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第三章 謎と試練

47 フロージア

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 「「「氷の惑星?」」」

 「ええ。超~寒いの。至る所が凍ってて、気温も氷点下15度以下は当然。あんなとこ絶対住みたくないわ」

 「ちょっと、ちょっと、そんなの無理だって! それに前言ってなかったっけ? 参加星はサッカーが可能な星に限られるって」

 焦るレオ。それも当然、氷点下15度以下での試合なんて考えるだけでも寒くなってくる。

 「言ってたけど、ゼラからしたら可能ってことみたいね。死ぬほど寒いけど死にはしないからかしら。
 まあ、サッカーって冬のスポーツだし、地球でも氷点下18度で試合したことあるって聞いたわ。それより少し低いくらいなら大丈夫でしょ!」

 「そんな超人たちと一緒にしないでくれよぉ~」

 「なんてね。そんな危険な状態で私たちが送り出すわけないじゃない!
 ……安心して! 今オグレスでは体温を調節できるユニフォームの開発を進めているわ。試合までには間に合うから……心配しなくても大丈夫よ! そもそもホーム会場なら気温とか関係ないしね!」

 か、科学力……! ついさっき科学を信じすぎるのもよくないって言ったが撤回、やっぱ科学力よ。これは安心、凄く安心。

 「それにフロージアのサッカーのレベルは、そうね……地球でいうと国の代表には選ばれないレベルのプロってところかしら。身体能力はあなたたちと同じくらいだし、プロの中でも上澄みのあなたたちからしたら……普通に勝てる相手よ。
 そしてこの間の第1試合、エクセラルとフロージアの試合は8-0でエクセラルの勝利。
 この試合はエクセラルのホーム戦、今回の大会の会場の占める重要度を考えたらこれだけで強さを判断し切ることはできないとはいえ、この点差よ。気温さえ対策すればあなたたちなら……」

 「……フィロさん?」

 「いいえ、なんでもないわ。
 あなたたちなら……きっと大丈夫! 油断は禁物だけど、気負わないでいきましょう!」

 「「「はい!」」」

 ミーティング終了、俺はこれからの予定を考える。
 対フロージア。話を聞く限りだと特別な練習は要らなそうだ。後に控えるエクセラルとの試合を考えるとチーム連携や個人の技術の強化といったシンプルな練習が1番必要だろう。特に個人の技術を更に伸ばすためにも特訓場が使えないか今度監督に聞いてみよう。

 エクセラルは既に1勝している。もしここに負けたら勝ち上がることは難しくなるだろう。8点差ということもあって得失点差で勝つことも難しい。エクセラル戦は絶対に負けられない戦いになるな。

 そしてやるべきことは他にもある。それはチームメイトと仲を深めること。これまでの俺たちはギガデス戦まで時間が無かったこともあって忙しかったからな。チームとして強くなるためにもこれはとても大切なことだ。
 俺たちはまだお互いのことをほとんど知らない。今回のヘンディの様に、悩みや問題を抱えてる選手が他にもいるのかもしれない。このチームを更に良いチームにするためにも、全員と信頼関係を結びたいな。

 そしてそんなヘンディ。試合から時間も経って比較的元気にはなってきている。が、だからといって根本的な解決には至っていない。
 どうすればいいのか。俺はまだ答えを見つけられていない。

 ***

 ー同時刻 フロージア星ー

 「0-8……。どうするんだ! もう後がないじゃないか! 負けたら侵略されるんだぞ! ええ!?」

 「そんなに熱くならないでくださいおじさま。椅子が溶けてしまいますわ」

 「ええい! そんなこと言ってる場合じゃないわ!
 君! 副キャプテンだろ! もっと焦らんか! 自分たちの置かれている立場をわかっているのかね!?」

 「ええ、それはよく存じております。
 ですが、私たちのサッカーの実力ではエクセラルに勝てないのも仕方がありません。ホームを取れなかった時点で負けは決まってましたわ」

 「ぐぬぬ、そんな話は聞きたくないわ! 次以降も同じ言い訳を続けるのかね!」

 「そんなつもりはございません。メラキュラ・ギガデス・オグレス、残りの3星は全てサッカー未発展星。私たちなら確実に勝てますわ」

 「だが……もし負けたら一巻の終わりなのだぞ……。それに8点の失点もある……。
 いや、それどころかエクセラルの試合結果によっては勝とうが終わりだ……」

 「エクセラルに関しては私たちに策があるのでご心配なく。
 得失点差に関しても問題ありませんわ。確かにアウェイの試合でこの差を埋めることは困難。
 しかし、ホームの試合でしたらこの差を埋め、更にアドバンテージを取ることが、私たちの環境なら可能でございますわ」

 「……確かにこの星の環境は厳しい、ホーム戦に持ち込めば有利だろう。だが、オグレス。やつらならあの科学力で気温くらい対応してくるやもしれん。試合結果は聞いたが1戦目はやつらが勝利している。ひ弱な星人とは思っていたが最低限の力はあるようだ。油断してると――」

 「いえいえ、単純な気温頼りで大差を付けられるとは当然私たちも思っておりません。そこで、確実に勝つため、この星にあるを施してほしいのですわ」

 「まさか……本気でをやるつもりなのか」

 「あら、私たちは元より本気でしたわ。おじさまたちがそこまで渋る理由こそ謎ですの」

 「だが……しかし……」

 「やらないと、終わりますわよ」

 「…………」

 ***

 「失礼いたしますわ」

 「どうでした? フリア」

 「あらアマトさん、待っていらしたの」

 「当然ですよ、僕が考えた作戦なんですから。で、彼はなんと?」

 「なんとかOKさせましたわ。
 全く、あれだけ焦っていらっしゃるのに、いざ行動するとなると躊躇いますの、どうにかなりませんかしら」

 「はは、それが大人ってやつですから。彼らは変化が怖いのですよ。だから、本当に後が無くなるまで動けない」

 「はあ、頭の固い老人と話すのは嫌になりますわ。そもそも今承諾するなら前回にしておいてほしかったですの」

 「まあいいじゃないですか。結局ホームが取れなかった時点で前回承諾されようが今回承諾されようが同じです。そんなことより未来に目を向けましょう」

 「次はオグレスですのよね。ホームが取れたらいいのですけど」

 「8点差で負けた僕たち、そして寒さに対抗できる科学力。オグレスが1番油断する状況ですからね。ここで大量に得点し得失点差のディスアドバンテージを無くしましょう。
 これ以降も挽回の機会はあるとはいえ、2連続でホームが取れないなんて展開は……あまり考えたくないですね」

 「全く、本当に運要素の強い大会ですわね。前の試合でホームが取れていれば私たちの予選突破は確実でしたのに」

 「確かに酷い大会ですよね。とはいえ、あの最悪の状況から可能性を掴めるところまで来られてよかったです」

 「でもそれって結局他のチーム頼りですわよね? 大丈夫ですの?」

 「次の試合は2週間後ですから、次の試合、そしてそのまた次の試合はちょうど僕たちの施した仕掛けが発動するはずです。いくらエクセラルといえども主力が脚に爆弾を抱えていれば苦戦は必至、1戦負ける可能性は決して低くありません」

 「流石アマトさんですわ。
 前回の試合中、勝てないと判断するや否や、相手の脚を削り後のチームに託す戦法に切り替える頭の回転の速さ、私惚れ惚れしましたの。
 それに、仄かに見えた残忍性にもゾクゾクと……ふふふ」

 「……それもこれも僕たちの体質とあなたたちの協力のおかげですよ。本当にありがとうございます」

 「いえいえ、そんなそんな。
 私、私たちのこの冷たい身体にそんな用途があっただなんて知りませんでしたの」

 「"一定時間身体を押し当てることで対象箇所に遅効性の凍傷を引き起こす"。狩猟の時代に用いられていた技術ですよ。当時は即効性で尚且つ効果も更に強力。そんな技術も使われなくなって久しい現在、遅効性になりその効果も劣化したようですが、今回に限っては上手く作用しましたね」

 「ああ、即効性だとして、試合中に片方のチームがバタバタと倒れますと私たちのチームが疑われることは避けられませんものね」

 「そうです。遅効性なら気づいても後の祭りです。それに効果の劣化も大きいです。流石に死者を出してしまっては僕たちへの追求は免れませんが、軽い凍傷程度なら、この体質をが故の事故とすることができます」

 「なるほどですわ。
 しかし、加害者側の私たちが言うのもなんですけど、恐ろしい大会ですわよね」

 「サッカーの大会とはいえ実態は星の存亡をかけた戦争ですからね。僕たちなんてまだ優しいものですよ。生き残るため、更に残忍なやり方で勝利を狙うチームもいることでしょう。
 それに、僕たちのように負けたらその責任を取らされるチームもある。みんな必死ですよ」

 「まあそこまで必死にならなくても大丈夫ですの。私、ゼラの管轄の星の1つにツテがありますから。いざとなったらアマトさんはその星に亡命させて差し上げますわ」

 「心強いです、フリア。しかし、僕にだって責任があります。やれるところまでは全力を尽くすつもりですよ」

 「ふふっ。そういうところもあなたの素敵なところですわ。ではまずは次の試合でホームを取れることを祈って」

 「はい、共に戦い抜きましょう」
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