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第13話

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 左側のデスクにマグカップを置いたハイファが椅子に座り、別室カスタムメイドリモータからリードを引き出して端末に繋いだ。シドは右のデスクでMCSを介し、端末を別室戦術コンとアクセスさせるのに奮闘する。

「名簿、名簿……あった。現在員はA区隊からD区隊まで、それぞれ二十四名。僕ら含めて総員九十六名」
「俺たち入れても定数割ったか。で、【異変】は?」

「Aからはパレードの銃撃一名と今朝逮捕したアラン=ローゼンベルグ、Bからパレードの銃撃二名、Cでは軍内部での喧嘩で二人がMP、いわゆる憲兵隊に挙げられてる。Dから四分署で傷害のエルター=コリントと、八分署で傷害致死のフェリクス=バーレだね。ついでに言えば、Dから一ヶ月前に自殺者が一人」

「へえ、見事にバラけてるな」
「まんべんなく、だね。自殺以外の全員、速攻で除隊になってるよ」
「共通点はどうだ?」

「うーん、年齢も二十代から四十前半。専門科も航空・補給・機甲、バラバラ。配属基地だってネオシカゴやガーナシティ、地元セントラルその他。男性ってくらいしか」
「課業外につるんでたかどうかまでは載ってねぇよな」
「それは聞き込まないと」

「じゃあ、部内幹候以外。一般幹候はどうだ?」
「一緒に見てるけど、これといって事故者は見当たらないよ」
「なら、過去の期の幹候はどうだ?」

「ちょっと待って……出た。うーん、自殺者とか喧嘩で傷害とかはあるよ。でも軍隊って意外と自殺の多い職業だし、喧嘩もMPが事を収めてる。これくらいは正常値内じゃないかな」

「そうか」
 と、新たに煙草を咥えながらシド、
「次は銀堂だな」

「別室戦術コンを直接タイタン基地に潜らせるね。でも現在のテラ本星・タイタンの距離はおよそ9AU、約十三億キロだから、通常通信だと結果は二時間以上待って貰わないと」
「ダイレクトワープ通信、使えよ」
「やだよ、クレジットが余計に掛かるもん」

 亜空間レピータを使用するダイレクトワープ通信はラグタイムなしで電波を繋ぐ。しかしレピータを亜空間に設置し維持管理するのは難度の高い技術なのだ。故にコストがバカ高い。自分のカネではないが、伝統ある耐乏軍人の端くれとして、おいそれとは使えないのである。

「ふん。ダルいことやってるうちに、こっちは出たぞ」
「何が?」

 立ち上がったハイファは伸びをしてから、シドの端末のホロディスプレイを覗き込む。

「何でこの距離で僕の端末をハックするんですか、あーたは」
「名簿のポラが欲しかっただけだ。別室戦術コンにぶち込んだら星系政府管掌IDであっさりヒットしたぜ。ほら」
「えーっ、銀堂護、ID特性、サイキ持ち!?」
「それもサイキは思考解読に念動だってよ。テレパスでPK使いのダブルタレントだぞ?」

 サイキ持ち、いわゆる超能力者は約千年前に存在が確認された。だが未だ科学的究明は進んでおらず、彼らの先祖が過去の何処かで長命系星人との混血を成したという事実しか明らかになってはいない。

 触れずして物を動かし破壊する念動のPKサイコキネシスに他人の心を読み取り精神で会話するテレパス、空間を瞬時に移動するテレポーター、見えない所まで心の目で透視するサーチに、電子的システムを自在にコントロールするデジタルサイキのEシンパスなど、能力の種類や強さも様々だ。

 だが夢の力を持った彼らは出現当初、その力と先祖返りのような長命とによって、世間からは羨み、妬み、白眼視される時期が長く続いた。
 今でこそあからさまな差別をする者も減ったが、やはり人には有り得ない稀少且つ危険なサイキは強ければ強いほど、徹底して隠すか、さもなくば徹底して利用するかしないと生きてはゆきづらいのが実情だ。

 彼らを研究材料としてしか見ない科学者や、サイキ抹殺を掲げる狂信的カルト集団も存在する。それらに狙われ命を落とす者や、抵抗して殺人を犯してしまう者もいるのだ。おまけに汎銀河法は彼らに厳しく、サイキによる殺人は死刑と定められている。

 そこで殆どの強力なサイキ持ちは何処かの組織に入り、サイキをフルに利用させられる代わりに擁護される道を選ぶ。就職先の大手は軍や、汎銀河で唯一の超能力者擁護団体を表向きは謳いながらもカネさえ払えばどんな仕事でもする『ギルド』などだ。

 そう、別室にも複数のサイキ持ちがいる。ハイファは当然ながらシドも別室任務で何人かを見知っていたが、なかなかにユニークなメンバーが揃っていた。

 一方のギルドは『サイキによる利益を社会に還元する』などと謳い、一般人の殆どがそれを信じているが、詳細は謎に包まれたままの部分が多い。異星系多人種が加盟する汎銀河条約機構内でもテラ系と双璧を成す、長命星人星系であるプラハイト恒星系第十三惑星ドーリスに本部があると云われているものの、果たして本当なのかも分からないのが現状だ。

 何れにせよ別室こちらから見れば対抗組織の一面を大きく見せる『あちらサイド』でしかなく、二人の過去の別室任務に於いても何度かぶつかっている厄介な相手だった。

 そんなことを考えながら、ふとハイファは首を傾げる。

「見目麗しい長命系の血が濃く出たってほど銀堂は綺麗だったっけ?」
「かなり整ってはいたが、まあ、奴らの常套手段で整形したかも知れねぇし、別室長の野郎みたいな例外もあるだろ。それより何で銀堂は軍にいながら別室員じゃねぇんだ?」

「さあね。髪の毛一本持ち上げるのがやっとの人まで入れて、汎銀河で五桁しかいない稀少人種だから」
「サイキが弱いかも知れねぇってか。けど『思考解読』ときたもんだ。俺たちに執銃の理由を訊かなかった訳が分かったな」

「読まれちゃったかあ。シドは銀堂が今回の件に関わってると思う?」
「予断は禁物だが、奴が編入してから始まった【幹部学校の異変】だ。無関係と言うには無理がありそうだよな」
「果たして催眠暗示を掛け得るだけの強力なサイキなのか、その目的は何なのか」

 そこでシドは煙草の煙をハイファに吹きかけた。

「ちょ、止めてよね」

 ぱたぱたと手であおぐハイファにシドは刑事の顔で言う。

「今のところはここまでだ。お互い『銀堂』イコール『催眠暗示の犯人』イコール『ギルドの使者』で脳ミソが固まりかけてる。危険だぞ」
「うん、それは言えるかも。コーヒーでも淹れなおそうかな」

 熱いマグカップをそれぞれ手にして自習時間をいい加減に潰した。
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