鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百参拾話 海中に飛び込みますが何か!

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「此処から海へか?」

人魚族の戦い方を知らないままに、トライデントではなく三又の槍を鍛えてしまった俺は、フォルテとアコルデの許可を得てアコルデ率いる守手衆の修練に参加させてもらう事になったのだが、その修練の場所が海の中だという事をすっかり忘れ、アコルデ達守手衆と共に向かった先が島の海に飛び出た崖の上だった。
人魚族の守手衆はトライデントを手に、臆することなく次々と崖の上から梅へと飛び込んでいったのだが、それを見て俺は隣にいたアコルデに思わず尋ねていた。

「うん?まぁいつもここからと言う訳では無いが、たまたま今日はこの場所から向かうってだけの事だね。ここは見張り役が島の外に怪しい船影を発見した時などに急いで海に出る際に使う場所だよ。この崖の下は波の浸食によって海底まで深く抉れていて、崖から飛び込んでも海底にぶつかるといった事が起こらない場所で、緊急時にこの場所から飛び込んでその勢いのまま不審な船に近づく事が出来るから重宝なんだよ。
まぁ、この場所から飛び込めて初めて一人前の守手衆と認められる場所でもあるかなぁ。
それじゃ、お先に~♪」

そう言い残し、アコルデも他の守手衆と同じように崖から綺麗な放物線を描いて海へ飛び込んでいった。その姿を黙って見送る俺を心配そうにフォルテは見詰めていたが、

「津田殿・・・ここからいきなり飛び込むのは私達人魚族の者でも無理な事。この崖の下に降りる通路があるのでそちらに参りましょう。」

そう話しかけてきた。だが、アコルデはわざわざ『この崖から飛び込めて初めて一人前の守手衆と認められる場所』だと告げて行った。という事は、もし俺がフォルテの話した崖下に通じる通路を使ったとしたら、アコルデは二度と俺を認めない様な気がした。
その口調から飄々とした人物に見えるアコルデだが、その芯には一本筋が通っていて島を守る守手としての役目を大事に考えているのではないか。だからこそ俺が鍛えたトライデントもどきを見てフォルテに意見具申をしたんだと思う。
そんなアコルデがわざわざ告げて行った言葉を、俺は無視する事は出来なかった。

「・・・いや、此処から行きます!」

俺はそう告げて、着ていた作務衣を脱いで畳むとその上に兜割り八咫を置いて作務衣が風で飛ばされないようにしてから、体を解すように軽く動かして

「せ~のぉ。とりゃ~ぁ~!」

掛け声と共に崖に向かって走り、アコルデ達のように頭から・・とは行かず、トライデントもどきを抱きしめる様にして足から海へと飛び落ちた。
風を切る音が聞こる?っと思った頃には足先から海に入水を果たし、入水時の勢いが収まると同時に手足を動かし水面を目指したが、思ったよりも深く潜ってしまったのかなかなか水面に辿り着かず・・・と、いきなりトライデントもどきを握っていない左手を掴まれたと思ったら、勢いよく引っ張られてあっという間に水面に顔が出て俺は大きく空気を吸い込んでから、左手を掴んだ者に目を向けた。

「あ、アコルデさん・・・」

俺を水面まで引っ張り上げてくれたのはアコルデでだった。

「まさか、いきなり連れて行った崖から飛び込んでくる度胸があったとはねぇ。しかし、足からだと海底にぶつかる事は無いが深く潜り過ぎて水中で呼吸の出来ない者にとっては危険だからなぁ、その事を事前に言っておかったオレの落ち度だったねぇ。
まぁその事はおいて置いて、周りを見てみな。」

少し仏頂面を浮かべたアコルデに促されて周りに視線を振ると、

「あんた!初めてだってのに度胸あるなぁ!!」

「俺が初めてこの場所に臨んだ時は足が竦んで飛び込めなかったんだぞ。」

「僕は勢い余って『背面落ち』して気絶したなぁ・・・」

「背面落ちならまだ良いよ。オレなんか思いっきり『腹打ち』しちまって、顔から胸から真っ赤に腫れあがって辛かったぞぉ。」

などと言い合いながら笑顔を浮かべていた。
そんな守手衆たちの様子に驚いていると、『ジュポン!』という殆ど水しぶきを上げない入水音がして、水面に顔を出したフォルテが、

「ね! 言った通りでしょ。私が崖下への通路を教えても津田さんは飛び込む事を選ぶって♪」

してやったりとばかりに得意げな顔でアコルデに声を掛けると、アコルデは更に顔を顰めて

「クソッ! あぁ、フォルテの言う通りだったよ。こいつの想いは本物だ!本物の馬鹿だよ、まったく目的の為なら命の危険があったって平気で飛び込んできやがる。
 守手衆!これから何時もの様に修練を始めるが、絶対に手を抜くんじゃないぞ!!
この津田驍廣・・・・って馬鹿がトライデントを鍛える為にどんな風に使っているのか見たいって、ただその為だけにあの崖から飛び込んで来たんだ。その意気に応えてやろうじゃないか!」

「「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」」

アコルデの檄が飛ぶと、周りで笑顔を浮かべていた守手衆たちは真剣な表情を浮かべ声を揃えてアコルデの檄に応えた。
その様子を呆気にとられて見詰める俺に、いつの間にか近づいていたフォルテが笑顔を浮かべながら

「良かったですね。希望通り、守手衆の本気の修練の様子を見る事が出来ますよ♪」

と、声を掛けて来た。どうやら、一連の出来事を画策したのはフォルテだったようだ。
フォルテは俺に不信感を露わにしていたアコルデに、俺がどの位本気で鍛冶に対して考えているのかを知ってもらう為にアコルデに合わせてここまで進めていた様だ。
しかし、素直に崖下へと続く小道を通れば良かったとは・・・どうやら俺はフォルテに煽られていたとはいえ、焦っていたようだ。まぁ結果としては良かったのかもしれないが・・・。
 そんな事を考えている間も、アコルデ達守手衆は早速修練を始めるのか、俺とフォルテに軽く一礼をしてそれぞれ海に潜って行ったのだが、その際に何人かが潜る際に水面を叩く魚の尾鰭のような物が見えた。
俺は何かの見間違いかと思い、目をしばたかせたり瞼を手で擦っていると近くにいたフォルテが、

「津田さん、どうかしましたか?先ほどから盛んに目を擦っているようですが」

と声を掛けて来たので俺はフォルテに視線を向け『いや、守手衆が潜る際に尾鰭のような物が見えて』と言いおうと、口から出かかった言葉が止まり俺は眼を大きく見開きフォルテの姿を凝視していた。
そこには、人魚族の村人が皆身に着けていた腰巻(ロンジー)から覗いていたのは細い脹脛や足首ではなく、正に魚の尾鰭そのものがロンジーから顔を出していた。
さらによく見るとフォルテの首筋には両側三対の切れ目が現れ、フォルテがさっきまでしていた呼吸の動きと同じように切れ目が閉じたり開いたりと動いていた。
それらの様子を見つめる俺の視線に気付いたのかフォルテはヒルダやリリスが悪戯が成功した時に見せる笑みを顔に浮かべると、

「津田さんは人魚族と交流を持つのはこの島に来て初めてなのね。そんな人は海の中に入った時の本当の私達の姿に驚くのよね♪」

と言うと、ロンジーを少したくし上げて自慢するかのように尾鰭に変化した自身の下半身(足)を見せた。

「そ、それは尾鰭? それに首筋の所は・・・」

「正解!それに首筋に現れた鰓も気が付いたのね。私達人魚族は、陸で活動している間は尾鰭を足に変化させているのよ。それで、こうやって海に入ると元の尾鰭に戻り、首筋にも鰓が浮き出て来て呼吸をすることが出来るから、海の中で自由に動き回れるのよ。
この体の構造なら陸に上がらなくても生活は出来るんだけど、海の中は魔獣や魔獣ほどでは無いにしろ凶暴な魚や海獣が居るから、昔から子育てなどは比較的安全な陸に上がって行う事が多くて、今では島に村を作って生活してるって訳。
でも、島に居を構えているからと言っても私達は土を耕して食糧を得る事は少ないわ。やっぱり食糧調達は海で行い、海産物を主食に生活しているから。」

「なるほど・・・それでいざという時の為に必要となる武具は海(水中)で使える物という事になるんだな。」

フォルテの説明に相槌を打っていると、海中から飛び出さんばかりの勢いで浮上してきたアコルデが海面から顔だけでなく上半身を水上に出し、

「フォルテ!いつまで喋っているんだぁ?早く津田に『吸気藻』を渡して海中に案内しないか!!修練を始めるぞ。」

と声を上げると、海面を尾鰭で力強く叩いて再び海中へと没して行った。
アコルデの声にフォルテはムスッとしたが直ぐに懐から一握りの海藻を取り出し俺に手渡す。

「ごめんなさいね、アコルデは意外とせっかちだから。それで、今渡したのは吸気藻きゅうきもという大量の空気を生み出す海藻なの。その海藻を口に銜えていれば吸気藻が生み出す空気を吸い水中でも呼吸をすることが出来るから、鰓を持たない人族でもある程度は海中に留まっていられるようになるわ。それじゃ、早く行きましょ。アコルデ達守手衆がお待ちかねよ♪」

俺はフォルテに渡された海藻を口に銜え、促されるままに海中へと潜った。

 フォルテに連れられて潜った海中は、珊瑚が海上から降り注ぐ太陽の光によって赤や黄色など色とりどりに輝き、珊瑚の隙間には珊瑚に負けない色鮮やかな魚たち(熱帯魚?)が群れていた。

そんな珊瑚の森を抜けてゆくと、突然開けた台地の様な平らな海底が現れ、その台地に先に潜って行ったアコルデをはじめとした守手衆の面々が綺麗に整列し、俺とフォルテを待ち構えていた。
 俺がフォルテに手を引かれて台地に辿り着くと、

「津田驍廣! ようこそ、海の修練場へ!!」

海中にもかかわらずアコルデの鮮明な声が俺の耳に飛び込んで来た。その事に驚き、思わず耳を触る俺。

「うっふふふふ♪ 海中なのにアコルデの声が聞こえて来たから驚いたのね。普通だったら海水の中を音が伝わるには陸に居る時とは違って聞こえるはずだから。
でも、私達は海に適応してきた人魚族。海での意思相通の手段はちゃんと持っているのよ。もっとも、私達だけで成している事では無く、海中に居る水精霊に力を借りての事なんだけどね。」

と笑みを浮かべながら教えてくれた。俺は頭に巻いていた布を摺り上げて額の真眼を露わにすると、真眼に飛び込んで来たのはアコルデやフォルテ達人魚族の周りを嬉しそうに群れて泳ぎ回る水精霊ウンディーヌの姿だった。
そんな水精霊の一人(?)が俺の耳元にいてアコルデやフォルテの言葉を伝えてくれていた。
 そうしている間に、耳元に居た水精霊が俺が仲間や自分の姿を真眼で確認した事に気付くと、一瞬驚いたのか身を縮め硬直させたが、直ぐに俺に敵意が無い事に気付いて、嬉しそうに微笑みそれまで一定の距離を取って耳元に居たのが、直接俺の耳に触れる様になったのか耳垂(耳たぶ)に微かな触感を感じるのに合わせて、整列したまま俺やフォルテのやり取りを見つめている守手衆の『早くはじめないかなぁ・・』といった囁きなども聞こえるようになっていた。
俺は慌てて、

「アコルデさん!それに守手衆の皆さんお待たせしてすいません。今日はお邪魔にならないようにしますんでよろしく。」

そう言って頭を下げると、囁きを漏らしていた守手衆の一人は驚いたようにギョッとした表情をしてい。そんな守手衆を一瞥したアコルデは、僅かに眉間に皺を寄せたが直ぐに、

「なんの、今日はしっかりと見学してもらってよい武具を鍛えて貰えれば、我らはそれで十分だ!
それでは早速修練に入る!!」

その掛け声と共に、人魚族(守手衆)の修練が始まった。



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