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第28話
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それでもシドは七時過ぎには目が覚めた。
だが躰には白い躰が巻きついている。喫煙欲求に負けて金髪頭からそっと腕枕を抜いて起きだそうとしたが、ハイファが起きない訳がない。
「ん……シド?」
「すまん、起こしたな。煙草吸いてぇだけだ、まだ寝てろ」
言い置いて夜着を身に着け自分の方の部屋のロックを解く。一歩入って驚いた。
「何だ何だ、こいつは!」
「おっ、若。お早いお目覚めで」
そこには幹部四名の他ダークスーツたちが右往左往していたのだ。それだけではない、電子ホワイトボードが運び込まれ、壁は紅白の薄紙で出来た大量の花で飾られ、片目のダルマまでが据えられて、つまりは選挙戦まっしぐらの臨戦態勢だったのだ。
そこにいる皆が『必勝』と書かれた鉢巻きを締めて揃いの法被を羽織り、やはり寝ていないのか目が血走っている。そこにジョルジュが現れて栄養ドリンクの箱を差し出すと、皆が群がって『つぶつぶマムシドリンクA』をゴキュゴキュと飲み干した。
呆然とするシドにも栄養ドリンクの茶色い瓶が握らされる。
「若、しっかり飲んで精をつけて下せェよ」
栄養ドリンクと煙草にライターと灰皿を抱えてシドはハイファの部屋に退場する。ソファに座って煙草を咥え、オイルライターで火を点けて栄養ドリンクを眺めた。
こんなモノを飲んだらハイファが大変だ。大体、今朝だって起きられるかどうか心配なくらいなのだ。そのハイファは何も身に着けずに毛布の中でまどろんでいる。
腕の中で悶えた細い躰。奔放に響かせた甘い声。何処までも淫らな肢体――。
ぶるぶるとシドは頭を振りピンクの霞を振り払う。コーヒーを淹れTVを点ける。
《――このたびの選挙戦ではこれまでの後押し選とは違い、やはり長年政権を執っていないドラレスが、自らトップを候補として挙げてきたのが一番の注目点でしょう》
《そうですね、それに合わせてアリアスとケドラルも負けじとトップを挙げてきた訳ですが、直接的に人望が問われるこの選挙では、若年ながらライナルト・ドラレスは強力な――》
TVも選挙戦一色、それも眺めているとライナルト=ドラレスは注目株らしい。
「ん……シド、僕もコーヒー」
「ああ、待ってろ」
濃いコーヒーを少なめに淹れ上体を起こしたハイファに手渡してやる。受け取ったハイファは、だがシーツの一点を見つめたまま動かない。
毛布から肩が露出したしどけない格好で、フランス窓から朝日を浴びた長い金糸がきらきらと輝き、美しい絵画を見るようだ。しかし本人はそれどころではないらしい。
「……起きられねぇのか?」
「朝ご飯までには何とかするよ。ヒゲも剃らなきゃだし」
その言葉でシドはファーストレディが男というのも問題だ、いや、性転換したとでも言えばいいか、などと考えてしまい自分も選挙戦に毒されているのを自覚する。
単なる身代わりが結婚を迫られ一滴親父になり損ね、更には星系選挙戦だ。
「あああ、どうなってんだよ、いったい……」
「あーたが変なモノに乗っかるから」
「俺が乗っかるのはお前だけだ。そもそもお前んとこが変な任務を下したんだろ」
「任務はもう完遂したもんね」
「じゃあ逃げるか?」
「どうやって?」
「BELでもかっぱらって宙港までぶっ飛ばしてさ」
「何処の星系行きでもいいから飛び乗って?」
「よし、そいつだ」
言うほど簡単にいく訳がない気がひしひしとしていた。五月蠅いTVを消す。するとチャリンとベルの音がしてジョルジュの声が聞こえた。
《朝食の準備ができましてございます》
慌ててハイファに下着と夜着を身に着けさせ、抱き運んで猫足のチェアに座らせた。
だが躰には白い躰が巻きついている。喫煙欲求に負けて金髪頭からそっと腕枕を抜いて起きだそうとしたが、ハイファが起きない訳がない。
「ん……シド?」
「すまん、起こしたな。煙草吸いてぇだけだ、まだ寝てろ」
言い置いて夜着を身に着け自分の方の部屋のロックを解く。一歩入って驚いた。
「何だ何だ、こいつは!」
「おっ、若。お早いお目覚めで」
そこには幹部四名の他ダークスーツたちが右往左往していたのだ。それだけではない、電子ホワイトボードが運び込まれ、壁は紅白の薄紙で出来た大量の花で飾られ、片目のダルマまでが据えられて、つまりは選挙戦まっしぐらの臨戦態勢だったのだ。
そこにいる皆が『必勝』と書かれた鉢巻きを締めて揃いの法被を羽織り、やはり寝ていないのか目が血走っている。そこにジョルジュが現れて栄養ドリンクの箱を差し出すと、皆が群がって『つぶつぶマムシドリンクA』をゴキュゴキュと飲み干した。
呆然とするシドにも栄養ドリンクの茶色い瓶が握らされる。
「若、しっかり飲んで精をつけて下せェよ」
栄養ドリンクと煙草にライターと灰皿を抱えてシドはハイファの部屋に退場する。ソファに座って煙草を咥え、オイルライターで火を点けて栄養ドリンクを眺めた。
こんなモノを飲んだらハイファが大変だ。大体、今朝だって起きられるかどうか心配なくらいなのだ。そのハイファは何も身に着けずに毛布の中でまどろんでいる。
腕の中で悶えた細い躰。奔放に響かせた甘い声。何処までも淫らな肢体――。
ぶるぶるとシドは頭を振りピンクの霞を振り払う。コーヒーを淹れTVを点ける。
《――このたびの選挙戦ではこれまでの後押し選とは違い、やはり長年政権を執っていないドラレスが、自らトップを候補として挙げてきたのが一番の注目点でしょう》
《そうですね、それに合わせてアリアスとケドラルも負けじとトップを挙げてきた訳ですが、直接的に人望が問われるこの選挙では、若年ながらライナルト・ドラレスは強力な――》
TVも選挙戦一色、それも眺めているとライナルト=ドラレスは注目株らしい。
「ん……シド、僕もコーヒー」
「ああ、待ってろ」
濃いコーヒーを少なめに淹れ上体を起こしたハイファに手渡してやる。受け取ったハイファは、だがシーツの一点を見つめたまま動かない。
毛布から肩が露出したしどけない格好で、フランス窓から朝日を浴びた長い金糸がきらきらと輝き、美しい絵画を見るようだ。しかし本人はそれどころではないらしい。
「……起きられねぇのか?」
「朝ご飯までには何とかするよ。ヒゲも剃らなきゃだし」
その言葉でシドはファーストレディが男というのも問題だ、いや、性転換したとでも言えばいいか、などと考えてしまい自分も選挙戦に毒されているのを自覚する。
単なる身代わりが結婚を迫られ一滴親父になり損ね、更には星系選挙戦だ。
「あああ、どうなってんだよ、いったい……」
「あーたが変なモノに乗っかるから」
「俺が乗っかるのはお前だけだ。そもそもお前んとこが変な任務を下したんだろ」
「任務はもう完遂したもんね」
「じゃあ逃げるか?」
「どうやって?」
「BELでもかっぱらって宙港までぶっ飛ばしてさ」
「何処の星系行きでもいいから飛び乗って?」
「よし、そいつだ」
言うほど簡単にいく訳がない気がひしひしとしていた。五月蠅いTVを消す。するとチャリンとベルの音がしてジョルジュの声が聞こえた。
《朝食の準備ができましてございます》
慌ててハイファに下着と夜着を身に着けさせ、抱き運んで猫足のチェアに座らせた。
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