上 下
102 / 109
第四章 新たな一歩

102 生まれつき

しおりを挟む
 「「「ネイト(さん)!」」」

 ミコトちゃんと別れ、食堂へと向かう途中、突然ネイトを呼び止める声が3つ聞こえる。
 その声の主は、ヘンディ、ザシャ、ブラド。

 「あ、あの……戻ってきました……迷惑かけてすみません」

 「ガハハ、謝らなくていいぜ!
 お前ならどうせすぐ戻ってくると信じていたからな!」

 「そんな……」

 満面の笑みで言葉を返すブラド。対するネイトは少し困った顔をしつつも、どこか嬉しそうだ。
 そんなネイトに次に声をかけるのは、ヘンディ。

 「ネイト……俺こそすまなかった。
 お前からのアドバイスを活かせず、お前を傷つけてしまった。お前が出ていく原因を作ってしまった。
 でもこれだけは信じてほしい! お前のアドバイスが役に立たなかったわけじゃ――」
 「あ! いや、違います! その……気にしてなかったと言えば嘘になりますけど、それでも出ていった直接の理由じゃないです」

 ヘンディの言葉を必死になって否定するネイト。
 どうやら、ヘンディの想像とは違った展開のようだ。

 「へ? そうなのか? てっきりタイミング的に試合後の俺とザシャとの会話を聞いたからかと……」

 「えっと……正直、会話が原因……ってのはあってるかも……。
 僕が出ていった理由は……ルーツです」

 「ルーツ……?」

 ネイトの語るルーツという言葉。
 これは恐らく先程のミコトちゃんとのやり取りとも重なってくるものだろう。

 「はい。僕には、大したルーツがありませんでした。
 サッカーを始めた理由だってサッカーが好きだからってだけだし、こんなにネガティブなのにすら特に理由はありません。ただ生まれつき気が弱かった、それだけです。
 ヘンドリックさんみたいに過去何かあったとかそういうのも全くありません」

 「別にそんなの……気にすることじゃ……」

 「はい、今ならわかります。
 それでも僕は怖かった。
『なぜ試合に出られないんだ? なぜそんなにネガティブなんだ?』と聞かれるのが。
 幸い今までにこんなことを聞いてくる人はいませんでしたが、それも時間の問題。いつまでも逃げてはいられない」

 「…………」

 「ヘンドリックさんの話を聞いて感じました。ヘンドリックさんですら過去の出来事によりトラウマが芽生えてしまう。だったら僕にも何かあるんじゃないのか。ルーツを聞けば僕のネガティブを解決できるんじゃないのか。
 そういう考えに至る可能性が頭に浮かんでしまいました」

 「…………」

 正直、否定しきれない自分がいる。
 ネイトに対するアプローチとして、そういうやり方が頭に浮かばなかったわけじゃない。

 「でも僕には何も無かった。もし何か聞かれても、生まれつきとしか答えられない。
 結局僕は、あの時――この戦いに参加すると表明した時から何も変わっていない。
 そろそろみんなの堪忍袋の緒も切れる頃だ。
 弱い僕は、自分の弱さを認められずに……逃げ出しました」

 「それでエリラに行ったのか」

 「エリラに行ったというよりは、人気のない方へと進んでいったら、いつの間にか辿り着いてたって感じです。
 そして僕はそこでミコトちゃんに会いました。彼女もまた、ルーツによる問題を抱えていた一人」

 ***

 「ふうん。じゃが、生まれつきというのはそこまで小さいものかのう」

 「……え?」

 「生まれつきじゃぞ? 生まれてから今日まで、何年も付き合ってきた感情じゃ。
 後天的なものと比べても、根の深さならうぬの方が上じゃ。
 侮れるようなものでは無いと思うのじゃが……。
 まあ、我が言えたことではないがな」

 ***

 「ミコトちゃんの何気なく言ったその言葉に僕は救われました。
 だからここに帰ってくることができたんです。
 だから、僕は強くなるため再び立ち上がれたんです。
 本当に……ミコトちゃんには感謝しかありません」

 ミコトちゃんもネイトと似た悩みを持ち、考え続けていた人。そんなミコトちゃんだからこそそういった言葉が出てきたのだろう。
 それならば、俺がネイトにかける言葉はただ1つ。

 「ミコトちゃんも……ネイトのおかげでここに来ることができて、喜んでたぞ」

 「そうですか。
 それは……凄くよかったです」

 一筋の涙を流しながら微笑むネイト。
 彼ももう心配ないだろう。

 同じ言葉でも、言う人によって受け取り側の捉え方は変わる。
 恐らく同じ言葉を俺がネイトに伝えてもここまで響きはしなかったはずだ。
 ミコトちゃんだからこそ響いた言葉。
 運命の巡り合わせに感謝しよう。

 「ガハハ、で、ネイト、次からは試合に出るらしいな!」

 「う、うん。次こそは出るつもり。もちろん、僕の力を必要としてくれるのなら……だけど」

 「何言ってんだネイト! よく聞けお前ら! ネイトはめちゃくちゃサッカーが上手いからな!
 次の試合は勝利確定だ!」

 「ちょ、ハードル上げないで……」

 「ガハハ、こんなのお前にとっちゃハードルでもなんでもないぜ!」

 「まあネイト、そんなに気負うな。
 気負いすぎて破滅しかけたやつを俺は知ってるからな……!」

 「それってヘンディさんのことじゃないっスか」

 「あ、バレた?」

 「そりゃあんだけ騒いだんだからバレるっスよーーー」

 「「「あはははは」」」

 ネイトも戻って来、チームの雰囲気も良くなっている。こんな良い流れの中で5日目は終わり、迎えた6日目。今日は試合会場が決まる日だ。
 そわそわしながら特訓を終え、ミーティングルームへと向かう。

 結局試合前日になっても未知の力を使うことはできなかった。
 これは俺だけじゃなく、ブラドとヘンディ以外の全員が同じ状況だ。
 だがこれは仕方ない。大きな力だ。簡単に身につけられるとも思っていない。
 もちろん、今までのように試合中に覚醒する可能性もあるだろうしな。

 それに、未知の力以外の形でなら全員特訓の成果はちゃんと出ている。
 俺も、オフ・ザ・ボールに関してはかなり練度を上げることができた。
 未知の力が無くても充分戦える実力は身についたはずだ。

 そして伝えられる会場は……

 「……メラキュラです」

 「ああー、終わったあああ」
 「怖いよおおおおおおおおお」
 「べ、別に怖くなんか全くないけど! 敵星までいくのはめんどくさくて嫌ね!」

 ……じゅ、充分戦える……はずだ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Neo Tokyo Site04:カメラを止めるな! −Side by Side−

蓮實長治
SF
「お前……一体全体……この『東京』に『何』を連れて来た?」 「なぁ……兄弟(きょうでえ)……長生きはするもんだな……。俺も、この齢になるまで散々『正義の名を騙る小悪党』は見てきたが……初めてだぜ……『悪鬼の名を騙る正義』なんてのはよぉ……」 現実の地球に似ているが、様々な「特異能力者」が存在する2020年代後半の平行世界。 「関東難民」が暮す人工島「Neo Tokyo」の1つ……壱岐・対馬間にある「Site04」こと通称「台東区」の自警団「入谷七福神」のメンバーである関口 陽(ひなた)は、少し前に知り合った福岡県久留米市在住の「御当地ヒーロー見習い」のコードネーム「羅刹女(ニルリティ)」こと高木 瀾(らん)に、ある依頼をするのだが……。 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(pixivとGALLERIAは掲載が後になります)

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

幻想機動天使 ヴェンデッタ・ゼロ〜Vendetta:Zero-If my wish could come true〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)
SF
『ぶっちゃけなんでもアリがOKな方のみ見てください!!!!!!!!!!!』 *******  世界は、東西の2つに分かたれていた。  舞台はそう、西側の大陸『西大陸』における、とある国。  人類の平和を脅かした魔王との戦いより4ヶ月後、剣と魔法のみで栄えていた国『人間界(人界)』は、色々あって『サイドツー』というロボットのパイロットではびこっていた! 剣と魔法で栄えた文明のはずだったのに!  主人公『ケイ・チェインズ』は、サイドツーに乗るパイロット。  サイドツーを用いた競技である『サイドポーツ』に勤しんでいた日々は突如として終わりを告げ、ケイはサイドツーを軍用に扱う『第0機動小隊』と言う部隊に放り込まれてしまう!  国やケイを取り巻く人々の誇りと矜持、ケイ自身の固くもった決意と、その代償。  さまざまな感情、事情や情勢に板挟みになる中でも、ケイは自分の信ずるものを貫き通すことができるのか?! 魔法アリのファンタジー世界で繰り広げるSFファンタジーミリタリー(?)ロボバトル、開幕っ!! *本作は『もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜』の『断章Ⅰ』から『断章Ⅱ』の間を縫ったスピンオフです。  スピンオフですけど初見でも楽しめる作りになってますし、本編を見ていれば100倍は面白くなるはずです!   初見の方も是非見ていってください! よければ本編のご拝読もよろしくお願いします!! *ガチガチのロボモノです、本編の世界がちゃんとファンタジーしてるので路線変更とも言えなくもないですが、ロボの設定もまあ作り込んでるので大丈夫でしょう() *『*』で区切られている時は視点が、『◆』で区切られている時は時間が、『◇』で区切られている時は場所が大きく変わっている時です、ご了承の上でご拝読ください。 『Wit:1/もしも願いが叶うなら〜ヴェンデッタ・ゼロ〜』

ダミーロンド~世界の崩壊と男三匹限界生活~

おくむらなをし
SF
世界が崩壊して数か月経った。なぜか生き残った男3人は、ホームセンターにいた。 全員サバイバル経験が無く食糧も尽きかけている。そんな3人の困った暮らし。 それとは全く関係ないところで、世界崩壊の原因が徐々に明らかになっていく……。 輪舞曲(ロンド)が異なる旋律を挟むように、短編を長編で挟みました。 短編は長編と関わったり関わらなかったりします。 ◇残酷・グロテスクな描写が多々あります。閲覧にはご注意ください。 ◇この作品はフィクションです。長編16話+短編7話、完結済み。

三男のVRMMO記

七草
ファンタジー
自由な世界が謳い文句のVRMMOがあった。 その名も、【Seek Freedom Online】 これは、武道家の三男でありながら武道および戦闘のセンスが欠けらも無い主人公が、テイムモンスターやプレイヤー、果てにはNPCにまで守られながら、なんとなく自由にゲームを楽しむ物語である。 ※主人公は俺TUEEEEではありませんが、生産面で見ると比較的チートです。 ※腐向けにはしませんが、主人公は基本愛されです。なお、作者がなんでもいける人間なので、それっぽい表現は混ざるかもしれません。 ※基本はほのぼの系でのんびり系ですが、時々シリアス混じります。 ※VRMMOの知識はほかの作品様やネットよりの物です。いつかやってみたい。 ※お察しの通りご都合主義で進みます。 ※世界チャット→SFO掲示板に名前を変えました。 この前コメントを下された方、返信内容と違うことしてすみません<(_ _)> 変えた理由は「スレ」のほかの言い方が見つからなかったからです。 内容に変更はないので、そのまま読んで頂いて大丈夫です。

幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~

桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。 そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。 頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります! エメルロ一族には重大な秘密があり……。 そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。

超激レア種族『サキュバス』を引いた俺、その瞬間を配信してしまった結果大バズして泣いた〜世界で唯一のTS種族〜

ネリムZ
ファンタジー
 小さい頃から憧れだった探索者、そしてその探索を動画にする配信者。  憧れは目標であり夢である。  高校の入学式、矢嶋霧矢は探索者として配信者として華々しいスタートを切った。  ダンジョンへと入ると種族ガチャが始まる。  自分の戦闘スタイルにあった種族、それを期待しながら足を踏み入れた。  その姿は生配信で全世界に配信されている。  憧れの領域へと一歩踏み出したのだ。  全ては計画通り、目標通りだと思っていた。  しかし、誰もが想定してなかった形で配信者として成功するのである。

男女比の狂った世界は、今以上にモテるようです。

狼狼3
ファンタジー
花壇が頭の上から落とされたと思ったら、男女比が滅茶苦茶な世界にいました。

処理中です...