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第29話
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そのとき塀の内側で複数の男の怒声が聞こえた。裏口を目前にして走りながら和音が懐のシグを抜く。エセルも倣ってベレッタを手にしたが、酷い眠気と疲労感で愛銃は取り落としそうに重かった。酸素不足か過呼吸か、視界までが灰色のドットで埋まりだす。
裏口が開きチンピラが五人吐き出された。銃口を向けられる。間髪入れずに和音、発砲。暗いながらも一発ずつを右肩にヒットさせる。二秒と掛からぬ五連射でチンピラたちは身を回転させるようにして倒れた。左手でエセルの左手を掴み、倒れた彼らの傍を走り抜ける。
そのとき背後から黒っぽいセダンが猛然と二人に近づいてきた。
「和音、危ない!」
叫びながらエセルはセダンに向けて撃った。ダブルタップは防弾のフロントガラスに弾かれる。左右のウィンドウから突き出された銃は二丁、勘に任せて撃ったが運転席側の一丁を弾き落とすに留まる。前方からもう一台が唸りを上げて現れた。挟まれて二人は止まらざるを得ない。
「和音、アナタだけでも走って。僕が囮になる」
「無理言うな。無茶な作戦に付き合わせちまった、すまん」
「そんな……アナタ独りなら逃げられた筈だよ!」
「いや、今更だ」
ヘッドライトに照らされた中、エセルと背中合わせに立った和音は撃つ意思のないことを示すため、ゆっくり両手を頭上に上げると手の中でくるりと銃を回転させた。トリガガードに小指を引っ掛けてぶら下げる。気配でそれを知ったエセルも肩で息をしながら同様にした。
チンピラたち十余名とガード六名の団体に囲まれて二人は屋敷内へと後戻りさせられ、一階の座敷につれ込まれた。座敷には幹部夕食会の膳が並べられ、長瀬組長と若頭に浜口貸元と石原代貸、他四名の幹部の計八名が勢揃いして待っていた。
廊下に二十名近い手下が控えているからか、捕縛されることなく和音とエセルは幹部たちの前へと引っ立てられていた。座り込んでしまったエセルの前に立ち、和音は八名の幹部たちを端から順に睨みつける。しかし勿論二人の銃は没収されていて、実際には手も足も出ない。
最後に長瀬組長をじっと見据えると、組長は可笑しそうに笑った。
「ふむ、いい目をしているな。夏木経由でタレ込んだのか?」
「何度言わせるんだよ、夏木組とは手を切った」
「ならサツカンか。何処の所属だ?」
「何のことだか分からねぇが、あんたら勘違いしてねぇか?」
「ついさっき、浜口会の本家と事務所にガサが入った。それだけじゃない、銀なし島にもガサ入れだ。今朝暗いうちから海にはサツや海保がうようよしている」
だからどうしたという態度で和音は首を傾げ眉をひそめてみせる。あくまでしらばっくれて切り抜けなければ、今晩中に海に浮かべられるのは必至だ。
「知らんと言い張るか。では何故逃げようとした?」
「見張りまで立てられたんだ、身に迫った危険から逃げるのは人間の本能だろうが」
「なるほど。しかし真っ先に鳥背島にガサが入ったのは、どういうことだ?」
「俺たちが知る訳ねぇだろ、他に誰かタレ込んだ奴でもいるんじゃねぇのか?」
「ほう。ならばその『誰か』の名を挙げて貰おうか」
「チンピラの名前なんか知るもんか」
まだ可笑しそうに笑う組長はそこで若頭に顎で指示をする。若頭は携帯で何処かと連絡を取った。暫しの沈黙ののち、猪口の酒で口を湿らせた組長が再び喋り出す。
「お前たちが名を知らない『誰か』を教えてやろう」
まもなくふすまが開き、手下たちの間から押し出されるようにして一人の男が転がり込んできた。顔を上げたその男はヨシオだった。ピシャンとふすまが閉まる。
「へへっ、兄貴」
「ヨシオ、お前……」
砂を噛んだような思いで和音はヨシオを見た。酷く殴られ蹴られたのだろう、ヨシオの顔は無惨に腫れ上がり、あちこちが切れている。衣服にまで血が付着していた。
つらいだろうに和音とエセルに向かったヨシオは、それでも笑みを浮かべた。
「兄貴たちが、サツにチクる訳、ないっスよねえ?」
「……ああ。お前もだろ、ヨシオ」
「当たり、前じゃ、ないっスか。濡れ衣ってヤツっスよ!」
笑いながら眺めていた組長が自ら腹に差したコルト・ガバメントを抜き出す。そうして銃口を和音とエセルにヨシオの三者に向け、照準をふらふらとブレさせた。
「さて、落とし前はつけなければならん。誰につけて貰うか、よく相談するといい」
言ってシングルアクションの大型拳銃の撃鉄をジャキッと起こす。その音で場違いにも和音は百合の花の首を落としたハサミを思い出していた。この男はまた明日、幽霊画の掛け軸の前で死者に花を手向けるつもりなのだろうか、などと暢気なことまで考える。
それくらい和音は自分の死を意識していなかった。
死を意識していないが故に、こちらに銃口を向けた長瀬組長ではなく、俯いて静かに猪口の酒を口に運ぶ石原代貸へと切れ長の目を向ける。強い視線に気付いて代貸は顔を上げた。
首を傾げた代貸に和音は低い声を投げる。
「浜口にガサが入ったってのに、酒食らってるとはいい度胸だな、おい」
「シャバの水を味わっておかないと、暫くは飲めなくなりそうですから」
「ふん。だがこの期に及んで厄介事を手下に押し付ける気か?」
「何を怒って……ああ、鳥背島の件はすみませんでした。一応マニュアルなので」
「それだけじゃねぇ、あんたが全てのシナリオを書いたんだろ?」
怪訝な顔をした石原代貸は無言で和音に先を促した。
「浜口会だけじゃねぇ、長瀬組のシノギも全て石原代貸、あんたが仕切ってる」
「私が長瀬の組長を差し置いて、そんな……滅相もありません」
「そうか? 浜口貸元どころか長瀬組長すら実質あんたの手下でしかねぇんだろ。違うのか?」
慌てた風に石原代貸は顔の前で手を左右に振ってみせる。
「言うに事欠いて長瀬組長を手下だなんて、何とか言って下さいよ、組長、貸元」
激しい怒りを溜めた和音の切れ長の目に釘付けとなったまま、石原代貸は悪い冗談でも聞いたように困惑して助けを求めた。だが長瀬組長も浜口貸元も黙り込んだままである。手下扱いしたというのに和音には目も向けず、真顔でじっと石原代貸を見つめるのみだ。
しかし和音からようやく視線を外した代貸に見返されると、長瀬組長も浜口貸元も途端に目を泳がせる。代貸は泣きそうな顔をしたがトップ二人は何の言葉も掛けようとしない。
この場の最高責任者にされかけて、とうとう石原代貸は大声を上げた。
「ここで私一人に全部背負わせるなんて酷いじゃないですか!」
泣き言を垂れたのも分かる。浜口会と銀なし島には既に当局のガサが入ったのだ。浜口会幹部として逮捕されるのは既に決定事項、本人が言う通り暫くシャバの水は味わえまい。
おまけに銀なし島では密輸武器弾薬が発見された筈で、長瀬組にだって尻に火が点いたも同然である。ここで全てを押し付けられては堪らないだろう。詰め腹切らされ一人だけ長六四、いわゆる長期刑を食らいムショ暮らしで人生の大半を潰すのは不公平というものだ。
いや、長六四ならまだしも『特別待遇』の処刑が立証されれば死刑も有り得る。
そこで和音は幹部たち八名の顔を順に眺め、歌うような口調で煽った。
「へえ。今度はあんたらが落とし前を誰につけさせるか、相談する番みてぇだな」
裏口が開きチンピラが五人吐き出された。銃口を向けられる。間髪入れずに和音、発砲。暗いながらも一発ずつを右肩にヒットさせる。二秒と掛からぬ五連射でチンピラたちは身を回転させるようにして倒れた。左手でエセルの左手を掴み、倒れた彼らの傍を走り抜ける。
そのとき背後から黒っぽいセダンが猛然と二人に近づいてきた。
「和音、危ない!」
叫びながらエセルはセダンに向けて撃った。ダブルタップは防弾のフロントガラスに弾かれる。左右のウィンドウから突き出された銃は二丁、勘に任せて撃ったが運転席側の一丁を弾き落とすに留まる。前方からもう一台が唸りを上げて現れた。挟まれて二人は止まらざるを得ない。
「和音、アナタだけでも走って。僕が囮になる」
「無理言うな。無茶な作戦に付き合わせちまった、すまん」
「そんな……アナタ独りなら逃げられた筈だよ!」
「いや、今更だ」
ヘッドライトに照らされた中、エセルと背中合わせに立った和音は撃つ意思のないことを示すため、ゆっくり両手を頭上に上げると手の中でくるりと銃を回転させた。トリガガードに小指を引っ掛けてぶら下げる。気配でそれを知ったエセルも肩で息をしながら同様にした。
チンピラたち十余名とガード六名の団体に囲まれて二人は屋敷内へと後戻りさせられ、一階の座敷につれ込まれた。座敷には幹部夕食会の膳が並べられ、長瀬組長と若頭に浜口貸元と石原代貸、他四名の幹部の計八名が勢揃いして待っていた。
廊下に二十名近い手下が控えているからか、捕縛されることなく和音とエセルは幹部たちの前へと引っ立てられていた。座り込んでしまったエセルの前に立ち、和音は八名の幹部たちを端から順に睨みつける。しかし勿論二人の銃は没収されていて、実際には手も足も出ない。
最後に長瀬組長をじっと見据えると、組長は可笑しそうに笑った。
「ふむ、いい目をしているな。夏木経由でタレ込んだのか?」
「何度言わせるんだよ、夏木組とは手を切った」
「ならサツカンか。何処の所属だ?」
「何のことだか分からねぇが、あんたら勘違いしてねぇか?」
「ついさっき、浜口会の本家と事務所にガサが入った。それだけじゃない、銀なし島にもガサ入れだ。今朝暗いうちから海にはサツや海保がうようよしている」
だからどうしたという態度で和音は首を傾げ眉をひそめてみせる。あくまでしらばっくれて切り抜けなければ、今晩中に海に浮かべられるのは必至だ。
「知らんと言い張るか。では何故逃げようとした?」
「見張りまで立てられたんだ、身に迫った危険から逃げるのは人間の本能だろうが」
「なるほど。しかし真っ先に鳥背島にガサが入ったのは、どういうことだ?」
「俺たちが知る訳ねぇだろ、他に誰かタレ込んだ奴でもいるんじゃねぇのか?」
「ほう。ならばその『誰か』の名を挙げて貰おうか」
「チンピラの名前なんか知るもんか」
まだ可笑しそうに笑う組長はそこで若頭に顎で指示をする。若頭は携帯で何処かと連絡を取った。暫しの沈黙ののち、猪口の酒で口を湿らせた組長が再び喋り出す。
「お前たちが名を知らない『誰か』を教えてやろう」
まもなくふすまが開き、手下たちの間から押し出されるようにして一人の男が転がり込んできた。顔を上げたその男はヨシオだった。ピシャンとふすまが閉まる。
「へへっ、兄貴」
「ヨシオ、お前……」
砂を噛んだような思いで和音はヨシオを見た。酷く殴られ蹴られたのだろう、ヨシオの顔は無惨に腫れ上がり、あちこちが切れている。衣服にまで血が付着していた。
つらいだろうに和音とエセルに向かったヨシオは、それでも笑みを浮かべた。
「兄貴たちが、サツにチクる訳、ないっスよねえ?」
「……ああ。お前もだろ、ヨシオ」
「当たり、前じゃ、ないっスか。濡れ衣ってヤツっスよ!」
笑いながら眺めていた組長が自ら腹に差したコルト・ガバメントを抜き出す。そうして銃口を和音とエセルにヨシオの三者に向け、照準をふらふらとブレさせた。
「さて、落とし前はつけなければならん。誰につけて貰うか、よく相談するといい」
言ってシングルアクションの大型拳銃の撃鉄をジャキッと起こす。その音で場違いにも和音は百合の花の首を落としたハサミを思い出していた。この男はまた明日、幽霊画の掛け軸の前で死者に花を手向けるつもりなのだろうか、などと暢気なことまで考える。
それくらい和音は自分の死を意識していなかった。
死を意識していないが故に、こちらに銃口を向けた長瀬組長ではなく、俯いて静かに猪口の酒を口に運ぶ石原代貸へと切れ長の目を向ける。強い視線に気付いて代貸は顔を上げた。
首を傾げた代貸に和音は低い声を投げる。
「浜口にガサが入ったってのに、酒食らってるとはいい度胸だな、おい」
「シャバの水を味わっておかないと、暫くは飲めなくなりそうですから」
「ふん。だがこの期に及んで厄介事を手下に押し付ける気か?」
「何を怒って……ああ、鳥背島の件はすみませんでした。一応マニュアルなので」
「それだけじゃねぇ、あんたが全てのシナリオを書いたんだろ?」
怪訝な顔をした石原代貸は無言で和音に先を促した。
「浜口会だけじゃねぇ、長瀬組のシノギも全て石原代貸、あんたが仕切ってる」
「私が長瀬の組長を差し置いて、そんな……滅相もありません」
「そうか? 浜口貸元どころか長瀬組長すら実質あんたの手下でしかねぇんだろ。違うのか?」
慌てた風に石原代貸は顔の前で手を左右に振ってみせる。
「言うに事欠いて長瀬組長を手下だなんて、何とか言って下さいよ、組長、貸元」
激しい怒りを溜めた和音の切れ長の目に釘付けとなったまま、石原代貸は悪い冗談でも聞いたように困惑して助けを求めた。だが長瀬組長も浜口貸元も黙り込んだままである。手下扱いしたというのに和音には目も向けず、真顔でじっと石原代貸を見つめるのみだ。
しかし和音からようやく視線を外した代貸に見返されると、長瀬組長も浜口貸元も途端に目を泳がせる。代貸は泣きそうな顔をしたがトップ二人は何の言葉も掛けようとしない。
この場の最高責任者にされかけて、とうとう石原代貸は大声を上げた。
「ここで私一人に全部背負わせるなんて酷いじゃないですか!」
泣き言を垂れたのも分かる。浜口会と銀なし島には既に当局のガサが入ったのだ。浜口会幹部として逮捕されるのは既に決定事項、本人が言う通り暫くシャバの水は味わえまい。
おまけに銀なし島では密輸武器弾薬が発見された筈で、長瀬組にだって尻に火が点いたも同然である。ここで全てを押し付けられては堪らないだろう。詰め腹切らされ一人だけ長六四、いわゆる長期刑を食らいムショ暮らしで人生の大半を潰すのは不公平というものだ。
いや、長六四ならまだしも『特別待遇』の処刑が立証されれば死刑も有り得る。
そこで和音は幹部たち八名の顔を順に眺め、歌うような口調で煽った。
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