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第15話
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ここにきてオニールも頷き、装甲車の如く頑丈な黒塗りはUターンする。
その間も敵味方の斉射は続き、銃弾とレーザーハンドガンの射線が辺りの空気を焦がした。そしてレイバーンが速射で二人を殺ったのを最後に、静けさを取り戻す。
黒塗りが停まり接地せずに待機する中、オニールが留めるのも聞かずにシドは対衝撃ジャケットを羽織って外に出た。幸いこちら側は全てが防弾樹脂だったために、四台目の黒塗りの乗員は窓を開けた際に二人が肩を撃たれただけで済んでいた。
「ハイファ、いや、ソフィーヤ、救急に発振!」
「待っておくんなせェ。うちには専属の医者もいるんで、そちらに運びやしょう」
「分かった。オニール、任せるからな」
「へェ、このオニール、二度とライナルト様の言いつけに背くことは致しやせん」
ここにきて地を出した代貸は目をうるうるさせてシドを見つめている。部下を見捨てることなく助けに戻ったシドに、男ながらに惚れたという目つきであった。
「ああ、ライナルト様までお怪我をなされて……皆、コイルに乗ったか? ヤサまで突っ走るぜ! ドン・ライナルト、ちょっとの間、辛抱しておくんなせェよ!」
黒塗りに乗り込んだシドはハイファから右頬の傷にハンカチを当てられる。そうしながら窓外を眺めると石畳で整地された地面といい、街灯と街路樹が綺麗に並び、歩道にもスライドロードが併設されている様子といい、よその先進星系と比べても何ら遜色ない街並みが広がっているのをシドは夜目にも見て取った。
窓明かりが煌々と照らす街は高層建築こそなかったがメディアで視たテラ本星AD世紀のヨーロッパのような雰囲気で、落ち着いた美しさが感じられる。
「お許しが出たらお前と散歩するのもいいかもな」
「そうだね、全部終わったら二人で歩こうよ」
やがて前方に広場が見えてきた。石畳が白く浮き上がって見えるので分かる。その先に巨大な白い石柱が二本立っていて石柱の傍には立哨小屋があった。二人のダークスーツが見張りに立っている。その背後にライトアップされたドでかい宮殿はいったい誰のモノだろうかと、ぼんやり思ったシドは甘かった。
石柱の両脇には青銅製の柵があり、柵内部にはシドの想像を絶するスケールで宮殿が視界いっぱいに広がっていて、その柵の切れ目の正門をダークスーツら数名がうやうやしく開けたかと思うと、そこから黒塗りはロータリーへと滑り込んだのである。
「ちょ、何でマフィアが宮殿に住んでるんだよ?」
「うーん。台所事情は厳しいかも知れないけど、これはちょっと舐めてたかもね」
芝生と刈り込まれた植え込みの庭園の向こうには、まさに宮殿たる建築物が美しくライトアップされていた。高いところでもせいぜい五階建てほどだが殆どが白で所々をミッドナイトブルーに塗られた宮殿は端っこが何処だか分からない巨大さだった。
「星系を左右するたった三つのファミリーだもん、殆ど王侯貴族と変わらないよ」
「マフィアがこの星系じゃ王侯貴族なあ……」
ぼそぼそと喋っている間に黒塗り五台は低速で噴水のあるロータリーを半周巡り、シドたちの乗った黒塗りだけが車寄せに停止し接地する。他の四台は外部から目隠しするようにロータリーに駐まった。
そして銃撃でも無事だった者たちが降車し、人の盾を作るのを待ってからシドたちにも降車許可が降りる。
外の空気は少し冷たかったが、却って今のシドには心地良かった。
大きな観音開きの扉が左右ともに開けられている。まずは真っ白いヘッドドレスを見せて礼をしているメイド軍団を上手くやりすごした。何処までニセモノが身代わりになることを知らされているのか分からないが、相手が顔を上げないのだから、これは楽勝である。
あとは玄関ホールの真正面にある、これもミッドナイトブルーのカーペットが敷かれた大階段を上った。勿論不案内なので前にオニール、後ろにはレイバーンと音も立てずに現れた執事らしきタキシードの老紳士が付き従う。
そうして階段を上っているうちにシドの腹が豪快な音を立てて鳴った。ハイファは恥ずかしさで赤くなったが、昼食も抜きだったのでハイファも空腹ではあった。
「あとでお夜食を部屋に運ばせましょう」
などと老執事が言い、ハイファは内心ホッとする。
しかしこれだけの宮殿に誰が何人暮らしているのか知らないが、三階まで上ってやっと廊下を歩き始めたものの、まだ誰にも出くわしてはいない。
廊下といってもテニスができるほど広い空間を数十メートル歩いて、皆が足を止めた。老執事が観音開きの片方を開ける。中はシャンデリアの暖かな光に満ちていた。
「ここがドン・ライナルトの執務室でございます」
促されて毛足の長い絨毯の上に踏み出す。そこはデカ部屋ほどもあろうかという大きな部屋だった。目についたのは向かって左側の重厚な多機能デスクと、右側の壁にしつらえられた本物かどうか分からない暖炉だ。今は燃えていない。だが充分エアコンが利いていた。
あとは応接セットが配され、酒瓶の並んだサイドボードや飲料ディスペンサーなどがあり、それらの調度は本革と磨き抜かれた黒檀で出来ているようである。壁紙がクリーム色なのでシックにまとまり、広さの割には落ち着いた雰囲気となっていた。
何の具合か宙艦がアレだったのでセンスを疑っていたが、亡きドン・ライナルトはなかなかに趣味のいい男だったようだ。
まずは応接セットにシドとハイファにオニールの三人が座る。老執事とレイバーンは背後に立った。そこにチャイムが鳴り、白衣の医師と看護師が自走ワゴンを伴って入ってきた。勿論ここではまともに顔を見られたが医師も看護師も眉ひとつ動かさなかった。
さすがにマフィアお抱えの医師は手際も腕も良かった。シドの右頬の傷を診て、痕が残らないよう再生液で充分洗い流し、滅菌ジェルで消毒してから合成蛋白スプレーを吹きかけ、人工皮膚テープを貼り付けて治療を終える。
医師らが出て行くなり老執事が咳払いをして喋り始めた。
「ドン・ライナルトにおかれましては多機能デスク及び全ての部屋のマスターキィロックコードをお流し致しますので、どうぞ今後は御身にご配慮なされたく存じます。朝は八時にこの部屋に詰めて頂き、発振その他を読まれたのちに九時に朝食でございます。朝食はソフィーヤ様とご一緒なされても構いませんが、そのあとの会合・会談では申し訳ありませんが――」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
焦ってシドは執事殿の話に割り込んだ。
「俺とハイファは二人で一組のバディ、絶対に別行動は取らねぇからな。そうでなければこの話から降りさせて貰う。それでもいいのか? え、代貸さんよ?」
腹の底から出した低い声はそれなりに効果があったらしい。執事殿は頭を下げて引き下がった。オニールは洟をかんだハンカチで額の汗を拭いながら幾度も頷く。
「そうでしょうとも。ドン・ライナルトはこのグリーズ星系でも有名な愛妻家、ソフィーヤ様と片時たりとも離れたり致しませんでしょう、ええ、はい」
「分かればいい、分かればな」
本音はドンとして実務を執るなどとは思ってもみず、ハイファという助けがなければ絶対にだめだと思い焦ったというのが実際のところだった。FC専務のハイファなら何とかしてくれそうだという、多分に甘い考えである。
「それではワープ三回、お疲れになったでしょう。私室へとご案内致します」
今度は執事殿も下手に出た。二人は促されて立ち上がり、執務室を出る。
また長い廊下を辿るのかと思いきや、隣室が控え室でその隣がドンの私室、その隣がソフィーヤの私室だった。
各部屋もアホみたいに広かったが、天蓋付きのベッドに猫足のテーブルセットだのソファだのバス・トイレに洗面所、飲料ディスペンサー付きというのは高級ホテルと変わらないので腰が退けることもない。
「んで、俺たちは最悪ここでミーア=ドラレスが人工子宮で子供を作るまで隠れてりゃいいんだな?」
「まあ、そういうことになりますでしょうか」
汗を拭き拭きオニールが言い、諦めたのか執事殿も頷いている。
「なら、タマの取り合いなんかしてないで、さっさと結婚話を進めてくれよな」
「何度も申し上げておりますように、ミーア様がフランク=ケドラルを婿に迎えた時点で、すぐに人工子宮での継嗣存続を手配するようになっております故、ご安心を」
それも何だか情緒のねぇ話だなとシドは思ったが、他星のマフィアファミリーのしきたりなんぞにクチバシを挟むのはやめておく。他人がナニして妊娠するのを何ヶ月も待っていられるほどヒマでもない。
そこでまたチャリンと涼やかな音が建材に紛れた音声素子から流れた。頷かれシドがリモータ操作するとロックを解かれたオートではないドアからワゴンを押してメイドが入ってくる。どうやらようやく食事にありつけるらしい。
そう思った途端にメイドがワゴンの中からサブマシンガンを掴み出しぶっ放した。
咄嗟にシドは三人を同時に庇うため、まともに射線の前に出る。腕から胸を四十五口径ACP弾の一連射が通過。吹っ飛ばされてロウテーブルに背を打ち付けながら尻餅をつく。
そのとき既にメイドを装った刺客はハイファの放った九ミリパラで頭を砕かれていた。
「シド……シドっ!」
「うっ、くっ……弾まで食わせるなっつーの……ゲホゴホッ!」
縋り付いたハイファが意識のあるシドに安堵しかけたとき、シドはエボーッと血を吐いた。ハイファが悲痛な声で思わず「メディーック!」と叫ぶ。
再び医師が呼び戻され、ダークスーツの手下たちが総動員されて宮殿内一斉点検に駆け回る騒々しい中、シドはそのまま私室のベッドでハイファからクリームシチューとクラブハウスサンドを「あーん」されていた。
その間も敵味方の斉射は続き、銃弾とレーザーハンドガンの射線が辺りの空気を焦がした。そしてレイバーンが速射で二人を殺ったのを最後に、静けさを取り戻す。
黒塗りが停まり接地せずに待機する中、オニールが留めるのも聞かずにシドは対衝撃ジャケットを羽織って外に出た。幸いこちら側は全てが防弾樹脂だったために、四台目の黒塗りの乗員は窓を開けた際に二人が肩を撃たれただけで済んでいた。
「ハイファ、いや、ソフィーヤ、救急に発振!」
「待っておくんなせェ。うちには専属の医者もいるんで、そちらに運びやしょう」
「分かった。オニール、任せるからな」
「へェ、このオニール、二度とライナルト様の言いつけに背くことは致しやせん」
ここにきて地を出した代貸は目をうるうるさせてシドを見つめている。部下を見捨てることなく助けに戻ったシドに、男ながらに惚れたという目つきであった。
「ああ、ライナルト様までお怪我をなされて……皆、コイルに乗ったか? ヤサまで突っ走るぜ! ドン・ライナルト、ちょっとの間、辛抱しておくんなせェよ!」
黒塗りに乗り込んだシドはハイファから右頬の傷にハンカチを当てられる。そうしながら窓外を眺めると石畳で整地された地面といい、街灯と街路樹が綺麗に並び、歩道にもスライドロードが併設されている様子といい、よその先進星系と比べても何ら遜色ない街並みが広がっているのをシドは夜目にも見て取った。
窓明かりが煌々と照らす街は高層建築こそなかったがメディアで視たテラ本星AD世紀のヨーロッパのような雰囲気で、落ち着いた美しさが感じられる。
「お許しが出たらお前と散歩するのもいいかもな」
「そうだね、全部終わったら二人で歩こうよ」
やがて前方に広場が見えてきた。石畳が白く浮き上がって見えるので分かる。その先に巨大な白い石柱が二本立っていて石柱の傍には立哨小屋があった。二人のダークスーツが見張りに立っている。その背後にライトアップされたドでかい宮殿はいったい誰のモノだろうかと、ぼんやり思ったシドは甘かった。
石柱の両脇には青銅製の柵があり、柵内部にはシドの想像を絶するスケールで宮殿が視界いっぱいに広がっていて、その柵の切れ目の正門をダークスーツら数名がうやうやしく開けたかと思うと、そこから黒塗りはロータリーへと滑り込んだのである。
「ちょ、何でマフィアが宮殿に住んでるんだよ?」
「うーん。台所事情は厳しいかも知れないけど、これはちょっと舐めてたかもね」
芝生と刈り込まれた植え込みの庭園の向こうには、まさに宮殿たる建築物が美しくライトアップされていた。高いところでもせいぜい五階建てほどだが殆どが白で所々をミッドナイトブルーに塗られた宮殿は端っこが何処だか分からない巨大さだった。
「星系を左右するたった三つのファミリーだもん、殆ど王侯貴族と変わらないよ」
「マフィアがこの星系じゃ王侯貴族なあ……」
ぼそぼそと喋っている間に黒塗り五台は低速で噴水のあるロータリーを半周巡り、シドたちの乗った黒塗りだけが車寄せに停止し接地する。他の四台は外部から目隠しするようにロータリーに駐まった。
そして銃撃でも無事だった者たちが降車し、人の盾を作るのを待ってからシドたちにも降車許可が降りる。
外の空気は少し冷たかったが、却って今のシドには心地良かった。
大きな観音開きの扉が左右ともに開けられている。まずは真っ白いヘッドドレスを見せて礼をしているメイド軍団を上手くやりすごした。何処までニセモノが身代わりになることを知らされているのか分からないが、相手が顔を上げないのだから、これは楽勝である。
あとは玄関ホールの真正面にある、これもミッドナイトブルーのカーペットが敷かれた大階段を上った。勿論不案内なので前にオニール、後ろにはレイバーンと音も立てずに現れた執事らしきタキシードの老紳士が付き従う。
そうして階段を上っているうちにシドの腹が豪快な音を立てて鳴った。ハイファは恥ずかしさで赤くなったが、昼食も抜きだったのでハイファも空腹ではあった。
「あとでお夜食を部屋に運ばせましょう」
などと老執事が言い、ハイファは内心ホッとする。
しかしこれだけの宮殿に誰が何人暮らしているのか知らないが、三階まで上ってやっと廊下を歩き始めたものの、まだ誰にも出くわしてはいない。
廊下といってもテニスができるほど広い空間を数十メートル歩いて、皆が足を止めた。老執事が観音開きの片方を開ける。中はシャンデリアの暖かな光に満ちていた。
「ここがドン・ライナルトの執務室でございます」
促されて毛足の長い絨毯の上に踏み出す。そこはデカ部屋ほどもあろうかという大きな部屋だった。目についたのは向かって左側の重厚な多機能デスクと、右側の壁にしつらえられた本物かどうか分からない暖炉だ。今は燃えていない。だが充分エアコンが利いていた。
あとは応接セットが配され、酒瓶の並んだサイドボードや飲料ディスペンサーなどがあり、それらの調度は本革と磨き抜かれた黒檀で出来ているようである。壁紙がクリーム色なのでシックにまとまり、広さの割には落ち着いた雰囲気となっていた。
何の具合か宙艦がアレだったのでセンスを疑っていたが、亡きドン・ライナルトはなかなかに趣味のいい男だったようだ。
まずは応接セットにシドとハイファにオニールの三人が座る。老執事とレイバーンは背後に立った。そこにチャイムが鳴り、白衣の医師と看護師が自走ワゴンを伴って入ってきた。勿論ここではまともに顔を見られたが医師も看護師も眉ひとつ動かさなかった。
さすがにマフィアお抱えの医師は手際も腕も良かった。シドの右頬の傷を診て、痕が残らないよう再生液で充分洗い流し、滅菌ジェルで消毒してから合成蛋白スプレーを吹きかけ、人工皮膚テープを貼り付けて治療を終える。
医師らが出て行くなり老執事が咳払いをして喋り始めた。
「ドン・ライナルトにおかれましては多機能デスク及び全ての部屋のマスターキィロックコードをお流し致しますので、どうぞ今後は御身にご配慮なされたく存じます。朝は八時にこの部屋に詰めて頂き、発振その他を読まれたのちに九時に朝食でございます。朝食はソフィーヤ様とご一緒なされても構いませんが、そのあとの会合・会談では申し訳ありませんが――」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
焦ってシドは執事殿の話に割り込んだ。
「俺とハイファは二人で一組のバディ、絶対に別行動は取らねぇからな。そうでなければこの話から降りさせて貰う。それでもいいのか? え、代貸さんよ?」
腹の底から出した低い声はそれなりに効果があったらしい。執事殿は頭を下げて引き下がった。オニールは洟をかんだハンカチで額の汗を拭いながら幾度も頷く。
「そうでしょうとも。ドン・ライナルトはこのグリーズ星系でも有名な愛妻家、ソフィーヤ様と片時たりとも離れたり致しませんでしょう、ええ、はい」
「分かればいい、分かればな」
本音はドンとして実務を執るなどとは思ってもみず、ハイファという助けがなければ絶対にだめだと思い焦ったというのが実際のところだった。FC専務のハイファなら何とかしてくれそうだという、多分に甘い考えである。
「それではワープ三回、お疲れになったでしょう。私室へとご案内致します」
今度は執事殿も下手に出た。二人は促されて立ち上がり、執務室を出る。
また長い廊下を辿るのかと思いきや、隣室が控え室でその隣がドンの私室、その隣がソフィーヤの私室だった。
各部屋もアホみたいに広かったが、天蓋付きのベッドに猫足のテーブルセットだのソファだのバス・トイレに洗面所、飲料ディスペンサー付きというのは高級ホテルと変わらないので腰が退けることもない。
「んで、俺たちは最悪ここでミーア=ドラレスが人工子宮で子供を作るまで隠れてりゃいいんだな?」
「まあ、そういうことになりますでしょうか」
汗を拭き拭きオニールが言い、諦めたのか執事殿も頷いている。
「なら、タマの取り合いなんかしてないで、さっさと結婚話を進めてくれよな」
「何度も申し上げておりますように、ミーア様がフランク=ケドラルを婿に迎えた時点で、すぐに人工子宮での継嗣存続を手配するようになっております故、ご安心を」
それも何だか情緒のねぇ話だなとシドは思ったが、他星のマフィアファミリーのしきたりなんぞにクチバシを挟むのはやめておく。他人がナニして妊娠するのを何ヶ月も待っていられるほどヒマでもない。
そこでまたチャリンと涼やかな音が建材に紛れた音声素子から流れた。頷かれシドがリモータ操作するとロックを解かれたオートではないドアからワゴンを押してメイドが入ってくる。どうやらようやく食事にありつけるらしい。
そう思った途端にメイドがワゴンの中からサブマシンガンを掴み出しぶっ放した。
咄嗟にシドは三人を同時に庇うため、まともに射線の前に出る。腕から胸を四十五口径ACP弾の一連射が通過。吹っ飛ばされてロウテーブルに背を打ち付けながら尻餅をつく。
そのとき既にメイドを装った刺客はハイファの放った九ミリパラで頭を砕かれていた。
「シド……シドっ!」
「うっ、くっ……弾まで食わせるなっつーの……ゲホゴホッ!」
縋り付いたハイファが意識のあるシドに安堵しかけたとき、シドはエボーッと血を吐いた。ハイファが悲痛な声で思わず「メディーック!」と叫ぶ。
再び医師が呼び戻され、ダークスーツの手下たちが総動員されて宮殿内一斉点検に駆け回る騒々しい中、シドはそのまま私室のベッドでハイファからクリームシチューとクラブハウスサンドを「あーん」されていた。
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