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第19話
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オートドリンカで飲料を買うとベンチに腰掛けて弁当を広げる。ヒモを引っ張れば温まる、一ヶ月やそこらでは腐らない長期保存処理された弁当だ。
「こんなに緑も綺麗で、ガザラも綺麗で、絶好のピクニック日和だよね」
ゆっくりとフォークでピラフを口に運ぶハイファに対してシドは早食いである。
「こんな日は煙草が旨いんだ」
食事中はなるべく仕事の話はしないというのが二人の暗黙のルールなのだ。
「貴方は雨の日だって美味しいって言ってなかったっけ。いつぞやは西瓜を食べたあとが美味しいとも言ってたし。いつでも美味しいんでしょ中毒患者。ニコチン・タールが無害化されて久しいとはいえ本当ならコロニーの性質上、喫煙は悪行なのにサ」
どうやらこの話題はやぶ蛇だったようでシドはそ知らぬ顔で弁当をかき込んだ。
食事を終えるとゴミをダストシュートに投げ込み、一服するシドにハイファはリモータの検索結果を見せつつ読み上げる。
「スカディ星系第四惑星バルドル行きだけどガザラ宙港から直通は出てないよ。一旦タイタンに戻って乗り換えるか、リスピア星系第四惑星ジュネーに出るかしないと」
「どっちがいいんだ?」
「タイタンだと、ここからワープ二回とバルドルへも二回で都合四回。ジュネー便だとここから二回とバルドルへ一回。ワープは一日三回までに抑えた方がいいから」
「じゃあジュネー便だな。ガザラを何時発だ?」
「十六時四十分発があるね」
「……で、こいつをどうするかだ」
煙草を挟んだ指で隣に腰掛けているエラリーを指す。食事中ひとことも喋らずぼうっとしっ放しなのだ。今も木漏れ日を眺めるともなく視線を落とし彷徨わせている。
「何が待ち受けてるか分からないから、連れて行くのはリスキーだよね」
「けど、こんな所にたった独りっつーのもどうだかな」
二人の視線に気付いたエラリーはハッと顔を上げた。話は聴いていたようだ。
「お願いします、一緒に連れて行って下さい!」
茶色い瞳に切羽詰まったような色を浮かべてエラリーは懇願する。
「えっと、一緒でも構わないんだけど……ねえ、シド?」
「ああ。だが『神の星に行きたい』だとか、ふざけたことは言い出すなよ」
置いていけば絶望的な孤独感に苛まれるであろうことは予測でき、その一点で連れて行こうかと思っていたシドだったが、エラリーの剣幕には少々退いて釘を刺した。
「十三時半、随分早いが軌道ステーションに行くか」
「下りはジャスト十四時があるよ」
タクシーで早めに着いたステーションには、相変わらず大量の物資が積まれて倉庫状態だった。運び出す人員も消費する人々もいないのだから仕方ない。
チケットを自販機で買ったが、ここにいるべき係員の一人もいないのにシドは気付く。昨日の到着時にはそこまで頭が回らなかったのだ。
下りの軌道エレベーターも所要時間は十五分、降りてみるとBEL駐機場には来たときに借りたままの小型BELだけが鎮座している。
パイロット席に乗り込んだシドは風防に空いた穴に指を突っ込んで呟く。
「今度こそ恐竜はご免だぜ」
「確かにアレはちょっと。けど穴空きでマッハ二は無理だから少し時間が掛かるね」
ハイファの予測通りに航法コンはBELを最速では飛ばさなかった。だがシドの祈りが通じたかイヴェントは起こらぬまま、十六時二十分にガザラ宙港へとランディングする。
リスピア星系便の出航二十分前、ハイファがガザラ宙港コーポレーションリミテッドにBELのキィロックコードを返している間に、シドは急いでリスピア星系第四惑星ジュネーへのシートを三人分リザーブした。
ギリギリで通関とリモータのチケットチェックもクリアし、三人は相変わらず利用客の少ない宙艦のシートに収まった。四十分置きに二回のワープ、二時間でジュネー第一宙港だ。ジュネーはシドとハイファも初めてではない。
キャビンアテンダントから配られたワープ前の白い錠剤を飲み下してシドが呟く。
「ジュネーは自転周期が約五十二時間、半分にして一日約二十六時間だったよな?」
「うん。昼の日と夜の日の交代で、今日は着いたら夜の日だよ。まあ、宙港から出ないから、殆ど関係ないけどね」
「通過点で厄介事は勘弁だよな」
以前捜査で訪れたジュネーは雪でとても寒かったのだ。シドは酷い風邪を引いてエラい目に遭ったのを思い出す。
それだけでなくジュネーは問題の多い星だった。正確には第四惑星ジュネーではなく、第三惑星コルネルが問題なのだ。
政治中枢のあるコルネルはマフィア同士が戦争で星系政府の議席というパイを切り分けている特殊性がある。マフィア、イコール政治家であり議会議員の彼らは円卓につくより殴り合いでリスピア星系の未来を決めているのだった。
勿論テラ連邦議会はその特殊性を人口より銃の多いマフィアの地・ロニア星系や内紛が絶えないヴィクトル星系と同じく問題視している。だがテラ連邦軍を投入し平定するにも莫大なクレジットが掛かるのは当然で今のところ看過されている状態だ。
でも自分たちはジュネーの宙港で乗り継ぐだけなのだ。余計な心配は不要だろう。
そう自分に思い込ませながら、シドはシートでワープラグ対策の眠りに就こうと努力した。
「こんなに緑も綺麗で、ガザラも綺麗で、絶好のピクニック日和だよね」
ゆっくりとフォークでピラフを口に運ぶハイファに対してシドは早食いである。
「こんな日は煙草が旨いんだ」
食事中はなるべく仕事の話はしないというのが二人の暗黙のルールなのだ。
「貴方は雨の日だって美味しいって言ってなかったっけ。いつぞやは西瓜を食べたあとが美味しいとも言ってたし。いつでも美味しいんでしょ中毒患者。ニコチン・タールが無害化されて久しいとはいえ本当ならコロニーの性質上、喫煙は悪行なのにサ」
どうやらこの話題はやぶ蛇だったようでシドはそ知らぬ顔で弁当をかき込んだ。
食事を終えるとゴミをダストシュートに投げ込み、一服するシドにハイファはリモータの検索結果を見せつつ読み上げる。
「スカディ星系第四惑星バルドル行きだけどガザラ宙港から直通は出てないよ。一旦タイタンに戻って乗り換えるか、リスピア星系第四惑星ジュネーに出るかしないと」
「どっちがいいんだ?」
「タイタンだと、ここからワープ二回とバルドルへも二回で都合四回。ジュネー便だとここから二回とバルドルへ一回。ワープは一日三回までに抑えた方がいいから」
「じゃあジュネー便だな。ガザラを何時発だ?」
「十六時四十分発があるね」
「……で、こいつをどうするかだ」
煙草を挟んだ指で隣に腰掛けているエラリーを指す。食事中ひとことも喋らずぼうっとしっ放しなのだ。今も木漏れ日を眺めるともなく視線を落とし彷徨わせている。
「何が待ち受けてるか分からないから、連れて行くのはリスキーだよね」
「けど、こんな所にたった独りっつーのもどうだかな」
二人の視線に気付いたエラリーはハッと顔を上げた。話は聴いていたようだ。
「お願いします、一緒に連れて行って下さい!」
茶色い瞳に切羽詰まったような色を浮かべてエラリーは懇願する。
「えっと、一緒でも構わないんだけど……ねえ、シド?」
「ああ。だが『神の星に行きたい』だとか、ふざけたことは言い出すなよ」
置いていけば絶望的な孤独感に苛まれるであろうことは予測でき、その一点で連れて行こうかと思っていたシドだったが、エラリーの剣幕には少々退いて釘を刺した。
「十三時半、随分早いが軌道ステーションに行くか」
「下りはジャスト十四時があるよ」
タクシーで早めに着いたステーションには、相変わらず大量の物資が積まれて倉庫状態だった。運び出す人員も消費する人々もいないのだから仕方ない。
チケットを自販機で買ったが、ここにいるべき係員の一人もいないのにシドは気付く。昨日の到着時にはそこまで頭が回らなかったのだ。
下りの軌道エレベーターも所要時間は十五分、降りてみるとBEL駐機場には来たときに借りたままの小型BELだけが鎮座している。
パイロット席に乗り込んだシドは風防に空いた穴に指を突っ込んで呟く。
「今度こそ恐竜はご免だぜ」
「確かにアレはちょっと。けど穴空きでマッハ二は無理だから少し時間が掛かるね」
ハイファの予測通りに航法コンはBELを最速では飛ばさなかった。だがシドの祈りが通じたかイヴェントは起こらぬまま、十六時二十分にガザラ宙港へとランディングする。
リスピア星系便の出航二十分前、ハイファがガザラ宙港コーポレーションリミテッドにBELのキィロックコードを返している間に、シドは急いでリスピア星系第四惑星ジュネーへのシートを三人分リザーブした。
ギリギリで通関とリモータのチケットチェックもクリアし、三人は相変わらず利用客の少ない宙艦のシートに収まった。四十分置きに二回のワープ、二時間でジュネー第一宙港だ。ジュネーはシドとハイファも初めてではない。
キャビンアテンダントから配られたワープ前の白い錠剤を飲み下してシドが呟く。
「ジュネーは自転周期が約五十二時間、半分にして一日約二十六時間だったよな?」
「うん。昼の日と夜の日の交代で、今日は着いたら夜の日だよ。まあ、宙港から出ないから、殆ど関係ないけどね」
「通過点で厄介事は勘弁だよな」
以前捜査で訪れたジュネーは雪でとても寒かったのだ。シドは酷い風邪を引いてエラい目に遭ったのを思い出す。
それだけでなくジュネーは問題の多い星だった。正確には第四惑星ジュネーではなく、第三惑星コルネルが問題なのだ。
政治中枢のあるコルネルはマフィア同士が戦争で星系政府の議席というパイを切り分けている特殊性がある。マフィア、イコール政治家であり議会議員の彼らは円卓につくより殴り合いでリスピア星系の未来を決めているのだった。
勿論テラ連邦議会はその特殊性を人口より銃の多いマフィアの地・ロニア星系や内紛が絶えないヴィクトル星系と同じく問題視している。だがテラ連邦軍を投入し平定するにも莫大なクレジットが掛かるのは当然で今のところ看過されている状態だ。
でも自分たちはジュネーの宙港で乗り継ぐだけなのだ。余計な心配は不要だろう。
そう自分に思い込ませながら、シドはシートでワープラグ対策の眠りに就こうと努力した。
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