楽園の方舟~楽園1~

志賀雅基

文字の大きさ
上 下
24 / 62

□〔Intermission〕ショート・ショート□

しおりを挟む

 ♂俺にバディが付くのなら♂

 最後のバディが強盗タタキにリモータの麻痺スタンレーザーで射たれ、テラ標準歴でもう三ヶ月が経った。確かに不法入星のタタキたちはスタンの出力を違法に上げてはいたが、そのままバディが心臓まで麻痺させてしまったとは思っても見ず、死んだフリでやり過ごそうとしている、そう思い込んだ俺は死の間際の相棒に蹴りを入れるという非道な真似をしてしまった。

 だがそれも仕方ないと自己弁護したい。ヴィンティス課長の野郎が俺にあてがったそのバディはずっと警務課の事務職で、あと二ヶ月で定年という、まともに走れもしない男だったのだから。
 酷いのは俺じゃなくヴィンティス課長だろう。

 それでも現代医療のお蔭でそいつは息を吹き返し、とっとと円満退職だ。

 警務課なあ。あそこは制服婦警の園だ。どうせ警務課から引き抜くのなら出る処が出た若い婦警を指名して……いや、ダメだ、俺にはできない。イヴェントストライカなどという非科学的なモノは信じていないと言いたいが、現実を的確に認識しなければ生きてゆけない事実が厳然と横たわっている。

 ミュリアルもメイベルもリンダもカミラもサチエもローラもエレンも、ついでにマリカも死ぬような危険に晒すのは心が痛む。というより婦警を減らすのはオアシスが干乾びるも同然、社会の損失だ。

 やっぱり男だな。せめて走れる若い奴。デスク上の書類で出来た複数のテーブルマウンテンを眺めるに事務能力も少々欲しい。あとは撃たれる前に撃てる奴。

 そして何よりもタフじゃねぇと困るよな。

 あーあ。そんな都合のいい人間がそこらにいる訳ねぇし。大体そこまで使える人材を俺に、もといヴィンティス課長に上層部が預ける筈もナシ。
 
 ――ふん、歩きに行くか。

「って、ヤマサキお前、何やってんだ?」
「シド先輩のポラ、撮ってるっス。警務課で頼まれたっスよ」
「肖像権の侵害っつーか、俺のポラなんかどうすんだ?」
「さあ?」
「『さあ』ってお前、意味も分からず勝手に撮るな。没収だ、没収」

 それこそ勝手にヤマサキのリモータを弄ってシドは自分のポラをフォルダごとデリートした。ガッカリしていたヤマサキが「あっ!」と大声を上げる。

「何なんだよ、今度は?」
「もしかして先輩のポラ、最近流行りの『呪いの藁人形キットMサイズ・2980クレジット』に入れて五寸釘を打つんじゃ……」
「……俺、警務課に恨まれるような……あ」

 自分の顔面偏差値の高さに全く無関心なシドは、元・警務課だったバディを蹴り殺しかけただけでなく、来る者拒まずで誰とでも食事に付き合った挙げ句に不思議と後でジットリ見られていることを思い出していた。

 俺、拙ったのか?

(バディの条件、追加。一緒に婦警から呪われてくれる奴……ああ、いたな)

 思い出した男は、だが警察官ではなくテラ連邦軍人でスパイ野郎だ。条件を完璧に満たしているとはいえ、何をどう引っ繰り返したってバディになり得ない。おまけに隙を突いては厄介さだ。

 そんなことより隠し撮りされる前に出掛ける手だ。呪いが怖い訳ではないが……断じて怖くはないが、三千年前に存在した旧東洋系の血がぞわぞわして――。

 呪いではなく、むしろ女子や腐女子に祝われていると知らずに、シドはヴィンティス課長の引き留める声を右から左に聞き流し、そのまま機捜課を出てショッピング街の方へと独り歩き出した。


☆。.:*・゜☆fin☆。.:*・゜☆
 
【楽園の方舟~楽園1~ 第23話へ】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

処理中です...