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第一章 さらば地球

16 会長の信頼

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 「いやぁ、大変だったね。
 多少なり批判はあると思っていたがまさかあれほどとは……。
 私の見込み違いだ。申し訳ない」

 会見を終えた俺たちは仲間たちのもとへと向かう。
 その途中にトール会長から謝罪を受けた。

 「いえ、僕も正直かなり油断していたので。それより途中のマイク音はトール会長ですよね? 助かりました、ありがとうございます」

 「はは、あれくらいならお易い御用だよ」

 「……トール会長、なんで俺をキャプテンに選んだんですか?」

 「? 前も言ったようにこの間の試合を見て適正だと思ったんだけどね」

 「いえ、理由は他にもあると思います。違いますか?」

 俺の言葉にトール会長は少し驚いた表情を見せるがすぐに切り替え口を開く。

 「……流石だね。実は昔、私は君を見かけているんだ。
 あれは……7年前、君が小学4年生の時に行われた大会、覚えているかい? 私はちょうどその時期日本に来ていて君の試合を目にしたのさ、確か決勝戦だったね」

 あの試合か、俺にとっても印象的な試合だったからよく覚えている。
 東京に住んでいる小学生を対象とした大会で、俺のチームは決勝まで進んだ。

 「覚えているかい? 相手のチームはかなりの強豪で、君たちのチームは前半終了時点で7-0で負けていた。誰もが諦めていただろう、だが――」

 ***

 ー7年前 東京都大会小学生部門決勝戦ー

 「ゴーーーーーーーール!
 FC品川追加点! そしてここで前半終了! 点差は7点! サッカークラブ青山、これは後が無くなったかー?」

 「いやー、FC品川は今大会でも全ての試合を大差で勝ち上がってきた超強豪。サッカークラブ青山も健闘していましたが先程のミスが響いたのでしょうか、上手く立て直して欲しいものです」

 「ごめんみんな、おれのオウンゴールのせいで……。
 明らかに流れが悪くなった、本当にごめん……」

 「いいって、気にするなよ」
 「そーだぞ! あのオウンゴールが無くてもこの点差! どのみち負けてたって!」
 「そうそう、決勝まで来れたんだから充分頑張ったっしょ!」

 「み、みんな……!」

 「いや、ダメだね」

 「「「龍也!?」」」

 「全然ダメだ。このまま負けるなんておれは認めないぞ!」

 「でもさ、7点も差あるんだよ? もうどうしようもないって」

 「あーもう! そういうこと言ってんじゃねえ! 春樹! お前はこれでいいのか? 決勝戦、自分のオウンゴールのせいで負けてもいいのか? チーム全員に迷惑かけたままでいいのか!?」

 「ちょっと龍也、そんな言い方」
 「そーだよ、春樹くんだって責任感じてるんだから」
 「未来ちゃん、マネージャーとして龍也に一言言ってあげてよー」

 「うーん……龍也くんを信じてみてもいいんじゃいかな」

 「ええー」
 「未来って龍也に甘いよなー」

 「いやいやー、そんなことないよー。
 でも、龍也くんの目、あの真剣な目を見たら、ね?」

 「…………」

 「それは……」

 「それはじゃねえ! お前は絶対後悔する! 来年も! 再来年も! 中学生になっても! 高校生になっても! 大人になってもだ! それでいいのかって言ってんだよ!」

 「……よくない。
 龍也、おれ、嫌だ。ここまで来て、自分のミスで負けるなんて嫌だ!
 勝ちたいよ! ここで勝って! そしてお前との約束を果たしたい!」

 「……!
 だったらここで終わりだなんて言ってられないよなあ!」

 「あぁ……!」

 「でも龍也くん、7点も差があるんだよ? 今からじゃとても……」

 「……ふっ。未来!」

 「はーい! じゃあ今から相手チームの弱点を解説していきます!」

 「「「弱点!?」」」

 「まずFWの長谷部はせべくんと藤森ふじもりくん!  2人とも足は超早い! けど実の所技術はそこまででもないんだよね。しっかりと足の動きを見極めればみんなだったらボール奪えると思う!」

 「な、なるほど……」

 「そしてキャプテンの吉良きらくん! 超超上手いし指示も正確で噂通り完璧な選手だと思う。でもそこが弱点なのだよ」

 「んー? というと?」

 「何でもできちゃうからやりすぎちゃうんだろうね。前半、相手のほぼ全プレーにサポート入ってたよ」

 「え!? でもそんなボール触ってたイメージないけど……」

 「直接ボールに関わることだけがサポートじゃないからな。味方がミスった時すぐにカバーできるポジショニングを徹底していやがった。お前らも無意識のうちに圧かけられてたと思うぜ。全く……いやらしい野郎だ」

 「龍也も気づいてたのか。……あれ? それが弱点ってことは……」

 「春樹くんも気づいたみたいだね。作戦はズバリ『吉良くん体力すっからかん作戦』吉良くん引き付けたら逆サイドにパス! これ繰り返して体力奪いまくっちゃおー!」

 「あー。未来ちゃんって時々悪い作戦思いつくよね」

 「ふふふ。勝てばいいのですよ、勝てば」

 「でもそれ吉良くん寄ってくるかな? 体力減ったら温存するんじゃない?」

 「ならそれでいーんだよ。吉良のサポートさえ無ければ俺たちなら勝てる相手だ。
 ま、でもあいつは温存なんかしないタイプに見えるけどな」

 「うーん。作戦はわかったけど7点差でしょ? 大丈夫かなぁ」

 「何言ってんだ! 向こうが前半だけで7点取ったんだ。これから後半同じ時間があるんだからこっちが7点取れない道理は無いだろ!
 それに……俺たちには熱い気持ちがある!」

 「結局最後は根性論かよー」
 「でもなんかまだやれる気がしてきた!」
 「た、確かに!」

 「よーしみんな! 俺たちは強い! 俺たちなら勝てる! 最後まで諦めず全力で戦うぞー!」

 「「「「「おーーー!!!」」」」」

 「おーっとこれはどういうことでしょう。サッカークラブ青山の動きが前半に比べて格段に良くなっています! 大きなパスを多用した前半とは別物のサッカーが上手く作用しているのでしょうか!? FC品川と対等に渡り合っています! これは後半どうなるか読めないぞー?」

 ***

 「試合は8-7で君たちの勝利、所詮小学生の試合とそれほど話題にはならなかったが、私はかなり感銘を受けてね。君のどんな時でも諦めない姿勢は強く買わせてもらったんだよ。
 そして今回の話が来た時キャプテンは君しかいないと思ったわけだ」

 「…………」

 「ん?」

 「えっと、それだけですか?」

 「それだけとは?」

 「いや、確かにあの試合は僕も鮮明に覚えてますけど、ほんと所詮小学生の試合なんでそこまで買われるようなことかなーって」

 「そんなことないさ。実際作戦は上手くハマっていたしね。
 まあ当然その後の君のスポーツ人生も加味してのキャプテン任命なのは確かだ。とはいえ覚えておくといい、ファーストインプレッションというものはかなり大事なんだよ」

 うーん。ある程度の納得はできたが完全に納得できたかと聞かれるとノーだ。これくらいのストーリーならヘンディやアランにもあるだろう。俺がキャプテンに選ばれたのにはまだ何か他に理由がある気がする。

 「それにしても懐かしいね。あの頃はちょうどニュータイプとそれ以前との世代との擦り合わせに苦労していた時代だ。未来くんの作戦もあの時代だからこそできた作戦だね」

 当時、人間のスペックと環境が噛み合っていないことはよくあった。サッカーで例えるなら選手の体力やスピードとコートの広さか。だからこそ吉良がフィールドの全てをカバーなんてことをやってのけられたのだ。ちなみに今は小学生も大人用コートでサッカーをしているらしい。
 その辺り、大人はかなり苦労したのだろう。お疲れ様と労いの言葉をかけたくなる。宇宙人を倒してその恩を返せたらいいな。

 そういえば、気になっていた未来のマネージャー入りをトールさんが簡単に認めた理由がはっきりしたな。この時から未来のことも注目していたのだろう。

 俺がキャプテンに選ばれた理由に関しては少しモヤモヤが残るが、今これ以上追求しても得られるものは無いだろう。なによりトール会長からの信頼は本物だ。俺はその信頼に応えなくてはならない。

 俺は顔を一度叩き窓の外を見る。
『絶対に勝つからな』
 再びその言葉を心の中で呟いた。
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