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第25話・飯と煙草がないと稼働しない主人公

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 シーツに全身を預けてハイファがぼうっとしていると、シドはベッドを滑り降りて飲料ディスペンサーのアイスティーを持ってきてくれた。何とか身を返すと口移しでコップ一杯を飲ませて貰い、ようやく喘ぎ疲れた喉からまともな声を出せるようになる。

「ふう。ねえ、ところでお腹空かない?」
「腹は減ったが、お前、動けるのか?」
「もう少ししたら、たぶんね。それまで煙草でも吸ってて」

 やがて起き出してきたハイファを支え、二人で軽くリフレッシャを浴びた。躰を乾かしてバスルームから出る頃にはハイファも自力歩行が可能になっている。
 まずは熱いコーヒーを淹れて啜りながらハイファはリモータチェックだ。

「まだ追加情報はきてないなあ」
「ンなことより、メシだメシ。マジで腹減ったぜ」
「ホテル内のレストランは終日営業だってサ」
「じゃあ行くか」

 二人は着替えて執銃した。そこらで買えない予備弾を盗まれるのは拙いので、シドがショルダーバッグを担ぐ。部屋を出てロックをし、エレベーターで最上階に上がった。

 通路を歩きながらハイファは腰を支えてくれるシドの左腕の温かさが嬉しくて堪らない。知った者の視線がないからこその行動だと分かっていたが、他星任務での僅かな特典に大袈裟でなく舞い上がるような気分になってしまうのだ。

 レストランに入ると黒服のギャルソンに喫煙席を頼む。案内されたのはバーカウンターに近いテーブル席だった。着席して水のグラスとお絞りが置かれると早速電子メニュー表を眺めて、それぞれ違うセットメニューのボタンを押し、クレジットを支払う。

「やっぱり三十万クレジットの旅に潜り込むのが常套だよね?」
「ああ。けどそれくらいは別室にお膳立てさせろよな」

 他人事口調で言い放ち、シドは煙草を吸い始めた。ハイファは嘆息する。

「それが可能なら、とっくに誰かが潜入してるよ。無理だからこそイヴェントストライカに振られたんでしょ、この案件が……って、ごめん」
「ふん。いつも俺を棒に当たる犬扱いしやがって」
「やさぐれないでよ、僕も室長も貴方の捜査能力を認めてるの、知ってるでしょ」

 宥めてみたが腹の減った愛し人の機嫌は悪いままらしい。そこにワゴンを押してギャルソンが現れ、テーブルにセットメニューのトレイをふたつ置いていった。
 手を合わせて食べ始めるとシドも機嫌を浮上させたようで、料理をシェアしながら頂く。

 空腹だった二人は瞬く間にプレートを綺麗にしてしまい、何となく物足りなさを感じたシドは立ち上がると、そのまま傍のバーカウンターに移動して腰掛けた。
 左隣のスツールに座ってハイファはシドの端正な横顔を眺める。

「何、飲みたいの?」
「少しな。任務完遂前祝いだ」
「そっか。じゃあ、僕はスプリッツァーで」
「俺はジントニック、濃いめで」

 バーテンにリモータリンクでクレジットを支払うと、すぐに冷えたグラスが出される。二人は軽くグラスを持ち上げ乾杯してから口をつけた。

「ん、冷たくて美味しい……っと、すみません」

 ハイファの左隣に座った男と肘がぶつかったのだ。だが先程まで空いていた席に陣取ったのは男ばかりが四人、他にも席は空いている以上、何かの意図を感じさせるには充分である。
 案の定、下卑た笑いが聞こえてきた。

「両方ドえらい美人だが、余計なブツがついてやがるみてぇだなあ」
「でも分からねぇぞ、女より具合がいいかも知れねぇ」
「おおっ、怒ったのかい? 食いちぎりそうな目ぇしやがったぞ」
「上は危ねぇなあ、咥えさせるなら下じゃねぇと」

 四人が四人ともに見た目は何処かの三下以下だった。着崩れたイタリアンスーツにゴールドチェーン、リモータもギラギラしている。彼らの下らない話をBGMに、シドとハイファは黙って二杯ずつ飲んでから腰を上げた。
 こんな輩は相手にするだけ無駄である。さっさと部屋に帰ろうとした。しかし男の一人がハイファの長いしっぽを掴むなどという所業に出ると、シドはひとこと言わずにいられない。

「その薄汚い手を離せ」

 ひとことだけで手を離さなかった男は不幸でしかなかった。シドは男の手を逆手に取ると、逮捕術の要領で腕を捻り上げたのだ。咄嗟に逆らった男は肩関節を外されて大仰に呻く。

 けれどシドはもうチンピラの相手に飽きかけていた。男の腕を突き放す。

「ふん。これ以上触るとバカが伝染しそうだぜ」
「そうだね、部屋に戻ったら手洗いとうがいしなくちゃ」

 テーブル席の方から忍び笑いが聞こえ、馬鹿にされたチンピラたちが立ち上がった。
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