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第10話
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ふらつくエセル=ユージンを組長のいる三人掛けソファとは違う向かい側の三人掛けに座らせる。そちら側にはソフトスーツのジャケットとタイ、大型拳銃入りのショルダーホルスタが置かれていて和音はジャケットを取り上げ薄い肩に掛けてやった。
その際に和音の指先がエセル=ユージンの華奢な首筋に一瞬触れる。
たったそれだけで敏感になりすぎた細い躰は反応した。
「あっふ……あっ、はぁん!」
甘く高く鳴いて細い腰を揺らめかせたエセル=ユージンに組長が大笑いする。本当に可笑しくて堪らないという風に哄笑を響かせる夏木佳人に和音は真面目に訊いた。
「何が可笑しいんだ?」
「ユージンもそうだが新城、お前のそのスカした面を叩き割れると思ったら――」
説明されても笑いのツボがまるで分からず、だが和音は心して普段の顔を維持してやろうと思う。この男の笑いのネタになってやる義理などない。
まだ笑いながら組長は和音のグラスにブランデーを注ぎ、ロウテーブルに置いてあった金無垢らしいシガレットケースを開ける。隣に天然石のデカい灰皿があったが、シガレットケースに入っていたのは煙草ではなく錠剤のシートだった。おそらくギルダだ。
組長自らが麻薬を所持しているというのは、かなりのポイントだと和音が思っていると、夏木佳人は薄茶色の錠剤を二錠取り出して和音のグラスに落とし込む。
口内で溶けるOD錠というヤツなのか、すぐに琥珀色の液体に消えてなくなった。
「飲めよ、新城。組長の盃を干せ」
ふいに真顔で迫られる。予想していた通りの展開だが交わす盃に麻薬が入っているというのは想定外だった。しかし逃げ出すことは勿論、言い訳もできそうにない。
ただ生のギルダの核に比べれば流通している密売麻薬の作用は弱いと麻取部長から聞いていた。おまけに自分は薬の効きが悪く驚かれたほどである。県警本部長室で起こった変調よりはマシだろうと腹を括って和音はブランデーグラスを手に取った。
核を食ったときの苦さを覚悟していたが、これはそうでもなかった。それどころかブランデーは余程の上物なのだろう、非常に旨い。だからといって即効性のある薬物を一気飲みしたりはせず、時間を掛けて体内で薄めるためにゆっくりと口に含む。
更に時間を稼ぐため、スーツのポケットから煙草を出して一本咥えるとオイルライターで火を点けた。ここでも容赦なく天然石をくり抜いた灰皿を勝手に使う。
その一連の様子を眺めていた組長がまたも笑い出した。
「芝田に厄介を押し付けられたと思っていたが、新城、お前は拾いものかも知れん」
「仕事もロクにせず日も高いうちから飲んだくれてる奴に言われても嬉しくねぇな」
「仕事はしているさ。これでも企業舎弟を五十社以上抱えてる身でね」
「ふん。お坊ちゃんのお守りをする輩が面倒見てくれてるだけじゃねぇのか?」
「そう思うなら明日から俺の秘書でもやってみるか? 祭り上げられるだけのことはしているつもりだ。だが新城、お前は本当にいい感じだな」
ヤクザにしみじみ言われて和音は複雑だったが、徐々にそれどころではなくなる。覚えのある眩暈が始まって部屋が歪み出したのだ。唾を飲み込み目を瞬かせて回転性の眩暈に耐える。そうしながら何気なくエセル=ユージンに目を留めた。そこでふいに昨日の凄みを感じさせる美しさを思い出し、今のあまりに無防備な様子との違いに呆然とさせられる。
だが無防備ながらエセル=ユージンは無表情を保っていて、アメジストの瞳は茫洋としながらも、やはり何処か氷の欠片を含んでいるようだった。果たして組長に抱かれたときは氷の欠片も融けたのだろうかなどと和音は思う。それなら今ここで自分がエセル=ユージンを押し倒したらどうなるのだろう。甘く高い声で奔放に鳴くのだろうか。
戯れにもそんなことを考えたのが拙かった。
ものも言わずに座っているエセル=ユージンを押し倒してしまいたい欲求が首をもたげて剥がれなくなったのだ。ジャケットは被せたがエセル=ユージンのドレスシャツは完全にはだけて、白い腹から胸、華奢な鎖骨に首筋が露わなままである。儚いまでの細い躰を折れるほどに抱き締め、妖しいような色気を放つ喉を仰け反らせ、咬みついてしまいたい……。
幸いといっていいものか、そんな思いを組長の声が一瞬遮った。
「ほう。そこまで『テオ』に耐える男は初めて見た。やっぱり新城、お前は面白い」
「『テオ』?」
舌をもつれさせながら訊いたが、ギルダの核を精製した新型麻薬をそのまま『ギルダ』で密売する訳などなく、『テオ』なるコードネームで取引しているのだと思われた。
酷い眩暈と戦いながらも努めて特命について考え、暴力的なまでに膨れ上がった性的欲求と物理的にも張り裂けんばかりになっている躰の中心から和音は心を逸らそうとする。
けれど注がれたブランデーはまだ僅かながら残っていた。組長に『盃を干せ』と言われた以上、残したまま場を立ち去ることなどできないのは承知している。
そのときエセル=ユージンがふいに和音のグラスを奪い取って残りを呷った。あっという間のことで止められないまま一息に飲み干してしまう。だが混ぜもしなかった錠剤はグラスの底により多く残っていた筈だ。自身もテオに酔ったまま和音は白い顔を凝視する。
案の定エセル=ユージンはそれまで茫洋としていたアメジストの瞳に今や零れそうなまでの情欲を湛えて熱い吐息を乱した。肩に羽織らせたジャケットも落として三人掛けソファから身を揺らめかせながら立ち上がる。
そうして組長の許に行くと思いきや、ふいに方向転換して和音にのしかかった。けれどソファの背凭れがあるので和音は押し倒されず、代わりに唇を奪われる。
「なっ……んんっ!」
「んんぅ、ん……んんっ、っん――」
喉の奥で甘く鳴くエセル=ユージンの蠢く熱い舌に和音は最初から応えてしまっていた。他人の前でいちゃつく趣味もなければ男と何かをやらかす根性などないつもりの和音だったが、テオの効いた今は身も心も正常な判断などできなくなっている。
互いに絡ませた舌を唾液ごと思い切り吸い上げた。交互に舌先を甘噛みし合う。そうしながら薄い背に両腕を回した和音は明るい金髪を縛った革紐を解いた。クセのないさらさらの長い髪を手櫛で梳きつつ、届く限りの口内を舐め回してから解放する。
「んっ……んんぅ、はぁん、新城?」
「ああ。ユージン、お前の髪、気持ちいいな」
「僕はエセル。そう呼んで」
「エセル? っく……エセル!」
皮膚の薄い首筋に和音は咬みつくように顔を埋めた。衣服を身に着けても隠れない処をきつく吸い上げ、赤く濃く痕を刻み込む。殆ど和音に乗っかった形のエセルは、白い喉を仰け反らせて悦びに喘ぎを洩らした。そんなエセルの髪を梳きながら、片手で露わとなった白い肌をまさぐる。きめ細かな肌は掌に吸い付くようだった。
もはやエセルは和音の勃ち上がったものの上に乗り、直接刺激している状態だ。和音も堪らず腰を揺らす。抱き合った二人はもう組長の存在など頭になかった。放って置かれたら間違いなく和音はエセルを絨毯に押し倒し、その衣服を引き破って貫き犯していただろう。
しかし当然ながら夏木佳人はそれ以上を二人に許さなかった。
スラックスの内側、インサイドパンツホルスタから引き抜いた護身用らしい小型セミ・オートマチック・ピストルのマカロフをエセルの頭部に向けたのである。小型とはいえ九ミリ弾をチャンバ一発マガジン八発の計九発装填可能なマカロフは殺傷能力も充分だ。
銃を向けられたことに先に気付いたのは和音、脳が痺れるような思いでエセルの細い躰から腕を外し、そっと押し返す。和音の挙動でエセルもマカロフを目に映した。
「ユージン、こっちに来い!」
その際に和音の指先がエセル=ユージンの華奢な首筋に一瞬触れる。
たったそれだけで敏感になりすぎた細い躰は反応した。
「あっふ……あっ、はぁん!」
甘く高く鳴いて細い腰を揺らめかせたエセル=ユージンに組長が大笑いする。本当に可笑しくて堪らないという風に哄笑を響かせる夏木佳人に和音は真面目に訊いた。
「何が可笑しいんだ?」
「ユージンもそうだが新城、お前のそのスカした面を叩き割れると思ったら――」
説明されても笑いのツボがまるで分からず、だが和音は心して普段の顔を維持してやろうと思う。この男の笑いのネタになってやる義理などない。
まだ笑いながら組長は和音のグラスにブランデーを注ぎ、ロウテーブルに置いてあった金無垢らしいシガレットケースを開ける。隣に天然石のデカい灰皿があったが、シガレットケースに入っていたのは煙草ではなく錠剤のシートだった。おそらくギルダだ。
組長自らが麻薬を所持しているというのは、かなりのポイントだと和音が思っていると、夏木佳人は薄茶色の錠剤を二錠取り出して和音のグラスに落とし込む。
口内で溶けるOD錠というヤツなのか、すぐに琥珀色の液体に消えてなくなった。
「飲めよ、新城。組長の盃を干せ」
ふいに真顔で迫られる。予想していた通りの展開だが交わす盃に麻薬が入っているというのは想定外だった。しかし逃げ出すことは勿論、言い訳もできそうにない。
ただ生のギルダの核に比べれば流通している密売麻薬の作用は弱いと麻取部長から聞いていた。おまけに自分は薬の効きが悪く驚かれたほどである。県警本部長室で起こった変調よりはマシだろうと腹を括って和音はブランデーグラスを手に取った。
核を食ったときの苦さを覚悟していたが、これはそうでもなかった。それどころかブランデーは余程の上物なのだろう、非常に旨い。だからといって即効性のある薬物を一気飲みしたりはせず、時間を掛けて体内で薄めるためにゆっくりと口に含む。
更に時間を稼ぐため、スーツのポケットから煙草を出して一本咥えるとオイルライターで火を点けた。ここでも容赦なく天然石をくり抜いた灰皿を勝手に使う。
その一連の様子を眺めていた組長がまたも笑い出した。
「芝田に厄介を押し付けられたと思っていたが、新城、お前は拾いものかも知れん」
「仕事もロクにせず日も高いうちから飲んだくれてる奴に言われても嬉しくねぇな」
「仕事はしているさ。これでも企業舎弟を五十社以上抱えてる身でね」
「ふん。お坊ちゃんのお守りをする輩が面倒見てくれてるだけじゃねぇのか?」
「そう思うなら明日から俺の秘書でもやってみるか? 祭り上げられるだけのことはしているつもりだ。だが新城、お前は本当にいい感じだな」
ヤクザにしみじみ言われて和音は複雑だったが、徐々にそれどころではなくなる。覚えのある眩暈が始まって部屋が歪み出したのだ。唾を飲み込み目を瞬かせて回転性の眩暈に耐える。そうしながら何気なくエセル=ユージンに目を留めた。そこでふいに昨日の凄みを感じさせる美しさを思い出し、今のあまりに無防備な様子との違いに呆然とさせられる。
だが無防備ながらエセル=ユージンは無表情を保っていて、アメジストの瞳は茫洋としながらも、やはり何処か氷の欠片を含んでいるようだった。果たして組長に抱かれたときは氷の欠片も融けたのだろうかなどと和音は思う。それなら今ここで自分がエセル=ユージンを押し倒したらどうなるのだろう。甘く高い声で奔放に鳴くのだろうか。
戯れにもそんなことを考えたのが拙かった。
ものも言わずに座っているエセル=ユージンを押し倒してしまいたい欲求が首をもたげて剥がれなくなったのだ。ジャケットは被せたがエセル=ユージンのドレスシャツは完全にはだけて、白い腹から胸、華奢な鎖骨に首筋が露わなままである。儚いまでの細い躰を折れるほどに抱き締め、妖しいような色気を放つ喉を仰け反らせ、咬みついてしまいたい……。
幸いといっていいものか、そんな思いを組長の声が一瞬遮った。
「ほう。そこまで『テオ』に耐える男は初めて見た。やっぱり新城、お前は面白い」
「『テオ』?」
舌をもつれさせながら訊いたが、ギルダの核を精製した新型麻薬をそのまま『ギルダ』で密売する訳などなく、『テオ』なるコードネームで取引しているのだと思われた。
酷い眩暈と戦いながらも努めて特命について考え、暴力的なまでに膨れ上がった性的欲求と物理的にも張り裂けんばかりになっている躰の中心から和音は心を逸らそうとする。
けれど注がれたブランデーはまだ僅かながら残っていた。組長に『盃を干せ』と言われた以上、残したまま場を立ち去ることなどできないのは承知している。
そのときエセル=ユージンがふいに和音のグラスを奪い取って残りを呷った。あっという間のことで止められないまま一息に飲み干してしまう。だが混ぜもしなかった錠剤はグラスの底により多く残っていた筈だ。自身もテオに酔ったまま和音は白い顔を凝視する。
案の定エセル=ユージンはそれまで茫洋としていたアメジストの瞳に今や零れそうなまでの情欲を湛えて熱い吐息を乱した。肩に羽織らせたジャケットも落として三人掛けソファから身を揺らめかせながら立ち上がる。
そうして組長の許に行くと思いきや、ふいに方向転換して和音にのしかかった。けれどソファの背凭れがあるので和音は押し倒されず、代わりに唇を奪われる。
「なっ……んんっ!」
「んんぅ、ん……んんっ、っん――」
喉の奥で甘く鳴くエセル=ユージンの蠢く熱い舌に和音は最初から応えてしまっていた。他人の前でいちゃつく趣味もなければ男と何かをやらかす根性などないつもりの和音だったが、テオの効いた今は身も心も正常な判断などできなくなっている。
互いに絡ませた舌を唾液ごと思い切り吸い上げた。交互に舌先を甘噛みし合う。そうしながら薄い背に両腕を回した和音は明るい金髪を縛った革紐を解いた。クセのないさらさらの長い髪を手櫛で梳きつつ、届く限りの口内を舐め回してから解放する。
「んっ……んんぅ、はぁん、新城?」
「ああ。ユージン、お前の髪、気持ちいいな」
「僕はエセル。そう呼んで」
「エセル? っく……エセル!」
皮膚の薄い首筋に和音は咬みつくように顔を埋めた。衣服を身に着けても隠れない処をきつく吸い上げ、赤く濃く痕を刻み込む。殆ど和音に乗っかった形のエセルは、白い喉を仰け反らせて悦びに喘ぎを洩らした。そんなエセルの髪を梳きながら、片手で露わとなった白い肌をまさぐる。きめ細かな肌は掌に吸い付くようだった。
もはやエセルは和音の勃ち上がったものの上に乗り、直接刺激している状態だ。和音も堪らず腰を揺らす。抱き合った二人はもう組長の存在など頭になかった。放って置かれたら間違いなく和音はエセルを絨毯に押し倒し、その衣服を引き破って貫き犯していただろう。
しかし当然ながら夏木佳人はそれ以上を二人に許さなかった。
スラックスの内側、インサイドパンツホルスタから引き抜いた護身用らしい小型セミ・オートマチック・ピストルのマカロフをエセルの頭部に向けたのである。小型とはいえ九ミリ弾をチャンバ一発マガジン八発の計九発装填可能なマカロフは殺傷能力も充分だ。
銃を向けられたことに先に気付いたのは和音、脳が痺れるような思いでエセルの細い躰から腕を外し、そっと押し返す。和音の挙動でエセルもマカロフを目に映した。
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