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第31話
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コーヒーをがぶ飲みし溜息をつく二人に構わずハイファは優雅に香りを愉しんだ。
いじめるのはこのくらいにしようと、コーヒーを飲み干して腰を上げる。
片手しか利かないマルチェロ医師のトレイもハイファが自分の分と重ねて持ち、返却して食堂の出入り口に向かったとき、食堂内に放送が響き渡った。
《緊急、緊急。敵機が三機接近中。あと三分三十秒で街に侵入。要員は第一級戦闘態勢を取れ。街の者は可能な限り宙艦内へと避難せよ。繰り返す――》
響き続けるライナスの声に三人は鋭く視線を交わした。食堂内の黒い戦闘服の者たちが出入り口に殺到する。
出入り口が多少空くのを待ちながらシドはハイファに首を傾げてみせる。
「何で精確な到着時刻まで分かるんだ?」
「これだけの技術があれば、MCSやGPSのルックダウンレーダー情報をハックするくらい簡単だと思うよ」
「なるほど。敵機って連絡艇、三機もか?」
「さあ。あの大型連絡艇が三機もランディング可能なポイントなんかあったっけ?」
「街の入り口手前で人員を降ろすとして三機、多ければ百五十人か。ヤバいな」
「ヤバいも何もそんな大人数で夜間戦闘なんて軍でもないのに馬鹿げてるよ。指揮命令系統がズタズタになってバトルロイヤルになっちゃうから」
「そこまでスティールは馬鹿じゃねぇだろ」
「だってここには急襲の可能な戦闘BELなんて一機もないんだよ?」
「うんにゃ、BELはないこともないぞ」
シドとハイファはマルチェロ医師を振り返った。
「開発ベースのティアⅠ、あそこの一棟は一階が格納庫でな。地ならし用の破砕弾をバラ撒くBELが二機残ってた。怪我人の緊急輸送で使ったことがあるんで確実だ」
「破砕弾……攻撃BELの改造型、それかも!」
「ハイファ、ライナスに発振……は、無理か。チクショウ、行くぞ!」
三人は食堂の外の廊下へと走ったがオーターは既に使われたらしく、見渡しても乗り物は何処にもない。仕方なく食堂へと駆け戻るとシドは居残っていたTシャツにサンダル履きの若い金髪男をいきなり指差した。
「そこのお前、エアロックまで案内しろ!」
「えっ、あっ、そんな……はい」
今度はサンダル男を先頭に食堂を走り出る。
「一機が連絡艇、二機が攻撃BELの可能性か」
三角巾を投げ捨てて走るマルチェロ医師にハイファが訊いた。
「今まで夜間戦闘は?」
「俺の知る限りでは、まだねぇな」
「そっか、危ないなあ」
「危ないで済みゃいいけどな。こっちのヘリも上げさせねぇと」
「BELはマッハ二超、ドッグファイトじゃ勝負にならないよ。地上掃射させるっていうなら分かるけどね」
「こっち、オーターありましたっ!」
角を曲がったサンダル男がオーターを発見し三人は飛び乗った。そのまま駆け去ろうとするサンダル男の襟首を掴み、シドがオーターに引きずり込む。
「早くエアロックに持って行け!」
「ああ、はい……これを押せばオートで行きます。じゃあ!」
「も少し乗っとけ!」
走り出したオーターは廊下を曲がり、暫く走ってエレベーターに乗る。
「今までにここを直接叩かれたことはあるのか?」
「あ、う、不可侵条約があって、初めてです」
「大体、アリサやルディが戦闘要員で何でお前はメシ食ってんだよ?」
シドの質問はサンダル男の気分を害したようだった。途端に険しい顔つきになる。
「それぞれが役目を担ってるんです。ここまで減っては誰一人として無駄はいない」
「それじゃあ貴方の役目って何なのかな?」
「護ること、です。それでも最後となれば戦いますよ」
「それって何を護ってるの?」
「……システムを」
それ以上は何を訊いてもサンダル男は黙秘を続けた。
「もう三分半、過ぎたよ……きた!」
宙艦の上に岩石でも降ってきたような音が外殻を伝わってきた。だがこの宙艦は桁外れの巨大さ、すぐさま命の危険に繋がりそうな気はしない。
そう全員が思っていたらエレベーターが上昇するにつれ鼓膜を震わす程度の音が徐々に大きくなり、腹の底にまで響きだす。
「破砕弾ってどんなだよ!」
「知らないよ!」
「百聞は一見にしかずだ、お前さんらは見てこい」
エレベーターが停止しオートドアが開く。
エアロックまでの広い通路は何台も停められたオーターで狭くなった上に出て行こうとする黒い戦闘服と、避難してきた人々が入り乱れて大変な混みようだった。そんな中で急に人混みが割れて道ができ、自らの脚で立てない怪我人が運ばれてくる。
「どいてくれ! オーター、医務室まで頼む!」
何かの破片を食らった殆ど意識のない女性が両手で押さえた腹は血塗れだった。
「時間的に連絡艇組の銃撃じゃなさそうだけど」
「破砕弾とやらの飛散物でやられたのかもな」
敵の狙いは徹底的に宙艦のようで振動は絶え間なく続いている。その宙艦を中心に人が出入りしているのだ、続けざまに怪我人が搬送されてくる結果となっていた。
誰もが医療知識を持っていてもその誰もが初めての事態に戸惑っている。
怪我人を二人積んだオーターにマルチェロ医師が乗り込んだ。
「俺は俺の戦場に行くからな、お前さんらも気をつけろよ……出せ!」
いじめるのはこのくらいにしようと、コーヒーを飲み干して腰を上げる。
片手しか利かないマルチェロ医師のトレイもハイファが自分の分と重ねて持ち、返却して食堂の出入り口に向かったとき、食堂内に放送が響き渡った。
《緊急、緊急。敵機が三機接近中。あと三分三十秒で街に侵入。要員は第一級戦闘態勢を取れ。街の者は可能な限り宙艦内へと避難せよ。繰り返す――》
響き続けるライナスの声に三人は鋭く視線を交わした。食堂内の黒い戦闘服の者たちが出入り口に殺到する。
出入り口が多少空くのを待ちながらシドはハイファに首を傾げてみせる。
「何で精確な到着時刻まで分かるんだ?」
「これだけの技術があれば、MCSやGPSのルックダウンレーダー情報をハックするくらい簡単だと思うよ」
「なるほど。敵機って連絡艇、三機もか?」
「さあ。あの大型連絡艇が三機もランディング可能なポイントなんかあったっけ?」
「街の入り口手前で人員を降ろすとして三機、多ければ百五十人か。ヤバいな」
「ヤバいも何もそんな大人数で夜間戦闘なんて軍でもないのに馬鹿げてるよ。指揮命令系統がズタズタになってバトルロイヤルになっちゃうから」
「そこまでスティールは馬鹿じゃねぇだろ」
「だってここには急襲の可能な戦闘BELなんて一機もないんだよ?」
「うんにゃ、BELはないこともないぞ」
シドとハイファはマルチェロ医師を振り返った。
「開発ベースのティアⅠ、あそこの一棟は一階が格納庫でな。地ならし用の破砕弾をバラ撒くBELが二機残ってた。怪我人の緊急輸送で使ったことがあるんで確実だ」
「破砕弾……攻撃BELの改造型、それかも!」
「ハイファ、ライナスに発振……は、無理か。チクショウ、行くぞ!」
三人は食堂の外の廊下へと走ったがオーターは既に使われたらしく、見渡しても乗り物は何処にもない。仕方なく食堂へと駆け戻るとシドは居残っていたTシャツにサンダル履きの若い金髪男をいきなり指差した。
「そこのお前、エアロックまで案内しろ!」
「えっ、あっ、そんな……はい」
今度はサンダル男を先頭に食堂を走り出る。
「一機が連絡艇、二機が攻撃BELの可能性か」
三角巾を投げ捨てて走るマルチェロ医師にハイファが訊いた。
「今まで夜間戦闘は?」
「俺の知る限りでは、まだねぇな」
「そっか、危ないなあ」
「危ないで済みゃいいけどな。こっちのヘリも上げさせねぇと」
「BELはマッハ二超、ドッグファイトじゃ勝負にならないよ。地上掃射させるっていうなら分かるけどね」
「こっち、オーターありましたっ!」
角を曲がったサンダル男がオーターを発見し三人は飛び乗った。そのまま駆け去ろうとするサンダル男の襟首を掴み、シドがオーターに引きずり込む。
「早くエアロックに持って行け!」
「ああ、はい……これを押せばオートで行きます。じゃあ!」
「も少し乗っとけ!」
走り出したオーターは廊下を曲がり、暫く走ってエレベーターに乗る。
「今までにここを直接叩かれたことはあるのか?」
「あ、う、不可侵条約があって、初めてです」
「大体、アリサやルディが戦闘要員で何でお前はメシ食ってんだよ?」
シドの質問はサンダル男の気分を害したようだった。途端に険しい顔つきになる。
「それぞれが役目を担ってるんです。ここまで減っては誰一人として無駄はいない」
「それじゃあ貴方の役目って何なのかな?」
「護ること、です。それでも最後となれば戦いますよ」
「それって何を護ってるの?」
「……システムを」
それ以上は何を訊いてもサンダル男は黙秘を続けた。
「もう三分半、過ぎたよ……きた!」
宙艦の上に岩石でも降ってきたような音が外殻を伝わってきた。だがこの宙艦は桁外れの巨大さ、すぐさま命の危険に繋がりそうな気はしない。
そう全員が思っていたらエレベーターが上昇するにつれ鼓膜を震わす程度の音が徐々に大きくなり、腹の底にまで響きだす。
「破砕弾ってどんなだよ!」
「知らないよ!」
「百聞は一見にしかずだ、お前さんらは見てこい」
エレベーターが停止しオートドアが開く。
エアロックまでの広い通路は何台も停められたオーターで狭くなった上に出て行こうとする黒い戦闘服と、避難してきた人々が入り乱れて大変な混みようだった。そんな中で急に人混みが割れて道ができ、自らの脚で立てない怪我人が運ばれてくる。
「どいてくれ! オーター、医務室まで頼む!」
何かの破片を食らった殆ど意識のない女性が両手で押さえた腹は血塗れだった。
「時間的に連絡艇組の銃撃じゃなさそうだけど」
「破砕弾とやらの飛散物でやられたのかもな」
敵の狙いは徹底的に宙艦のようで振動は絶え間なく続いている。その宙艦を中心に人が出入りしているのだ、続けざまに怪我人が搬送されてくる結果となっていた。
誰もが医療知識を持っていてもその誰もが初めての事態に戸惑っている。
怪我人を二人積んだオーターにマルチェロ医師が乗り込んだ。
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