楽園の方舟~楽園1~

志賀雅基

文字の大きさ
上 下
60 / 62

第58話

しおりを挟む
「バディ解消なんだね。大変だったけど淋しいな」
「俺は別室任務でお前が躰を張るのが堪らんな。男の嫉妬は見苦しいと分かっちゃいるんだが、まさかそんなところに自分が嵌るとは。正直、メチャメチャきつい」

 白い肌を、さらさらの明るい金髪を自分以外の誰かが汚すことなど考えたくないのに、気付くと思考が勝手に転がりだして止まらないのだ。
 サイキを持たないハイファス=ファサルートが中央情報局第二部別室で任務を全うするための武器はその身である。そんなことなど七年間ずっと聞かされ続け、それこそ慣れて免疫がついたと思っていた。

 だが全く以て甘かった。一度手にしてしまえばこうなるとシドも承知し覚悟していた筈だが、実際に嫉妬の炎に炙られるのは予想を遥かに超えた苦しさだったのだ。
 そんなシドの、あまりにストレートな意思表示にハイファも却って萎れる。

「休みもあんまりかち合いそうにないしね」
「軍、別室を辞める気は……ねぇんだろうな」
「……ごめん」
「謝るようなことじゃねぇだろ」
「それでも、ごめんね」
「分かってるさ……っく、ハックシュン!」
「あーあ、言ってる傍から風邪引いてるし。こんな人、独りで置いとくのも不安」
「俺は今までずっと単独、慣れて……ックシュン!」
「また貴方はベッド、僕はキッチンのパターンだね。栄養あるモノ買ってこなきゃ」

 発進したコイル内でのハイファの呟きはシドにはうっすらとしか聞こえていなかった。
 ハイファの入院中も昨夜も殆ど寝ていなかったシドは、枯れ草がついた制服の肩に黒髪の頭を凭れさせて、既に眠りの世界へと誘われていたのだった。

◇◇◇◇

 久しぶりに出勤していると思ったら今度はウイルスを撒き散らす気か。こいつが持ち込むのだ、相当悪性のウイルスか細菌に違いない。AD世紀に撲滅した筈の強毒株とか。
 などと思ってヴィンティス課長はシドの呆けた顔を眺めた。

「ハックシュン……ぶえっくしゅ。課長、何か俺の顔についてますか? ずびび」

 課長はハンカチを取り出すと口に当て、諭すように言った。

「シド。もう少しの間だけでも署に平穏を、いや、休んでいたらどうかね?」
「充分休みは頂きましたよ、ハックシュン。いないうちにこんなに書類が溜まってるとは思いもしませんでしたから……ゲホゲホ」
「書類は課員で手分けしてやらせる。キミは下の巣か何処かで静かにしていたまえ」

 言われてシドはデカ部屋内を見回す。今日も殆どの機捜課員は他課の下請けに出払い、僅かな在署番だけがヒマそうだ。視線を戻すとヴィンティス課長は力強く頷く。

「彼らにやらせる。だからシド、キミは心置きなく――」
「ええ、じゃあ、外回りしてきますんで」
「ちょっと待ちたまえ。そもそも我が機捜課に外回りという仕事はないのだ、ここで同報待ちをしていればいいのだよ。おい、こら、聞こえんのかシド! まだ仕事を増やす気かね!? それだけは止めてくれ、事件発生率を上げるな~っ!」

 耳が水餃子になったかの如くヴィンティス課長の叫びをガン無視し、シドはふらりと立ち上がる。歩くのも難儀なダルさを堪えて外に出た。

(だあ~、気分悪ぃな。けど薬屋には礼に行かなきゃな)

 クシャミと咳を連発しながら歩く慣れた道。だが隣に背を預けられる男はいない。

(しっかりしろよ俺。風邪如きで弱ってんのか? 元に戻っただけじゃねぇか)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

処理中です...