鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百参拾五話 ヤクザな商人がやってきましたが何か!

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「あれかぁ?何ともチンケな島だなぁ。」

隣に立つ九環刀を背負う小柄ながらな筋肉達磨が波間に見え隠れする小島を見ながら潮風に荒れたダミ声を上げる。内心同意してしまう自分に言い聞かすように私は、

「パクー!これは首領ドントゥラバからの指示だ。首領の指示に何か文句でもあるのか?!」

と特に荒げる事も無く淡々と問いただすように告げると、パクーは自慢の筋肉を小さく萎ませて首を左右に振る

「と、とんでもねぇ!オレはただ見た感想を口にしただけで、首領ドンに対して文句なんてある訳ねぇよぉ。勘弁してくれカンディルの兄貴!!」

と思わず笑ってしまいそうになるほど慌て悲鳴にも似た声を上げた。そんなパクーの様子に私は満足しながら「そうか・・・」と一言だけ呟き、視線を波間に見え隠れしつつも徐々に大きくなってゆく島影に戻した。
パクーは私が島へと視線を戻した事で安堵したのか再び口を開いた。

「しかし、なんで首領ドントゥラバはこんなチンケな島に行って来いなって言ったんだぁ?」

「・・・ムベンガの奴がヘマをしたんだよ。レヴィアタンの耄碌爺モーヴィを誘い出したまでは良かったんだが、返り討ちにあった様でレヴィアタンに耄碌爺の船が帰港したって話だ。
まぁ、ムベンガの抜けた穴は痛いが遅かれ早かれこの島を取る事は決まっていた事それが少し早まっただけの事だ。
耄碌爺の始末がついていればより簡単だったが、元々全てが計画通り行くなんて都合よく世の中は出来てないからな。」

そう島影を見つめながらパクーに教えてやると、パクーは委縮していた筋肉を膨張させ、

「クソっ! 鋸歯刀 !!オメぇの無念はオレが晴らしてやる。」

鼻息荒く吠えた。そんなパクーに私はこれから向かう憐れな島の者達の行く末を思いほくそ笑むのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

息を切らして海中の台場にやって来たピアに連れられて俺はフォルテやアコルデ率いる守手衆と共に、台場に向かう為に飛び込んだ崖の対岸にある、俺が漂着していたと言う海岸へ急いだ。
海岸には以前『鋸歯刀のムベンガ』と名乗った海賊が指揮していた海賊船と同じ型の帆船キャラベルが海岸から少し離れた所に錨をおろし、波打ち際には一艘の小舟が停泊し数名の魚人族と思われる男達が島に上陸していた。

「いつもの船と違う・・・」

海岸近くに錨を下ろす帆船を見たフォルテからポツリとこぼれた呟きに俺は走りながらフォルテと並走するアコルデの表情を見ると、二人の顔は引き締め緊張感を漂わせていた。
その間にも上陸してきた魚人族達は周囲を見回し遠巻きにしながら突然現れた侵入者たる自分達の様子を窺っている人魚族に対してニヤリと猛獣が獲物を見つけた時のような笑みを浮かべたが、一番小柄で細身の優男が軽く手を上げるのに合わせて猛獣の笑みを消し神妙な面持ちを浮かべる。そんな魚人族達の様子を確認する事も無く片手を挙げた優男は、柔和な笑みを浮かべて背後に九環刀を背負った小柄ながらも筋骨隆々の魚人族を従えて前に進み出ると、

「これはこれは、ゼーメッシュ島の皆々様方、お騒がせして申し訳ありません。お初にお目にかかります私はレヴィアタン街のティブロン商会から参りました、カンディル・ラウリクチャと申します。
本日訪れましたは、ゼーメッシュの皆様への挨拶と共にアル重要な案件が当商会に待ちこまれました。その事について皆様とご相談をしなければならないと考えレヴィアタン街からはるばる・・・・やってまいった次第。
出来ますればゼーメッシュの人魚族を御纏めになっておられるフィナレ族長様、もしくは何方か代表してお話しいただけるお方はおられませんでしょうか?」

と揉み手をし出しそうな雰囲気を醸し出しながら話しかけ、そんなカンディルと名乗った魚人族の態度に緊張しながら遠巻きにしていた人魚族の村人たちは安堵の表情を浮かべていた。
だが、そんな人魚族の様子を品定めするように見つめ柔和な笑顔を浮かべるカンディルの目は全く笑っておらず、その眼の奥底には震えがくるような冷酷な光が灯っていた。その事を告げようとフォルテとアコルデに視線を向けると、二人も俺と同じように感じたのか先ほどよりも緊張し警戒心を募らせているような表情を浮かべていた。
そんな俺達を余所に、カンディルの柔和な笑顔に遠巻きに見ていた村人たちも徐々に近づき始め・・・

「カンディルさんと仰いましたか?ご丁寧な御挨拶、恐れ入ります。誠に申し訳ありませんが、我らが族長であるフィナレ様は少々都合が悪く話をすることは出来ませんが、間もなく族長の代りに話が出来る者が来ると思いますので・・・」

以前、勘違いから俺に掴み掛ろうとした守手衆の一人アッチェルがのこのこと進み出て、カンディルと話を始めてしまった。その様子にフォルテもアコルデも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると、先ずアコルデが

「下がれアッチェル! お前如きが出しゃばって良い話では無い!!」

叱責の声を上げると、アコルデの声にアッチェルは凍りついたように身を固めて、一方のカンディルは一瞬苦々しげな表情を浮かべたものの直ぐに柔和な笑顔を浮かべ声を発したアコルデと付き従える守手衆の面々、そして共に走り寄ってくるフォルテに視線を振りその姿を視界に収めた様だった。
そんなカンディルの思惑は兎も角、アッチェルや村人たちの元に駆け寄ったフォルテとアコルデは一旦村人たちをカンディルから遠ざけ、村人の前にまるでバリケードを組む様に守手衆を立たせると、徐に進み出る。

「誰の断りを得て島へ立ち入ったのですか?この島は我々人魚族が治める島。海で船が難破した為に島に漂着した者はその限りではありませんが、ごく限られた者以外の島への立ち入りは厳しく制限しています。今回はその事を知らずに島へ上陸したと考え手荒な事をするつもりはありません。早急にこの島から退去しなさい!」

毅然とした態度でそう言い放ったフォルテ。そのフォルテの言葉に合わせてアコルデは威嚇する様に手に持ったトライデントの石突きで地面を強く叩いた。そんな二人の様子をカンディルは柔和な笑顔を浮かべたまま見守ると、

「・・・ふむぅ。これはまた随分と警戒させてしまったようですね。まぁ島を治め島を守ろうとされるお方たちが見知らぬ者である私達に過度に警戒される事は分からなくもありませんが、先ずはこれ・・を見ていただけますか?」

そう言うとカンディルはゆっくりとした動きで懐に手を入れると徐に何かを取り出しフォルテとアコルデに見えるように掲げた。

「「そ、それは・・・」」

何をそんなに驚いたのか二人は同時に同じ言葉を発すると、カンディルは満足そうに何回か頷き、

「はい。この手形は我がティブロン商会がカサートカ商会より譲り受けた物。
カサートカ商会から聞いた話では、『この手形を持つ者は無条件にこの島への立ち入りが許され、その代りに島にとって必要とする物を商う事が出来る』と聞いたのですが、違いましたか?」

と嫌らしい物言いをしてきた。そんなカンディルにフォルテは眉間に皺を寄せながら、

「確かにその『入島手形にゅうとうてがた』を持つ者は、島に入り島の門が必要とする物を売る事が出来ますが・・・」

「では! 商いの話をしましょうか♪」

苦々しげな表情のフォルテが言い終わらない内に、カンディルは畳みかける様に言い放つのだった。



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