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第32話
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レンタル料は決して安くはなかったが、財源は別室からの前払い経費なので腹は痛まない。おまけにハイファがテラ連邦軍のBEL操縦資格・ウィングマークを見せたので、保険料を三割引にして貰えて二人は喜んだ。何れ伝統ある耐乏官品である。
クレジットと引き替えにBELのキィロックコードを流して貰うとドライ、つまり乗員なしの機体のみで借り受けたBELに二人は乗り込んだ。
民間機でのパイロット席である左にシドが、コ・パイロット席の右にハイファが座る。だからといってシドは何をするでもなくハイファ任せなのだが、どちらにも操縦機能はついているので構わない。
「で、本当に第二宙港でいいの?」
「いや、第一宙港だ」
思わずハイファはシドを振り返ったがシドはポーカーフェイスで頷いたのみだ。怪訝な思いに囚われながらもハイファは反重力装置を起動しテイクオフさせる。手動操縦で夜空にBELを舞わせた。都市上空を飛ぶので低速だがコイルよりは断然速い。
と、思っていると何かが耐熱塗装を施したスライドドアに当たった。甲高い音を立ててぶつかってくるのは下方から刺客が撃ってくる弾丸だ。けれどシドのレールガンでもなければ、余程の腕か運がなければBELを墜とすことなど不可能である。
それでも気持ちのいいものではなくハンドガンの射程外まで高度を取ったのちハイファはオートパイロットの座標を第一宙港にセットした。あとはお任せ飛行である。
「航空交通法規を遵守しても二十分で着けるけど。本当に第一宙港でいいの?」
「ブラフを掛けたいところだが、ここは敢えて正攻法で行く」
「ふうん、変なの」
バディの端正な横顔を眺めているうちに第一宙港管制から通信が入り、コントロールを渡した。借り物BELはあっさりと宙港隅のBEL駐機場へとランディングさせられる。
「で、タイタン便? それとも何処でもいいから直近の便に乗る?」
「いや、まだやり残したことがあるからな」
「何それ?」
「まあ、そのうち分かる」
「教えてくれないの? ケチ!」
ハイファの文句を聞き流しておもむろにシドは立ち上がり、ハイファを促すと機外に出た。宙港面専用のコイルに二人で乗り込む。何せ宙港は広大だ。
メインビルには近づかず、そのまま白いファイバの宙港面を疾走させて辿り着いたのは何とドラレスファミリー専用艦のエアロック前だった。
エアロック脇のリモータチェッカをクリア、シドに続いてハイファも中に足を踏み入れる。
「ああ、良かった。シドもハイファスも無事だったのね!」
サロンに二人が入るなり、声を上げて迎えてくれたのはミーアだった。『刑事の仕事に誇りを持ってる』と言ったシドをこの星系から逃がすため、協力を申し出てくれたのである。
その代償として明後日のミーアの誕生日に『特別なプレゼント』を渡すという約束をしたのはハイファには内緒だった。
持ち出してきたショルダーバッグをハイファに返しながらミーアは首を傾げる。
「でも他のみんな、オニールやレイバーンはどうしたのかしら?」
「悪いが、囮の囮になって貰った」
「囮の囮って、まさかシドたちが逃げるために置いてきちゃったって言うの?」
「結果、そうなったことは否定しねぇよ」
「そんな……酷い、酷いじゃない!」
急激に感情的になったミーアは泣くどころか、顔色を真っ青にしてシドに掴み掛からんばかりである。そんなミーアをあやすように片手を叩きながらシドが言った。
「だからミーア、ちょっと行ってくる。時間的にもいい頃合いだしな」
「行くって、何処へ?」
「正攻法なら俺たちを追って敵も味方も集まる場所……ここの宙港メインビルだ」
クレジットと引き替えにBELのキィロックコードを流して貰うとドライ、つまり乗員なしの機体のみで借り受けたBELに二人は乗り込んだ。
民間機でのパイロット席である左にシドが、コ・パイロット席の右にハイファが座る。だからといってシドは何をするでもなくハイファ任せなのだが、どちらにも操縦機能はついているので構わない。
「で、本当に第二宙港でいいの?」
「いや、第一宙港だ」
思わずハイファはシドを振り返ったがシドはポーカーフェイスで頷いたのみだ。怪訝な思いに囚われながらもハイファは反重力装置を起動しテイクオフさせる。手動操縦で夜空にBELを舞わせた。都市上空を飛ぶので低速だがコイルよりは断然速い。
と、思っていると何かが耐熱塗装を施したスライドドアに当たった。甲高い音を立ててぶつかってくるのは下方から刺客が撃ってくる弾丸だ。けれどシドのレールガンでもなければ、余程の腕か運がなければBELを墜とすことなど不可能である。
それでも気持ちのいいものではなくハンドガンの射程外まで高度を取ったのちハイファはオートパイロットの座標を第一宙港にセットした。あとはお任せ飛行である。
「航空交通法規を遵守しても二十分で着けるけど。本当に第一宙港でいいの?」
「ブラフを掛けたいところだが、ここは敢えて正攻法で行く」
「ふうん、変なの」
バディの端正な横顔を眺めているうちに第一宙港管制から通信が入り、コントロールを渡した。借り物BELはあっさりと宙港隅のBEL駐機場へとランディングさせられる。
「で、タイタン便? それとも何処でもいいから直近の便に乗る?」
「いや、まだやり残したことがあるからな」
「何それ?」
「まあ、そのうち分かる」
「教えてくれないの? ケチ!」
ハイファの文句を聞き流しておもむろにシドは立ち上がり、ハイファを促すと機外に出た。宙港面専用のコイルに二人で乗り込む。何せ宙港は広大だ。
メインビルには近づかず、そのまま白いファイバの宙港面を疾走させて辿り着いたのは何とドラレスファミリー専用艦のエアロック前だった。
エアロック脇のリモータチェッカをクリア、シドに続いてハイファも中に足を踏み入れる。
「ああ、良かった。シドもハイファスも無事だったのね!」
サロンに二人が入るなり、声を上げて迎えてくれたのはミーアだった。『刑事の仕事に誇りを持ってる』と言ったシドをこの星系から逃がすため、協力を申し出てくれたのである。
その代償として明後日のミーアの誕生日に『特別なプレゼント』を渡すという約束をしたのはハイファには内緒だった。
持ち出してきたショルダーバッグをハイファに返しながらミーアは首を傾げる。
「でも他のみんな、オニールやレイバーンはどうしたのかしら?」
「悪いが、囮の囮になって貰った」
「囮の囮って、まさかシドたちが逃げるために置いてきちゃったって言うの?」
「結果、そうなったことは否定しねぇよ」
「そんな……酷い、酷いじゃない!」
急激に感情的になったミーアは泣くどころか、顔色を真っ青にしてシドに掴み掛からんばかりである。そんなミーアをあやすように片手を叩きながらシドが言った。
「だからミーア、ちょっと行ってくる。時間的にもいい頃合いだしな」
「行くって、何処へ?」
「正攻法なら俺たちを追って敵も味方も集まる場所……ここの宙港メインビルだ」
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