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第58話
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「バディ解消なんだね。大変だったけど淋しいな」
「俺は別室任務でお前が躰を張るのが堪らんな。男の嫉妬は見苦しいと分かっちゃいるんだが、まさかそんなところに自分が嵌るとは。正直、メチャメチャきつい」
白い肌を、さらさらの明るい金髪を自分以外の誰かが汚すことなど考えたくないのに、気付くと思考が勝手に転がりだして止まらないのだ。
サイキを持たないハイファス=ファサルートが中央情報局第二部別室で任務を全うするための武器はその身である。そんなことなど七年間ずっと聞かされ続け、それこそ慣れて免疫がついたと思っていた。
だが全く以て甘かった。一度手にしてしまえばこうなるとシドも承知し覚悟していた筈だが、実際に嫉妬の炎に炙られるのは予想を遥かに超えた苦しさだったのだ。
そんなシドの、あまりにストレートな意思表示にハイファも却って萎れる。
「休みもあんまりかち合いそうにないしね」
「軍、別室を辞める気は……ねぇんだろうな」
「……ごめん」
「謝るようなことじゃねぇだろ」
「それでも、ごめんね」
「分かってるさ……っく、ハックシュン!」
「あーあ、言ってる傍から風邪引いてるし。こんな人、独りで置いとくのも不安」
「俺は今までずっと単独、慣れて……ックシュン!」
「また貴方はベッド、僕はキッチンのパターンだね。栄養あるモノ買ってこなきゃ」
発進したコイル内でのハイファの呟きはシドにはうっすらとしか聞こえていなかった。
ハイファの入院中も昨夜も殆ど寝ていなかったシドは、枯れ草がついた制服の肩に黒髪の頭を凭れさせて、既に眠りの世界へと誘われていたのだった。
◇◇◇◇
久しぶりに出勤していると思ったら今度はウイルスを撒き散らす気か。こいつが持ち込むのだ、相当悪性のウイルスか細菌に違いない。AD世紀に撲滅した筈の強毒株とか。
などと思ってヴィンティス課長はシドの呆けた顔を眺めた。
「ハックシュン……ぶえっくしゅ。課長、何か俺の顔についてますか? ずびび」
課長はハンカチを取り出すと口に当て、諭すように言った。
「シド。もう少しの間だけでも署に平穏を、いや、休んでいたらどうかね?」
「充分休みは頂きましたよ、ハックシュン。いないうちにこんなに書類が溜まってるとは思いもしませんでしたから……ゲホゲホ」
「書類は課員で手分けしてやらせる。キミは下の巣か何処かで静かにしていたまえ」
言われてシドはデカ部屋内を見回す。今日も殆どの機捜課員は他課の下請けに出払い、僅かな在署番だけがヒマそうだ。視線を戻すとヴィンティス課長は力強く頷く。
「彼らにやらせる。だからシド、キミは心置きなく――」
「ええ、じゃあ、外回りしてきますんで」
「ちょっと待ちたまえ。そもそも我が機捜課に外回りという仕事はないのだ、ここで同報待ちをしていればいいのだよ。おい、こら、聞こえんのかシド! まだ仕事を増やす気かね!? それだけは止めてくれ、事件発生率を上げるな~っ!」
耳が水餃子になったかの如くヴィンティス課長の叫びをガン無視し、シドはふらりと立ち上がる。歩くのも難儀なダルさを堪えて外に出た。
(だあ~、気分悪ぃな。けど薬屋には礼に行かなきゃな)
クシャミと咳を連発しながら歩く慣れた道。だが隣に背を預けられる男はいない。
(しっかりしろよ俺。風邪如きで弱ってんのか? 元に戻っただけじゃねぇか)
「俺は別室任務でお前が躰を張るのが堪らんな。男の嫉妬は見苦しいと分かっちゃいるんだが、まさかそんなところに自分が嵌るとは。正直、メチャメチャきつい」
白い肌を、さらさらの明るい金髪を自分以外の誰かが汚すことなど考えたくないのに、気付くと思考が勝手に転がりだして止まらないのだ。
サイキを持たないハイファス=ファサルートが中央情報局第二部別室で任務を全うするための武器はその身である。そんなことなど七年間ずっと聞かされ続け、それこそ慣れて免疫がついたと思っていた。
だが全く以て甘かった。一度手にしてしまえばこうなるとシドも承知し覚悟していた筈だが、実際に嫉妬の炎に炙られるのは予想を遥かに超えた苦しさだったのだ。
そんなシドの、あまりにストレートな意思表示にハイファも却って萎れる。
「休みもあんまりかち合いそうにないしね」
「軍、別室を辞める気は……ねぇんだろうな」
「……ごめん」
「謝るようなことじゃねぇだろ」
「それでも、ごめんね」
「分かってるさ……っく、ハックシュン!」
「あーあ、言ってる傍から風邪引いてるし。こんな人、独りで置いとくのも不安」
「俺は今までずっと単独、慣れて……ックシュン!」
「また貴方はベッド、僕はキッチンのパターンだね。栄養あるモノ買ってこなきゃ」
発進したコイル内でのハイファの呟きはシドにはうっすらとしか聞こえていなかった。
ハイファの入院中も昨夜も殆ど寝ていなかったシドは、枯れ草がついた制服の肩に黒髪の頭を凭れさせて、既に眠りの世界へと誘われていたのだった。
◇◇◇◇
久しぶりに出勤していると思ったら今度はウイルスを撒き散らす気か。こいつが持ち込むのだ、相当悪性のウイルスか細菌に違いない。AD世紀に撲滅した筈の強毒株とか。
などと思ってヴィンティス課長はシドの呆けた顔を眺めた。
「ハックシュン……ぶえっくしゅ。課長、何か俺の顔についてますか? ずびび」
課長はハンカチを取り出すと口に当て、諭すように言った。
「シド。もう少しの間だけでも署に平穏を、いや、休んでいたらどうかね?」
「充分休みは頂きましたよ、ハックシュン。いないうちにこんなに書類が溜まってるとは思いもしませんでしたから……ゲホゲホ」
「書類は課員で手分けしてやらせる。キミは下の巣か何処かで静かにしていたまえ」
言われてシドはデカ部屋内を見回す。今日も殆どの機捜課員は他課の下請けに出払い、僅かな在署番だけがヒマそうだ。視線を戻すとヴィンティス課長は力強く頷く。
「彼らにやらせる。だからシド、キミは心置きなく――」
「ええ、じゃあ、外回りしてきますんで」
「ちょっと待ちたまえ。そもそも我が機捜課に外回りという仕事はないのだ、ここで同報待ちをしていればいいのだよ。おい、こら、聞こえんのかシド! まだ仕事を増やす気かね!? それだけは止めてくれ、事件発生率を上げるな~っ!」
耳が水餃子になったかの如くヴィンティス課長の叫びをガン無視し、シドはふらりと立ち上がる。歩くのも難儀なダルさを堪えて外に出た。
(だあ~、気分悪ぃな。けど薬屋には礼に行かなきゃな)
クシャミと咳を連発しながら歩く慣れた道。だが隣に背を預けられる男はいない。
(しっかりしろよ俺。風邪如きで弱ってんのか? 元に戻っただけじゃねぇか)
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