上 下
32 / 109
第二章 初陣

32 まずは円陣

しおりを挟む
 こうして試合前最後のミーティングも終わり俺たちは試合会場へワープした。
 試合会場は予想以上に広く、観客も大勢いたため少しワールドカップを思い出し懐かしさに浸る。舞台が変わってもここに立った時に感じることは同じだ。絶対に勝つ。俺たちはスタジアムに礼をし奥へと進んでいく。

 更衣室に入りユニフォームに着替えるとみんながそれぞれ感嘆の声を上げる。俺も着替えたが確かにこれは凄い。身体へのフィット感はもちろん、今まで着てきたどの服よりも動きやすい。それにシューズも軽すぎる上に足への負担が全く無くまさに理想の靴だと言えるだろう。
 これなら実力を最大以上に発揮できる。圧倒的な科学力に驚きと感謝が止まらない。

 試合開始時刻を直前に控えグラウンドに到着する俺たち。見渡すと満員の観客、聞こえてくるのは莫大な声援。ホームの強さを改めて実感する。

 次に俺たちは整列し、貴賓席に向かって礼をする。オグレスの王様など要人がたくさんいるらしい。
 王冠を被った見るからな王様の他にも、祈祷師みたいなお婆さんや小さな子どもなどが座っていた。

 そんなイベントが終わるや否やアウラス監督から試合前最後の言葉が送られる。

 「ほっほ、ついに初戦じゃのう。まあ総当たり戦じゃ、負けたからって終わりなわけでもないわい。
 楽しむことを忘れず戦ってくるのじゃぞ~。
 わしからはこれだけじゃ」

 監督からの相変わらずの緩い言葉を聞き、俺たちはグラウンドに向かう。その途中、俺は監督に呼び止められる。

 「龍也、これを」

 「これは……キャプテンマーク」

 「ほっほ、だからと言って気負う必要はないわい。
 普段通りやってくるのじゃぞ」

 俺は監督からの言葉とキャプテンマークを受け取り、ピッチに礼をした後センターラインに並んでいる仲間と合流する。

 「それではキャプテン同士握手の後、コイントスをお願いします」
 主審が俺たちにそう告げる。

 オグレスのホーム試合だからといって審判もオグレス星人というわけではない。

 サッカーにおいて審判は重要だ。
 その理由は主にファウル。
 ファウルについて、一応大まかな基準は定められている。しかし、激しい試合の中、際どいプレーが頻繁に発生するのも事実。
 今のプレーはファウルだ! いや、ファウルじゃない!
 こういった言い争いは日常茶飯事。
 そんな際どいプレーに最終的な判断を下すのが審判だ。

 よって、審判は公平な立場の人間である必要がある。ということで、今大会はゼラの用意した審判が採用されている。

 審判を軽く観察してみる。抱いた印象は冷静そうな普通の青年といったところで、特にこれといった特徴はない。
 ゼラというより管轄の星から用意された人物なのだろうか。

 今回の試合はギガデスのプレーの特性上、激しい試合が予想される。危険なプレーもあるだろう。この審判が、引いてはゼラがどこまでをファウルと判断するのか、この点にも注目していきたい。

 そして、向かい合うのはギガデス代表グラッシャー。高身長の威圧感は相変わらずだが負けない強い意思で立ち向かう。

 「改めてよろしくお願いします。全力で、そして楽しい勝負にしましょう」

 キャプテンとしてガロに言葉を告げ、握手をする。
 ……手デカっ!? ほんと今更だが手が大きい。そして痛っ! 少し手を握られただけで痛いのだが……。
 だがこんなことで臆してはいられない。俺は負けじとガロを見つめる。

 しかしそんな俺の言葉を聞いたガロは冷酷な表情を変えずにこう返す。

 「相変わらずぬるいな。サッカーとは自身が助かるための手段にすぎない。故に楽しむという感情はない。ただ目の前の敵を倒すだけだ」

 その言葉の後、ホイッスルが鳴りコイントスが行われる。
 コイントスに勝ったチームがコート(攻めるゴール)とボール(前半のキックオフ権)の両方を選ぶことができるルールだ。

 今回はコイントスに負けてしまったので、選択権は相手にある。
 予想とは違い、ギガデスはボールを選ばなかった。ギガデスのことだから最初から攻めてくると思ったのだが、序盤は様子見なのだろうか。

 その後、俺たちはお互いに礼をし、その場を離れることとなる。

 散り散りにポジションにつこうとする仲間たち。そんな仲間たちを俺は大声で呼び止めた。

 「なあみんな! 1回円陣でも組まないか?」

 「あ? んな馴れ合いいらねえよ!」

 近くにいたヒルが即座に否定するも

 「いいじゃないか! 俺たちの初陣だしな、景気よくいこう!」

 ヘンディの後押しもあり、みんなが俺の元に集まってくる。ヒルはそれでも来てくれなかったが。

 「先輩たちもきてくださいよっス!」

 ザシャの呼びかけにより、ベンチに座っていた将人とラーラ、ネイトがこちらに寄ってくる。ルカは俺たちの行動など気にも留めていないようだ。

 「大丈夫か? まだ足震えてるみたいだけど無理しなくてもいいんだぜ」

 「心配ありがとうございます将人さん。ぼくも情けなさと恐怖でいっぱいだけどそれでもチームの一員だから、せめてこれくらいは参加したいです」

 「ま、それならいいけどよ」

 「へへっ、じゃあ俺は凛ちゃんとラーラちゃんの間に……」

 「来! る! な!」

 「あはは……」

 「ほら、ブラド先輩もきてくださいっス! 俺たち仲間なんスから!」

 「お、おう」

 「雰囲気、よくなったんじゃないか?」

 隣に来たクレが俺に話しかける。
 確かに凛は性格こそまだつんつんしているが言葉は柔らかくなっているしブラドも仲間を貶したりはしていない。2人の変化につられてチームメイトの雰囲気もよくなっている。ザシャはブラドをよく思っていなかったと聞いていたが、今はもうそんな事もないようだ。
 昨日未来に言われた通り、悪いことばかりじゃなかったな。

 「まあまだ完璧とは言えないけどな」

 「ふっ、そこはおいおい解決していけばいいさ。
 さあ、キャプテン、締まる言葉頼むぞ」

 クレに背中を押されて円陣の真ん中に飛び出した俺。360度視線があって緊張するが、それでもキャプテンらしく俺は語る。

 「みんな、ついに試合だ。練習が足りてないとか他にも色々不安を抱えてる人もいるだろう。
 それでも今はそんなこと忘れよう!
 仲間と、そして自分のサッカーを好きな気持ちを信じて、最後まで全力で、楽しく、サッカーをしよう!
 グロリアンズ~」

 「「「…………」」」

 「あれ?」

 「「「え?」」」

 「え? ここはファイトーって言うところじゃないの?」

 「知らないよーそんなルールー。
 日本のローカルルールかー?」

 「えええ! ファイトーって言うだろ普通!
 てか将人! お前日本代表の時一緒に言ってただろ! なんで黙ってんだよ!」

 「え……。
 お前の号令はなんか……嫌だった」

 「なんだよそれ!」

 「あはははははははは」

 周りを見るとみんなが笑っている。少しは緊張もほぐせたかな。

 そして俺たちはポジションにつく。
 フォワードのゴザがバカにしたような目付きでニヤニヤと笑いながらこちらを見てくる。
 そして相手コートの中心で存在感を放つのはガロ。引き締まった雰囲気を崩さず司令官のようにどっしりと構えている。

 そうしてついに試合が始まる。
 審判が笛を咥え……

 「ピィィィィィィィィィッッッッ」

 試合開始だ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ひとりぼっちの世界、たった二人だけの星

鈴木りんご
SF
 人類が滅びた後の荒廃した世界を旅する青年シンと記憶喪失の少女ナリア。  二人の旅が終わるとき、この星の真実は明かされる。

日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~

うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。 突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。 なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ! ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。 ※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。 ※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。

疾風迅雷アルティランダー

エルマー・ボストン
SF
20XX年。 地球人は、宇宙人とのファーストコンタクトを体験した。 怪我により夢を諦めかけていた若き元バイクレーサー・東郷総司は、恩人である町工場経営者・坂田士郎が開発した 『搭乗型人型ロボット』 を譲り受け、ひょんなことから宇宙全体を巻き込みそうな勢いの戦いに身を投じていく。 宇宙から来た兄妹。 正体不明の謎の男。 大企業が創りし、もう一つのロボット。 そして、地球と坂田家を巻き込む、不穏な影。 それらをテキトーにあしらいつつ、総司は進む。マイペースに。 果たして総司は、行き当たりばったりで地球を救うことができるのか?

⊕ヒトのキョウカイ⊕【未来転生したオレは、星を軽くぶっ壊すチート機械少女と共にこの幻実(せかい)で生きて行く…。】

Nao
SF
 異世界転生したと思ったら未来だった…。  忍者の家系のナオは 20歳の若さで銃で撃たれ、脳だけ保存されコールドスリープをしていた。  ナオは自称神様のカレンの手によって砦学園都市の病院で目覚め、新しい身体を貰い、将来の為に学校に入り直す…。  そして…ナオがこの世界に来てから 1ヶ月後…圧倒的な物量と、際限が無い自己進化する宇宙最強の生命体『ワーム』が砦学園都市に攻めて来た…。  ナオは人型兵器のDLに乗り、大型シャベルでワームと戦う…。  そして、都市のピンチを救ったのは、ナオでは無く、機械の翼を持つ機械人『エレクトロン』の少女『クオリア』だった。 主な登場人物 ナオ  主人公 DLのテストパイロットをやっており、全体的に能力が弱いが道具と一体化する事で強くなる。 クオリア  機械人の為、不老不死で空間ハッキングと言う科学魔法を操る。  異世界転生者も真っ青な 大量破壊兵器の機械人であるが、ロボット三原則を守っており、主にナオをサポートしてくれる。 トヨカズ  VRゲームで中距離スナイパーを主に戦っている。  ワームとの戦いでVRゲームでの能力を生かし、中距離スナイパーとして戦う。 レナ  トニー王国の砦学園都市の次期都市長。  スラム街出身の移民で、戦闘能力は低いが、脳筋型のメンバーの中で作戦指揮や政治に長けており、メンバーの能力をフルで発揮出来るようする中間管理職。 ジガ  大戦時、ヒューマノイドの整形と義体整備を行う造顔師の師が運営していた風俗店のセクサロイド。  師が死んだ作中内では、造顔師と義体をメンテナンスする義体整備師を行う。  大戦前の人の文明に興味があり、大戦前のアニメや漫画、ゲームなどが好き。 ロウ  氷河期になり、低酸素状態の現在の地球で暮らす野生児。  雑食狼に育てられ、母親が死んだことで文明が衰退して産業革命前まで戻った集落で育てられる。  獣人の為 身体能力が高い。 カズナ  トヨカズとレナの娘で 最適化されたネオテニーアジャストの完成型の新人類。  頭が良く、3歳ながら義務教育終了レベルの頭を持つ、体重に対して筋肉量の比率が多く身軽に動けるが一定水準以上の筋肉は付かない。 ハルミ  大戦時にエレクトロンと戦っていた衛生兵。  大戦時に死亡し、機械の身体になる。  作中では 数少なくなってしまった医師として活躍。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

ワンダリング・ワンダラーズ!!

ツキセ
SF
当時ハマったゲームの続編を、当時の友達と遊ぶことになった話。 そのゲームの名は……『ワンダリング・ワンダラーズ!!』 「ええと、今作のジャンルは……『近未来惑星観光開拓MMOフルダイブシミュ――  ……って長いわ! 前作よりさらに長くなってんじゃねーか!」 「盛った、だけ?」 「……まぁ、わかりやすくは……あるのか?」 一章完結まで毎日連載中。 ご意見・ご感想、お待ちしております!

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

ストランディング・ワールド(Stranding World) 第二部 ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて新天地を求める~

空乃参三
SF
※本作はフィクションです。実在の人物や団体、および事件等とは関係ありません。 ※本作は海洋生物の座礁漂着や迷入についての記録や資料ではありません。 ※本作には犯罪・自殺等の描写などもありますが、これらの行為の推奨を目的としたものではありません。 ※本作はノベルアッププラス様でも同様の内容で掲載しております。 ※本作は「ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~」の続編となります。そのため、話数、章番号は前作からの続き番号となっております。  LH(ルナ・ヘヴンス歴)五一年秋、二人の青年が惑星エクザローム唯一の陸地サブマリン島を彷徨っていた。  ひとりの名はロビー・タカミ。  彼は病魔に侵されている親友セス・クルスに代わって、人類未踏の島東部を目指していた。  親友の命尽きる前に島の東部に到達したという知らせをもたらすため、彼は道なき道を進んでいく。  向かう先には島を南北に貫く五千メートル級の山々からなるドガン山脈が待ち構えている。  ロビーはECN社のプロジェクト「東部探索体」の隊長として、仲間とともに島北部を南北に貫くドガン山脈越えに挑む。  もうひとりの名はジン・ヌマタ。  彼は弟の敵であるOP社社長エイチ・ハドリを暗殺することに執念を燃やしていた。  一時は尊敬するウォーリー・トワ率いる「タブーなきエンジニア集団」に身を寄せていたが、  ハドリ暗殺のチャンスが訪れると「タブーなきエンジニア集団」から離れた。  だが、大願成就を目前にして彼の仕掛けた罠は何者かの手によって起動されてしまう。  その結果、ハドリはヌマタの手に寄らずして致命傷を負い、荒れ狂う海の中へと消えていった。  目標を失ったヌマタは当てもなくいずこかを彷徨う……  「テロリストにすらなれなかった」と自嘲の笑みを浮かべながら……

処理中です...