花散る雨、里に恋しなりゆく【短編】

生まれつき花や植物の“声”が聞こえる特殊能力を持つ、京都に住む女子高生の楓。花が好きなので子供の頃は嬉しかったが、物心ついた頃、自分が皆と違う事に気づき、家族や友達にも秘密にしていた。
また、そんな気質からのマイペースな生活スタイルから、周囲に上手く馴染めず、強い孤独感を抱えていた。数年前、春夏の降水量が増えてから、春の花……特に桜の“声”が痛ましく悲しいという事態を誰にも言えず、更に辛い年月を過ごしている。
放課後は地元の社(やしろ)を可能な限り訪れ、その土地の水神を祀る祠(ほこら)に、雨を降らす日を減らして欲しいと祈っていた。そんなどしゃ降りの春の夜、その祠に宿る水神だと名乗る青年らしき“声”が、楓に声をかけた。
彼は姿は現さず「叶わぬ願いは止めろ」と忠告する。驚き、戸惑う楓だったが、目に見えない者の“声”に慣れていた彼女は、その水神に『サクヤ(咲夜)』という呼び名を付け、声だけの“彼”と会話するようになるが……

※主人公と友人は関西弁(京都弁)を話します。
※以前別サイトに投稿した作品にエピソードを増やし加筆改稿したものです。
※フィクションです。実在する名称、土地、出来事とは関係ありません。
※表紙画にてんぱる様のフリー素材作品をお借りしてます。
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