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第25話
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だがこうなればとっとと挨拶して帰ろうと決め、出てくる前にポラで見たアガサ森林開発の会長を三百名は下らないパーティー参加者の中から目で捜した。
「おっ、いたぞ、あそこだ」
職業柄人捜しの上手いシドが舞台下で歓談する一団の中に老年の会長を見つける。そこに一個分隊を超える人数で移動を始めた。お蔭でシドたちは目立っているのか、ダークスーツの隠蔽で目立たないのか良く分からない。
「おい、マフィアのドンって挨拶の時はどんな顔してるんだ?」
「さあね。でも貴方はそのままが一番だと思うよ」
「ライナルト兄様よりもマフィアらしいかも知れないわ」
「どういう意味だよ、それは」
少々気分を害しつつもアガサ森林開発の会長の前に立つ。すると先方は握手を求めてきた。
「おお、これはこれは、ドン・ライナルトですな。ご足労願えて光栄です」
よっぽどライナルト=ドラレスと似ているのか、シドは複雑な思いで口を開く。
「こちらこそ、いつもお世話になり感謝しております」
「いやいや……こちらはご夫人のソフィーヤ様に妹君のミーア様ですな?」
「ええ、そうです。ご招待に甘えて一族でお邪魔しました」
「いやいやいや、待っておったのですよ」
「何か特別なご用でも?」
いい加減に舌を噛まないか自分で心配になってきたが、その頃になってミーアが顔色を変えていることに気付く。同時にハイファもミーアの様子に気付いたらしい。左右からミーアの手を取り握ってやったが、その掌は汗をびっしょりとかいていた。
「どうした、ミーア。気分が悪いなら帰るか?」
「おお、それはいけませんな。しかしほんの少しだけお時間を頂きたい」
そうアガサの会長が言うとシドたちを傍で見ていた若い男が一歩前に出る。
「お初にお目に掛かります、フランク=ケドラルと申します」
なるほど、ミーアの不調はこれが原因かと二人は悟った。青い目に金髪のフランクは気障ったらしく前髪を払いながらもう一歩出ると、ミーアの顔を覗き込んだ。
「ほう、俺の花嫁としては若すぎると思ったが、なかなか可愛いじゃないか。大概の遊びには飽きたことだし、この辺りで女を育てる愉しみを味わうのも良しだな」
若いクセに何処かのエロ爺さんのような科白を吐いたのにはシドとハイファも好感が持てないどころか内心腹を立てる。こんな男が妻を大事にするとは思えない。
腹が立ったのはそれだけではない。こちらに何も告げずに見合い婆のような真似をした、アガサ森林開発の会長にもムッとしていた。余計なおせっかいにもほどがある。
舌を噛むどころか相手に食いついてしまわないうちにシドはさっさと辞去を申し出た。少しばかりぞんざいな口の利き方をしてしまうのは仕方ない。
「その話は後日、正式にさせて貰う。では失礼する」
「おい、待て。本当に失礼な奴らだぜ、許嫁からの挨拶がひとこともないとはな」
「ミーアは少々体調を悪くしているんだ。思いやるのも夫として当然のことだろ」
「体調が悪い? 妻の体調を看るのも夫の務めだ、控え室でじっくり調べてやる」
テラ標準歴十三歳の少女に対して何を考えているんだとシドはフランクを睨みつけた。ハイファは呆れたのか無表情、ミーア本人は顔色を白くしている。
背後にミーアを庇うようにしてシドはうんざりしつつ言った。
「いい加減にしてくれ、フランク。ミーアも手出しはさせねぇから怖がるな」
「こいつは笑えるぜ、みんな聞いたか? 夫が妻に手出しするのを兄貴が止めたんだぜ。できてるのか、兄妹で?」
「フランク、あんた酔ってんのか?」
「俺が酔ってるだって? この目の何処が酔ってるんだ、ええ?」
「そうか、酔ってねぇなら有難いぜ。この一発を忘れんなよ!」
言うなりシドは右ストレートを見舞おうとしたが、先にハイファがフランクを平手打ちしていた。更にミーアがフランクの脛を思い切り蹴り飛ばす。フランクは涙目ながら叫んだ。
「何をする! おい、テメェら、こいつらを殺っちまえ!」
当然ながらフランクにも手下がついている。ザッとフランクの前に盾の如く並んだ手下はこちらも十五人。三十名のダークスーツが睨み合い、一触即発の危機が訪れてパーティー会場はしんと静まり返った。オーケストラですら手を止めている。
既にシドとハイファは銃を抜きミーアを庇ってフランクの方に銃口を向けていた。シドのレールガン・マックスパワーなら人間の盾など紙クズのようなものである。
そのときフランク側の手下が一人、ふいに頭を下げた。
「申し訳ありません、うちの坊ちゃんが悪酔いして失礼を致しました」
「ふん、そうか、酔っているなら仕方ねぇな。さっさと帰ることをお勧めするぜ」
「へい、ご忠告感謝致します。……おい、帰るぞ!」
その言葉で手下たちは喚くフランクを担ぎ出しその場を去ろうとする。だが担がれながらもフランクは暴れ、懐からレーザーガンを取り出すなりトリガを引いた。狙いは何とミーア、その一瞬前にシドがミーアの前に出ようとする。
しかしそのシドをハイファが留めた。対衝撃ジャケットはクロークに預けてあるのだ。代わりにミーアの前に出たのは――。
「……うっ、く――」
「レイバーン、大丈夫か!」
「おっ、いたぞ、あそこだ」
職業柄人捜しの上手いシドが舞台下で歓談する一団の中に老年の会長を見つける。そこに一個分隊を超える人数で移動を始めた。お蔭でシドたちは目立っているのか、ダークスーツの隠蔽で目立たないのか良く分からない。
「おい、マフィアのドンって挨拶の時はどんな顔してるんだ?」
「さあね。でも貴方はそのままが一番だと思うよ」
「ライナルト兄様よりもマフィアらしいかも知れないわ」
「どういう意味だよ、それは」
少々気分を害しつつもアガサ森林開発の会長の前に立つ。すると先方は握手を求めてきた。
「おお、これはこれは、ドン・ライナルトですな。ご足労願えて光栄です」
よっぽどライナルト=ドラレスと似ているのか、シドは複雑な思いで口を開く。
「こちらこそ、いつもお世話になり感謝しております」
「いやいや……こちらはご夫人のソフィーヤ様に妹君のミーア様ですな?」
「ええ、そうです。ご招待に甘えて一族でお邪魔しました」
「いやいやいや、待っておったのですよ」
「何か特別なご用でも?」
いい加減に舌を噛まないか自分で心配になってきたが、その頃になってミーアが顔色を変えていることに気付く。同時にハイファもミーアの様子に気付いたらしい。左右からミーアの手を取り握ってやったが、その掌は汗をびっしょりとかいていた。
「どうした、ミーア。気分が悪いなら帰るか?」
「おお、それはいけませんな。しかしほんの少しだけお時間を頂きたい」
そうアガサの会長が言うとシドたちを傍で見ていた若い男が一歩前に出る。
「お初にお目に掛かります、フランク=ケドラルと申します」
なるほど、ミーアの不調はこれが原因かと二人は悟った。青い目に金髪のフランクは気障ったらしく前髪を払いながらもう一歩出ると、ミーアの顔を覗き込んだ。
「ほう、俺の花嫁としては若すぎると思ったが、なかなか可愛いじゃないか。大概の遊びには飽きたことだし、この辺りで女を育てる愉しみを味わうのも良しだな」
若いクセに何処かのエロ爺さんのような科白を吐いたのにはシドとハイファも好感が持てないどころか内心腹を立てる。こんな男が妻を大事にするとは思えない。
腹が立ったのはそれだけではない。こちらに何も告げずに見合い婆のような真似をした、アガサ森林開発の会長にもムッとしていた。余計なおせっかいにもほどがある。
舌を噛むどころか相手に食いついてしまわないうちにシドはさっさと辞去を申し出た。少しばかりぞんざいな口の利き方をしてしまうのは仕方ない。
「その話は後日、正式にさせて貰う。では失礼する」
「おい、待て。本当に失礼な奴らだぜ、許嫁からの挨拶がひとこともないとはな」
「ミーアは少々体調を悪くしているんだ。思いやるのも夫として当然のことだろ」
「体調が悪い? 妻の体調を看るのも夫の務めだ、控え室でじっくり調べてやる」
テラ標準歴十三歳の少女に対して何を考えているんだとシドはフランクを睨みつけた。ハイファは呆れたのか無表情、ミーア本人は顔色を白くしている。
背後にミーアを庇うようにしてシドはうんざりしつつ言った。
「いい加減にしてくれ、フランク。ミーアも手出しはさせねぇから怖がるな」
「こいつは笑えるぜ、みんな聞いたか? 夫が妻に手出しするのを兄貴が止めたんだぜ。できてるのか、兄妹で?」
「フランク、あんた酔ってんのか?」
「俺が酔ってるだって? この目の何処が酔ってるんだ、ええ?」
「そうか、酔ってねぇなら有難いぜ。この一発を忘れんなよ!」
言うなりシドは右ストレートを見舞おうとしたが、先にハイファがフランクを平手打ちしていた。更にミーアがフランクの脛を思い切り蹴り飛ばす。フランクは涙目ながら叫んだ。
「何をする! おい、テメェら、こいつらを殺っちまえ!」
当然ながらフランクにも手下がついている。ザッとフランクの前に盾の如く並んだ手下はこちらも十五人。三十名のダークスーツが睨み合い、一触即発の危機が訪れてパーティー会場はしんと静まり返った。オーケストラですら手を止めている。
既にシドとハイファは銃を抜きミーアを庇ってフランクの方に銃口を向けていた。シドのレールガン・マックスパワーなら人間の盾など紙クズのようなものである。
そのときフランク側の手下が一人、ふいに頭を下げた。
「申し訳ありません、うちの坊ちゃんが悪酔いして失礼を致しました」
「ふん、そうか、酔っているなら仕方ねぇな。さっさと帰ることをお勧めするぜ」
「へい、ご忠告感謝致します。……おい、帰るぞ!」
その言葉で手下たちは喚くフランクを担ぎ出しその場を去ろうとする。だが担がれながらもフランクは暴れ、懐からレーザーガンを取り出すなりトリガを引いた。狙いは何とミーア、その一瞬前にシドがミーアの前に出ようとする。
しかしそのシドをハイファが留めた。対衝撃ジャケットはクロークに預けてあるのだ。代わりにミーアの前に出たのは――。
「……うっ、く――」
「レイバーン、大丈夫か!」
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