ゴミと茸と男が二人~楽園の外側~

志賀雅基

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第24話

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 だがいつもならホルスタを吊っている位置を、いつまでも眺めては溜息を吐くバディに向き直った志賀はアズラエルの紅い瞳を睨んで言った。

「あのなあ、モノ自体への執着なら俺も分かるけどサ。リープ出来るお前が抜くときはハッタリじゃなくて本気で撃つ時、必要と感じたときだろ」

 志賀のいつに無い真剣さに思わず同意を示してしまうアズラエル。シリアスになると時折出る、『お前』と言われたのも効いている。

「でも今はPK使いと一緒にいるんだぜ、必要か? 要らねーだろ。なんかあったら俺んとこに跳びゃいいんだし。ったく、ナイフ一丁持たねーで何があっても眠りこけてたクセにサ。五日間も丸腰でいられてそりゃねーぜ。てっきりそれはこっちの役目って……そうでなきゃ、まるきりアンタの嫁さんみてーじゃんか俺」

 その言葉にアズラエルは一瞬呆然とした。

 そうなのだ。幾ら軍人でも、まさか実戦や特殊任務中でもない限り銃を携帯することはない。しかしサイキを標的にされる危険性から、自分は今までどうしても銃は手放せなかった。それなのに軍という組織に護られていない状況下で、ずっと銃はポッドに置いたままだったのだ。存在を忘れていたといってもいい。

 他者がいない安心感? それもあっただろう。だが考えてみれば実はそうではない。データ上、追尾トレースされる可能性は薄かったにしろ、本気でギルドクラスに狙われた場合、これほど危ない状況はなかった筈なのだ。強力なサイキ二人を一切の痕跡を残さず拉致できる。

 休暇気分どころか相棒に頼りきって呑気に過ごしていたのは自分だった。わざわざ指摘されるまでそんなことにすら気付かなかったとは。

「その代わりクソジジィとか偉い人の相手は頼むからサ。そんなつまんねーコトやってらんないからな。オイラの性に合わねー、適材適所って、おい。どうしたんだよ」

 唐突に火が点いたように笑い出したアズラエルに志賀はギョッとする。発作のように肩を震わせる年上の相棒を眺めながら心配になった。
 まだアッパーが効いているのかも知れない。この生真面目な相棒が毒キノコ御贈答セットと勘付いて放っておこうとしたのも普通じゃない。自分も含めて強力なサイキ持ちはキレた電波野郎が多いにしても、ラリったこいつはちょっと拙いか?

「なあ、ダイジョーブ? 戻ってきてくれよー、アズルよぅ」
「ああ何でもない。すまん、大丈夫だ。……貴様以上に奇天烈な父上にナマで初お目見えするかと思ったら、ちょっとな」

 発作的笑いを収めて志賀に微笑しながらアズラエルは言った。微笑んでいられるのも今のうちだぜと志賀は思う。クソジジイの毒はキノコを上回る気がする。
 長い長い間、単独で情報部員をやってきた年上の相棒に志賀は念を押した。

「覚悟しとけよ、クソジジィの強烈さってオイラの比じゃねーぞ。あの狂気は伝染性がある。絶対に取り込まれるんじゃねーぞ、相棒」
「ふん、それは遺伝というやつだ。だが自分でも分かっているようだな。自覚があるなら通常生活に於ける言動に注意しろ。降って湧いたPKは仕方ないにしろ」

 アズラエルにしてみれば大変なのは志賀のPKだけではないのだ。子供のようだが大人だから面倒の後始末も大変で、実生活面でのそれに追われた四ヶ月だった。思うがままに振舞う志賀の言動は誰にも読めず、振り回されている。
 
 いったい何が本気で何が冗談か読み難かったが子供のやる事だ。きっと全て本気なのだろうとアズラエルは悟りの境地に至りかけていた。そこで思い出す。

「お前、もうすぐ入隊して半年だな」
「ん、それがナニ?」
「普通、幹部候補生は半年で三尉任官する決まりだ。別室特例で降りた任官は一度蹴飛ばしたが……続けるんだろう?」
「ああ、暫くはそのつもり。本星は狭いし、こっちの方が面白そうだし。――宜しく、バディ・アズラエル=トラス殿」

 と、意外にも志賀は教則本通りの挙手敬礼をして見せた。

「こちらこそ、だ」

 対してアズラエルはゆったりとラフな答礼。

 窓外はすでに真空間となり、暗い。
 遠くの恒星たちがシンチレーション無しでくっきりと観察できる。遥か下方のゴミ溜め惑星が、今は夢の世界であったかのようにおぼろに輝いていた。

(いつの日にか、この文明の末路ともいえる星にも大地が出来て、入植者が立ち根を張るときがくるのだろうか)

 ふと、そんな思いを巡らすアズラエル。

(くるとしても、あれだけ大量のゴミが土に還るための時間だ。きっと気が遠くなる程の未来だろうな)

 しかし、あと数分で自分達はリアルな世界に戻るのだ。様々な人間の異なる考えや組織の思惑、命の危険や……新たな魅惑溢れる世界へ。

「あ。ちょっちアズル。もひとつ大事なこと、忘れるトコだったぜ」

 サーチのレンジを全開にしても、既に自分たちの艇以外何も引っ掛からない宇宙空間に思いを馳せていたアズラエルは、若い相棒が立ち上がり傍らまで来ていたのは知っていたが、そちらを見もしなかった。

「俺もサ、ポリシーに反するっつーか、ちっとばかりラインに抵触すっかなーって悩んではみたんだケド、決着つけねーと気になってしゃーねェ。……トリィ、ユン司令には言うなよ」

 何をだ、と訊くより早くアズラエルはいきなり志賀の両手で頭部を挟まれ、強引に振り向かされる。そして何か反応をする間も無く、唇を塞がれた。

 勢いよすぎて互いの歯がガチンと当たり、目眩と同時に星が飛んだ。しかし目眩は直後に差し入れられた、柔らかく濃厚な舌の感触に依るものだったかも知れない。

 常にフラットさを要求され、数十年間たがわずそれを実行してきた情報軍人。そして任務に於いてもそうでなくとも、数え切れない程の命のやりとりを経験してきた能力者。
 そのアズラエル=トラスは頭を突き放され、勝ち誇ったように好戦的な笑みを浮かべた同族の顔を見ても、操縦席から半分ずり落ちたまま動けなかった。

「おっしゃ~っ!! 勝ったな。へへ~、腰抜けてやんの。負けたまんまじゃ、けったクソ悪ィしな。こーゆーのは年とか経験の差じゃないって証明だぜ。……ぺっぺっ、野郎となんて二度と御免だ、うがいうがいっと……」

 志賀は再び後部ポッドへ消える。

 宙軍の巡察艦からの呼びかけがアラームから音声、音声から怒声へと変わっても、アズラエルは暫しレスすることが出来なかった。
                               

                               了
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