13 / 62
第12話
しおりを挟む
揺れる金のしっぽを眺めながらシドは一般人が知り得ない別室について続けた。
「でもさ、お前んとこならとっくに病院の特別室くらい覗き済みだろ、喩え患者が偽名で入ってても。リストをこっちに寄越さないのはどうしてだ、ケチか?」
「率直な疑問は室長に伝えておくよ。でもこの際リストは無視してもう一度病院は回る。だって僕が来たのはシドのストライクを期待してのことだからね、これ重要」
「ストライクなあ。まあいい、俺は俺で普段の仕事と変わんねぇし付き合うさ」
途端に嬉しげな顔をするハイファにシドは投げられたボールを取ってきた犬を想像し、本当にこいつにスパイが務まっているのだろうかと何十回目かの疑問を持つ。
「けど気を付けてよね。敵は星系政府議会議員どころか、この広大なテラ系星系全てを統括するテラ連邦議会議員、その議席はたったの七百なんだから」
「名士中の名士、下手に食いつくとこっちが痛い目を見るってか」
「そういうこと」
喋りながらも迷いなく銃を組み立てるハイファの手元をシドは注視する。
組み上げた銃に弾薬を詰め込んだ弾倉を叩き込み、スライドを引いて薬室に初弾を送り込むとマガジンキャッチを押して掌にマガジンを落とした。マガジンの減った一発を再装填、満タンにしてから再びマガジンを叩き込んで安全装置を掛ける。
幾らセイフティを掛けているとはいえチャンバに一発を送り込み、すぐさま撃てる状態で保持する辺りはこいつも笑って話せる以外の修羅場をかいくぐってきたようである。
単なるマニアなヲタと違い、やはりこいつも実戦を積んだ軍人なのだ。
そのヲタが満足げなのを確認して、シドは凭れたロッカーから身を起こした。
「ところで何でその銃なんだ? 『おっきくて格好いい!』とかねぇのかよ?」
コンパクトでハイファの言う通り、ショルダーホルスタで脇に吊ってもスーツのラインは崩れない上、ジャケットのボタンを留めれば武器を持ち歩いているようには見えない。だがそれこそガンヲタはもっとデカい派手なブツを選ぶと思っていたのだ。
おまけに遥かAD世紀の太古から使われている機構の火薬式である。見た目を裏切る重さがあり、装弾数も九発とチャンバに一発の計十発と少なく威力も弱い。
当たりにくい、というのはハイファには要らぬ心配だろうが。
しかし今回ハイファは星系政府法務局が認めた『刑事』であり、『シドのバディ』なのだ。シドのレールガン以上のブツでも持ち出さない限りは、武器の所持を咎められることはない。
さっき捜査戦術コンに流した申請はシド自身認めるのも癪だが危機管理と確率論的観点から簡単に通る筈、そうでなくとも別室絡みで手抜かりなどある筈がない。
そう不思議に思ったシドだったが、スパイ軍人は暢気にのたまった。
「だってせっかく警察官になったんだもん、これ持たなきゃウソでしょ。惑星警察の制式拳銃シリルM220。一度は持ってみたかったんだよね、有質量弾を撃てるのも滅多にないんだし。名前も付けちゃおっかな~。ねえ、知ってる? 武器も名前を付けるくらい可愛がると命中率もアップするんだよ、本当に。統計的立証もされてる」
全く、シドには解らないガンヲタぶりだった。
「……もういい。行くぞ」
「アイ・サー、じゃなくて、『はい、先輩♪』」
「そんなに嬉しいか?」
「当たり前じゃない。室長に言われた時は耳を疑ったもん」
「お互い上司には恵まれてねぇんだな」
「それはノーコメント、ってゆうかシドとのお仕事なんてご褒美貰っちゃったしね」
仕事が褒美とは、とうに絶滅したブラック企業のようだとシドは思う。
「これまでの酷い仕打ちを忘れるくらいでなきゃ、スパイは務まらねぇんだろうな」
「過去の不幸より今の幸せ。これから数日間シドは完全に僕のもの。愛する人と一緒に公然と外を並んで歩いて、手を繋いで、ちょっと抱き締めたりキスしたり……」
「それ、デカ部屋で口走ったら殺すぞ」
腰の巨大レールガンを撫でるシドの冷たい低音にハイファは無言で頷いた。
「でもさ、お前んとこならとっくに病院の特別室くらい覗き済みだろ、喩え患者が偽名で入ってても。リストをこっちに寄越さないのはどうしてだ、ケチか?」
「率直な疑問は室長に伝えておくよ。でもこの際リストは無視してもう一度病院は回る。だって僕が来たのはシドのストライクを期待してのことだからね、これ重要」
「ストライクなあ。まあいい、俺は俺で普段の仕事と変わんねぇし付き合うさ」
途端に嬉しげな顔をするハイファにシドは投げられたボールを取ってきた犬を想像し、本当にこいつにスパイが務まっているのだろうかと何十回目かの疑問を持つ。
「けど気を付けてよね。敵は星系政府議会議員どころか、この広大なテラ系星系全てを統括するテラ連邦議会議員、その議席はたったの七百なんだから」
「名士中の名士、下手に食いつくとこっちが痛い目を見るってか」
「そういうこと」
喋りながらも迷いなく銃を組み立てるハイファの手元をシドは注視する。
組み上げた銃に弾薬を詰め込んだ弾倉を叩き込み、スライドを引いて薬室に初弾を送り込むとマガジンキャッチを押して掌にマガジンを落とした。マガジンの減った一発を再装填、満タンにしてから再びマガジンを叩き込んで安全装置を掛ける。
幾らセイフティを掛けているとはいえチャンバに一発を送り込み、すぐさま撃てる状態で保持する辺りはこいつも笑って話せる以外の修羅場をかいくぐってきたようである。
単なるマニアなヲタと違い、やはりこいつも実戦を積んだ軍人なのだ。
そのヲタが満足げなのを確認して、シドは凭れたロッカーから身を起こした。
「ところで何でその銃なんだ? 『おっきくて格好いい!』とかねぇのかよ?」
コンパクトでハイファの言う通り、ショルダーホルスタで脇に吊ってもスーツのラインは崩れない上、ジャケットのボタンを留めれば武器を持ち歩いているようには見えない。だがそれこそガンヲタはもっとデカい派手なブツを選ぶと思っていたのだ。
おまけに遥かAD世紀の太古から使われている機構の火薬式である。見た目を裏切る重さがあり、装弾数も九発とチャンバに一発の計十発と少なく威力も弱い。
当たりにくい、というのはハイファには要らぬ心配だろうが。
しかし今回ハイファは星系政府法務局が認めた『刑事』であり、『シドのバディ』なのだ。シドのレールガン以上のブツでも持ち出さない限りは、武器の所持を咎められることはない。
さっき捜査戦術コンに流した申請はシド自身認めるのも癪だが危機管理と確率論的観点から簡単に通る筈、そうでなくとも別室絡みで手抜かりなどある筈がない。
そう不思議に思ったシドだったが、スパイ軍人は暢気にのたまった。
「だってせっかく警察官になったんだもん、これ持たなきゃウソでしょ。惑星警察の制式拳銃シリルM220。一度は持ってみたかったんだよね、有質量弾を撃てるのも滅多にないんだし。名前も付けちゃおっかな~。ねえ、知ってる? 武器も名前を付けるくらい可愛がると命中率もアップするんだよ、本当に。統計的立証もされてる」
全く、シドには解らないガンヲタぶりだった。
「……もういい。行くぞ」
「アイ・サー、じゃなくて、『はい、先輩♪』」
「そんなに嬉しいか?」
「当たり前じゃない。室長に言われた時は耳を疑ったもん」
「お互い上司には恵まれてねぇんだな」
「それはノーコメント、ってゆうかシドとのお仕事なんてご褒美貰っちゃったしね」
仕事が褒美とは、とうに絶滅したブラック企業のようだとシドは思う。
「これまでの酷い仕打ちを忘れるくらいでなきゃ、スパイは務まらねぇんだろうな」
「過去の不幸より今の幸せ。これから数日間シドは完全に僕のもの。愛する人と一緒に公然と外を並んで歩いて、手を繋いで、ちょっと抱き締めたりキスしたり……」
「それ、デカ部屋で口走ったら殺すぞ」
腰の巨大レールガンを撫でるシドの冷たい低音にハイファは無言で頷いた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
おっ☆パラ
うらたきよひこ
キャラ文芸
こんなハーレム展開あり? これがおっさんパラダイスか!?
新米サラリーマンの佐藤一真がなぜかおじさんたちにモテまくる。大学教授やガテン系現場監督、エリートコンサル、老舗料理長、はたまた流浪のバーテンダーまで、個性派ぞろい。どこがそんなに“おじさん心”をくすぐるのか? その天賦の“モテ力”をご覧あれ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
裏公務の神様事件簿 ─神様のバディはじめました─
只深
ファンタジー
20xx年、日本は謎の天変地異に悩まされていた。
相次ぐ河川の氾濫、季節を無視した気温の変化、突然大地が隆起し、建物は倒壊。
全ての基礎が壊れ、人々の生活は自給自足の時代──まるで、時代が巻き戻ってしまったかのような貧困生活を余儀なくされていた。
クビにならないと言われていた公務員をクビになり、謎の力に目覚めた主人公はある日突然神様に出会う。
「そなたといたら、何か面白いことがあるのか?」
自分への問いかけと思わず適当に答えたが、それよって依代に選ばれ、見たことも聞いたこともない陰陽師…現代の陰陽寮、秘匿された存在の【裏公務員】として仕事をする事になった。
「恋してちゅーすると言ったのは嘘か」
「勘弁してくれ」
そんな二人のバディが織りなす和風ファンタジー、陰陽師の世直し事件簿が始まる。
優しさと悲しさと、切なさと暖かさ…そして心の中に大切な何かが生まれる物語。
※BLに見える表現がありますがBLではありません。
※現在一話から改稿中。毎日近況ノートにご報告しておりますので是非また一話からご覧ください♪
真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~
椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」
仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。
料亭『吉浪』に働いて六年。
挫折し、料理を作れなくなってしまった――
結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。
祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて――
初出:2024.5.10~
※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。
剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―
三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】
明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。
維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。
密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。
武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。
※エブリスタでも連載中
夜勤の白井さんは妖狐です 〜夜のネットカフェにはあやかしが集結〜
瀬崎由美
キャラ文芸
鮎川千咲は短大卒業後も就職が決まらず、学生時代から勤務していたインターネットカフェ『INARI』でアルバイト中。ずっと日勤だった千咲へ、ある日店長から社員登用を条件に夜勤への移動を言い渡される。夜勤には正社員でイケメンの白井がいるが、彼は顔を合わす度に千咲のことを睨みつけてくるから苦手だった。初めての夜勤、自分のことを怖がって涙ぐんでしまった千咲に、白井は誤解を解くために自分の正体を明かし、人外に憑かれやすい千咲へ稲荷神の護符を手渡す。その護符の力で人ならざるモノが視えるようになってしまった千咲。そして、夜な夜な人外と、ちょっと訳ありな人間が訪れてくるネットカフェのお話です。
★第7回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
満月の夜に烏 ~うちひさす京にて、神の妻問いを受くる事
六花
キャラ文芸
第八回キャラ文芸大賞 奨励賞いただきました!
京貴族の茜子(あかねこ)は、幼い頃に罹患した熱病の後遺症で左目が化け物と化し、離れの陋屋に幽閉されていた。一方姉の梓子(あづさこ)は、同じ病にかかり痣が残りながらも森羅万象を操る通力を身につけ、ついには京の鎮護を担う社の若君から求婚される。
己の境遇を嘆くしかない茜子の夢に、ある夜、社の祭神が訪れ、茜子こそが吾が妻、番いとなる者だと告げた。茜子は現実から目を背けるように隻眼の神・千颯(ちはや)との逢瀬を重ねるが、熱心な求愛に、いつしか本気で夢に溺れていく。しかし茜子にも縁談が持ち込まれて……。
「わたしを攫ってよ、この現実(うつつ)から」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる