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第30話・夜の続き(探偵・ヤクザ・SAT)〈画像解説付属〉

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 途端に薫は喚く。

「ずるいずるいっ! ウチの若い衆を盾にして警察は美味しいトコ取りするつもり!?」
「百歩譲って、そう思ってもいい」
「どうせヤクネタのガサ令状フダが取れないからって、酷すぎない!?」

 確かに捜索差押令状も取れない『噂レヴェル』であり、子供二人が攫われた事実も表に出せばその命が危ういのだ。手も足も出ない警察サイドには『表立って動いてくれる』、つまり内部抗争でも起こして貰うより他ない。それ故の梅谷組若い衆の派手(?)な陽動作戦なのである。

 その陽動作戦を陽動として成立させるために滝本組には本家に幹部を集め、守りを固めさせる。その為に昼間に噂をバラ撒かせた……SATまで見た薫には簡単に見破れる図式だった。
 だが、間違って若い衆に死傷者が出たら……?

 くるりと背を向けて事務所を出て行こうとする薫の腕を恭介が掴んだ。

「薫。お前は一次団体の滝本が潰れたら梅谷組がどうなると思ってる?」
「それは……」
「ちまちまとまるで自主的自治会長みたいな立ち位置で、ずっと皆が食えて行けるのか? そんな訳ないだろう。滝本が霧散すれば梅谷も組長は解散届を出す。分かってるなら若い奴らの先も考えてやれ」

「僕に皆の就職斡旋は無理だと思うけど」
「取り引きだ。前科まえが綺麗になってない奴に関しては俺の元上司を身柄引受人ガラウケにする。そうでない奴も口利きさせる。この機会を逃せば一生日陰者だぞ?」
「だからって命張らせるなんて」

「自分の人生くらい自分たちの手で掴み取らせてやれ。カタギは厳しいぞ」
「でも、そのSATの人たちが護ってくれるんだよね?」
「陰ながら、な」

 命懸けの博打、それも上部団体に離反してのカチコミだ。薫は不安を押し隠しきれずに俯いてしまう。人の命の重みをここまで真剣に受け止め感じたことが無かったのだ。前回の樫原組を潰した時も恭介と二人、自分は護られる側だった。そこで拾ってしまった十五人を果たして生きてカタギに戻してやれるのか。

「それなりに危険だが、もう一箇所の事務所にも同じ人数が待機している。一人につき二人の援護が付くんだ、殺させはせんさ」
「その言葉、嘘だったら僕は恭介、あんたを後ろから撃つからね」
「なら、俺の言葉が本当だったら俺の助手になれ」
「ああ、いいよ。あんたの助手でも嫁にでもなってやる」

「あのー、盛り上がりかけているところ悪いんですが」

 無線でぼそぼそと遣り取りしていたSAT隊員が遠慮がちに声を発した。

「今、連絡があって滝本本家に出入りしたピザ屋が男女の子供二人を見たそうです」
「えっ、マジ!? やった、生きてた! 元気だった?」
「そこまでは、ちょっと……」
「そっかあ、残念。見てろよ、変態野郎! ところで恭介、この先の行動予定はどうなってんのさ?」

 訊かれて恭介は少し困る。。自分と薫が空から急襲し地上版を援護と思っていたら、もうここからして予定が違っている。ああは言ったが泉に飛行機の操縦が出来るとは考えていない。
 とすると地上班だけでの滝本組制圧が妥当な線だろう。

「子供たちの事もある。すぐに動くぞ」
「じゃあ、あいつらにも連絡するね……SATだけじゃダメかな?」
「踏み外した道からは自力で這い上がらせてやれ」
「ん、分かった」

 薫の背を抱いた恭介の唇が近づいて……。

「あのう、すみません。今度は寿司屋とフライドチキン屋のデリバリーが滝本組で子供二人を見たそうです」
「何だ、それは?」
「いや、本職に訊かれても困るのですが。出入りは割と緩いようであります。報告終わり、続きをどうぞ」
「タダ見せするほど安くない。もういい、表に車を回せ。出るぞ」

 皆がそれぞれにロッカーの中の得物を手にした。薫には使った事のあるレミントンを持たせる。恭介はPSG1なる狙撃銃にMP5サブマシンガン、近接戦闘用にP226ピストルとそれらの弾薬を詰めた弾倉マガジンポーチ付きチェストリグを装着。SATでも持たない弾数から総重量は桁違いだろうが、本人は映画ジョン・ウィック三十分間くらいの武器弾薬を身に着けても平気な怪力である。



 一方で薫はレミントンを手に呟いた。

「銃って、武器ってこんなに重かったっけ……」

 まともに当たれば人が死ぬという事実に対し感想を述べたのだが、マトモに撃たれても死ななかった吸血鬼は、ひょいとレミントンを取り上げて弾薬もわし掴む。

「重いなら持ってやる」

 その科白を周囲にも気軽に吐き、音響閃光手榴弾フラッシュバンや催涙弾に弾帯で満艦飾となった恭介を、鍛え上げたSAT隊員も流石に薄気味悪そうに見て引いていた。
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