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第6話
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稀少に過ぎて確率論的になど語ることなど出来ない自分たちの力。
サイキを本能として持って生まれてくる者はあまりに少なく、科学的究明も全くといっていいほど進んでいない。だが汎銀河世界で唯一存在する組織化された超能力者集団ギルドの実証データでは、その力の強い者ほど多岐に渡るサイキを発現するという。
事実アズラエルは自身のみテレポーテーションさせるリープと空間感応のサーチ、そのサーチ結果をそのまま画として他人に伝える程度の弱い接触テレパシー、いわゆるシンパスがあった。潰しが利く芸達者で情報局員としてうってつけの人物といえる。
しかし志賀自身が本能として認めているのはPKと、それを利用したリープのみだった。その分、強烈なパワーを持つ。
周囲には化け物と罵られ、明確な研究対象物として見られ、幼くしては経験不足による暴発で母まで失くした、恐ろしく強力なPK。
それを目当てにか、一般社会へのサイキによる利益還元とサイキ持ち庇護を表向きには謳う謎の企業体ギルドから何度もその身を狙われたことがある。『サイキ持ちは悪魔』などとアナクロ思想にかぶれた狂信的一派や研究材料としても。
もちろん研究やスカウトに関してはターゲットがサイキである以上殺されはしないだろうが、生きてさえいれば独自の催眠暗示技術で洗脳し隷属させるのはギルドにとって容易い。そういった知識は狙われて得て、得ては狙われてきた。
そしてそのたびに、ためらいなくサイキを誇示する事で生き延びてきた。
テラ人二十歳の男が当たり前に持つ将来への希望や夢など自分は持たない。そんなヒマは無い、自己の意思を、魂を護るのに無我夢中だったからだ。
(心を澄ますなんて馴れねーこと、するもんじゃねぇな……)
そう思い目を開いた。
名も無くTFナンバーだけが付けられた恒星。そこから投げられる光は紫を帯びた暗赤色に変化し、志賀自身を含めた世界はどろりと重たげに見えた。妙に生々しいそれに濃灰色の瞳はしばし見入る。まるで血糊の海に立っているように感じた。
強力なPKで吹き飛ばした人間。前衛芸術の如く捩じれ切り離された手足――。
今更考えずともよい様々な事が脳裏をよぎり、逆に集中が難しい。普段はこんなことなど無いのだが。生まれて初めてここまで周囲に人の気配の無い状況に酔っているのかも知れない、そう自己分析してみる。
志賀は普段から感情の表層のみを滑るように生きている。面白いことだけを追っている子供のように。努めてそうしている訳ではない、おそらく精神の自己防衛本能とでもいえる作用だ。それが他人には明るく軽く思われる。一種の躁状態。
テラ連邦軍の中央情報局には精神成分とPKと前科、正確には正当防衛だが、それらが相まってサイキ・危険因子ともに最大のレヴェル5という大物扱いだった。
『無尽蔵の爆弾を抱えた子供、フューズは感情』
そう精神分析コンピュータに弾き出された。フューズとは爆弾に於ける信管、つまり起爆装置のことだ。コンはシステマティックにそう出したが、人間の心はそうはいかない。只人の上層部にとっては広域惑星警察のドラグネットから引き出した過去の事件現場のポラが想像を絶するものだったため、一種のサイコパス扱いとでもいおうか。
それ故か一兵卒志願だったのも当然叶わなかった。
でもそのお蔭で相棒に会えたのだ。
何かを他人に期待するほど甘い生き方など今まで許されなかった。許したら負けで死を意味した。事故的に殺してしまった母以外にも大切な人を巻き込んだこともある。そこまで経験しておいて、今更アズラエルに対しても何ら期待などしていない。感情を他人に要求するほど馬鹿なことはない。
けれど生まれて初めて会ったのだ。敵でない、自分サイドに立つ同族に。
この広い汎銀河世界で、もの凄い確率といえよう。
嬉しかった。
アズラエル=トラスの紅い瞳を見た瞬間、時折自分に降ってくる言葉にならない何かに打たれ、その場であの男の全てを信用することに決めたのだ。
のちにアズラエルが何事かあらばこの自分を処分する任務を負っている事実を知ってなお構いはしなかった。それはアズラエルの問題であって自分には関係ない。
(初めて会ったときのアズルの顔、結構見ものだったよな――)
あっという間に辺りは薄暗くなった。気温は既に氷点を割っているだろう。
志賀は己の吐く白い呼気を見ながら思った。
(俺を置いてったアズルに特製のキノコ鍋でも食わせてやろっと)
余程の状況でない限り志賀のシリアスは続かない。一見それが余裕に見える。
一本では足らないかもとひょろひょろとした菌子体が数本生え出したジャンクをPKで持ち上げる。するとその下の薄汚れた物体により沢山生えているのを発見し、そちらを持ち帰る事にする。単独リーパーのアズラエルと違い、志賀は自分以外の者も物でもテレポートさせられる。
ただテレポートも自分が跳び移るときも不可視地点に出現するときは怖い。物理的法則を無視して空間に自分を捩じ込む訳だ。アズラエルのように瞬間的に出現場所のサーチで物の位置や地形などが分かればいいが、志賀は目を瞑って身を投げ出すようなものである。出た先にある物体と分子融合、下手すると閉鎖されない核融合爆発だ。
そのくらい強力すぎるPK自体は本能故に幼い頃と違い、思わぬ暴発をさせてしまうことこそ殆どないが、ナビされなければどれほど近場でも怖くて、見えない地点にリープ出来ない理由がそれだ。勿論サイキ持ちは理論でサイキを使うのではなく本能だから自分に出来ないことは知っている。
だから今からやろうとしていることは本当は自分に出来ないことだ。だが何度かやった以上は経験でカヴァーできるとアズラエルはいうのだが。
『本来なら接触せねば送れないほど弱い私の精神波をキャッチできるということは、お前の側にも感応者としてのサイキがある筈だ』
『お前ほどのポテンシャルを持つ者のサイキがPKだけという筈はない』とも。
サイキを本能として持って生まれてくる者はあまりに少なく、科学的究明も全くといっていいほど進んでいない。だが汎銀河世界で唯一存在する組織化された超能力者集団ギルドの実証データでは、その力の強い者ほど多岐に渡るサイキを発現するという。
事実アズラエルは自身のみテレポーテーションさせるリープと空間感応のサーチ、そのサーチ結果をそのまま画として他人に伝える程度の弱い接触テレパシー、いわゆるシンパスがあった。潰しが利く芸達者で情報局員としてうってつけの人物といえる。
しかし志賀自身が本能として認めているのはPKと、それを利用したリープのみだった。その分、強烈なパワーを持つ。
周囲には化け物と罵られ、明確な研究対象物として見られ、幼くしては経験不足による暴発で母まで失くした、恐ろしく強力なPK。
それを目当てにか、一般社会へのサイキによる利益還元とサイキ持ち庇護を表向きには謳う謎の企業体ギルドから何度もその身を狙われたことがある。『サイキ持ちは悪魔』などとアナクロ思想にかぶれた狂信的一派や研究材料としても。
もちろん研究やスカウトに関してはターゲットがサイキである以上殺されはしないだろうが、生きてさえいれば独自の催眠暗示技術で洗脳し隷属させるのはギルドにとって容易い。そういった知識は狙われて得て、得ては狙われてきた。
そしてそのたびに、ためらいなくサイキを誇示する事で生き延びてきた。
テラ人二十歳の男が当たり前に持つ将来への希望や夢など自分は持たない。そんなヒマは無い、自己の意思を、魂を護るのに無我夢中だったからだ。
(心を澄ますなんて馴れねーこと、するもんじゃねぇな……)
そう思い目を開いた。
名も無くTFナンバーだけが付けられた恒星。そこから投げられる光は紫を帯びた暗赤色に変化し、志賀自身を含めた世界はどろりと重たげに見えた。妙に生々しいそれに濃灰色の瞳はしばし見入る。まるで血糊の海に立っているように感じた。
強力なPKで吹き飛ばした人間。前衛芸術の如く捩じれ切り離された手足――。
今更考えずともよい様々な事が脳裏をよぎり、逆に集中が難しい。普段はこんなことなど無いのだが。生まれて初めてここまで周囲に人の気配の無い状況に酔っているのかも知れない、そう自己分析してみる。
志賀は普段から感情の表層のみを滑るように生きている。面白いことだけを追っている子供のように。努めてそうしている訳ではない、おそらく精神の自己防衛本能とでもいえる作用だ。それが他人には明るく軽く思われる。一種の躁状態。
テラ連邦軍の中央情報局には精神成分とPKと前科、正確には正当防衛だが、それらが相まってサイキ・危険因子ともに最大のレヴェル5という大物扱いだった。
『無尽蔵の爆弾を抱えた子供、フューズは感情』
そう精神分析コンピュータに弾き出された。フューズとは爆弾に於ける信管、つまり起爆装置のことだ。コンはシステマティックにそう出したが、人間の心はそうはいかない。只人の上層部にとっては広域惑星警察のドラグネットから引き出した過去の事件現場のポラが想像を絶するものだったため、一種のサイコパス扱いとでもいおうか。
それ故か一兵卒志願だったのも当然叶わなかった。
でもそのお蔭で相棒に会えたのだ。
何かを他人に期待するほど甘い生き方など今まで許されなかった。許したら負けで死を意味した。事故的に殺してしまった母以外にも大切な人を巻き込んだこともある。そこまで経験しておいて、今更アズラエルに対しても何ら期待などしていない。感情を他人に要求するほど馬鹿なことはない。
けれど生まれて初めて会ったのだ。敵でない、自分サイドに立つ同族に。
この広い汎銀河世界で、もの凄い確率といえよう。
嬉しかった。
アズラエル=トラスの紅い瞳を見た瞬間、時折自分に降ってくる言葉にならない何かに打たれ、その場であの男の全てを信用することに決めたのだ。
のちにアズラエルが何事かあらばこの自分を処分する任務を負っている事実を知ってなお構いはしなかった。それはアズラエルの問題であって自分には関係ない。
(初めて会ったときのアズルの顔、結構見ものだったよな――)
あっという間に辺りは薄暗くなった。気温は既に氷点を割っているだろう。
志賀は己の吐く白い呼気を見ながら思った。
(俺を置いてったアズルに特製のキノコ鍋でも食わせてやろっと)
余程の状況でない限り志賀のシリアスは続かない。一見それが余裕に見える。
一本では足らないかもとひょろひょろとした菌子体が数本生え出したジャンクをPKで持ち上げる。するとその下の薄汚れた物体により沢山生えているのを発見し、そちらを持ち帰る事にする。単独リーパーのアズラエルと違い、志賀は自分以外の者も物でもテレポートさせられる。
ただテレポートも自分が跳び移るときも不可視地点に出現するときは怖い。物理的法則を無視して空間に自分を捩じ込む訳だ。アズラエルのように瞬間的に出現場所のサーチで物の位置や地形などが分かればいいが、志賀は目を瞑って身を投げ出すようなものである。出た先にある物体と分子融合、下手すると閉鎖されない核融合爆発だ。
そのくらい強力すぎるPK自体は本能故に幼い頃と違い、思わぬ暴発をさせてしまうことこそ殆どないが、ナビされなければどれほど近場でも怖くて、見えない地点にリープ出来ない理由がそれだ。勿論サイキ持ちは理論でサイキを使うのではなく本能だから自分に出来ないことは知っている。
だから今からやろうとしていることは本当は自分に出来ないことだ。だが何度かやった以上は経験でカヴァーできるとアズラエルはいうのだが。
『本来なら接触せねば送れないほど弱い私の精神波をキャッチできるということは、お前の側にも感応者としてのサイキがある筈だ』
『お前ほどのポテンシャルを持つ者のサイキがPKだけという筈はない』とも。
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