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第17話
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「ああ、ああ、お前はいったい何なんだよ、京哉?」
完膚なきまでに破壊された室内を眺めて、所轄である真城署の刑事課強行犯係の深夜番だった信輔は呆れ声を出した。
真城署は機捜に異動になる前の京哉の古巣で信輔はバディだった男だ。他にも見知った顔が口を開けたまま室内を見回している。
原形を留めているのは僅かにバスルームの一部くらいで、あとはキッチンや寝室にトイレに至るまで、ぶち込まれたRPG砲弾で木っ端微塵だ。
「僕に言われても困る、僕がロケット弾を発射した訳じゃない」
ムッとして文句を垂れながらも、京哉は霧島が心配で堪らない。失神からはすぐに目覚めたが、右こめかみを破片が掠めて流血し、端正な顔は凄絶である。
そんな状態で瓦礫を除けた床にあぐらをかいて、京哉にハンカチで血を拭われているのだ。だがどうにかしてこの事態から釈放されなければ、オルファスのことも喋らざるを得なくなる。
さすがにロケット砲の爆発音は誤魔化せず近隣住民が通報してしまったのだ。そこで霧島は一ノ瀬本部長に連絡し、何とかこの場を切り抜けられるよう具申していた。
駆けつけた所轄はあまりに派手な現場に臨場して呆然とし、今は機捜と県警捜一に救急待ちの状態である。そこで現在の現場責任者とも云える強行犯係の係長が携帯を振った。
「救急が下に現着したので霧島警視殿は病院に向かって下さい」
「分かった。手を煩わせてすまん」
「そのようなことは。真城市民病院が受け入れ態勢を整えているそうであります」
その場の皆からピシリとした敬礼をされ、霧島はラフな挙手敬礼で答礼すると京哉と共に粉砕された自室から出てエレベーターで一階に降りる。エントランスの外に緊急音を止めた救急車が一台停まっていたため暫し様子を見た。
五分ほどで救急車は去る。一ノ瀬本部長命令が効力を発揮し始めたようだ。京哉はエントランスの裏口から出る。
マンションの裏は草の生えた空き地になっていて、まだ所轄が捜査の手を入れる前のそこにはオルファスとエイダが隠れていた。
ハンドサインで「急げ」と示し裏口から通り抜けて表の黒塗りに走る。その間に霧島が黒塗りを再度点検していた。辺りは所轄のパトカーだらけ、捜査員に見咎められないよう四人は黒塗りに滑り込む。
負傷した霧島に代わり京哉がステアリングを握った。住宅街を抜けて街道に入り、バイパスに乗ると運転しながらも霧島が心配でたびたび様子を窺う。
「京哉、前を向いて運転に集中しろ」
「ってゆうか、忍さんは本当に病院に行かなくていいんですか?」
「構わん。保養所にも医者はいる」
「それはそうですけど……部屋も壊れて、貴方まで壊れて欲しくないですから」
「もしかして京哉、お前は凹んでいるのか?」
「当たり前でしょう、二人で暮らしてきた家が壊されたんですよ?」
「だが幸い保養所もあって居場所には困らんからな。カネで買えるものは買って取り戻してゆけばいいだけ、私はお前が無事でいたらそれでいい」
迷い悩むことを知らない霧島は割り切りも良く言い、京哉も同意したがしかし二人とも理不尽な攻撃に対して納得した訳ではない。部屋が壊されたのも哀しかったが、何より霧島を傷つけられたことが京哉の導火線を短くしていた。
それを知ってか知らずか後部座席のオルファスも黙って窓外を眺めている。
一区間だけ高速道に乗り、四十分ほどで保養所に辿り着いた。
それぞれ部屋に戻ると京哉と霧島は京哉の部屋のバスルームを交代で使い、銃撃戦で被った建材の埃を流してすっきりする。清潔になったら今枝に医師を呼んで貰い、霧島の傷の処置をした。幸い縫うほどではなく消毒し薬を塗られ防水ガーゼを貼られて釈放だ。
医師と看護師が去ると霧島はサイドボードからウィスキーとカットグラスを出し、ストレートで飲み始めた。アルコールに非常に強く酔ったのを見たことはないが京哉はムッとする。
「そんな飲み方して、傷が痛んでも知りませんからね」
「内側からも消毒だ。それより京哉、近い将来についての相談をする必要がある」
「怪我もしたのに、させません!」
「そんなに私が欲しかったのか? 私はSPとしての方針を相談したかったのだが」
「あ、そうですか」
赤くなった京哉は誤魔化そうと自分もグラスと水差しを出し、煙草を肴に水割りで霧島に付き合った。弱いのは自覚しているので薄い水割りをちびちびと飲む。
「ずっとオルファスをここに閉じ込めておく訳にもいきませんしね」
「脱走されて射殺でもされた日には寝覚めが悪い。ついて歩く他ないだろう」
「でもアプサラス号の中で『白藤市内を見物する』とか言ってましたよ?」
「車内から眺めさせるだけで済めばいいのだがな」
「練り歩かれてもヤクザ見物よりマシと思うしかないのかも」
二人は深く溜息をついた。京哉は三本目の煙草にオイルライターで火を点ける。
「でも僕らがこれだけの目に遭って、まだ我が儘を言うようならどうかしてますよ」
「単なる我が儘ではないのかも知れんぞ」
「どういうことですか?」
「兄である第二皇子を王に推す勢力があると言っていただろう?」
「もしかしてその勢力を炙り出そうと自分を囮にしてるとか?」
「よくできたな。可能性にしかすぎんが単なるバカ殿にも見えん」
完膚なきまでに破壊された室内を眺めて、所轄である真城署の刑事課強行犯係の深夜番だった信輔は呆れ声を出した。
真城署は機捜に異動になる前の京哉の古巣で信輔はバディだった男だ。他にも見知った顔が口を開けたまま室内を見回している。
原形を留めているのは僅かにバスルームの一部くらいで、あとはキッチンや寝室にトイレに至るまで、ぶち込まれたRPG砲弾で木っ端微塵だ。
「僕に言われても困る、僕がロケット弾を発射した訳じゃない」
ムッとして文句を垂れながらも、京哉は霧島が心配で堪らない。失神からはすぐに目覚めたが、右こめかみを破片が掠めて流血し、端正な顔は凄絶である。
そんな状態で瓦礫を除けた床にあぐらをかいて、京哉にハンカチで血を拭われているのだ。だがどうにかしてこの事態から釈放されなければ、オルファスのことも喋らざるを得なくなる。
さすがにロケット砲の爆発音は誤魔化せず近隣住民が通報してしまったのだ。そこで霧島は一ノ瀬本部長に連絡し、何とかこの場を切り抜けられるよう具申していた。
駆けつけた所轄はあまりに派手な現場に臨場して呆然とし、今は機捜と県警捜一に救急待ちの状態である。そこで現在の現場責任者とも云える強行犯係の係長が携帯を振った。
「救急が下に現着したので霧島警視殿は病院に向かって下さい」
「分かった。手を煩わせてすまん」
「そのようなことは。真城市民病院が受け入れ態勢を整えているそうであります」
その場の皆からピシリとした敬礼をされ、霧島はラフな挙手敬礼で答礼すると京哉と共に粉砕された自室から出てエレベーターで一階に降りる。エントランスの外に緊急音を止めた救急車が一台停まっていたため暫し様子を見た。
五分ほどで救急車は去る。一ノ瀬本部長命令が効力を発揮し始めたようだ。京哉はエントランスの裏口から出る。
マンションの裏は草の生えた空き地になっていて、まだ所轄が捜査の手を入れる前のそこにはオルファスとエイダが隠れていた。
ハンドサインで「急げ」と示し裏口から通り抜けて表の黒塗りに走る。その間に霧島が黒塗りを再度点検していた。辺りは所轄のパトカーだらけ、捜査員に見咎められないよう四人は黒塗りに滑り込む。
負傷した霧島に代わり京哉がステアリングを握った。住宅街を抜けて街道に入り、バイパスに乗ると運転しながらも霧島が心配でたびたび様子を窺う。
「京哉、前を向いて運転に集中しろ」
「ってゆうか、忍さんは本当に病院に行かなくていいんですか?」
「構わん。保養所にも医者はいる」
「それはそうですけど……部屋も壊れて、貴方まで壊れて欲しくないですから」
「もしかして京哉、お前は凹んでいるのか?」
「当たり前でしょう、二人で暮らしてきた家が壊されたんですよ?」
「だが幸い保養所もあって居場所には困らんからな。カネで買えるものは買って取り戻してゆけばいいだけ、私はお前が無事でいたらそれでいい」
迷い悩むことを知らない霧島は割り切りも良く言い、京哉も同意したがしかし二人とも理不尽な攻撃に対して納得した訳ではない。部屋が壊されたのも哀しかったが、何より霧島を傷つけられたことが京哉の導火線を短くしていた。
それを知ってか知らずか後部座席のオルファスも黙って窓外を眺めている。
一区間だけ高速道に乗り、四十分ほどで保養所に辿り着いた。
それぞれ部屋に戻ると京哉と霧島は京哉の部屋のバスルームを交代で使い、銃撃戦で被った建材の埃を流してすっきりする。清潔になったら今枝に医師を呼んで貰い、霧島の傷の処置をした。幸い縫うほどではなく消毒し薬を塗られ防水ガーゼを貼られて釈放だ。
医師と看護師が去ると霧島はサイドボードからウィスキーとカットグラスを出し、ストレートで飲み始めた。アルコールに非常に強く酔ったのを見たことはないが京哉はムッとする。
「そんな飲み方して、傷が痛んでも知りませんからね」
「内側からも消毒だ。それより京哉、近い将来についての相談をする必要がある」
「怪我もしたのに、させません!」
「そんなに私が欲しかったのか? 私はSPとしての方針を相談したかったのだが」
「あ、そうですか」
赤くなった京哉は誤魔化そうと自分もグラスと水差しを出し、煙草を肴に水割りで霧島に付き合った。弱いのは自覚しているので薄い水割りをちびちびと飲む。
「ずっとオルファスをここに閉じ込めておく訳にもいきませんしね」
「脱走されて射殺でもされた日には寝覚めが悪い。ついて歩く他ないだろう」
「でもアプサラス号の中で『白藤市内を見物する』とか言ってましたよ?」
「車内から眺めさせるだけで済めばいいのだがな」
「練り歩かれてもヤクザ見物よりマシと思うしかないのかも」
二人は深く溜息をついた。京哉は三本目の煙草にオイルライターで火を点ける。
「でも僕らがこれだけの目に遭って、まだ我が儘を言うようならどうかしてますよ」
「単なる我が儘ではないのかも知れんぞ」
「どういうことですか?」
「兄である第二皇子を王に推す勢力があると言っていただろう?」
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