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第30話
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囲まれてコイルから引きずり出されないだけマシだった。敵も人目を憚りつつ発射したのだろう、被弾はリアウィンドウに二発のみだった。
だが問題はBEL停機場、乗り込むまでは生身を晒すことになる。そこで離陸時刻ギリギリまでタクシーで周囲を流し一気に屋上に上るという、対策とも云えぬ対策を取った。人々から迷惑そうな視線を向けられつつタクシーは低速で走る。
「親分に頼んで私も武装した方が良かったですかね?」
「ド素人に後ろから撃たれるのは趣味じゃねぇ。なるべく頭、引っ込めてろよ」
「本当にすみません」
「謝ってる場合じゃねぇぞ。あんたも頭数だ、索敵しろ。……そろそろだな」
BELの離陸まであと七分、タクシーは停機場のあるビルの前に着いた。リモータリンクで清算すると階段が見えている入り口を透かし見る。
約五メートルが遠い。
「地上十階、階段で行くぞ」
エレベーターを使わないのはセオリー、待ち伏せされてドアが開くなりズドンとやられたらアウトだ。無論、待ち伏せはあるものだと認識している。
「ハイファ、大丈夫か?」
「うん、行けるよ」
銃を抜いたハイファが頷く。頷き返したシドがレールガンを手にカウントした。
「三、二、一、GO!」
ドアを開けたハイファはするりと滑り出るとロンを背に庇って人波を押し分け突っ切る。シドは最後尾、後方だけでなく四方全てに対して神経を尖らせていた。あれだけコイルで流したのだ、こちらの意図は知られ囲まれているだろう。
銃撃を受けたのは人波から抜け、開け放したビルの入り口に三人が踏み入ってからだった。誰も被弾しなかったのは幸い、シドは大腿部を掠めた衝撃波にひやりとする。だが人波に向けて応射する訳にもいかない。
階段を駆け上る。
階段の途中にマフィアの待ち伏せはいなかった。五階のクラブから出てきたホステスと社長サンを思わず撃ちそうになって冷や汗をかいたくらいだ。
「あと一階、残り四分!」
「チッ、早すぎたか」
最後の折り返し十数段になった地点で速度を緩め足音を忍ばせた。上りきったドアは開放されている。ロンを下がらせるとシドとハイファはそっと出口内側の壁、左右に分かれて張り付いた。二人は呼吸を計って飛び出す。
武装した男が二人と四人、エレベーター側、ハイファの方が多い。シドは二丁の銃のトリガを引かせることなくヘッドショット。振り向きざま左上腕に着弾のショックを受けつつ、ハイファ側の一人の腹にダブルタップ。
同時にハイファのテミスコピーも火を噴いていた。一発に聞こえるほどの速射で二人の男にヘッドショット。最後の一人はトリガを引いたものの、既にフレシェット弾と九ミリパラを腹に食らって狙いなど定まらない。
命の残った二人に所属組織名を訊く。男らは意識も朦朧としていたが、やはりレスターファミリーの手下だと吐いた。
ロンのことがバレているかどうかも訊き出したかったが、鬼畜なハイファが張り倒しても目覚める様子がなくなったので諦める。
「あっ、早く乗らなきゃ置いてきぼりになっちゃう!」
「ロン、来い。行くぞ!」
ごく身近で起こった惨劇にBELスタッフは定刻より早い離陸を試みたが、銃を手にしたままのハイファにタラップドアを踏んづけられ、敢えなくフライングは止したようだ。
機内で銃を仕舞った二人とロンは、にこやかにチェックパネルで料金を支払い、タラップドアより後部に並んで空いた席を見つけて座る。
座る前に見回してみたが、機内に敵と覚しき風体の人物は見当たらなかった。
「三十分の休憩か」
「やっぱり宙港にも張ってると思う?」
「いなきゃ嘘だろうな」
「ヤダなあ、オシャレ三下と殴り合いなんて。……これが午前四時着でビャクレイⅤ行きが、ええと、四時二十分だよ。十五分前にはチケットチェックで乗艦だから、チケット取る時間も含めて五分間で片が付くかどうかが問題だね」
「片が付くかどうかじゃねぇ、付けるんだ。その次の便まで一時間と五分も撃ち合ってたら、ほぼ確実に俺たちまで地元惑星警察か宙港警備に射殺逮捕されるぞ」
「だよね。ロンより僕らが変装すべきだったかも」
今更言っても始まらない。それにどう変装しようとバレてしまうであろうと二人ともに予想している。何故かシドとハイファは二人揃うと目立ってしまうらしいのだ。
「帽子と目薬、お分けします?」
「「要らない」」
「そうですか……」
「あ、ちょっと待て。ロン、俺とハイファ、どっちが目立つ?」
「そうですね……リーマン予想にチャレンジしてもいいですか?」
「ンなに難問かよっ! じゃあ、帽子被ったらどうだ?」
「うーん、髪を帽子に入れればハイファスかも知れないですね。銃も隠れてますし」
「じゃあハイファ。お前チケット係な」
「ラジャー。三人分リザーブしてリモータで流すよ」
夜を切り裂くBELはマッハ二という超速でビャクレイⅢ第一宙港へと飛翔する。窓外に目をやっても何が見える訳でもないが、機体が大気摩擦でアブレーションを起こし時折発光していた。だがサーマルバリアコーティング仕様の機体は燃え尽きたりしない。
窓際に座ったハイファは線香花火のようなそれを眺めながら、ポケットから弾を出して減った七発をロードした。ポケットと銃本体、それにスペアマガジン二本の満タン分を含めて残七十五発。これで足りないような事態ならとっくに命はないだろう。
定期BELは徐々に減速・降下し始めた。停機場は宙港メインビルの屋上である。
「そろそろだな。ハイファ、ロンの帽子借りろよ」
言われて渡された帽子を被り、中に金髪のしっぽを隠す。
「ねえねえ、似合う?」
「壊滅的に似合わねぇよ。さあて、時間&マフィアとの戦いだぜ」
だが問題はBEL停機場、乗り込むまでは生身を晒すことになる。そこで離陸時刻ギリギリまでタクシーで周囲を流し一気に屋上に上るという、対策とも云えぬ対策を取った。人々から迷惑そうな視線を向けられつつタクシーは低速で走る。
「親分に頼んで私も武装した方が良かったですかね?」
「ド素人に後ろから撃たれるのは趣味じゃねぇ。なるべく頭、引っ込めてろよ」
「本当にすみません」
「謝ってる場合じゃねぇぞ。あんたも頭数だ、索敵しろ。……そろそろだな」
BELの離陸まであと七分、タクシーは停機場のあるビルの前に着いた。リモータリンクで清算すると階段が見えている入り口を透かし見る。
約五メートルが遠い。
「地上十階、階段で行くぞ」
エレベーターを使わないのはセオリー、待ち伏せされてドアが開くなりズドンとやられたらアウトだ。無論、待ち伏せはあるものだと認識している。
「ハイファ、大丈夫か?」
「うん、行けるよ」
銃を抜いたハイファが頷く。頷き返したシドがレールガンを手にカウントした。
「三、二、一、GO!」
ドアを開けたハイファはするりと滑り出るとロンを背に庇って人波を押し分け突っ切る。シドは最後尾、後方だけでなく四方全てに対して神経を尖らせていた。あれだけコイルで流したのだ、こちらの意図は知られ囲まれているだろう。
銃撃を受けたのは人波から抜け、開け放したビルの入り口に三人が踏み入ってからだった。誰も被弾しなかったのは幸い、シドは大腿部を掠めた衝撃波にひやりとする。だが人波に向けて応射する訳にもいかない。
階段を駆け上る。
階段の途中にマフィアの待ち伏せはいなかった。五階のクラブから出てきたホステスと社長サンを思わず撃ちそうになって冷や汗をかいたくらいだ。
「あと一階、残り四分!」
「チッ、早すぎたか」
最後の折り返し十数段になった地点で速度を緩め足音を忍ばせた。上りきったドアは開放されている。ロンを下がらせるとシドとハイファはそっと出口内側の壁、左右に分かれて張り付いた。二人は呼吸を計って飛び出す。
武装した男が二人と四人、エレベーター側、ハイファの方が多い。シドは二丁の銃のトリガを引かせることなくヘッドショット。振り向きざま左上腕に着弾のショックを受けつつ、ハイファ側の一人の腹にダブルタップ。
同時にハイファのテミスコピーも火を噴いていた。一発に聞こえるほどの速射で二人の男にヘッドショット。最後の一人はトリガを引いたものの、既にフレシェット弾と九ミリパラを腹に食らって狙いなど定まらない。
命の残った二人に所属組織名を訊く。男らは意識も朦朧としていたが、やはりレスターファミリーの手下だと吐いた。
ロンのことがバレているかどうかも訊き出したかったが、鬼畜なハイファが張り倒しても目覚める様子がなくなったので諦める。
「あっ、早く乗らなきゃ置いてきぼりになっちゃう!」
「ロン、来い。行くぞ!」
ごく身近で起こった惨劇にBELスタッフは定刻より早い離陸を試みたが、銃を手にしたままのハイファにタラップドアを踏んづけられ、敢えなくフライングは止したようだ。
機内で銃を仕舞った二人とロンは、にこやかにチェックパネルで料金を支払い、タラップドアより後部に並んで空いた席を見つけて座る。
座る前に見回してみたが、機内に敵と覚しき風体の人物は見当たらなかった。
「三十分の休憩か」
「やっぱり宙港にも張ってると思う?」
「いなきゃ嘘だろうな」
「ヤダなあ、オシャレ三下と殴り合いなんて。……これが午前四時着でビャクレイⅤ行きが、ええと、四時二十分だよ。十五分前にはチケットチェックで乗艦だから、チケット取る時間も含めて五分間で片が付くかどうかが問題だね」
「片が付くかどうかじゃねぇ、付けるんだ。その次の便まで一時間と五分も撃ち合ってたら、ほぼ確実に俺たちまで地元惑星警察か宙港警備に射殺逮捕されるぞ」
「だよね。ロンより僕らが変装すべきだったかも」
今更言っても始まらない。それにどう変装しようとバレてしまうであろうと二人ともに予想している。何故かシドとハイファは二人揃うと目立ってしまうらしいのだ。
「帽子と目薬、お分けします?」
「「要らない」」
「そうですか……」
「あ、ちょっと待て。ロン、俺とハイファ、どっちが目立つ?」
「そうですね……リーマン予想にチャレンジしてもいいですか?」
「ンなに難問かよっ! じゃあ、帽子被ったらどうだ?」
「うーん、髪を帽子に入れればハイファスかも知れないですね。銃も隠れてますし」
「じゃあハイファ。お前チケット係な」
「ラジャー。三人分リザーブしてリモータで流すよ」
夜を切り裂くBELはマッハ二という超速でビャクレイⅢ第一宙港へと飛翔する。窓外に目をやっても何が見える訳でもないが、機体が大気摩擦でアブレーションを起こし時折発光していた。だがサーマルバリアコーティング仕様の機体は燃え尽きたりしない。
窓際に座ったハイファは線香花火のようなそれを眺めながら、ポケットから弾を出して減った七発をロードした。ポケットと銃本体、それにスペアマガジン二本の満タン分を含めて残七十五発。これで足りないような事態ならとっくに命はないだろう。
定期BELは徐々に減速・降下し始めた。停機場は宙港メインビルの屋上である。
「そろそろだな。ハイファ、ロンの帽子借りろよ」
言われて渡された帽子を被り、中に金髪のしっぽを隠す。
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