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第1話
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軍人として長きに渡り様々な任務をこなしてきたアズラエル=トラスはひたすら考え続けていたが、何故に自分までもがこんな惑星に落っことされるハメになったのか未だに分からない。
「なー、アズルよ。アンタちったあ仕事選べよ、おい」
黙々と作業を続行しつつアズラエルは思う。言われずとも選べるものなら選びたかった。四ヶ月前、こいつと出会う前の段階で、と。
「地球連邦軍て、こんなことまでやんなきゃなんない訳?」
――いや。
これは栄えある連邦軍人としての任務ではない、断じて。何処でどう間違えばこんな指令が降ってくるのかがアズラエルにもさっぱり分からないのだ。
「二週間前までギルドのテレパスのお姉サン&リーパー野郎とサイキ戦。俺、ずっとあーゆうドラスティックな生活が続くのかと思ってたぜ」
――そう。
アズラエル自身もそう思ってずっと生きてきたのだ。
自分はテラ連邦軍中央情報局に在っても一般人にはその存在すら殆ど知られていない第二部別室所属の『使えるレヴェルのサイキ持ち』であり、その中でもトップクラスの一等特務技官として、数々の命懸けの任務に携わってきた。
AD世紀から三千年。汎銀河でテラ人が暮らす現在、テラ系星系を統べるテラ連邦議会を陰で支える別室入りをして随分経つが、誰にも頼ることのない単独任務ばかりだった。こいつとバディを組まされるまでは。
「なんかサ、半年前までの方がヤバい生活してたような気ぃする、俺」
――そうだろうとも。
サイキ、古い言い方をすれば超能力。それを本能として持ち生まれた者は汎銀河でも予測存在数がたったの五桁とされているが、髪の毛一本持ち上げるのがやっとの者も含めての話だ。そのサイキに於ける殺人、汎銀河法抵触で死刑にならなかったのが奇跡という暮らしをしていたのだから、この新兵は。
テラ連邦内でも、あのガチガチに管理の行き届いた母なるテラ本星で星系政府法務局から『認・正当防衛』の印をどうやってか掠め取ったとはいえ、民間人としてテラ人の指では足りない人数をブチ殺し、更に二桁を病院送りにしたのだ。
テラ標準歴で五ヵ月前、連邦軍中央幕僚本部エリアに単身乗り込み、幕僚長その人を締め上げて、志願入隊というテラ系成人なら当たり前に持つ権利を獲得するまでは。
それも志願理由が親子喧嘩、家出息子に父親が軍事通信衛星MCSからビーム攻撃を画策し、それから逃れるためだったというのだからどう考えてもマトモではない。
「俺こんなのずっと続いたらおかしくなっちまうよう」
――だから。
おかしいのは分かっている。それならつい二週間前、未開惑星の対・原住生物殲滅戦前線司令部を根こそぎ吹き飛ばしたのは、まさかおかしくなかったとでもいうのか?
「あー、文明圏に戻りてぇ。こないだ営内で隣の居室の奴に貰った、ページがくっついたエロ本でさえ懐かしいぜ。なあ、アズル」
――そうだ。
男二人の、いや、まともな生物が一星系の一惑星にたった二体のみという煮詰まった状況なのだ。そんなモノでさえ懐かしくも貴重なオカ……。
「あ、いや、違うっ。そうじゃないっ!」
バディである志賀の愚痴に心の中で突っ込みを入れつつ、スキャン結果を左手首に嵌めた、それこそ文明人の象徴ともいえる携帯コンピュータでありマルチコミュニケータであり財布でもあるリモータに入力していたアズラエルは、苛つきと動揺で今のデータを全部ダメにする。
志賀の醒めた視線を感じて咳払いし誤魔化した。
「……そうではなくてだな。サクサク捜さんか、又すぐに日が暮れるぞ」
この惑星の自転周期は短い。テラ標準時で十八時間ほどだ。
出入りする業者のために最低限のGフィールド発生装置は埋め込まれ、勿論大気調整もなされているが完全なテラフォーミングとまではいかない。薄い大気層に遠い恒星、日が暮れると恐ろしく冷え込む。
特に今は楕円軌道上、恒星から遠日点に近い位置にあり、活動できる時間は少ないのだ。早めに飛行艇で牽引してきた生活区画、いわゆる居住ポッドに戻らないと、死ぬ。確実に。
そういった意味では命懸けの任務といえるだろう、廃棄物処理星での遺失物捜索は。
「だーっ、もお、見つかる訳ねーだろっ! そんなちっこいモン。大体、本当に見つけられるとでも思ってンのかよ、上は!!」
「人間一人が横になれる大きさの箱だ、それ程小さくはないと思うがな。投棄星系区も時期的にも、この辺りだというログが残っている」
喚く志賀に自分こそが喚き出したい衝動を押さえつつ、アズラエルは頭の中でまずテラ連邦標準語でテンカウント、次に知る限りの異星系言語でもなるべくゆっくり十まで数えて精神安定を図り、肩で大きく息をしてから言った。
もう一度、空間感知能力で足元を透視して数メートル先を指差し下がる。目的物に符合する形状の物体を片っ端から掘り起こしているのだ。それを既に四日。
短い一日とはいえ、いい加減、精神衛生に結構くる。
「じゃ、アズルはホントに見つけられると思ってやってんだ?」
ウダウダ愚痴りながらも割と愉しんでいるらしい志賀は、ちらりと揶揄の視線を向けたのち、アズラエルの示したポイントにあるジャンクを除けに掛かった。
「そういう訳ではないが――」
アズラエルは束の間遠い目をする。
目前というより見通し距離の全てを埋め尽くしたガラクタ・ジャンク・デブリ等。かなりの厚みの層を成している。穴を掘るようにそれらを上から順に除けて地表に達するまでゆうに五、六メートルほど。何処までも厚みが増せるよう綺麗に均されてはいた。
しかしその分、木の一本すら生えていないこの、文明の末路ともいえる荒涼たるゴミ平原の光景は、ある意味、圧巻であった。ショートサイクルながら圧倒的なバイタリティで以て汎銀河条約機構内でも長命系成人と張り合っているだけあった、テラ人は。
「なー、アズルよ。アンタちったあ仕事選べよ、おい」
黙々と作業を続行しつつアズラエルは思う。言われずとも選べるものなら選びたかった。四ヶ月前、こいつと出会う前の段階で、と。
「地球連邦軍て、こんなことまでやんなきゃなんない訳?」
――いや。
これは栄えある連邦軍人としての任務ではない、断じて。何処でどう間違えばこんな指令が降ってくるのかがアズラエルにもさっぱり分からないのだ。
「二週間前までギルドのテレパスのお姉サン&リーパー野郎とサイキ戦。俺、ずっとあーゆうドラスティックな生活が続くのかと思ってたぜ」
――そう。
アズラエル自身もそう思ってずっと生きてきたのだ。
自分はテラ連邦軍中央情報局に在っても一般人にはその存在すら殆ど知られていない第二部別室所属の『使えるレヴェルのサイキ持ち』であり、その中でもトップクラスの一等特務技官として、数々の命懸けの任務に携わってきた。
AD世紀から三千年。汎銀河でテラ人が暮らす現在、テラ系星系を統べるテラ連邦議会を陰で支える別室入りをして随分経つが、誰にも頼ることのない単独任務ばかりだった。こいつとバディを組まされるまでは。
「なんかサ、半年前までの方がヤバい生活してたような気ぃする、俺」
――そうだろうとも。
サイキ、古い言い方をすれば超能力。それを本能として持ち生まれた者は汎銀河でも予測存在数がたったの五桁とされているが、髪の毛一本持ち上げるのがやっとの者も含めての話だ。そのサイキに於ける殺人、汎銀河法抵触で死刑にならなかったのが奇跡という暮らしをしていたのだから、この新兵は。
テラ連邦内でも、あのガチガチに管理の行き届いた母なるテラ本星で星系政府法務局から『認・正当防衛』の印をどうやってか掠め取ったとはいえ、民間人としてテラ人の指では足りない人数をブチ殺し、更に二桁を病院送りにしたのだ。
テラ標準歴で五ヵ月前、連邦軍中央幕僚本部エリアに単身乗り込み、幕僚長その人を締め上げて、志願入隊というテラ系成人なら当たり前に持つ権利を獲得するまでは。
それも志願理由が親子喧嘩、家出息子に父親が軍事通信衛星MCSからビーム攻撃を画策し、それから逃れるためだったというのだからどう考えてもマトモではない。
「俺こんなのずっと続いたらおかしくなっちまうよう」
――だから。
おかしいのは分かっている。それならつい二週間前、未開惑星の対・原住生物殲滅戦前線司令部を根こそぎ吹き飛ばしたのは、まさかおかしくなかったとでもいうのか?
「あー、文明圏に戻りてぇ。こないだ営内で隣の居室の奴に貰った、ページがくっついたエロ本でさえ懐かしいぜ。なあ、アズル」
――そうだ。
男二人の、いや、まともな生物が一星系の一惑星にたった二体のみという煮詰まった状況なのだ。そんなモノでさえ懐かしくも貴重なオカ……。
「あ、いや、違うっ。そうじゃないっ!」
バディである志賀の愚痴に心の中で突っ込みを入れつつ、スキャン結果を左手首に嵌めた、それこそ文明人の象徴ともいえる携帯コンピュータでありマルチコミュニケータであり財布でもあるリモータに入力していたアズラエルは、苛つきと動揺で今のデータを全部ダメにする。
志賀の醒めた視線を感じて咳払いし誤魔化した。
「……そうではなくてだな。サクサク捜さんか、又すぐに日が暮れるぞ」
この惑星の自転周期は短い。テラ標準時で十八時間ほどだ。
出入りする業者のために最低限のGフィールド発生装置は埋め込まれ、勿論大気調整もなされているが完全なテラフォーミングとまではいかない。薄い大気層に遠い恒星、日が暮れると恐ろしく冷え込む。
特に今は楕円軌道上、恒星から遠日点に近い位置にあり、活動できる時間は少ないのだ。早めに飛行艇で牽引してきた生活区画、いわゆる居住ポッドに戻らないと、死ぬ。確実に。
そういった意味では命懸けの任務といえるだろう、廃棄物処理星での遺失物捜索は。
「だーっ、もお、見つかる訳ねーだろっ! そんなちっこいモン。大体、本当に見つけられるとでも思ってンのかよ、上は!!」
「人間一人が横になれる大きさの箱だ、それ程小さくはないと思うがな。投棄星系区も時期的にも、この辺りだというログが残っている」
喚く志賀に自分こそが喚き出したい衝動を押さえつつ、アズラエルは頭の中でまずテラ連邦標準語でテンカウント、次に知る限りの異星系言語でもなるべくゆっくり十まで数えて精神安定を図り、肩で大きく息をしてから言った。
もう一度、空間感知能力で足元を透視して数メートル先を指差し下がる。目的物に符合する形状の物体を片っ端から掘り起こしているのだ。それを既に四日。
短い一日とはいえ、いい加減、精神衛生に結構くる。
「じゃ、アズルはホントに見つけられると思ってやってんだ?」
ウダウダ愚痴りながらも割と愉しんでいるらしい志賀は、ちらりと揶揄の視線を向けたのち、アズラエルの示したポイントにあるジャンクを除けに掛かった。
「そういう訳ではないが――」
アズラエルは束の間遠い目をする。
目前というより見通し距離の全てを埋め尽くしたガラクタ・ジャンク・デブリ等。かなりの厚みの層を成している。穴を掘るようにそれらを上から順に除けて地表に達するまでゆうに五、六メートルほど。何処までも厚みが増せるよう綺麗に均されてはいた。
しかしその分、木の一本すら生えていないこの、文明の末路ともいえる荒涼たるゴミ平原の光景は、ある意味、圧巻であった。ショートサイクルながら圧倒的なバイタリティで以て汎銀河条約機構内でも長命系成人と張り合っているだけあった、テラ人は。
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