25 / 59
第25話・飯と煙草がないと稼働しない主人公
しおりを挟む
シーツに全身を預けてハイファがぼうっとしていると、シドはベッドを滑り降りて飲料ディスペンサーのアイスティーを持ってきてくれた。何とか身を返すと口移しでコップ一杯を飲ませて貰い、ようやく喘ぎ疲れた喉からまともな声を出せるようになる。
「ふう。ねえ、ところでお腹空かない?」
「腹は減ったが、お前、動けるのか?」
「もう少ししたら、たぶんね。それまで煙草でも吸ってて」
やがて起き出してきたハイファを支え、二人で軽くリフレッシャを浴びた。躰を乾かしてバスルームから出る頃にはハイファも自力歩行が可能になっている。
まずは熱いコーヒーを淹れて啜りながらハイファはリモータチェックだ。
「まだ追加情報はきてないなあ」
「ンなことより、メシだメシ。マジで腹減ったぜ」
「ホテル内のレストランは終日営業だってサ」
「じゃあ行くか」
二人は着替えて執銃した。そこらで買えない予備弾を盗まれるのは拙いので、シドがショルダーバッグを担ぐ。部屋を出てロックをし、エレベーターで最上階に上がった。
通路を歩きながらハイファは腰を支えてくれるシドの左腕の温かさが嬉しくて堪らない。知った者の視線がないからこその行動だと分かっていたが、他星任務での僅かな特典に大袈裟でなく舞い上がるような気分になってしまうのだ。
レストランに入ると黒服のギャルソンに喫煙席を頼む。案内されたのはバーカウンターに近いテーブル席だった。着席して水のグラスとお絞りが置かれると早速電子メニュー表を眺めて、それぞれ違うセットメニューのボタンを押し、クレジットを支払う。
「やっぱり三十万クレジットの旅に潜り込むのが常套だよね?」
「ああ。けどそれくらいは別室にお膳立てさせろよな」
他人事口調で言い放ち、シドは煙草を吸い始めた。ハイファは嘆息する。
「それが可能なら、とっくに誰かが潜入してるよ。無理だからこそイヴェントストライカに振られたんでしょ、この案件が……って、ごめん」
「ふん。いつも俺を棒に当たる犬扱いしやがって」
「やさぐれないでよ、僕も室長も貴方の捜査能力を認めてるの、知ってるでしょ」
宥めてみたが腹の減った愛し人の機嫌は悪いままらしい。そこにワゴンを押してギャルソンが現れ、テーブルにセットメニューのトレイをふたつ置いていった。
手を合わせて食べ始めるとシドも機嫌を浮上させたようで、料理をシェアしながら頂く。
空腹だった二人は瞬く間にプレートを綺麗にしてしまい、何となく物足りなさを感じたシドは立ち上がると、そのまま傍のバーカウンターに移動して腰掛けた。
左隣のスツールに座ってハイファはシドの端正な横顔を眺める。
「何、飲みたいの?」
「少しな。任務完遂前祝いだ」
「そっか。じゃあ、僕はスプリッツァーで」
「俺はジントニック、濃いめで」
バーテンにリモータリンクでクレジットを支払うと、すぐに冷えたグラスが出される。二人は軽くグラスを持ち上げ乾杯してから口をつけた。
「ん、冷たくて美味しい……っと、すみません」
ハイファの左隣に座った男と肘がぶつかったのだ。だが先程まで空いていた席に陣取ったのは男ばかりが四人、他にも席は空いている以上、何かの意図を感じさせるには充分である。
案の定、下卑た笑いが聞こえてきた。
「両方ドえらい美人だが、余計なブツがついてやがるみてぇだなあ」
「でも分からねぇぞ、女より具合がいいかも知れねぇ」
「おおっ、怒ったのかい? 食いちぎりそうな目ぇしやがったぞ」
「上は危ねぇなあ、咥えさせるなら下じゃねぇと」
四人が四人ともに見た目は何処かの三下以下だった。着崩れたイタリアンスーツにゴールドチェーン、リモータもギラギラしている。彼らの下らない話をBGMに、シドとハイファは黙って二杯ずつ飲んでから腰を上げた。
こんな輩は相手にするだけ無駄である。さっさと部屋に帰ろうとした。しかし男の一人がハイファの長いしっぽを掴むなどという所業に出ると、シドはひとこと言わずにいられない。
「その薄汚い手を離せ」
ひとことだけで手を離さなかった男は不幸でしかなかった。シドは男の手を逆手に取ると、逮捕術の要領で腕を捻り上げたのだ。咄嗟に逆らった男は肩関節を外されて大仰に呻く。
けれどシドはもうチンピラの相手に飽きかけていた。男の腕を突き放す。
「ふん。これ以上触るとバカが伝染しそうだぜ」
「そうだね、部屋に戻ったら手洗いとうがいしなくちゃ」
テーブル席の方から忍び笑いが聞こえ、馬鹿にされたチンピラたちが立ち上がった。
「ふう。ねえ、ところでお腹空かない?」
「腹は減ったが、お前、動けるのか?」
「もう少ししたら、たぶんね。それまで煙草でも吸ってて」
やがて起き出してきたハイファを支え、二人で軽くリフレッシャを浴びた。躰を乾かしてバスルームから出る頃にはハイファも自力歩行が可能になっている。
まずは熱いコーヒーを淹れて啜りながらハイファはリモータチェックだ。
「まだ追加情報はきてないなあ」
「ンなことより、メシだメシ。マジで腹減ったぜ」
「ホテル内のレストランは終日営業だってサ」
「じゃあ行くか」
二人は着替えて執銃した。そこらで買えない予備弾を盗まれるのは拙いので、シドがショルダーバッグを担ぐ。部屋を出てロックをし、エレベーターで最上階に上がった。
通路を歩きながらハイファは腰を支えてくれるシドの左腕の温かさが嬉しくて堪らない。知った者の視線がないからこその行動だと分かっていたが、他星任務での僅かな特典に大袈裟でなく舞い上がるような気分になってしまうのだ。
レストランに入ると黒服のギャルソンに喫煙席を頼む。案内されたのはバーカウンターに近いテーブル席だった。着席して水のグラスとお絞りが置かれると早速電子メニュー表を眺めて、それぞれ違うセットメニューのボタンを押し、クレジットを支払う。
「やっぱり三十万クレジットの旅に潜り込むのが常套だよね?」
「ああ。けどそれくらいは別室にお膳立てさせろよな」
他人事口調で言い放ち、シドは煙草を吸い始めた。ハイファは嘆息する。
「それが可能なら、とっくに誰かが潜入してるよ。無理だからこそイヴェントストライカに振られたんでしょ、この案件が……って、ごめん」
「ふん。いつも俺を棒に当たる犬扱いしやがって」
「やさぐれないでよ、僕も室長も貴方の捜査能力を認めてるの、知ってるでしょ」
宥めてみたが腹の減った愛し人の機嫌は悪いままらしい。そこにワゴンを押してギャルソンが現れ、テーブルにセットメニューのトレイをふたつ置いていった。
手を合わせて食べ始めるとシドも機嫌を浮上させたようで、料理をシェアしながら頂く。
空腹だった二人は瞬く間にプレートを綺麗にしてしまい、何となく物足りなさを感じたシドは立ち上がると、そのまま傍のバーカウンターに移動して腰掛けた。
左隣のスツールに座ってハイファはシドの端正な横顔を眺める。
「何、飲みたいの?」
「少しな。任務完遂前祝いだ」
「そっか。じゃあ、僕はスプリッツァーで」
「俺はジントニック、濃いめで」
バーテンにリモータリンクでクレジットを支払うと、すぐに冷えたグラスが出される。二人は軽くグラスを持ち上げ乾杯してから口をつけた。
「ん、冷たくて美味しい……っと、すみません」
ハイファの左隣に座った男と肘がぶつかったのだ。だが先程まで空いていた席に陣取ったのは男ばかりが四人、他にも席は空いている以上、何かの意図を感じさせるには充分である。
案の定、下卑た笑いが聞こえてきた。
「両方ドえらい美人だが、余計なブツがついてやがるみてぇだなあ」
「でも分からねぇぞ、女より具合がいいかも知れねぇ」
「おおっ、怒ったのかい? 食いちぎりそうな目ぇしやがったぞ」
「上は危ねぇなあ、咥えさせるなら下じゃねぇと」
四人が四人ともに見た目は何処かの三下以下だった。着崩れたイタリアンスーツにゴールドチェーン、リモータもギラギラしている。彼らの下らない話をBGMに、シドとハイファは黙って二杯ずつ飲んでから腰を上げた。
こんな輩は相手にするだけ無駄である。さっさと部屋に帰ろうとした。しかし男の一人がハイファの長いしっぽを掴むなどという所業に出ると、シドはひとこと言わずにいられない。
「その薄汚い手を離せ」
ひとことだけで手を離さなかった男は不幸でしかなかった。シドは男の手を逆手に取ると、逮捕術の要領で腕を捻り上げたのだ。咄嗟に逆らった男は肩関節を外されて大仰に呻く。
けれどシドはもうチンピラの相手に飽きかけていた。男の腕を突き放す。
「ふん。これ以上触るとバカが伝染しそうだぜ」
「そうだね、部屋に戻ったら手洗いとうがいしなくちゃ」
テーブル席の方から忍び笑いが聞こえ、馬鹿にされたチンピラたちが立ち上がった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
魔法使いと子猫の京ドーナツ~謎解き風味でめしあがれ~
橘花やよい
キャラ文芸
京都嵐山には、魔法使い(四分の一)と、化け猫の少年が出迎えるドーナツ屋がある。おひとよしな魔法使いの、ほっこりじんわり物語。
☆☆☆
三上快はイギリスと日本のクォーター、かつ、魔法使いと人間のクォーター。ある日、経営するドーナツ屋の前に捨てられていた少年(化け猫)を拾う。妙になつかれてしまった快は少年とともに、客の悩みに触れていく。人とあやかし、一筋縄ではいかないのだが。
☆☆☆
あやかし×お仕事(ドーナツ屋)×ご当地(京都)×ちょっと謎解き×グルメと、よくばりなお話、完結しました!楽しんでいただければ幸いです。
感想は基本的に全体公開にしてあるので、ネタバレ注意です。
覚醒呪伝-カクセイジュデン-
星来香文子
キャラ文芸
あの夏の日、空から落ちてきたのは人間の顔だった————
見えてはいけないソレは、人間の姿を装った、怪異。ものの怪。妖怪。
祖母の死により、その右目にかけられた呪いが覚醒した時、少年は“呪受者”と呼ばれ、妖怪たちから追われる事となる。
呪いを解くには、千年前、先祖に呪いをかけた“呪掛者”を完全に滅するしか、方法はないらしい————
宇宙人の憂鬱
こみつ
ライト文芸
小中学生時代にいじめられっ子だった魚子。他人からは変人扱いされて、人と違った感性だとのけ者にされてきた少女。大人になってからは、それでも虐めの傷を負いつつ生きていた。
そんなときに、勤務先の会社事務所で、幽霊のルクスと出会う。
彼女も壮絶ないじめによって、命を落としたのだと聞かされて、親近感を覚える。
ルクスは、魚子を守るためにこの世に戻って来たのだという。
不思議な事件に巻き込まれてゆく魚子。ルクスと魚子の二人の冒険が、今始まる!
SFやホラーの要素も入ってきます。
幽霊美少女と23歳女子の日常と、冒険、そして戦いの日々をご覧ください!
下宿屋 東風荘 4
浅井 ことは
キャラ文芸
下宿屋 東風荘4
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..
大きくなった下宿に総勢20人の高校生と大学生が入ることになり、それを手伝いながら夜間の学校に通うようになった雪翔。
天狐の義父に社狐の継母、叔父の社狐の那智に祖父母の溺愛を受け、どんどん甘やかされていくがついに反抗期____!?
ほのぼの美味しいファンタジー。
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:..
表紙・挿絵:深月くるみ様
イラストの無断転用は固くお断りさせて頂いております。
☆マークの話は挿絵入りです。
叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧Ver
Tempp
ホラー
大学1年の春休み、公理智樹から『呪いの家に付き合ってほしい』というLIMEを受け取る。公理智樹は強引だ。下手に断ると無理やり呪いの家に放りこまれるかもしれない。それを避ける妥協策として、家の前まで見に行くという約束をした。それが運の悪い俺の運の尽き。
案の定俺は家に呪われ、家にかけられた呪いを解かなければならなくなる。
●概要●
これは呪いの家から脱出するために、都合4つの事件の過去を渡るホラーミステリーです。認識差異をベースにした構成なので多分に概念的なものを含みます。
文意不明のところがあれば修正しますので、ぜひ教えてください。
●改稿中
見出しにサブ見出しがついたものは公開後に改稿をしたものです。
2日で1〜3話程度更新。
もともと32万字完結を22万字くらいに減らしたい予定。
R15はGの方です。人が死ぬので。エロ要素は基本的にありません。
定期的にホラーカテゴリとミステリカテゴリを行ったり来たりしてみようかと思ったけど、エントリの時点で固定されたみたい。
vaccana。
三石一枚
キャラ文芸
「ねえ知ってる? 最近でるらしいよ?」
――吸血鬼――。白皮症、血液嫌い、大妄想持ちの女子高校生、出里若菜は克服しきれない朝の眩惑的騒々しさの中で、親友から今更ながらの情報を小耳に入れる。
吸血鬼が現れる。なんでも、ここ最近の夜間に発生する傷害事件は、おとぎ話でしか存在を聞いたことがない、そんな化け物が引き起こしているらしい、という情報である。
噂に種はなかった。ただ、噂になるだけの事象ではあった。同時に面白いがために、そうやって持ち上げられた。出里若菜はそう思う。噂される化け物らは、絵本に厳重に封をされている。加えて串刺し公の異名を持つブラド・ツェペシュも結局人の域を出なかった。
この化け物も結局噂の域を出ない伝説なのだ。出里若菜はそう決め込んでいた。
あの光景をみるまでは。
※流血表現、生生しい描写、という要素が含まれております。
ご注意ください。
※他サイト様にも掲載させていただいてます。
妖狐
ねこ沢ふたよ
キャラ文芸
妖狐の話です。(化け狐ですので、ウチの妖狐達は、基本性別はありません。)
妖の不思議で捉えどころのない人間を超えた雰囲気が伝われば嬉しいです。
妖の長たる九尾狐の白金(しろがね)が、弟子の子狐、黄(こう)を連れて、様々な妖と対峙します。
【社】 その妖狐が弟子を連れて、妖術で社に巣食う者を退治します。
【雲に梯】 身分違いの恋という意味です。街に出没する妖の話です。<小豆洗い・木花咲夜姫>
【腐れ縁】 山猫の妖、蒼月に白金が会いにいきます。<山猫> 挿絵2022/12/14
【件<くだん>】 予言を得意とする妖の話です。<件>
【喰らう】 廃病院で妖魔を退治します。<妖魔・雲外鏡>
【狐竜】 黄が狐の里に長老を訪ねます。<九尾狐(白金・紫檀)・妖狐(黄)>
【狂信】 烏天狗が一羽行方不明になります。見つけたのは・・・。<烏天狗>
【半妖<はんよう>】薬を届けます。<河童・人面瘡>
【若草狐<わかくさきつね>】半妖の串本の若い時の話です。<人面瘡・若草狐・だいだらぼっち・妖魔・雲外鏡>
【狒々<ひひ>】若草と佐次で狒々の化け物を退治します。<狒々>
【辻に立つ女】辻に立つ妖しい夜鷹の女 <妖魔、蜘蛛女、佐門>
【幻術】幻術で若草が騙されます<河童、佐門、妖狐(黄金狐・若草狐)>
【妖魔の国】佐次、復讐にいきます。<妖魔、佐門、妖狐(紫檀狐)>
【母】佐門と対決しています<ガシャドクロ、佐門、九尾狐(紫檀)>
【願い】紫檀無双、佐次の策<ガシャドクロ、佐門、九尾狐(紫檀)>
【満願】黄の器の穴の話です。<九尾狐(白金)妖狐(黄)佐次>
【妖狐の怒り】【縁<えにし>】【式神】・・・対佐門バトルです。
【狐竜 紫檀】佐門とのバトル終了して、紫檀のお仕事です。
【平安】以降、平安時代、紫檀の若い頃の話です。
<黄金狐>白金、黄金、蒼月の物語です。
【旅立ち】
※気まぐれに、挿絵を足してます♪楽しませていただいています。
※絵の荒さが気にかかったので、一旦、挿絵を下げています。
もう少し、綺麗に描ければ、また上げます。
2022/12/14 少しずつ改良してあげています。多少進化したはずですが、また気になる事があれば下げます。迷走中なのをいっそお楽しみください。ううっ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる