19 / 43
尤もらしい『味方』の理由
第19話
しおりを挟む
緊急車両の現場到着は平均して通報から約8分と何かで読んだことがあった。だから通報後6分ほどでチャイムを鳴らし、僕が鍵を開けるなり先を争うようにして押し入ってきた警察と救急の人たちは優秀なのか勤勉なのか、それともこの近辺の地区では普通のことなのか。
ともかく救急隊員らは頭から血糊を浴びたようなヒモ男の体をあちこち触り、案外時間をかけて容態を確認してから担架に乗せて運びだして行った。
その間、僕は制服警官二人に両側から肩に手を置かれていた。一応、監視されていたのだろう。途中から騒ぎに参加した私服の警官らしい男女二名が監視役を交替した。
まだ何も訊かれないけれど僕は17歳だから、これは少年事件として成立する。悪質と判断されたら逮捕もあり得るのだ。少なくとも勾留はされて少年犯罪専門の刑事に取り調べされる。ここは大人と同じで48時間以内に検察送致され勾留延長で更に取り調べか、家庭裁判所送致かが決まる。
家裁送致から後は少年鑑別所に二週間か四週間。そのあとはどうなるんだっけ。何れにせよ悪質判定で逮捕なら少年刑務所行きだ。立派な前科者。少年院までなら前科じゃなく『前歴』で済むらしいけれど、僕には違いが分からない。
とにかく僕はこれから警察で勾留されて取り調べだ。48時間以内に検察送致され、検察で『不処分決定』されなければ暫くはここにも帰って来られないし――実況見分や現場検証は別として――ヒモ男があのまま死んだら殺人罪で刑事事件の被疑者になるかも知れない。
そんなことを考えていたら女の刑事が小声で訊いてきた。
「きみ、匂いが。お風呂に入ったの?」
「……はい」
「血で汚れたから洗って着替えた?」
「あのう、これって取り調べなんですか?」
訊き返されると思わなかった、そんな振りをして見せた女刑事は慣れたもので、上手く溜息も隠して笑う。
「そうね、色々と知っていそうだから言っちゃうわね。貴方の発言は証言として採用されることもあるわ。だから何が採用されるか、されないか、分からなくて怖いのなら、黙秘権の行使もできる。いい?」
「アメリカで言う『ミランダルール』みたいですね。怖いのならっていうのが違いますけど」
「ミランダルールは『自分に不利益なら』ですものね」
終始、笑みを貼り付かせている女刑事と、反対側のガタイのいい男の刑事の手が僕の左肩に食い込んできて、これ以上は拙いと思った僕は、ふれまわりたくはないけれど言った方が有利な事実を述べることにした。
「シャワーを浴びたのは、あの男に強姦されたからです。血も出て――」
それからは可笑しいくらい僕は丁重に扱われ、男女の刑事のエスコート付きで病院送りになった。病院で洩れ聞こえたところでは、ヒモ男の体液が検出されたとのことで、強引にされた証拠の怪我も手当てされ、少なくとも夜の街を徘徊して誰かと寝ていたときよりも羞恥を感じる目に遭っただけの成果はあった。
そうして僕は見張り付きで一泊入院だ。貧血気味なのもバレて点滴を打たれつつ寝るハメになる。
だが消灯時間と同時に予想していた『それ』はやってきた。母親だ。
ともかく救急隊員らは頭から血糊を浴びたようなヒモ男の体をあちこち触り、案外時間をかけて容態を確認してから担架に乗せて運びだして行った。
その間、僕は制服警官二人に両側から肩に手を置かれていた。一応、監視されていたのだろう。途中から騒ぎに参加した私服の警官らしい男女二名が監視役を交替した。
まだ何も訊かれないけれど僕は17歳だから、これは少年事件として成立する。悪質と判断されたら逮捕もあり得るのだ。少なくとも勾留はされて少年犯罪専門の刑事に取り調べされる。ここは大人と同じで48時間以内に検察送致され勾留延長で更に取り調べか、家庭裁判所送致かが決まる。
家裁送致から後は少年鑑別所に二週間か四週間。そのあとはどうなるんだっけ。何れにせよ悪質判定で逮捕なら少年刑務所行きだ。立派な前科者。少年院までなら前科じゃなく『前歴』で済むらしいけれど、僕には違いが分からない。
とにかく僕はこれから警察で勾留されて取り調べだ。48時間以内に検察送致され、検察で『不処分決定』されなければ暫くはここにも帰って来られないし――実況見分や現場検証は別として――ヒモ男があのまま死んだら殺人罪で刑事事件の被疑者になるかも知れない。
そんなことを考えていたら女の刑事が小声で訊いてきた。
「きみ、匂いが。お風呂に入ったの?」
「……はい」
「血で汚れたから洗って着替えた?」
「あのう、これって取り調べなんですか?」
訊き返されると思わなかった、そんな振りをして見せた女刑事は慣れたもので、上手く溜息も隠して笑う。
「そうね、色々と知っていそうだから言っちゃうわね。貴方の発言は証言として採用されることもあるわ。だから何が採用されるか、されないか、分からなくて怖いのなら、黙秘権の行使もできる。いい?」
「アメリカで言う『ミランダルール』みたいですね。怖いのならっていうのが違いますけど」
「ミランダルールは『自分に不利益なら』ですものね」
終始、笑みを貼り付かせている女刑事と、反対側のガタイのいい男の刑事の手が僕の左肩に食い込んできて、これ以上は拙いと思った僕は、ふれまわりたくはないけれど言った方が有利な事実を述べることにした。
「シャワーを浴びたのは、あの男に強姦されたからです。血も出て――」
それからは可笑しいくらい僕は丁重に扱われ、男女の刑事のエスコート付きで病院送りになった。病院で洩れ聞こえたところでは、ヒモ男の体液が検出されたとのことで、強引にされた証拠の怪我も手当てされ、少なくとも夜の街を徘徊して誰かと寝ていたときよりも羞恥を感じる目に遭っただけの成果はあった。
そうして僕は見張り付きで一泊入院だ。貧血気味なのもバレて点滴を打たれつつ寝るハメになる。
だが消灯時間と同時に予想していた『それ』はやってきた。母親だ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
エイリアンコップ~楽園14~
志賀雅基
SF
◆……ナメクジの犯人(ホシ)はナメクジなんだろうなあ。◆
惑星警察刑事×テラ連邦軍別室員シリーズPart14[全51話]
七分署機捜課にあらゆる意味で驚異の新人がきて教育係に任命されたシドは四苦八苦。一方バディのハイファは涼しい他人顔。プライヴェートでは飼い猫タマが散歩中に出くわした半死体から出てきたネバネバ生物を食べてしまう。そして翌朝、人語を喋り始めた。タマに憑依した巨大ナメクジは自分を異星の刑事と主張、ホシを追って来たので捕縛に手を貸せと言う。
▼▼▼
【シリーズ中、何処からでもどうぞ】
【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】
【ノベルアップ+にR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】
Diamond cut diamond~楽園3~
志賀雅基
キャラ文芸
◆ダイヤはダイヤでしかカットできない(ベルギーの諺)/しのぎを削る好勝負(英)◆
惑星警察刑事×テラ連邦軍別室員シリーズPart3[全36話]
二人は海と宝石が名物の星系に初プライヴェート旅行。だが宝石泥棒事件に巻き込まれ、更に船でクルージング中にクルージングミサイルが飛来。ミサイルの中身は別室任務なる悲劇だった。げんなりしつつ指示通りテラ連邦軍に入隊するが上司はロマンスグレイでもラテンの心を持つ男。お蔭でシドが貞操の危機に!?
▼▼▼
【シリーズ中、何処からでもどうぞ】
【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】
【ノベルアップ+にR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】
欲張りな割り箸男の食らった罰は~割り箸男1~
志賀雅基
キャラ文芸
◆触れたら消える幻ならば/触れず見つめていたいほど/手放した俺は後悔した◆
所轄署の一刑事が県警本部長室に呼び出されエラい人たちに囲まれた挙げ句に暴力団への潜入捜査を命じられる。目的は銃や弾薬に『ギルダ』なる麻薬の密輸入阻止。断るに断れない潜入に関して協力者となるのは『ギルダ』発祥の地であるテロ支援国家レトラ連合からやってきた、男性ながら美貌のスパイ。初顔合わせでは好印象を抱けなかったが……。
▼▼▼
【シリーズ中、何処からでもどうぞ】
【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】
【エブリスタ・ノベルアップ+に掲載】
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる