不自由ない檻

志賀雅基

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尤もらしい『味方』の理由

第19話 

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 緊急車両の現場到着は平均して通報から約8分と何かで読んだことがあった。だから通報後6分ほどでチャイムを鳴らし、僕が鍵を開けるなり先を争うようにして押し入ってきた警察と救急の人たちは優秀なのか勤勉なのか、それともこの近辺の地区では普通のことなのか。

 ともかく救急隊員らは頭から血糊を浴びたようなヒモ男の体をあちこち触り、案外時間をかけて容態を確認してから担架に乗せて運びだして行った。
 その間、僕は制服警官二人に両側から肩に手を置かれていた。一応、監視されていたのだろう。途中から騒ぎに参加した私服の警官らしい男女二名が監視役を交替した。

 まだ何も訊かれないけれど僕は17歳だから、これは少年事件として成立する。悪質と判断されたら逮捕もあり得るのだ。少なくとも勾留はされて少年犯罪専門の刑事に取り調べされる。ここは大人と同じで48時間以内に検察送致され勾留延長で更に取り調べか、家庭裁判所送致かが決まる。

 家裁送致から後は少年鑑別所に二週間か四週間。そのあとはどうなるんだっけ。何れにせよ悪質判定で逮捕なら少年刑務所行きだ。立派な前科者。少年院までなら前科じゃなく『前歴』で済むらしいけれど、僕には違いが分からない。

 とにかく僕はこれから警察で勾留されて取り調べだ。48時間以内に検察送致され、検察で『不処分決定』されなければ暫くはここにも帰って来られないし――実況見分や現場検証は別として――ヒモ男があのまま死んだら殺人罪で刑事事件の被疑者になるかも知れない。

 そんなことを考えていたら女の刑事が小声で訊いてきた。

「きみ、匂いが。お風呂に入ったの?」
「……はい」
「血で汚れたから洗って着替えた?」
「あのう、これって取り調べなんですか?」

 訊き返されると思わなかった、そんな振りをして見せた女刑事は慣れたもので、上手く溜息も隠して笑う。

「そうね、色々と知っていそうだから言っちゃうわね。貴方の発言は証言として採用されることもあるわ。だから何が採用されるか、されないか、分からなくて怖いのなら、黙秘権の行使もできる。いい?」
「アメリカで言う『ミランダルール』みたいですね。怖いのならっていうのが違いますけど」
「ミランダルールは『自分に不利益なら』ですものね」

 終始、笑みを貼り付かせている女刑事と、反対側のガタイのいい男の刑事の手が僕の左肩に食い込んできて、これ以上は拙いと思った僕は、ふれまわりたくはないけれど言った方が有利な事実を述べることにした。

「シャワーを浴びたのは、あの男に強姦されたからです。血も出て――」

 それからは可笑しいくらい僕は丁重に扱われ、男女の刑事のエスコート付きで病院送りになった。病院で洩れ聞こえたところでは、ヒモ男の体液が検出されたとのことで、強引にされた証拠の怪我も手当てされ、少なくとも夜の街を徘徊して誰かと寝ていたときよりも羞恥を感じる目に遭っただけの成果はあった。

 そうして僕は見張り付きで一泊入院だ。貧血気味なのもバレて点滴を打たれつつ寝るハメになる。
 だが消灯時間と同時に予想していた『それ』はやってきた。母親だ。
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