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第7話・公僕時代の制服外出禁止令を思ふ
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半月ほど前から始まったロニアマフィアによるテラ本星の惑星警察に対するテロは、既に六件を数えていた。ネオニューヨークやブラジリアシティ、その他大都市の惑星警察を狙ったテロは、爆発物を使用し二桁に上る死傷者を出したものから、先程ここが舞台になったカチコミレヴェルのものまで様々である。
そしてどれもロニアマフィアのシノギを潰した実績のある部署がテロの被害に遭っているという共通点があった。それなのに事前に食い止められなかった惑星警察を、ニュースではナントカいう解説者がこきおろしている。
そんな事象には慣れきっているものの、刑事たちは溜息をつかずにはいられない。
「この分だと武器携帯許可も近いな。制服組は却って危ないぞ」
「警備部辺りはもう大騒ぎ、武装は実施したって聞いたぞ」
「増員でウチの課に回ってくるのも時間の問題だなあ」
カードに熱中しつつも他人事ではなく、幹部たちは事件について話している。
ヒマに飽かせてシドとハイファが眺めるTVのニュースでは、次にトピックスとしてここ最近激化しているロニアマフィアの抗争をリポートしていた。
「派手なのはテラ本星の警察署ツアーだけじゃねぇのか」
「手投げ弾にロケット砲、時限爆弾にファミリーのドンを遠距離狙撃……戦争並みだね」
「戦争並みっつーか、もう戦争そのものだな」
呟くように言ったシドは興味を失くしたか、自分のデスクに戻りかける。勿論、ハイファも追った。そこで同時にシドとハイファも気付く。ホロTVが耳につく独特の音を流したのだ。いわゆるニュース速報というヤツである。シドは伸び上がり、ハイファは抜群の視力でTV画面を注視した。
《セントラル三分署に武装集団が攻撃を仕掛け、複数の怪我人が出ている模様》
一番近くのデスクにシドが飛びつき、端末を立ち上げた。捜査戦術コンのドラグネットを介して事実関係を探るも、まだ何もアップされていない。
このセントラルエリアは官庁街を中心として、ケーキを切るように放射状に一分署から八分署まで管轄分けされている。他署とはいえ三分署にもシドの知り合いが多数いるのだ。
「くそう、またカチコミかよ!」
ジリジリとしながら何度も更新させ続ける。その手を宥めるようにハイファが叩いた。
と、多機能デスクに一報が入ったらしい。ヴィンティス課長が声を発した。
「武装集団は八名、全員がハンドガンと手投げ弾で武装。狙われたのは捜査二課、同課に立て篭もり中、現時点で惑星警察側に重傷者が四名。集団はロニアマフィアだと思われる」
捜査二課は詐欺や汚職などの知能犯罪専門課だ。
「何でロニアマフィアが捜二に報復なんだ?」
暢気にヨシノ警部が首を捻る。そこでハイファがシドと交代してホロキィボードを操作し、ドラグネットを更に深く探った。一緒に覗き込んだシドがディスプレイを指差す。
「ニセID密売グループの摘発、これじゃねぇか?」
「ええと……三分署管内の歓楽街で安価な偽造IDを売っていたグループを捜二が一週間前に一斉検挙、たぶんこれでビンゴだよ」
「偽造IDのホシはビューラーファミリーの中堅幹部以下六名、既に検察送致済みか」
まもなく続報が入り、三分署にカチコミした八名中五名を射殺逮捕、残り三名を狙撃逮捕という結果がもたらされた。生き残った三名は病院送りとなるも、やはりビューラーファミリーの構成員だという情報を課長が受ける。
続けてホロTVのニュースでは、似たようなロニアマフィアによる犯行がネオロンドンの大型合法ドラッグ店に於いても発生したと伝えていた。
「へえ、ターゲットは警察署だけじゃないんだね」
「シノギの邪魔するヤツを片っ端から殺るってか。チクショウ、ふざけすぎだぜ」
怒りに切れ長の黒い目を煌めかせながらシドは空の紙コップを握り潰し、ダストボックスに叩き捨てる。自分好みの刑事の眼を見つめながらハイファは薄く笑う。
「まるでテラ連邦と相似形みたいじゃない?」
「何でマフィアとテラが相似形なんだよ?」
「『シノギの邪魔するヤツを片っ端から……』、テラもやってることだよ」
スナイパーだったハイファは別室でも数多くスナイプでの暗殺を遂行してきた。それはシドも知っている。知っているどころか、別室任務に於いてシド自身もスナイパーの補助であるスポッタとして、ともにスナイプをこなしてきたのだ。
だがそれとこれとは話が違う。違うと思いたかった。
「お前それ、あんまり大声で言うなよな」
「分かってる、貴方だから言ってるの」
「だからって刑事の耳は地獄耳って、いつもお前が言ってるじゃねぇか」
半分冗談めかして言ったものの、ハイファの薄い笑いが妙に淋しそうに見えて、肩を抱いてやりたくなったが、それこそ皆の前でそんなことはできない。
何となく気を削がれたのと『テラと相似形』が頭に残って、皆から離れるとデスクに戻り椅子に掛けていた対衝撃ジャケットを手に取る。そしてさりげなくオートドアへと向かうと、トイレにでも行くような顔をして出て行った。
勿論ハイファもシドを追ったが目的地はトイレではない。ロビーを横切ってエントランスを抜ける。
まんまと離脱に成功したシドは外でハイファを待っていた。
そしてどれもロニアマフィアのシノギを潰した実績のある部署がテロの被害に遭っているという共通点があった。それなのに事前に食い止められなかった惑星警察を、ニュースではナントカいう解説者がこきおろしている。
そんな事象には慣れきっているものの、刑事たちは溜息をつかずにはいられない。
「この分だと武器携帯許可も近いな。制服組は却って危ないぞ」
「警備部辺りはもう大騒ぎ、武装は実施したって聞いたぞ」
「増員でウチの課に回ってくるのも時間の問題だなあ」
カードに熱中しつつも他人事ではなく、幹部たちは事件について話している。
ヒマに飽かせてシドとハイファが眺めるTVのニュースでは、次にトピックスとしてここ最近激化しているロニアマフィアの抗争をリポートしていた。
「派手なのはテラ本星の警察署ツアーだけじゃねぇのか」
「手投げ弾にロケット砲、時限爆弾にファミリーのドンを遠距離狙撃……戦争並みだね」
「戦争並みっつーか、もう戦争そのものだな」
呟くように言ったシドは興味を失くしたか、自分のデスクに戻りかける。勿論、ハイファも追った。そこで同時にシドとハイファも気付く。ホロTVが耳につく独特の音を流したのだ。いわゆるニュース速報というヤツである。シドは伸び上がり、ハイファは抜群の視力でTV画面を注視した。
《セントラル三分署に武装集団が攻撃を仕掛け、複数の怪我人が出ている模様》
一番近くのデスクにシドが飛びつき、端末を立ち上げた。捜査戦術コンのドラグネットを介して事実関係を探るも、まだ何もアップされていない。
このセントラルエリアは官庁街を中心として、ケーキを切るように放射状に一分署から八分署まで管轄分けされている。他署とはいえ三分署にもシドの知り合いが多数いるのだ。
「くそう、またカチコミかよ!」
ジリジリとしながら何度も更新させ続ける。その手を宥めるようにハイファが叩いた。
と、多機能デスクに一報が入ったらしい。ヴィンティス課長が声を発した。
「武装集団は八名、全員がハンドガンと手投げ弾で武装。狙われたのは捜査二課、同課に立て篭もり中、現時点で惑星警察側に重傷者が四名。集団はロニアマフィアだと思われる」
捜査二課は詐欺や汚職などの知能犯罪専門課だ。
「何でロニアマフィアが捜二に報復なんだ?」
暢気にヨシノ警部が首を捻る。そこでハイファがシドと交代してホロキィボードを操作し、ドラグネットを更に深く探った。一緒に覗き込んだシドがディスプレイを指差す。
「ニセID密売グループの摘発、これじゃねぇか?」
「ええと……三分署管内の歓楽街で安価な偽造IDを売っていたグループを捜二が一週間前に一斉検挙、たぶんこれでビンゴだよ」
「偽造IDのホシはビューラーファミリーの中堅幹部以下六名、既に検察送致済みか」
まもなく続報が入り、三分署にカチコミした八名中五名を射殺逮捕、残り三名を狙撃逮捕という結果がもたらされた。生き残った三名は病院送りとなるも、やはりビューラーファミリーの構成員だという情報を課長が受ける。
続けてホロTVのニュースでは、似たようなロニアマフィアによる犯行がネオロンドンの大型合法ドラッグ店に於いても発生したと伝えていた。
「へえ、ターゲットは警察署だけじゃないんだね」
「シノギの邪魔するヤツを片っ端から殺るってか。チクショウ、ふざけすぎだぜ」
怒りに切れ長の黒い目を煌めかせながらシドは空の紙コップを握り潰し、ダストボックスに叩き捨てる。自分好みの刑事の眼を見つめながらハイファは薄く笑う。
「まるでテラ連邦と相似形みたいじゃない?」
「何でマフィアとテラが相似形なんだよ?」
「『シノギの邪魔するヤツを片っ端から……』、テラもやってることだよ」
スナイパーだったハイファは別室でも数多くスナイプでの暗殺を遂行してきた。それはシドも知っている。知っているどころか、別室任務に於いてシド自身もスナイパーの補助であるスポッタとして、ともにスナイプをこなしてきたのだ。
だがそれとこれとは話が違う。違うと思いたかった。
「お前それ、あんまり大声で言うなよな」
「分かってる、貴方だから言ってるの」
「だからって刑事の耳は地獄耳って、いつもお前が言ってるじゃねぇか」
半分冗談めかして言ったものの、ハイファの薄い笑いが妙に淋しそうに見えて、肩を抱いてやりたくなったが、それこそ皆の前でそんなことはできない。
何となく気を削がれたのと『テラと相似形』が頭に残って、皆から離れるとデスクに戻り椅子に掛けていた対衝撃ジャケットを手に取る。そしてさりげなくオートドアへと向かうと、トイレにでも行くような顔をして出て行った。
勿論ハイファもシドを追ったが目的地はトイレではない。ロビーを横切ってエントランスを抜ける。
まんまと離脱に成功したシドは外でハイファを待っていた。
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