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第31話
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「サムソン=レパードだ、サムソンでいい。キリシマくん」
「私は霧島、こっちは鳴海でいい。サムソン、ここの警察機構はどうなっている?」
「法的にはユラルト王国に準ずるが、実質、我々監視局員が司法警察権を持つ」
「そうか。では、この五人を撃った私はどうなるんだ?」
サムソンは室内を見回し、監視局と携帯連絡してから霧島に向き直った。
「どうもこうもないな、完全に正当防衛だ。好きにするといい……と、言いたいが」
「何だ、無罪放免ではないのか?」
「このアール島に申告せず銃を持ち込んだところまではギリギリの線だ。だが相手が密猟者とはいえ発砲した事実は厳密に言えばペナルティものだ。ここは一般人の銃所持を認めていない。ああ、分かってる、あんたらが銃に関して政府のお墨付きを持ってるのは。だがユラルト政府はともかくここアールで前例を作る訳にはいかない」
「確かに訳アリでも一例を許せば、動物の楽園もなし崩し的に単なる猟場だな」
「理解頂けて有難い。ということで、もしもキリシマ、あんたがここにまだ留まるつもりなら本部から出ないで貰いたい。今回のサファリツアーは諦めてくれ」
「ふ……ん。分かった。寛大な処遇に感謝する」
暢気に喋るのはここまでだ。
喩え密猟者であっても怪我人になった以上は本部に移送するのが先決で、動ける男全員で痛みに呻く六人を外に引きずり出した。
外には京哉たちが乗ってきた小型ヘリよりキャパシティの大きい中型ヘリが停まっていて、足も速いそちらに怪我を負った六人と二人の死体は乗せられ先にテイクオフする。
残る京哉はコ・パイ席、サムソンがパイロット席を占め、後部に瑞樹を挟み霧島と女性局員が座った。パイロットのサムソンが小型ヘリを舞い上がらせて宣言する。
「到着時刻は二時五十分の予定」
「あっ! そういや一時間半も掛かるんだっけ」
「どうかしたのか、京哉?」
「二十時頃からニコチン補給してない気が……」
そこで何処までも京哉に甘い霧島がパイロットに持ちかけた。
「密猟者を六人生かして捕らえたご褒美だ、京哉に一本吸わせてやってもいいか?」
「構わないさ。俺の一存でこの機は今から喫煙機だ」
「わあ、サムソン素敵!」
「そう持ち上げなくてもいい、俺も共犯者を探してたところだからな」
パイロットとコ・パイロットの二人が紫煙を漂わせる中、霧島がサムソンに訊く。
「ところでサムソン、あんたは監視局で何をしているんだ?」
「俺か? 俺はアール監視局の副局長だが」
通訳された京哉が振り向いてサムソンを見た。
「えっ、そんなに偉い人なんですか?」
「そこまで驚くほど俺は軽薄に見えるのか?」
「軽薄とまでは言わないけど、うーん」
「持ち上げたかと思うと突き落とす。あんたらは俺をからかいにここに来たのか?」
それには応えず、霧島は身を乗り出すとサムソンに向かって更に訊いた。
「サムソン、あんたは元軍人か?」
「ほう。軍を辞めてから結構経つが見破られるとはな」
「自覚していなければ重症だぞ。何処にいたんだ?」
「これでも某大国のグリーンカードも持っている。海兵隊にいたんだ」
「ならば日本の自衛隊も多少知っているな。そこには調別というのがあってだな」
「ちょっ、忍さん、そんなことまで!」
京哉は慌てたが霧島は何処吹く風だ。実際、誰に口止めされている訳でもない。そのままスルスルと今回の特別任務のことや某国の機密メモリの存在も喋ってしまう。
「ということでハシビロコウのアーヴィンを捕まえなければならないんだ」
じっと黙って聞いていたサムソン=レパードは堪えきれずにとうとう吹き出した。ヘイゼルの瞳に涙まで浮かべている。ツボったらしい。
「あの経済大国がハシビロコウを巡り某国エージェントの、謀略……はっはっは!」
と、しこたま笑っておいて、突然真顔になった。
「バカじゃないのか、何処もここも」
「ああ、私もそう思う。それはともかく協力してくれないか?」
「俺にもハシビロコウ捕獲作戦に加われというのか?」
「抜ける私の分を埋めてくれればいい。瑞樹の護衛と、あとほんの少しだけでいい、瑞樹にこのアール島の動物たちを見せてやって欲しい」
後部座席で俯いていた瑞樹が顔を上げる。
「そういうことか、いいだろう。どうせ閑職でやってる何でも屋だからな」
「有難い、礼は先払いしたからな」
雑談をしながら買い込んだコーヒーなどを飲んでいる一時間半はすぐだった。
本部ビルの屋上駐機場にランディングすると京哉の勢いとサムソンの勧めで、すぐさま霧島は二十一階の医務室送りとなった。
六人の応急処置をして本土に送ったばかりの当番医に霧島は早速レントゲンを撮られた。
「私は霧島、こっちは鳴海でいい。サムソン、ここの警察機構はどうなっている?」
「法的にはユラルト王国に準ずるが、実質、我々監視局員が司法警察権を持つ」
「そうか。では、この五人を撃った私はどうなるんだ?」
サムソンは室内を見回し、監視局と携帯連絡してから霧島に向き直った。
「どうもこうもないな、完全に正当防衛だ。好きにするといい……と、言いたいが」
「何だ、無罪放免ではないのか?」
「このアール島に申告せず銃を持ち込んだところまではギリギリの線だ。だが相手が密猟者とはいえ発砲した事実は厳密に言えばペナルティものだ。ここは一般人の銃所持を認めていない。ああ、分かってる、あんたらが銃に関して政府のお墨付きを持ってるのは。だがユラルト政府はともかくここアールで前例を作る訳にはいかない」
「確かに訳アリでも一例を許せば、動物の楽園もなし崩し的に単なる猟場だな」
「理解頂けて有難い。ということで、もしもキリシマ、あんたがここにまだ留まるつもりなら本部から出ないで貰いたい。今回のサファリツアーは諦めてくれ」
「ふ……ん。分かった。寛大な処遇に感謝する」
暢気に喋るのはここまでだ。
喩え密猟者であっても怪我人になった以上は本部に移送するのが先決で、動ける男全員で痛みに呻く六人を外に引きずり出した。
外には京哉たちが乗ってきた小型ヘリよりキャパシティの大きい中型ヘリが停まっていて、足も速いそちらに怪我を負った六人と二人の死体は乗せられ先にテイクオフする。
残る京哉はコ・パイ席、サムソンがパイロット席を占め、後部に瑞樹を挟み霧島と女性局員が座った。パイロットのサムソンが小型ヘリを舞い上がらせて宣言する。
「到着時刻は二時五十分の予定」
「あっ! そういや一時間半も掛かるんだっけ」
「どうかしたのか、京哉?」
「二十時頃からニコチン補給してない気が……」
そこで何処までも京哉に甘い霧島がパイロットに持ちかけた。
「密猟者を六人生かして捕らえたご褒美だ、京哉に一本吸わせてやってもいいか?」
「構わないさ。俺の一存でこの機は今から喫煙機だ」
「わあ、サムソン素敵!」
「そう持ち上げなくてもいい、俺も共犯者を探してたところだからな」
パイロットとコ・パイロットの二人が紫煙を漂わせる中、霧島がサムソンに訊く。
「ところでサムソン、あんたは監視局で何をしているんだ?」
「俺か? 俺はアール監視局の副局長だが」
通訳された京哉が振り向いてサムソンを見た。
「えっ、そんなに偉い人なんですか?」
「そこまで驚くほど俺は軽薄に見えるのか?」
「軽薄とまでは言わないけど、うーん」
「持ち上げたかと思うと突き落とす。あんたらは俺をからかいにここに来たのか?」
それには応えず、霧島は身を乗り出すとサムソンに向かって更に訊いた。
「サムソン、あんたは元軍人か?」
「ほう。軍を辞めてから結構経つが見破られるとはな」
「自覚していなければ重症だぞ。何処にいたんだ?」
「これでも某大国のグリーンカードも持っている。海兵隊にいたんだ」
「ならば日本の自衛隊も多少知っているな。そこには調別というのがあってだな」
「ちょっ、忍さん、そんなことまで!」
京哉は慌てたが霧島は何処吹く風だ。実際、誰に口止めされている訳でもない。そのままスルスルと今回の特別任務のことや某国の機密メモリの存在も喋ってしまう。
「ということでハシビロコウのアーヴィンを捕まえなければならないんだ」
じっと黙って聞いていたサムソン=レパードは堪えきれずにとうとう吹き出した。ヘイゼルの瞳に涙まで浮かべている。ツボったらしい。
「あの経済大国がハシビロコウを巡り某国エージェントの、謀略……はっはっは!」
と、しこたま笑っておいて、突然真顔になった。
「バカじゃないのか、何処もここも」
「ああ、私もそう思う。それはともかく協力してくれないか?」
「俺にもハシビロコウ捕獲作戦に加われというのか?」
「抜ける私の分を埋めてくれればいい。瑞樹の護衛と、あとほんの少しだけでいい、瑞樹にこのアール島の動物たちを見せてやって欲しい」
後部座席で俯いていた瑞樹が顔を上げる。
「そういうことか、いいだろう。どうせ閑職でやってる何でも屋だからな」
「有難い、礼は先払いしたからな」
雑談をしながら買い込んだコーヒーなどを飲んでいる一時間半はすぐだった。
本部ビルの屋上駐機場にランディングすると京哉の勢いとサムソンの勧めで、すぐさま霧島は二十一階の医務室送りとなった。
六人の応急処置をして本土に送ったばかりの当番医に霧島は早速レントゲンを撮られた。
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