した、途端にシドはこみ上げる吐き気を堪えきれずに、その場で吐く。真っ赤な血が胸を汚した。
「シドっ!」
「うっ、ぐっ……ゲホッ、ゴホッ!」
蒼白になったのはシドよりもハイファ、そのまま躰を折ったシドを座らせオリバーとフィリップの手を借りて寝かせると顔を横にさせる。震える手でハイファは対衝撃ジャケットの前を開け、綿のシャツのボタンを外した。
銃弾を食らった胸の透明の固定帯が胸腺辺りで真っ二つになっていた。おまけに象牙色の肌には元からの二ヶ所のあざに、どす黒いあざが二ヶ所追加されている。
「オリバー、救急機!」
「今、呼んだ。五分くらいで着くだろう」
「シド、シド、しっかりして!」
「ん、大丈夫、だから、泣くな……ハイファ」
泣きそうなハイファにシドは手を伸ばし、滑らかな頬を撫でたところで意識が途切れた。
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