鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百参拾九話 策を弄した物の後味が・・・ですが何か!

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「おい、おい。商人って話だったが、その様子をみたら商人なんてとても思えね。お前ら、本当は海賊の一味なんじゃねぇのか?」

大きな声をあげ、建物の影から姿を現した俺に、カンディルを始めティブロン商会を名乗る者達は驚き、一斉に俺の方へ手にする得物の切先を向けてきた。その表情に余裕は無く、何処となく怯えのような物が垣間見えたが、姿を現した俺は手には武具を持たず腰に短剣のような物を一振り差しているだけだと分かると、何処となくホッとしたような表情を浮かべていたがカンディルだけは、警戒を緩める事無く俺を怒鳴りつけて来た。

「止れ! なんだ貴様は、見た所人魚族ではないようだが・・・それよりも今、何て言ったぁ?」

そう言うと、それまでフォルテとアコルデに向けていた短剣の切先を俺に向け誰何してきた。そんなカンディルに対し、俺は向けられた短剣など眼中には無いとばかりに、ゆっくりした歩みで近づくとカンディルや背後にいる配下の者達の姿をシゲシゲと眺めて

「う~ん、やっぱりどう見ても商人には見えないなぁ。それに、手に持ってる武具から濃厚な血の臭いがするぞ。」

と、再び商人じゃないと告げる言葉に、カンディル以外の余裕の表情を浮かべていた男達の顔からも余裕が消え、剣呑な雰囲気がただよい始める。

「おい。貴様、さっきから失礼ことばかり言ってくれるじゃないか。俺たちが商人じゃないって?
可笑しな言掛りは止めて貰おうか。二周間まえに島を訪れた際に、カサート商会から預かったゼーメッシュ島の入島証を提示し、そこに居る村の代表も確認しているんだ。
それから武具に血の臭いがするのは当たり前だ。海を渡り商売をするともなれば一度や二度は修羅場を潜り抜けているものだ。俺達はレヴィアタン街から船を出し、獣人族の集落や人間が住む地に赴き命を張って商売をしているんだよ!
舐めた口を利くとただじゃおかねぇぞ!!」

ドスの利いた声で脅してくるカンディルに、俺は肩をすくませて怯える様な仕草をワザとらしく見せ

「怖いなぁ~怖い怖い。しかし、カンディルさんとやら。口調が・・から・・に変わっているが、それがアンタの地なのか?まぁ、そんな事はどうでも良い。
それで、何か喚いていた様だが、何か知りたい事でもあるのか?」

「貴様ぁ・・・ふん!しゃしゃり出て来たところを見ると、真珠に価値があるだの下らない事を言って金を用意したのは貴様か。
何処のどいつだか知らないが、舐めた事してくれるじゃねぇか。まぁ良い、真珠に一体どんな価値があって二億ゲルドもの大金を用意しやがったんだ?大人しく教えるなら今までの舐めて態度の代償は半殺しに留めておいてやる。
勿論、黙っていも良いんだぜ。だが、その時は膾切りなますぎりにして魚の餌にしてやるがなぁ」

そう言うと、背後にいる手下に合図を送り、俺が逃げ出さない様に退路を封じてから手に持っている短剣を玩びながらゆっくりと近づいてくるカンディルに、俺は呆れて大きく溜息を吐いた。

「は~ぁ。商人だなんだと口にしていても、思い通りにいかないと直ぐに暴力に訴えるって何処に行ってもチンピラってのは同じ行動を取るもんなんだなぁ。
もっとも、カサート商会から譲り受けたって言うゼーメッシュ村の借財も、本当は脅し取ったんじゃないのか?
いずれにしろ真っ当な商人がやる事じゃないよなぁ。」

「貴様・・・膾切りにしてやる!」

カンディルは俺の挑発にまんまと乗り、玩んでいた短剣を握り直して真正面から斬りつけて来た。その動きは商人とは思えない手慣れた動きだったが、これまで紫慧やヒルダ、レアンなどの動きに慣れていた俺からすると、非常に稚拙で鈍重な動きだったため、腰から兜割り八咫を抜くまでも無く、右の拳で裏拳を打つ要領で短剣を握る手を殴りつけると、呆気ないほど簡単にカンディルは短剣を落とし、殴られた手を抱え込んで蹲って地面を転がる短剣を目で追い、目の前にいるの事など忘れてしまったかのように、無防備な姿を曝した。
その様子に俺は呆れた。多分、こいつカンディルは今まで無抵抗な者にしか刃を向けて来なかったのだろう。
 襲い掛かってきた時の表情は嗜虐的な笑いを浮かべ、短剣が切りつけた傷口から噴き出す血飛沫を待ちわびる様な狂気が見て取れた。
だが反撃を受けた途端、注視しなければない敵から視線を外して落とした武具を追い、防御の姿勢も取らずにいるなど、武具を手にした時の覚悟(相手を傷付けようするなら、自分も同じように傷を負う危険がある)さえ出来ていない者の行動だった。
そんなカンディル様子に呆れ果てて、意気込んで修羅場に乱入した自分自身が恥ずかしく、穴があったら入りたいそんな心境に駆られていると、

「うぅ・・・パクー!何をやっている、此奴を殺せぇ!殺して一寸刻みに切り刻み、魚の餌にしちまぇ!!」

カンディルからの甲高い叫び声が木霊し、それまで遠巻きにしながらトライデントを構える守手衆と対峙していた男達が、一斉に武具の切先を俺の方に向けて駆け寄ってくる。
中でも一際大きな体躯の持ち主であるパクーと呼ばれた魚人族の巨漢は、背中に背負っていた二振りの手斧を振りかざし、真っ先に駆けつけるとカンディルを庇うように俺の真正面に立ち手の持つ二振りの手斧を振り降ろして来た。
繰り出された斧は人一人を殺すのに十分な殺傷力が込められ、安易に受ける事は危険と感じた俺はその場から素早く後方に飛び、斧の斬撃を回避したが斧の勢いは止まることなく地面に打ちつけられると、まるでそれが目的だったかのように斧の斬撃を受けた地面から土などと一緒に石が飛び俺に襲い掛かってきた。
慌てて腕を翳して防御の体勢を取ったものの、飛礫は防御をすり抜けて頬を切り体のあちこちに擦過傷をつけていった。

「キャー、津田さん!!」

飛礫を受けた俺のことを心配し、フォルテが悲鳴を上げた。その声にカンディルは余裕を取り戻したのか、痛めた手を庇いながらゆっくりと立ち上がり

「ふっ、少し腕が立つからと自惚れてしゃしゃり出て来たのが運のつき。パクー、構わねぇからそのまま八つ裂きにして俺達に逆らおうとした奴がどんな末路を辿るか見せてやれ!」

と、目の前で斧を手に構えを解かないパクーに、追撃を命じたのだが・・・

「あ、兄貴。兄貴の言葉に逆らう訳じゃねぇが、事はそう簡単に運びそうもねぇ。兄貴は船の方に戻っ・・・」

「イッテテテ・・・。石の飛礫ってのもなかなか馬鹿に出来ないもんだなぁ」

パクーの言葉に被せる様に血が滲む頬を手で摩りながら、防除を解き俺をジッと睨み付ける巨漢パクーと対峙する様に少し間合いを詰めようと一歩踏み出すと、俺の一歩に合わせて少し足を引く巨漢パクー
その動きに、さっきから騒いでいるカンディルよりもこのパクーと呼ばれる巨漢の方が注意しなければならない相手だと感じ取ったが、俺の役割は此処までで十分だろうと、

「まぁ、怪我を負わされた事だし、ティブロン商会とやらには捜査を行った方が良いようだ。ねぇ、モーヴィ殿!」

行き成り緊張を解いて大声を上げた俺に、対峙するパクーもカンディルも訝しげな表情を浮かべ眉間に皺を寄せるも、次の瞬間には驚きと怒りの表情へと変わっていた。何故なら・・・

「傷害の現行犯だ、全員動くなぁ!」

村中に響き渡る様な大声を上げ、建物の影からモーヴィ以下鎮守船隊の海兵が姿を現したからだ。特に、モーヴィの姿を見たカンディルはギリリと奥歯を慣らし、親の仇を見る様な目で睨み付け、一方のパクーは焦りからか額に汗を滲ませて両手に持った手斧を強く握り直しながらも、ジリジリと後退りを始めていた。
もっとも、後退りをしたところで海兵は村とカンディル達が乗って来た帆船キャラベルを泊めた浜へ続く道を封鎖する様に配置されていた。
しかも・・・

「おい、ティブロン商会のカンディルとやら。無駄な抵抗や止めとけ、儂らの囲みを突破したとしてもこの島からは出れりゃせんぞ。」

そう言い放つと同時に、片手を高々と上げるとそれを合図に、カンディル達から見えない様に島影に隠れていた帆船ジャンクがその姿を現し、停泊しているカンディル達の帆船キャラベルに強制接舷を行った、船縁同士が接触した木と木が擦れ合う耳障りな軋み音が木霊した。
その音を耳にし、逃げられないと観念したのかパクーや武具を手に守手衆と対峙していた男達は武具を投げ捨て投降の意を示したが、一人カンディルだけは睨み殺すような視線をモーヴィに向け

「これで勝ったつもりかぁ? ふん!ここで俺が斃れたところで、既にサイは投げられた。もお、テメェ達に勝ち目はねぇんだ、精々足掻いて己が力の無さを悔やむがいい!」

そう言い放つと、足元に落ちていた短剣を掴むと首筋に当ててニヤリと笑うと、一気に引き自分の喉を切り裂き、自らの血の中へと崩れ落ちた。
そんなカンディルの姿に、パクー以下配下の男達は、いきなり自ら死を選んだカンディルに驚き硬直したが、向けられていたトライデントや海兵が構える武具などには目もくれず地に伏したカンディルの元に駆け寄ると、血塗れのカンディルを抱き起こし、滂沱の涙にくれた。
その姿は、無頼の徒の一団ではあるもののそんな彼らの中にも仲間を悼む心があるのだという事を俺達に知らしめることとなった。そして・・・

「己が若い命を無駄に散らせるとは・・この馬鹿者がぁ」

眉間に深い皺を刻み、憤怒の表情で斃れて天を仰ぐカンディルの亡骸を見つめるモーヴィの目には自ら命を絶ったカンディルを悼む思いと、その暴挙を止められたなかった自分への怒りが浮かんでいた。


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すいません。何故か忘年会が重なってしまいまして。
更新が遅くなると思います。週4って・・・ウッP
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