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第32話・深夜と後日(全員、マイナス元上司、プラスもっとヤクザ)
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――と、ピシッと恭介の耳元で空気が鳴った。弾丸が通り抜けたのだ。反射的に自分の陰に薫を入れ、MP5サブマシンガンで敵を撃とうとしたら梅谷組の若い衆がサタデーナイトスペシャルを構えて目を三角にしテンパっていた。某大国で土曜の夜に喧嘩だの、ちょいと強盗でもしようとし、結果、病院に運ばれる。そいつらが持っているような粗悪拳銃だけを恭介は撃ち落とす。
「何を持たせてるんだ、あほう!!」
「痛ーい、殴らなくても」
こうなると敵より身近な身内がヤバい。
つまりは出てきた滝本の下っ端たちと梅谷の若い衆や官憲のチームにガキんちょも混じっての大混戦になだれ込んだのである。既に皆が煌々と照らすライトの許で揉み合っていた。
そのときだった、夜空から皆の耳をつんざいて何かが急降下し、ダダダッという音と共に三十ミリ榴弾という桁違いの大口径弾を降らせ始めたのは。
まさかの泉が本当に旧式戦闘機・疾風改に乗って現れたのだった。
「あの馬鹿、乗っただけじゃない、撃ってやがる!」
突き飛ばした薫に覆い被さり伏せながら恭介は忌々し気に吐き捨てた。
「だって乗れっつったのはあんたじゃん、恭介。責任取れよな」
「薫、余計な事はいいから伏せてろ。あたればミンチ以下になるぞ!」
言いつつ、でもちょっぴりこれは拙いんじゃないかと考えた恭介は、伏せたまま僅かに目を上げる。抜群の視力で見取ったが、何処にも被弾者どころか被弾箇所がない。地面のコンクリートも陶器の破片と空薬莢が落ちている以外は綺麗なものだ。そこで思いつく。
「でかした、アマギの奴。実包と模擬弾の空砲を入れ替えたな」
「空砲? ってことは安全?」
「余程近付かない限りはな」
ライフルでも超至近で撃てば空砲だって空き缶に貫通穴を開ける。疾風改の三十ミリ榴弾なら命も危うかろうが、そこまでの低空飛行を披露する腕などインスタント操縦士の泉にある訳がなく……と、モーターカノンの砲口と目が合う程に低空で突っ込んできて、また上昇して行った。
その爆音でとうとう滝本組本家の正面扉が『バーン!』と開かれ、ヤクザがわさわさと出てくるかと思いきや、メルヘンな着ぐるみのウサギやトラに犬猫ネズミなどが溢れ出てきて場は却って狂気に満ちた。
ウサギが低く唸る。
「貴様ら、何しとんじゃ! ガシャガシャ五月蠅いんじゃボケ!」
ネズミが斜に構えて威嚇した。
「ざけんじゃねぇぞ! 今日は組長たっての祝い事、邪魔する奴は容赦せんぞクソが!」
もう滅茶苦茶な中でトラと犬猫の着ぐるみがキッズに飴を配り歩いている。挙げ句、キッズを本家の屋敷の中に誘導するかの如く連れ去ろうとしたのでSATらが制止。通常範囲のヤクザに着ぐるみも混じっての睨み合いとなる。
「子供たちを解放しろ!」
「解放? 何、言うとんじゃワレ!」
「誤魔化しても無駄だぞ、子供二人を拉致監禁して――」
SATリーダーの声が尻すぼみになった。何故なら屋敷の玄関から羽織袴の少年と、ウェディングドレスのような煌びやかな衣装に身を包んだ少女が、渋い大島紬の着流しを着た男と共に姿を現して、
「すっごいのよ、もう! ねえねえ、綺麗でしょう!!」
「御馳走がいっぱいなんだ、ここの子になりたいよ、僕」
などと口走ったからだ。キッズも皆が思っていた、こいつら今朝より二キロは太ったなと。
そう、目を細めて子供らの肩に手を置く着流しジジイは滝本組の組長その人だった。つまり『子供が大好き』というのは言葉通りの意味であり、自分の組幹部が殺そうとしている報告を受けて慌てて留めた上に、死ぬ目に遭いそうになった子供らを慰め喜ばせるため、組員総出でパーティーイヴェントを開催していたのである。
「ワシは子供らをヤクネタ運びに使っているなどとは本当に知らなんだ。だが使用者責任というのも分かっておる。こんな罪深いことをしてなお、組の看板は掲げておれん。解散じゃ」
その前に残りのキッズもパーティーに参加したいと言い出したが、そのとき空からくるくるとロールを打ちつつ墜ちてきた疾風改が滝本本家の屋根に突っ込んだ。一拍置いて火炎が上がり爆散する。
「泉さん……飯は取られて悔しかったっスけど、悪い人じゃ無かったっスよね」
「泉さん……酷いタダ飯喰らいだったけど、ミルキークイーンくれましたよね」
「泉さーん、立派な最期だったっスよーっ!!」
タツとアサに続き若い衆が滝本組本家に向かって『追悼の花火』と称した陶製手榴弾を次々と投げ込み始める。ショボい花火だったが当たれば痛いでは済まないシロモノ、だが今や浪花節を地で行く滝本の組長とその手下たちも文句はつけない。
そのうちに滝本組本家に本格的に火が回って、豪華キャンプファイアーの様相を呈した。
しかしその頃には組員全員が外に出ていて無事、組長以下、涙ながらに秋刀魚を肴に水盃をグイッとやり、パーンと盃を地面に叩きつけて割っている。水盃を割るのは二度と戻らぬ証だ。
更にはのちに判明したことだが、疾風改に乗っていた泉はアマギの手に依り、後部席のバラスト代わりに格納庫の残存食糧だった炭酸飲料と何故かミントタブレットを大量に積まれており、メントス効果で二酸化炭素の泡まみれになって気絶しているのを、これも無事に発見されたのだった。
ちなみに『ジャック先輩への愛』ひとすじで飛んできた泉は決死の想いで鉢巻きまで締めていたが、アマギお手製のそれには『必勝』でも『神風』でもなく、覚え違いから『合格』と書かれていた。
生き残っただけでも『合格』と言えようか。
「何を持たせてるんだ、あほう!!」
「痛ーい、殴らなくても」
こうなると敵より身近な身内がヤバい。
つまりは出てきた滝本の下っ端たちと梅谷の若い衆や官憲のチームにガキんちょも混じっての大混戦になだれ込んだのである。既に皆が煌々と照らすライトの許で揉み合っていた。
そのときだった、夜空から皆の耳をつんざいて何かが急降下し、ダダダッという音と共に三十ミリ榴弾という桁違いの大口径弾を降らせ始めたのは。
まさかの泉が本当に旧式戦闘機・疾風改に乗って現れたのだった。
「あの馬鹿、乗っただけじゃない、撃ってやがる!」
突き飛ばした薫に覆い被さり伏せながら恭介は忌々し気に吐き捨てた。
「だって乗れっつったのはあんたじゃん、恭介。責任取れよな」
「薫、余計な事はいいから伏せてろ。あたればミンチ以下になるぞ!」
言いつつ、でもちょっぴりこれは拙いんじゃないかと考えた恭介は、伏せたまま僅かに目を上げる。抜群の視力で見取ったが、何処にも被弾者どころか被弾箇所がない。地面のコンクリートも陶器の破片と空薬莢が落ちている以外は綺麗なものだ。そこで思いつく。
「でかした、アマギの奴。実包と模擬弾の空砲を入れ替えたな」
「空砲? ってことは安全?」
「余程近付かない限りはな」
ライフルでも超至近で撃てば空砲だって空き缶に貫通穴を開ける。疾風改の三十ミリ榴弾なら命も危うかろうが、そこまでの低空飛行を披露する腕などインスタント操縦士の泉にある訳がなく……と、モーターカノンの砲口と目が合う程に低空で突っ込んできて、また上昇して行った。
その爆音でとうとう滝本組本家の正面扉が『バーン!』と開かれ、ヤクザがわさわさと出てくるかと思いきや、メルヘンな着ぐるみのウサギやトラに犬猫ネズミなどが溢れ出てきて場は却って狂気に満ちた。
ウサギが低く唸る。
「貴様ら、何しとんじゃ! ガシャガシャ五月蠅いんじゃボケ!」
ネズミが斜に構えて威嚇した。
「ざけんじゃねぇぞ! 今日は組長たっての祝い事、邪魔する奴は容赦せんぞクソが!」
もう滅茶苦茶な中でトラと犬猫の着ぐるみがキッズに飴を配り歩いている。挙げ句、キッズを本家の屋敷の中に誘導するかの如く連れ去ろうとしたのでSATらが制止。通常範囲のヤクザに着ぐるみも混じっての睨み合いとなる。
「子供たちを解放しろ!」
「解放? 何、言うとんじゃワレ!」
「誤魔化しても無駄だぞ、子供二人を拉致監禁して――」
SATリーダーの声が尻すぼみになった。何故なら屋敷の玄関から羽織袴の少年と、ウェディングドレスのような煌びやかな衣装に身を包んだ少女が、渋い大島紬の着流しを着た男と共に姿を現して、
「すっごいのよ、もう! ねえねえ、綺麗でしょう!!」
「御馳走がいっぱいなんだ、ここの子になりたいよ、僕」
などと口走ったからだ。キッズも皆が思っていた、こいつら今朝より二キロは太ったなと。
そう、目を細めて子供らの肩に手を置く着流しジジイは滝本組の組長その人だった。つまり『子供が大好き』というのは言葉通りの意味であり、自分の組幹部が殺そうとしている報告を受けて慌てて留めた上に、死ぬ目に遭いそうになった子供らを慰め喜ばせるため、組員総出でパーティーイヴェントを開催していたのである。
「ワシは子供らをヤクネタ運びに使っているなどとは本当に知らなんだ。だが使用者責任というのも分かっておる。こんな罪深いことをしてなお、組の看板は掲げておれん。解散じゃ」
その前に残りのキッズもパーティーに参加したいと言い出したが、そのとき空からくるくるとロールを打ちつつ墜ちてきた疾風改が滝本本家の屋根に突っ込んだ。一拍置いて火炎が上がり爆散する。
「泉さん……飯は取られて悔しかったっスけど、悪い人じゃ無かったっスよね」
「泉さん……酷いタダ飯喰らいだったけど、ミルキークイーンくれましたよね」
「泉さーん、立派な最期だったっスよーっ!!」
タツとアサに続き若い衆が滝本組本家に向かって『追悼の花火』と称した陶製手榴弾を次々と投げ込み始める。ショボい花火だったが当たれば痛いでは済まないシロモノ、だが今や浪花節を地で行く滝本の組長とその手下たちも文句はつけない。
そのうちに滝本組本家に本格的に火が回って、豪華キャンプファイアーの様相を呈した。
しかしその頃には組員全員が外に出ていて無事、組長以下、涙ながらに秋刀魚を肴に水盃をグイッとやり、パーンと盃を地面に叩きつけて割っている。水盃を割るのは二度と戻らぬ証だ。
更にはのちに判明したことだが、疾風改に乗っていた泉はアマギの手に依り、後部席のバラスト代わりに格納庫の残存食糧だった炭酸飲料と何故かミントタブレットを大量に積まれており、メントス効果で二酸化炭素の泡まみれになって気絶しているのを、これも無事に発見されたのだった。
ちなみに『ジャック先輩への愛』ひとすじで飛んできた泉は決死の想いで鉢巻きまで締めていたが、アマギお手製のそれには『必勝』でも『神風』でもなく、覚え違いから『合格』と書かれていた。
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