ゴミと茸と男が二人~楽園の外側~

志賀雅基

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第14話

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 変わったものでは宇宙空間で船団を作り暮らす少数の者たちの中で、実体がない高度知性体とでもいう存在と共生しているという人類が居るという、伝説めいた噂もある。その知性体とは閉鎖された中で独自に発展を遂げたプログラムだと思われるが。

 過去においてはロボットの人権などというややこしい議論が展開された挙句、ヒューマノイド型人工物にAIを搭載するのに規制が掛かったという経緯もあった。
 既に生産され残った彼らは哀れにも、電磁的にシステムダウンさせておいて、志賀の言い方ではないがスクラップへの道を辿った。

 そういった宇宙社会でサイキは初期に政治的思惑から綾を付けられ必要以上に注目されてしまった人間の中の、いちマイノリティに過ぎない。
 そして自分たちは人間社会に生きる以上サイキ持ちとしてだろうが軍人としてだろうが一般人としてだろうが、今、与えられた世界で生きて行かなくてはならないのだ。

 高度文明圏に生まれた以上、IDデータとしてサイキという特性が記載された自分たち。そのために生後二十年間ほぼ軟禁状態でテラ本星暮らしだった志賀。
 志賀は民間人とはいえ多々起こる刑事事件の当事者として、人権問題などもはや云々できない状態で、犯罪者のようにトレーサーを恒常的につけられていた。

 それでも我と我が身を自身で護らなければならなかったのだ。

 法に護って貰えなかった者が、それが一度や二度ならともかくも、一方的に押し付けるばかりのそれにずっと護ってなど貰えなかった志賀が、備わった力と意志を誇示し生き抜こうとするのは当然である。志賀は自分から先に動いたことなどない。だが我が身と魂を自ら護った結果がこれである。

 しかし只人の生活をしていても差別は何処にでもあるのだ。ちょっとした他人との違いを人間は敏感に嗅ぎ分け、レッテルを貼る残酷さがある。誰にでもだ。過酷なそれに対抗するために己の唯一最後の持ち物でさえ懸けた抗議をせざるを得ない者もいる。

 自ら圧力を撥ね退ける意思と力とがあり、それが更に圧力を招き、人でなしと罵られようとも、意識せず人でなしに成り下がっている人間より志賀は人間らしい。
 他人より楽して優位に生きるためでなく、意思を貫くために闘っているからだ。

「敵にはともかく味方には『何か』を感じたんだろう、あのとき。赤の他人の『もっと生きたい』という想い、それを想像して涙を流せるお前は、間違いなく人間だ」
「あのサ……あんましオイラが泣いたこと、言わねーでくれっかな?」

 さりげなく、しかし明らかに目を逸らして言った志賀にアズラエルは微笑む。

「泣くという行為は悪いことではないんだぞ、時と場合に依るが」
「だからねえ、ダンナ。そーゆう意味じゃなくてですね……」

「ではどういう意味だ。涙はストレス物質も一緒に流し去るぞ。体外にコルチゾールというストレス物質の余剰生産分を排出する。悪いことではあるまい」
「だあーっ、アンタ鈍すぎじゃね? あんとき俺がアンタを追い払って大泣きしたのは事実だけどサ、それってトリィの前で……だからって男は余裕みせてぇだろ!」

 少々考えたアズラエルは、あのあと男の顔をずっと維持していた志賀がそれなりに必死だったと知り、可笑しくもなったが笑いはしなかった。気持ちは分かる。
 そこでふいに話を急旋回させ志賀は『人間について』の相棒の語りに疑問を呈した。

「でもアンタが言うの、逆な気ぃするけど。『他人より楽して優位に生きたい』、人より上手く生きようってのが人間じゃないのか?」
「実際社会ではそういった傾向にあるな」
「じゃ、ダメじゃんかよ」

「違う。ただ食うだけでなく、与えられた中でどう自分らしく生きるか。それを選ぶのが人間だと言っている。お前、サイキを使わず生きていく事も可能だろう?」
「クソジジィ、親父のこと言ってんのか? あいつの世話には一生なりたかねーよ。PKなしの自分も想像できねーし」

 確かにアズラエルもサイキなしの自分は想像不可能だ、本能だから。けれど子供の頃とは違い、今は隠す知恵もある。幾ら内面がガキであろうと志賀もだろう。

「連邦議会を動かすほどの大物を父上に持つんだ。それに入隊時IDデータの改竄もしてあった。気付いているんだろう、自分の意思でやったのではないにしろ」
「ん、まあな」

 上層部はどうだか知らないが、アズラエルは知っている。接触テレパスの自分があのとき視てしまった画。数々のまばゆい画の中でそれだけが引き歪み、苦しみに彩られた女性の遺体。それが志賀の母親だったことをアズラエルは志賀本人の口から聞き及んでいる。
 幼かった志賀は友人を助けるために制御の甘いPKを使い、居合わせた母親を誤って吹き飛ばしてしまったのだ。

 その事実がIDデータにも惑星警察のドラグネットにも載っていない。改竄されていなければ事故とはいえ、まさか肉親殺しの過去を持っての入隊は不可能である。

 連邦重要人物である父を持ち、おまけに鉄壁のセキュリティを誇るテラ本星のID管理システム、そいつに割り込み書き換えるほどのシンパもいるのだ。それこそ人ではない、連邦が誇る大容量特殊戦略コン、他のいかなるコンピュータでも検算不可能で発想が勘や閃きレヴェルで危ないと噂の彼女、SSCⅡテンダネスの事だが。

 デュアルシステムとして開発されたSSC初号機のグローリアが世を儚んで自殺してから少々情緒不安定になっており、テンダネスは何を思ったか志賀に惚れているらしいのだ。
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