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第4話・休日初日午後中盤〈画像解説付属〉

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 のっしのっし歩き、苦労して堤防から降りると辺りを見回す。

「仕掛けはブラクリくらいか」

 呟いた『ブラクリ』とはおもりの下に針が付いた簡素な仕掛けで、これも底物狙いである。大概の錘には色がついていて真っ赤なのが多い。
 しかしこれは大和好みのブン投げ方式ではなく目前でポチャンと垂直落下させ、底に着いたらゆっくり上下して獲物が掛かるのを待つという地味な釣り方だ。



 主に岩場を棲み処にしているアイナメなどを狙うが、感覚としては金魚釣りだった。
 それでもアイナメその他の『岩場のヌシ』的な大物がヒットすることもある、地味でもバカに出来ない釣りだ。

 大和は堤防下の反対側、広がる砂浜の手前にある岩場に目を付けた。遠歩きするには海水の入ったクーラーボックスが重たかったのもある。
 ごく近場に荷物を下ろし、二本ある竿のうちまだ使っていない短めの「ちょい投げ用」を取り出した。短めの竿に幹糸を通して伸ばし、先っちょにブラクリをつけるとエサはここでも青イソメだ。

 準備ができると荷物を置いた堤防の土台と磯場の間に良さそうな隙間を見つけた。割と深さもありそうだ。大和はその隙間にポチャンとブラクリを落とし込む。
 底に着いた手応えでリールのベールを返し、僅かに糸を巻いた。

 ここからは根気の勝負である。アタリが無ければ僅かずつ歩いてはまんべんなく底を探って、エサを上下させながら獲物を誘うのだ。
 そこに魚がいなければ意味は無いのでアタリのある場所を見つけるまでが何とも気怠く、大男が小さな竿を上下にしゃくりつつ、俯いたままチョボチョボと歩いている姿はうら寂しいような風情だった。

 しかし大和は自分がどう見えているかなど全く頭になく、またも別れた男の事ばかりに思考を占められていた。
 逃がした魚は大きかったなどと言うが、自分もその典型なのではないか。どうしてホストのヘルプを黙っていたくらいで詰問し、返事がないことに激怒してしまったのか。

 もっとキチンと話し合ったなら、あいつと今もこうして一緒に……あいつは釣りはしないんだよな。あの言い種からすると自然からナニかを強奪せずとも、この現代で生きられるだろう? その趣味は野蛮な行為じゃないのかい、とでもいったところか。

 ――ほら見ろ、やっぱりあいつとは最初から合わなかったんだ。

 ぐるぐると同じ思考を飽かず脳内でこねくり回す。投げ釣りと違って地味かつ根気の要る単調なブラクリ釣りは、結果として大和の脳ミソに、

『いい歳こいて独りは淋しいなあ……』

 という負の答えを浮かばせていた。ソノ手の盛り場で一夜の相手を見つけるのは好きではなく、マザコンではないがそもそも母と暮らしている以上、これまでも付き合った相手は母に紹介してきた。
 外泊するなら母に余計なコトを詮索され会社に電話でもされるより、自分で連絡して実家の戸締りや火の元の確認をしてから母には眠って欲しいからである。

 それをマザコンというのだと笑った男も過去にはいたが、大和自身は曖昧な笑いで誤魔化した。本気で笑えないのだ。

 あるとき学校から帰ったら実家は無人なのにガスコンロの火がついていた。そして見覚えある片手鍋の柄だけが半分焦げて床に落ちていたのである。コンロ上の火の中には元はタマゴだったと思しき丸い炭がふたつ。長年使い込んだアルミ鍋本体は何処にも見当たらなかった。母が茹で卵を作っている途中だというのを忘れて出掛けた結果だった。

 それも二度だ。
 意外とアルミは蒸発するんだなと感心する以外、得るモノは無かった。
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