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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)
第弐百参拾参話 真珠を使った鍛冶をしますが何か! その弐
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「お、おい?鋼を持ち出して何するつもりなんだ??」
鍛冶の準備を整え今日使おうと考えていた鋼を手にした俺を見て、ボルコスは声を上げたが俺がその声に応えずそのまま炉に近づき手にした鋼を炉に投入し熱し始めた。
そんな俺に、ボルコスは眉間に皺を寄せた仏頂面を浮かべはしたものの、取り敢えずは静観する事にした様で黙って成り行きを見守り始めた。
そんなボルコスの態度に、苦笑を浮かべながらも俺は炉に入れた鋼をジッと見つめる。
炉の中の鋼は熱が入る事によって内包するスティールディナシーがいつものみすぼらしい雑兵然とした姿を露わした。
そのいつもの姿に、ホッとしながらそのまま熱を加え鍛錬に入りその過程でいつもは泥汁と藁灰を塗すだけの所に、砕いて置いた真珠の粉も一緒に塗すと、
「何をするんだ驍廣!折角砕いた真珠の粉を鋼に塗すなんて・・・何をしようとしてるんだ?!」
大きな声を上げるボルコス。そんなボルコスに俺は気負いも無く淡々と炉に入れた鋼の様子を注視しながら、
「・・・真珠の粉を付与した事について『今』話しても多分理解できないと思う。済まないが全ての工程が終わるまでは俺のすることを見ていて欲しい。
ただ、今から見せるのは俺がリンドブルム街でも行っていることで、ちゃんと注文主を満足させられる武具を鍛えた方法だから、今までの鍛冶の手法と違っていたとしてもこの一振りが鍛え終わるまでは見守っていてくれ。」
そう返した俺の言葉にボルコスは怒ったような表情を浮かべ、
「なにぃ?これまでの鍛冶の手法と違っている、だと。そんな面白い事を御主一人でやろうと言うのか!
そんな事は許さんぞ!!吾輩も一緒にやらせろ♪」
と言ったかともうと、大金槌を握り金床を挟んで俺の真向かいに立つと、『ニヤリ』悪戯小僧の様な満面の笑みを浮かべていた。
俺はボルコスがこの島に辿り着いたという経緯(鍛冶の技の探求の為に海に乗り出した)を思い出した。
そんな俺と同じ様な『鍛冶馬鹿』にリンドブルム街でスミス爺さんや紫慧と共に行ってきた『鍛冶』を見せたら止められるのではと考え、一人で鍛冶仕事を進めようとした自分の狭量さに苦笑するしかなかった。
俺は己の自戒を込め、ボルコスに顔を真正面から見つめてから頭を下げた。
「失礼しました。俺はボルコス殿の度量を見誤っていた様だ。改めて、ボルコス殿。よろしくお願いします!」
「ふん! 吾輩の度量を見誤っただと?他の事ならいざ知らず、鍛冶の業に対する吾輩の追求心は誰よりも貪欲だと自負しておる。
『伝統』だの『慣習』だのを後生大事に守り続ける事しか頭にない他のドワーフ氏族ならば今までと違う手法の鍛冶を行おうとすれば止められるなどの心配をするのも分からんでもないが、吾輩にはその様な心配は無用!
鍛冶の業の追求に何を憚る事があるか!!大いに行うが良いのだ、ガッハッハッハッハ♪」
そう言って頭を下げる俺の肩をバシバシと叩きながら豪快に笑うボルコスだった。
ボルコスの賛同を得た俺は、叩かれた肩の痛みに少し涙目になりながら、炉の中に視線を戻すと先程、真珠粉を塗した鋼に変化が生じていた。
と言っても鋼本体にでは無く、鋼に宿るスティールディナシーに。
真珠粉を塗す前のスティールディナシーはいつもの足軽雑兵姿だったのだが、真珠粉を塗し巻貝冠の水精霊の力を付与された途端、身に着ける胴鎧は変わらなかったものの他の鎧装束、頭に被っていた陣笠が額と頬を覆う鉢金に変わり、指貫籠手(左右の籠手が背中で繋がっているもの)の代わりにサラシが腕に巻かれ、下半身も股引を穿かずに素足に直に臑当を巻き付けてるといった姿に変わっていた。
その変化に驚き真眼を凝らし視てみると、鎧装束の変わったスティールディナシーの肩にぶら下がる様にして乗る巻貝冠の水精霊が、俺の方に笑顔を向けていた。
その様子に、スティルディナシーの姿の変化は巻貝冠の水精霊の影響だと分かったが、これまでミスリルディナシーの軽鎧の色が精霊の影響で変わった事はあったが、スティールディナシーの姿まで代えさせてしまった巻貝冠の水精霊の力に俺は驚いたものの、一方でこれからの鍛練を通じてどうの様に進んでいくか楽しみになっていた。
姿の変わったスティールディナシーの宿る鋼を炉で十分に熱し、ボルコスを相槌にして俺は鋼を鍛える。
流石に紫慧を相槌にした時とは異なり、鍛える際に鎚を通して注がれる『気』の量は少なかったものの少しづつ俺は鎚に気を込めて打ち鍛えて行った。
その為、俺の気が注ぎ込まれた事でスティールディナシーの姿は雑兵姿から徐々変化していった。
そんなスティールディナシーの様子を真眼で視て一人納得顔を浮かべていると、俺の鎚に合わせて大金槌を振っていたボルコスが、
「・・驍廣。先ほどから御主、鎚で鋼を打つ際何かやっておるだろう。一体何をしておるのだ?」
と少しドスの効いた声で誰何してきた。その声にドキリとして思わず手を止めてしまった俺に更に、
「やはり何かやっているな。何をやってるんだ吾輩にも教えろ!」
詰め寄って来た。髭面のおっさんのむさ苦しいドアップに俺は顔を背けながらボルコスの肩を掴んで押し留めながら、
「分かったから! 教えるからそのむさ苦しい顔で詰め寄るな!!」
と思わず本音がポロリと毀れてしまい、更にボルコスに唾の飛沫を飛ばされながら掴み掛られる事になってしまった。
「は~ぁ、酷い目に合った・・・」
「何だと!」
「いや、俺の失言が原因なのは分かってる。それで、鎚を振る際に俺が何かしてるだろう?だったな。」
傍らで見守っていたフォルテに仲裁してもらい、仕事を中断した俺はボルコス汁を水で洗い流して頭に被っていた布で顔を拭い一息入れてから愚痴を溢しながらボルコスに向き合い俺が何をやっているのかを話す事にすると、ボルコスも仏頂面で睨み付けるもののその瞳には真剣に俺の話を聞こうとする光が灯っていた。
「俺は鎚を揮う際、体内で練った『気』を鎚に纏わせて金属鋼に注ぎ込む様にして打っているんだ。」
「なんだと?『気』を金属鋼に?なぜそんな事をするんだ。」
怪訝な表情を浮かべるボルコスに、俺はどう説明したら分かり易いのか考えながら話を続ける。
「う~ん・・・ボルコスも妖精族だから精霊術については詳しいよなぁ?」
「・・恥ずかしながら精霊術自体を行使する事は苦手だが、知識はある。それがどうした?」
「俺はあまり詳しくないんだが、精霊術は精霊に妖精族の精気を分け与え精霊に力を借りて超自然現象を起こしてもらう術だと聞いたがそれで間違いないか?」
「まぁ、概ね間違ってはおらん。もっとも、精霊術に力を貸してくれる精霊は火・水・風・土・樹それから光と闇の精霊。稀に氷や雷の精霊も呼び掛けに応じてくれると聞くなぁ。だが、それがどうかしたのか?」
俺が何を言いたいのか分からず困惑する様なボルコス。
「精霊術を行使する精霊の事は取り敢えず考えず、精霊術には妖精族の『精気』を与える事が必要だと言う点を注視してもらいたいんだ。」
「なんだと?」
「ボルコスはどうか知らないが、妖精族の中には精霊術を妖精族の専売特許だと考えている者もいるが実はそんな事は無い。現に俺は妖獣人族が精霊に力を借りて超自然現象を起こす事実を知っているからな。で、その際に用いるのは妖精族『精気』ではなく妖獣人族の『気』なんだよ。更に、賢獣の中にも精霊術を使える者が居るが、この時も賢獣の『獣気』を精霊に与える事で精霊の力を借りている。要するに、精霊は術者の『気』を受け取る事で術者が欲した精霊術を行使してくれるということなんだ。
勿論、精霊と意思の疎通が図れることが重要なのは間違いないんだが・・」
俺は此処まで話したところでボルコスがこれまでの話を理解しているか確認するように、一旦話を区切るとボルコスは眉間に皺を寄せ考えながらも話の続きを促すように顎をしゃくった。
「精霊に『気』を与える事で精霊が対価として超自然現象=精霊術を起こす。が、例えば精霊術の行使を求めず『気』を精霊に与えたら、精霊はどうすると思う?」
俺の問い掛けに、ボルコスは何時もにも増して眉間に深い皺を刻み俺の事を睨み付ける様にジッと見つめたまま、次に俺の口から発せられる言葉を待ち構えていた。
「精霊は与えられた『気』を自身の活性・成長に使うんだよ。勿論、こんな現象を起こす者は精霊術師には居なかったんだけど、数は少ないながらも起こし、その結果生み出された物がある。それが・・・」
「命宿る武具か!!」
俺が言い終わらに内に、ボルコスが目を大きく見開き大声で正解を言い当てた。そんなボルコスに対して俺はニヤリを笑みを浮かべ
「その通り! ボルコスもこれまでに命宿る武具を鍛えた鍛冶師の話を耳にしてきた事があると思うが、共通しているが『精魂込めて気力を尽くし』鍛えた事で生み出されたという事だ。
鍛えた後その鍛冶師は疲弊衰弱しその場に崩れ落ちたなんて話まで逸話として残っているが、俺はこの時、鍛冶師が自身の『気』を鎚に乗せて金属鋼を打った事で鍛冶師の気が金属鋼の精霊に力を与えたと考え実行し、結果リンドブルム街において数振りの武具が命宿る武具となった。
勿論、『気』を込めて鍛えれば必ず命宿る武具になると言う訳では無いが、確実により良い物になると俺が武具の依頼を受けた際には鍛冶仕事で揮う鎚に『気』を込めて鍛える事にしているんだ。」
言い切った。俺の言葉を最後まで聞いていたボルコスは、俺の話が終わると俺が身に着けこの島まで持って来て兜割りと太刀に視線を向け何かを確認するように見つめてから再び俺を睨み付けると、
「驍廣、今の話。そんなに簡単に話して良い事では無いだろう、今まで多くの鍛冶師が生涯に一度は鍛えたいと願った『命宿る武具』の製造方法だぞ。鍛冶を志す者にとって喉から手が出るほど欲する情報、言うなれば『秘中の秘』と言われるものそれを・・・」
「秘中の秘と言ったところで実行できなければ無用の長物だろ?」
あまりに剣呑な表情を浮かべるボルコスに俺は軽く肩を窄めながら言うと、ボルコスは『何を言ってるんだコイツは』と言うような顔をした。
「はぁ?」
「だ・か・ら。出来るかどうかやって見らた良いんだよ。『知りました、はい出来ました』っていうほど簡単なものだとでも思うのか?ただ闇雲に『気』を込めて金属鋼を鍛えれば良いってもんじゃないんだ。精霊の様子、金属鋼の状態を見極めそれこそ精も魂も尽き果てる覚悟で鍛冶をしなければならない。それに『気』ってのはその者の質によって如何様にも変わる。邪な考えを持った状態でこの方法を用いれば、邪な気を金属鋼に込める事になり精霊を成長させるどころか弱体化させてしまいかねない。
依頼主の事を考え一心に金属鋼と火に向き合い鎚を振るわなければ何の意味も無いんだよ。」
俺の言葉に呆気にとられたように呆然とするボルコスだったが、暫く考え込んでいたかとと思うと
「『武具を正邪にするは鍛えし鍛冶師の心にあり。護身具か凶器にするは使う者次第』・・か。昔から使われてきた言葉で詭弁だと思っていたが、少なくとも鍛冶師の心得については正鵠を射ていたか。よっし!では吾輩も精一杯精進する事にしよう♪」
そう自らに気合を入れ直したボルコスの顔は、引き締まった職人の顔になっていた。そんなボルコスと俺は再び鋼に向かい一心に鎚(大金槌)を振るい鍛錬を続けて行った。
鍛冶の準備を整え今日使おうと考えていた鋼を手にした俺を見て、ボルコスは声を上げたが俺がその声に応えずそのまま炉に近づき手にした鋼を炉に投入し熱し始めた。
そんな俺に、ボルコスは眉間に皺を寄せた仏頂面を浮かべはしたものの、取り敢えずは静観する事にした様で黙って成り行きを見守り始めた。
そんなボルコスの態度に、苦笑を浮かべながらも俺は炉に入れた鋼をジッと見つめる。
炉の中の鋼は熱が入る事によって内包するスティールディナシーがいつものみすぼらしい雑兵然とした姿を露わした。
そのいつもの姿に、ホッとしながらそのまま熱を加え鍛錬に入りその過程でいつもは泥汁と藁灰を塗すだけの所に、砕いて置いた真珠の粉も一緒に塗すと、
「何をするんだ驍廣!折角砕いた真珠の粉を鋼に塗すなんて・・・何をしようとしてるんだ?!」
大きな声を上げるボルコス。そんなボルコスに俺は気負いも無く淡々と炉に入れた鋼の様子を注視しながら、
「・・・真珠の粉を付与した事について『今』話しても多分理解できないと思う。済まないが全ての工程が終わるまでは俺のすることを見ていて欲しい。
ただ、今から見せるのは俺がリンドブルム街でも行っていることで、ちゃんと注文主を満足させられる武具を鍛えた方法だから、今までの鍛冶の手法と違っていたとしてもこの一振りが鍛え終わるまでは見守っていてくれ。」
そう返した俺の言葉にボルコスは怒ったような表情を浮かべ、
「なにぃ?これまでの鍛冶の手法と違っている、だと。そんな面白い事を御主一人でやろうと言うのか!
そんな事は許さんぞ!!吾輩も一緒にやらせろ♪」
と言ったかともうと、大金槌を握り金床を挟んで俺の真向かいに立つと、『ニヤリ』悪戯小僧の様な満面の笑みを浮かべていた。
俺はボルコスがこの島に辿り着いたという経緯(鍛冶の技の探求の為に海に乗り出した)を思い出した。
そんな俺と同じ様な『鍛冶馬鹿』にリンドブルム街でスミス爺さんや紫慧と共に行ってきた『鍛冶』を見せたら止められるのではと考え、一人で鍛冶仕事を進めようとした自分の狭量さに苦笑するしかなかった。
俺は己の自戒を込め、ボルコスに顔を真正面から見つめてから頭を下げた。
「失礼しました。俺はボルコス殿の度量を見誤っていた様だ。改めて、ボルコス殿。よろしくお願いします!」
「ふん! 吾輩の度量を見誤っただと?他の事ならいざ知らず、鍛冶の業に対する吾輩の追求心は誰よりも貪欲だと自負しておる。
『伝統』だの『慣習』だのを後生大事に守り続ける事しか頭にない他のドワーフ氏族ならば今までと違う手法の鍛冶を行おうとすれば止められるなどの心配をするのも分からんでもないが、吾輩にはその様な心配は無用!
鍛冶の業の追求に何を憚る事があるか!!大いに行うが良いのだ、ガッハッハッハッハ♪」
そう言って頭を下げる俺の肩をバシバシと叩きながら豪快に笑うボルコスだった。
ボルコスの賛同を得た俺は、叩かれた肩の痛みに少し涙目になりながら、炉の中に視線を戻すと先程、真珠粉を塗した鋼に変化が生じていた。
と言っても鋼本体にでは無く、鋼に宿るスティールディナシーに。
真珠粉を塗す前のスティールディナシーはいつもの足軽雑兵姿だったのだが、真珠粉を塗し巻貝冠の水精霊の力を付与された途端、身に着ける胴鎧は変わらなかったものの他の鎧装束、頭に被っていた陣笠が額と頬を覆う鉢金に変わり、指貫籠手(左右の籠手が背中で繋がっているもの)の代わりにサラシが腕に巻かれ、下半身も股引を穿かずに素足に直に臑当を巻き付けてるといった姿に変わっていた。
その変化に驚き真眼を凝らし視てみると、鎧装束の変わったスティールディナシーの肩にぶら下がる様にして乗る巻貝冠の水精霊が、俺の方に笑顔を向けていた。
その様子に、スティルディナシーの姿の変化は巻貝冠の水精霊の影響だと分かったが、これまでミスリルディナシーの軽鎧の色が精霊の影響で変わった事はあったが、スティールディナシーの姿まで代えさせてしまった巻貝冠の水精霊の力に俺は驚いたものの、一方でこれからの鍛練を通じてどうの様に進んでいくか楽しみになっていた。
姿の変わったスティールディナシーの宿る鋼を炉で十分に熱し、ボルコスを相槌にして俺は鋼を鍛える。
流石に紫慧を相槌にした時とは異なり、鍛える際に鎚を通して注がれる『気』の量は少なかったものの少しづつ俺は鎚に気を込めて打ち鍛えて行った。
その為、俺の気が注ぎ込まれた事でスティールディナシーの姿は雑兵姿から徐々変化していった。
そんなスティールディナシーの様子を真眼で視て一人納得顔を浮かべていると、俺の鎚に合わせて大金槌を振っていたボルコスが、
「・・驍廣。先ほどから御主、鎚で鋼を打つ際何かやっておるだろう。一体何をしておるのだ?」
と少しドスの効いた声で誰何してきた。その声にドキリとして思わず手を止めてしまった俺に更に、
「やはり何かやっているな。何をやってるんだ吾輩にも教えろ!」
詰め寄って来た。髭面のおっさんのむさ苦しいドアップに俺は顔を背けながらボルコスの肩を掴んで押し留めながら、
「分かったから! 教えるからそのむさ苦しい顔で詰め寄るな!!」
と思わず本音がポロリと毀れてしまい、更にボルコスに唾の飛沫を飛ばされながら掴み掛られる事になってしまった。
「は~ぁ、酷い目に合った・・・」
「何だと!」
「いや、俺の失言が原因なのは分かってる。それで、鎚を振る際に俺が何かしてるだろう?だったな。」
傍らで見守っていたフォルテに仲裁してもらい、仕事を中断した俺はボルコス汁を水で洗い流して頭に被っていた布で顔を拭い一息入れてから愚痴を溢しながらボルコスに向き合い俺が何をやっているのかを話す事にすると、ボルコスも仏頂面で睨み付けるもののその瞳には真剣に俺の話を聞こうとする光が灯っていた。
「俺は鎚を揮う際、体内で練った『気』を鎚に纏わせて金属鋼に注ぎ込む様にして打っているんだ。」
「なんだと?『気』を金属鋼に?なぜそんな事をするんだ。」
怪訝な表情を浮かべるボルコスに、俺はどう説明したら分かり易いのか考えながら話を続ける。
「う~ん・・・ボルコスも妖精族だから精霊術については詳しいよなぁ?」
「・・恥ずかしながら精霊術自体を行使する事は苦手だが、知識はある。それがどうした?」
「俺はあまり詳しくないんだが、精霊術は精霊に妖精族の精気を分け与え精霊に力を借りて超自然現象を起こしてもらう術だと聞いたがそれで間違いないか?」
「まぁ、概ね間違ってはおらん。もっとも、精霊術に力を貸してくれる精霊は火・水・風・土・樹それから光と闇の精霊。稀に氷や雷の精霊も呼び掛けに応じてくれると聞くなぁ。だが、それがどうかしたのか?」
俺が何を言いたいのか分からず困惑する様なボルコス。
「精霊術を行使する精霊の事は取り敢えず考えず、精霊術には妖精族の『精気』を与える事が必要だと言う点を注視してもらいたいんだ。」
「なんだと?」
「ボルコスはどうか知らないが、妖精族の中には精霊術を妖精族の専売特許だと考えている者もいるが実はそんな事は無い。現に俺は妖獣人族が精霊に力を借りて超自然現象を起こす事実を知っているからな。で、その際に用いるのは妖精族『精気』ではなく妖獣人族の『気』なんだよ。更に、賢獣の中にも精霊術を使える者が居るが、この時も賢獣の『獣気』を精霊に与える事で精霊の力を借りている。要するに、精霊は術者の『気』を受け取る事で術者が欲した精霊術を行使してくれるということなんだ。
勿論、精霊と意思の疎通が図れることが重要なのは間違いないんだが・・」
俺は此処まで話したところでボルコスがこれまでの話を理解しているか確認するように、一旦話を区切るとボルコスは眉間に皺を寄せ考えながらも話の続きを促すように顎をしゃくった。
「精霊に『気』を与える事で精霊が対価として超自然現象=精霊術を起こす。が、例えば精霊術の行使を求めず『気』を精霊に与えたら、精霊はどうすると思う?」
俺の問い掛けに、ボルコスは何時もにも増して眉間に深い皺を刻み俺の事を睨み付ける様にジッと見つめたまま、次に俺の口から発せられる言葉を待ち構えていた。
「精霊は与えられた『気』を自身の活性・成長に使うんだよ。勿論、こんな現象を起こす者は精霊術師には居なかったんだけど、数は少ないながらも起こし、その結果生み出された物がある。それが・・・」
「命宿る武具か!!」
俺が言い終わらに内に、ボルコスが目を大きく見開き大声で正解を言い当てた。そんなボルコスに対して俺はニヤリを笑みを浮かべ
「その通り! ボルコスもこれまでに命宿る武具を鍛えた鍛冶師の話を耳にしてきた事があると思うが、共通しているが『精魂込めて気力を尽くし』鍛えた事で生み出されたという事だ。
鍛えた後その鍛冶師は疲弊衰弱しその場に崩れ落ちたなんて話まで逸話として残っているが、俺はこの時、鍛冶師が自身の『気』を鎚に乗せて金属鋼を打った事で鍛冶師の気が金属鋼の精霊に力を与えたと考え実行し、結果リンドブルム街において数振りの武具が命宿る武具となった。
勿論、『気』を込めて鍛えれば必ず命宿る武具になると言う訳では無いが、確実により良い物になると俺が武具の依頼を受けた際には鍛冶仕事で揮う鎚に『気』を込めて鍛える事にしているんだ。」
言い切った。俺の言葉を最後まで聞いていたボルコスは、俺の話が終わると俺が身に着けこの島まで持って来て兜割りと太刀に視線を向け何かを確認するように見つめてから再び俺を睨み付けると、
「驍廣、今の話。そんなに簡単に話して良い事では無いだろう、今まで多くの鍛冶師が生涯に一度は鍛えたいと願った『命宿る武具』の製造方法だぞ。鍛冶を志す者にとって喉から手が出るほど欲する情報、言うなれば『秘中の秘』と言われるものそれを・・・」
「秘中の秘と言ったところで実行できなければ無用の長物だろ?」
あまりに剣呑な表情を浮かべるボルコスに俺は軽く肩を窄めながら言うと、ボルコスは『何を言ってるんだコイツは』と言うような顔をした。
「はぁ?」
「だ・か・ら。出来るかどうかやって見らた良いんだよ。『知りました、はい出来ました』っていうほど簡単なものだとでも思うのか?ただ闇雲に『気』を込めて金属鋼を鍛えれば良いってもんじゃないんだ。精霊の様子、金属鋼の状態を見極めそれこそ精も魂も尽き果てる覚悟で鍛冶をしなければならない。それに『気』ってのはその者の質によって如何様にも変わる。邪な考えを持った状態でこの方法を用いれば、邪な気を金属鋼に込める事になり精霊を成長させるどころか弱体化させてしまいかねない。
依頼主の事を考え一心に金属鋼と火に向き合い鎚を振るわなければ何の意味も無いんだよ。」
俺の言葉に呆気にとられたように呆然とするボルコスだったが、暫く考え込んでいたかとと思うと
「『武具を正邪にするは鍛えし鍛冶師の心にあり。護身具か凶器にするは使う者次第』・・か。昔から使われてきた言葉で詭弁だと思っていたが、少なくとも鍛冶師の心得については正鵠を射ていたか。よっし!では吾輩も精一杯精進する事にしよう♪」
そう自らに気合を入れ直したボルコスの顔は、引き締まった職人の顔になっていた。そんなボルコスと俺は再び鋼に向かい一心に鎚(大金槌)を振るい鍛錬を続けて行った。
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