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第60話(最終話)
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「よーく聞いてよね。つまり、ああいう事件があると警察力も必要だってこと。それも常駐させた方がいいんだってサ。それこそ事件が起こるたびに刑事のふりして潜入は状況作りがきついし、だったら一人くらい試しに出向させようって話になったんだよ」
「ってことはお前、本当に惑星警察の刑事やるんだな、俺のバディとして」
「そうなるね。現場レヴェルではヴィンティス課長と貴方だけが僕の事情を知ってるし、それならそのまま利用しようって方向でまとまったんだよ。だからって軍籍は別室に残ったまんまの出向だし、僕が現役軍人で別室員なのは変わらないけどね」
「マジか……じゃあお前、別室任務で他の奴とナニをしなくてもいいんだな?」
シドとしては最大の懸案だったので訊いた訳だが、途端にハイファは若草色の瞳をウルウルさせてシドにしがみついた。そして涙声で叫ぶ。
「それだよシド~っ! 本当は僕、使い物にならなくなって左遷されたんだよぅ!」
抱きつく男の明るい金のしっぽを見下ろしながら訊いた。
「左遷って、お前、何か失敗したのか?」
こくこくと頷く金髪頭を見下ろしながらシドは『スパイの失敗』について考えを巡らせる。
「何処かの星系政府の重鎮を間違って殺っちまったとか?」
「違うよう!」
「なら、お前お得意の狙撃で違うターゲットを――」
「――殺してません!」
「じゃあ何なんだよ?」
「何もカニもないよっ! シド、アナタのせいなんだからねっ!」
勢いにしがみつかれたままシドは仰け反った。
「どうしてスパイ野郎の失敗が俺のせいなんだよ!?」
「だってサ……任務でいつも通りに敵さんに近づいてタラしたまでは良かったんだけど。だけどその先が……ナニができなくなっちゃったんだもん!!」
果たしてソレは大声で主張するコトだろうかとシドは訝しく思いつつも、うるうるの若草色の瞳に言ってやる。
「まあさ、気分っつーか、体調もあるしさ。たまにはそういうこともあるじゃねぇか、別に気にすることはねぇだろうが」
「気にするよ! だって僕に振られる任務ってそれがキモなんだよ? なのに男女関係なく全部失敗。それで懲罰人事としてトバされちゃったんだよ~っ!」
「って、結局どういう意味なんだ?」
跪いたハイファは両腕でしっかりとシドの腰に抱きつき、腹に白い頬を擦りつけながら更なる大声で主張した。
「だーかーらあーっ。僕はもう貴方以外の誰ともナニができない、シドにしか感じない、シドとしかコトに及べないカラダになっちゃったって、そう言ってるの! 前に言ったよね、『責任は取る』って貴方。こうなったからには本当に責任取って貰うからね!!」
「え、あ、う……お、おう」
と、喚かれて思わず応え、気が付けば周囲がしんと静まり返っていた。そこでシドは顔を上げ、ハイファは自分の背後をそっと振り返る。
前にもあったパターン、その留置場の入り口には勾留中で取り調べを終えたハサミ男を連れた、青い顔でマスク姿のヤマサキが硬直してこちらを見ていた。
その顔には『絶対、言いませんから!』と書いてあったがシドは信用しない。
言う、こいつは絶対言う。
一瞬後、留置場内がわっと湧く。やんやと囃し立てるオーディエンスの声と口笛。
イヴェントストライカ精勤のお蔭で留置場も本日は満員、そいつらの歓声を受けながら視線をずらすと簡易ベッド上にはコーヒーの空ボトルがふたつ。
それを眺めながらシドは、このあと何週間かの機捜課内での居心地を考えて目の前が暗くなったのだった。
了
「ってことはお前、本当に惑星警察の刑事やるんだな、俺のバディとして」
「そうなるね。現場レヴェルではヴィンティス課長と貴方だけが僕の事情を知ってるし、それならそのまま利用しようって方向でまとまったんだよ。だからって軍籍は別室に残ったまんまの出向だし、僕が現役軍人で別室員なのは変わらないけどね」
「マジか……じゃあお前、別室任務で他の奴とナニをしなくてもいいんだな?」
シドとしては最大の懸案だったので訊いた訳だが、途端にハイファは若草色の瞳をウルウルさせてシドにしがみついた。そして涙声で叫ぶ。
「それだよシド~っ! 本当は僕、使い物にならなくなって左遷されたんだよぅ!」
抱きつく男の明るい金のしっぽを見下ろしながら訊いた。
「左遷って、お前、何か失敗したのか?」
こくこくと頷く金髪頭を見下ろしながらシドは『スパイの失敗』について考えを巡らせる。
「何処かの星系政府の重鎮を間違って殺っちまったとか?」
「違うよう!」
「なら、お前お得意の狙撃で違うターゲットを――」
「――殺してません!」
「じゃあ何なんだよ?」
「何もカニもないよっ! シド、アナタのせいなんだからねっ!」
勢いにしがみつかれたままシドは仰け反った。
「どうしてスパイ野郎の失敗が俺のせいなんだよ!?」
「だってサ……任務でいつも通りに敵さんに近づいてタラしたまでは良かったんだけど。だけどその先が……ナニができなくなっちゃったんだもん!!」
果たしてソレは大声で主張するコトだろうかとシドは訝しく思いつつも、うるうるの若草色の瞳に言ってやる。
「まあさ、気分っつーか、体調もあるしさ。たまにはそういうこともあるじゃねぇか、別に気にすることはねぇだろうが」
「気にするよ! だって僕に振られる任務ってそれがキモなんだよ? なのに男女関係なく全部失敗。それで懲罰人事としてトバされちゃったんだよ~っ!」
「って、結局どういう意味なんだ?」
跪いたハイファは両腕でしっかりとシドの腰に抱きつき、腹に白い頬を擦りつけながら更なる大声で主張した。
「だーかーらあーっ。僕はもう貴方以外の誰ともナニができない、シドにしか感じない、シドとしかコトに及べないカラダになっちゃったって、そう言ってるの! 前に言ったよね、『責任は取る』って貴方。こうなったからには本当に責任取って貰うからね!!」
「え、あ、う……お、おう」
と、喚かれて思わず応え、気が付けば周囲がしんと静まり返っていた。そこでシドは顔を上げ、ハイファは自分の背後をそっと振り返る。
前にもあったパターン、その留置場の入り口には勾留中で取り調べを終えたハサミ男を連れた、青い顔でマスク姿のヤマサキが硬直してこちらを見ていた。
その顔には『絶対、言いませんから!』と書いてあったがシドは信用しない。
言う、こいつは絶対言う。
一瞬後、留置場内がわっと湧く。やんやと囃し立てるオーディエンスの声と口笛。
イヴェントストライカ精勤のお蔭で留置場も本日は満員、そいつらの歓声を受けながら視線をずらすと簡易ベッド上にはコーヒーの空ボトルがふたつ。
それを眺めながらシドは、このあと何週間かの機捜課内での居心地を考えて目の前が暗くなったのだった。
了
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