鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百参拾七話 お金が絡むと怖いんですが何か!

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村中に轟いた『船、来島』の知らせに、慌てて鍛冶小屋から飛び出した俺の目に映った物は、守手衆は当然の事ながらトライデントを手に駆け出していたがそれだけでは無く、他の村人たち・・杖が必要なほどに腰の曲がった老人や乳児と思われる幼子を抱えた女性までも大人は各々手に斧や包丁などを持ち、まだ小さな子供たちまで何処から持って来たのか木の棒や小石を抱えて海岸へと走っていた。

「おい、こりゃ不味いんじゃないか・・・」

「まぁ、気持ちは分からんでもない。このまま何もせず手を拱いていえれば島から村の重要な担い手が奪われる事になる。そうなればもう村は滅びの道を待つのみだからな、例え一時の汚名を被ろうと座して滅びを待つよりは!と考えたのだろう。だがこれではティブロン商会奴等に格好の口実を与えるだけだ、村人が暴発する前に止めんと・・・」

俺が溢した一言にボルコスも同じ様に危険を感じたのか焦燥感を漂わせ海岸に走る村人の後を追った。しかし、どうやって村人たちを諌めたらいいのか俺には良い案が全く思いつかなかった。

 頭を悩ませながらも、海岸が一望できる村の外れの小高い丘まで来ると、海岸に集結している村人たちの姿と海に錨を下ろし停泊している一隻の帆船ジャンク船が見えた。そのままボルコスと共に海岸まで辿り着き集まっていた村人達の間を掻き分けて波打ち際まで進み出て海に浮かぶ帆船に再び視線を向ける。
帆を張る柱は二本で船体自体も少し小ぶりに見えるものの、その形状には確かに見覚えが・・・そう思いつつ帆船を注視しようと降り注ぐ日差しを遮る様に額の上に手を翳した瞬間、背筋にゾクリと懐かしい悪寒は走った。

「うん?どうかしたのか驍廣、顔色が青くなっておるぞ。」

突然、体を硬直させた俺に驚き声を掛けて来るボルコスだったが、俺はボルコスの問い掛けに返答する余裕はなく、知らぬ間に俺の足は少しずつ後ろへ後ろへと後退りを始めていたが、

「「この、バカ驍廣(驍)!!」」

帆船から上がる怒声と共に、紅と黒の物体が俺目掛けて飛んできて、避ける間もなく顔面とドテッパラに命中し俺は砂浜に大の字に倒れ込んだ。
それを見た村人たちは騒然となり、一気に殺気だち今にも海に飛び込んで帆船へと襲い掛かろうかとする人魚族達に俺は慌てて飛び起き大声で叫んだ。

「ま、待ったぁ! 此奴らは俺の仲間たちだぁ!!」

俺の大声に、村人たちは動きを止め声を上げた俺に視線を向けた途端、どの眼も大きく見開かられたと思ったら、瞬く間にそれまで孕んでいた殺気が霧散し、代わりに村人達の顔にはニマニマと笑みを浮かび、中には俺の方を指差して噴き出す者もまで・・・そんな失礼な奴らを代表するようにアコルデが、

「た、驍廣。なんて顔をしてるんだ(笑)、いい加減その頭の上の奴に『止めてくれ』と頼んだらどうなんだ。それとも、お前はそんなにも俺達を笑わせたいのか?」

笑いながら声を掛けて来た。が、俺は何も言い返す事が出来ず、ただただ肩を竦めて困り顔を浮かべるしかなかった。
どうしてって? 俺は自分にはどうにもできない事だと良く分かっていたからさ。
・・・頭の上に鎮座し、俺の両頬に爪を立てて持ち上げる『フウ』のお仕置き・・・・を受け万人が笑い出すであろうマヌケ面をフウの気が済むまでは曝し続けるしかないと分かっていたから・・・。


「ようこそゼーメンシュ島へ。津田さんのお仲間だとは知らなかったとはいえ、村の者達が失礼いたしました♪」

俺とフウによる柔和工作(マヌケ面の公開)によって人魚族の者達は帆船の乗組員達を迎い入れるだけの余裕を取り戻し、アコルデを筆頭に守手衆の先導で帆船から数人の者が島の土を踏んだ。
村人を代表してフォルテが歓迎の言葉を口にするとそれに応える様に一際大柄な老船乗り・モーヴィが島を訪れた者達を代表して一歩前に踏み出し応じる。

「丁寧な出迎えの言葉感謝する。儂はレヴィアタン街鎮守船隊を指揮するモーヴィ・ヴァールと申す者。
先だってある海賊船との海戦の折に海に落ちた『津田驍廣』を捜索しこの島に辿り着いた次第。どうやら島の方々には我らが探し人がお世話になった様で、真に感謝申し上げる。」

そう言うと村人たちに対して深々と頭を下げた。そんなモーヴィにフォルテは慌てて、

「いえ、私達は偶々島に漂着した津田さんを保護しただけ。その様に頭を下げていただくような事は・・・寧ろ津田さんには新たな糧となりうるかもしれない発見をしていただき、私達の方が感謝しなければならないくらいで・・・」

と、返して来た。そんなフォルテにモーヴィは会釈でもするように頭を下げ軽く笑みを浮かべたが、フォルテの後ろに控えている村人達を見回し、浮かべていた笑みを消し真剣な表情で問いかけた。

「分かりもうした。その謝意、謹んでお受けいたす。ところで、不躾ながらお訊ねいたすがそこもとの背後に控えし島の者達の顔色が優れぬようじゃが何かあったのか?
『袖擦り合うも他生の縁』申す、島の者の顔色が優れぬ時に来島したは『大いなる者』の御導きではないかと愚考するのじゃが、・・・なにか問題を抱えておられるのか?」

モーヴィの問い掛けにフォルテの背後に集まっていた村人たちはざわざわと騒ぎ始めた。そんな背後の動きにフォルテは顔を曇らせ睨み付ける様に背後に視線を飛ばしてざわつきを静めると、神妙な表情を浮かべ、軽く頭を下げた。

「お恥ずかしい事ですが、確かに今、島では問題を抱えていますが、それは私達島に住む者が考え対処しなければならない事。モーヴィ様にお聞かせする様な事は・・・」

「モーヴィ様! モーヴィ様はティブロン商会と言うレヴィアタン街の商会をご存知でしょうか?」

「あ、アコルデ!?」

フォルテはモーヴィの問い掛けに『拒否』の返答を返そうとしたが、フォルテの言葉を遮る様にアコルデがモーヴィにティブロン商会について尋ねた。
眦を上げたフォルテに睨みつけられながらもアコルデはジッとモーヴィを見つめる様子に、モーヴィは何かを感じた様に一呼吸おいてから、

「ティブロン商会か・・レヴィアタン街にある商会の一つじゃな。確かここ数年急速に勢力を拡大し最近になってレヴィアタン街にある他の商会を取り込み一気に街有数の商会へと躍り出て来たと聞いておる。
じゃが、あまり良い評判は聞かんのぉ。荒くれ者を使い、強引に話を纏めようとする事もあり、何かと黒い噂の絶えぬ商会じゃ。」

モーヴィからのティブロン商会評を聞いた、フォルテ以下村人たちは一様に奥歯を噛み締めて表情を暗くした。その様子に、ゼーメンシュ島の人魚族を苦しめている者がなんなのか察したが、果たしてレヴィアタン街の鎮守船隊を指揮監督する立場にある自分が介入していい事案なのか判断に苦しむモーヴィ。
両者、沈黙したまま暫し時が流れ・・・重苦しい空気に耐えかねたモーヴィが口を開いた。

「話しは変わるのじゃが、今回の驍廣殿は無論の事これまでも海で遭難した者を保護しカサートカ商会を通じてレヴィアタン街に戻してくれていたのはゼーメンシュ島の方々であろう。その事についてもこの場を借りて感謝申し上げたい。後日、改めてレヴィアタン街領主からも感謝の言葉があろうが、儂が出来る事であれば申し出ていただきたい。
そう言えば、先ほど『津田さんには新たな糧となりうるかもしれない発見をしていただき』と言っておったが、あれは何の事かな?差し支えなければ教えていただきたいのだが・・・」

と話を振ると、それまで暗い表情を浮かべていたフォルテが、ぎこちないながらも作り笑いを浮かべて顔を上げ俺が島に流れ着いてからの事を放し始めた。
その話をモーヴィは感心しながら耳を傾けていたが・・・

「驍! 海に落ちた貴方を心配し、モーヴィ老に無理を言って広い海原を捜し回っていたワタシたちを余所に何をしていたかと思えばまた鍛冶仕事か?! 貴方らしいと言えば聞こえは良いが、少しはレヴィアタン街に戻りワタシ達を安心させようとは思わなかったのか?」

「無理無理! 驍廣だよぉ、そんなこと考える訳ないよ。しかし、武具に使役精霊を宿す事の出来る物を鉱石以外から見つけるなんて・・・鍛冶馬鹿もここまでくれば大した者だって感心呆れるするよ。」

「フン! コヤツの事じゃからどうせこのような事じゃと思ったわい。」

両脇から固める様に立ち小言を言うアルディリアと紫慧。それに頭の上に乗り嫌味を口にするフウに何も言い返す事が出来ず小さくなるしかない俺の姿が視線の端に入り、気が削がれながらも話を続け、島を訪れたティブロン商会についても話しが及び、借財が二億ゲルトにも嵩んでいると告げられるとあまりの金額にモーヴィも驚きと言葉を失った。

「・・・借財が二億とは、カサートカ商会からティブロン商会に権利が移った際に追加の債務を科したのだろうが、元々カサートカ商会との間で労役による借財の返済が約束されていたとなると、その労役をどの様なものにするかはティブロン商会の思うが儘じゃからなぁ。
今までカサートカ商会で行っていた交易の護衛や水夫でと言っても借財が二億となると・・・」

モーヴィの吐露に、フォルテやアコルデは力なく肩を落とし、

「そう・・ですね・・・。生半可な金額ではありませんから、ただの労役で返せるのかと言われてしまえば反論の余地はありません。
残念です、津田さんに武具に精霊を宿らせる事の出来る物を発見してもらえましたから、それを取って売れば島の暮らしが豊かになると思っていた矢先だったと言うのに、獲る事も出来なくなって・・・。」

と、落胆の表情を浮かべた。その言葉に、

「ま、待ってくれぬか!それでは驍廣殿が見つけたと言う海精霊ネーレーイスを宿らせる事の出来る真珠は手に入らぬと言うのか?!
それは困る! なんとかならぬか!!
先ほどフォルテ殿から驍廣殿の話を聞いてから儂は、儂とファレナ様の武具を鍛える際に是非とも真珠を用いて海精霊ネーレーイスの力を我らの武具に賜りたいと考えていた所なのじゃ。
先ほどの名乗り申したが儂はこれでもレヴィアタン街周辺の海の治安を守る鎮守船隊の提督と言う地位に就く身。そんな儂にとって海精霊のお力が少しでもお借りできるのならばどれほど心強いことか。それが叶うと聞いた矢先にその肝となる真珠が手に入らぬと言われてはトンビに油揚げを攫われたとはこの事じゃ・・・」

と、焦りの表情と共に声を上げる。だが、フォルテは黙ったまま俯き顔を横に振り、その姿にモーヴィは情けない程に意気消沈した表情を浮かべた。とそこへ紫慧が、

「ねぇ、驍廣ぉ。ボクには詳しい事は分からないんだけど、その『真珠』って物を使うと武具に海精霊の力を宿らせられるって事で間違いないんだよねぇ。
だったら、真珠を手に入れられるように驍廣が何とかしたらいいんじゃないの。」

「なっ!?何てことを言い・・・・」

行き成り俺に対処しろなどと言い出す紫慧に『待った!』を掛けようとしたのだが、俺がその事を言い終わらない内に更にとんでもない一言爆弾を投下した。

「そもそも、驍廣がその真珠の新たな価値を見つけたんでしょ。だったら、その責任を果たさないと。
確かぁ~リンドブルム街で鍛えた武具の代金をギルドに預けてたよね。あのお金、今まで殆ど手付かずのまま眠らせていた筈だから・・・お世話になった人たち借財、二億ゲルドを一旦肩代わりする事なんて余裕じゃない?」

その言葉に、フォルテ以下その場に集まる全ての人魚族とモーヴィの視線が一斉に俺に注がれ、その視線に恐怖を感じ、無言のまま肯定の意を示す異様に頷く事しか出来なかった。





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