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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)
第弐百弐拾七話 太刀(焔)を抜く事になってしまいましたが何か!
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トライデント(三つ又の槍)を手に持った多数の男達に囲まれて連行されていった先は、集落の端に一軒だけポツンと建てられていた小屋だった。
小屋まで先導して来た男は、荒々しく扉を開くとまるで怒鳴りつける様に、
「ボルコス、おるか?邪魔するぞ!」
と小屋の中へと声を掛け返事を待つ事も無くズカズカと入って行った。そんなスフォルツの態度に、一緒に同道してきたフォルテと族長は一瞬眉間に皺を寄せたが、何も言わずソフォルツに続いて小屋の中に入り、俺も周りを囲む男達に押される様にして小屋の中へと足を踏み入れた。
小屋の中はスミス爺さんの鍛冶場ほど広くは無いものの、アルムさんから借りた鍛冶小屋よりは広く、一番奥に炉が設置されていてその炉の前で俺達に背を向ける格好で金鎚を揮う一人の鍛冶師らしき姿があった。
「ボルコス! おいボルコス!!」
小屋に入る前にスフォルツが発した呼び掛けに気付かなかったのかその鍛冶師は、俺たちが小屋の中に入ってもこちらを振り返ることなく金槌を揮い続けていた為に、スフォルツは再度大声を上げ呼び掛けた。すると・・・
「煩いわぃ! そう何度も呼ばずとも分かっておる。じゃが、今は少し手が離せん暫し待っておれ!!」
スフォルツに負けない怒鳴り声で返事を返しつつも仕事を続ける鍛冶師に、俺は興味を惹かれて背後に近づき覗いてみると、丁度トライデントの成形を仕上げを行っている所だった。
トライデント(三つ又槍)は元々漁師が魚を捕らえる為に使用していた銛が武具へと進化した物で、その用途は他の槍に比べて突きに特化している。
銛として使用していた名残で穂先に『返し』がついているため一見すると穂先で斬り払いも出来る様に見えてしまうが、トライデントにはその様な用途は想定されていない。
三つ又に分かれた穂先により突きを繰り出した時に三本の穂先のいずれかが確実に獲物(敵)を捕らえられるように進化してきた武具で、今俺の目の前で鍛えられているトライデントも、同様の作り物だった。
伝統(?)の返しを施された三つ又の穂先は刺突能力を高める為により細く鋭く形が整えられていた。
暫く金槌を振り続けてようやく自分が納得する成形が出来たのか、その鍛冶師はシゲシゲと鍛えたトライデントを見つめてからホッと息を吐き出し、声を掛けて来たスフォルツの方に顔の向きを変える素の最中、
「おぉお!?なんだオメェさんは!?」
背後から覗きこんでいた俺の気配に気が付いたのか後ろを振り返り驚きの声と共に誰何してきた。振り返った鍛冶師は豊かな顎鬚を蓄え、がっしりとした腕や胴からこの鍛冶師がドワーフ氏族の男だと分かった。
ドワーフ氏族の鍛冶師に俺は苦笑を浮かべた。
「すまない、驚かせたようだな。俺は津田驍廣、リンドブルグ街で鍛冶師をしている者だ。リンドブルム街ではあまり見ないトライデントを鍛えているようだったから興味に駆られ、失礼を承知で背中越しに覗かせてもらっていた。」
俺がそう言うと、ボルコスは俺を足元から舐める様に見回し、最後に掌を凝視した後
「ほ~ぉ。見たところドワーフ氏族でも単眼巨人族でも、ましてや妖獣人族の火鼠や狗猿の奴等とも違うが、その手に出来た鎚の痕を見ると・・・御者、なかなかに侮りがたい腕をお持ちの鍛冶師のようだの。
吾輩はボルコスと呼ばれとるしがない流れ者の鍛冶師じゃ、宜しくのぉお若い鍛冶師殿!」
と笑顔で右手を差し出してきた。
これまで会ったドワーフ氏族は、俺が鍛冶師だと言うと胡乱な表情をしまず疑ってかかって来たが、ボルコスは俺の手に出来たマメの痕を見ただけで、俺が鍛冶師だという事を認め握手を求めて来たことに驚き、一瞬握手を躊躇しているとボルコスは顔を顰め、
「御者、ドワーフ氏族の者が迷惑を掛けたようだな。・・・まったく、相変わらず響鎚の者共は自分達ドワーフ氏族の者以外の鍛冶師を認めようとしないんだろう、情けない!」
そう吐き捨てと、改めて右手を差し出した。
「吾輩は昔から色んな街や郷に行っては腕を振るておってな。ドワーフ氏族の者以外にも腕の良い鍛冶師が大勢いる事を知っておる。
だから、御者が何処の何者であろうとその手に出来た鎚マメの痕を見れば御者が名うての鍛冶師だという事が直ぐに分かるというものだて!」
「手のマメを見てそんな風に行ってもらえるとは思いもせず失礼した。『名うて』の鍛冶師かどうかは分からないが、自分なりに精一杯鎚を揮ているつもりでいる。ここで会ったのも何かの縁、よろしくお願いする。」
俺はボルコスの言葉に恐縮しつつ笑みを浮かべ、差し出された手を握り返した。その時、腰を下ろしているボルコスの下半身に目が行き、思わず息をのんだ。
金床の前に座っているボルコスの左足が無かったのだ。正確には太腿だけを残し膝から下が・・・俺の目が自分の左足を見つめている事に気付いたボルコスは苦笑を浮かべ、
「そんな顔をせんでくれ。これは若気の至りってヤツでな、先にも言ったが街や郷を渡り歩いている時に、海を越えた先に魂鋼と呼ばれる国外不出の金属鋼があると耳にしてなぁ。一度でいいからその金属鋼を鍛えてみたいと海を渡ろうとしたんだ。ところが途中で周辺海域を荒らし回っていた海賊船に乗っていた船が襲われて。気が居付いた時にはこの様で島に流れ着いて多って訳だ。
その時に吾輩を介抱してくれたのがそこに居る族長殿でな、それ以来この村で鎚を揮わせてもらっておると言う訳なのだよ。」
と大した事ではないと言うように語るボルコスだったが、左足が無くては自由に動く事も出りず、金属鋼や精霊石、炉に入れる炭などを運ぶのも一苦労だし、鎚を揮うにしても腰を下ろしているとはいえ片足では踏ん張りが利かず、満足に鎚振りが出来るまでには相当な苦労を積み重ねたであろうことが容易に想像出来た。
そんな状態の中で、村の者に信頼されるトライデントを鍛え続けているボルコスに改めて敬意の念を抱いた。
そんな俺の表情に、ボルコスは少し困った様な照れている様な表情を浮かべて傍らで俺達のやり取りを眺めていた族長の方に視線を振ると、族長は俺がボルコスに敬意を抱いた事を知り、まるで自分の事の様にニッコリと優しげな笑みを浮かべていた。
そんな柔らかな空気が鍛冶小屋の中に広がる中、一人空気の読めない者が・・・
「挨拶はそれぐらいで十分だろう!それでボルコス、そいつがこんな物を手にしながら自分は鍛冶師だと口にしているんだ。それでその事をはっきりさせる為に、鍛冶仕事をさせてみたい。少しの間鍛冶小屋を借りるぞ!!」
言い高だかに告げるスフォルツ。その言葉に鍛冶小屋に居る他の者達は一斉に眉を顰めるがスフォルツはその事に気付く様子は無かった。
「・・・スフォルツ、まぁ良い。それで津田殿が持っていた物とはなんだ?見せてみよ!」
スフォルツの言動に諦め顔を浮かべたボルコスは、俺が所持していた物に興味を示し問いかけると、スフォルツは顎でしゃくるようにして配下の者に持ってきた俺の兜割りと太刀をボルコスに渡すように指示した。配下の守手衆は指示に従い八咫と焔をボルコスに渡すと、ボルコスはシゲシゲと二振りの武具の拵えを見て、
「ほ~これは大した物だ。これは名のある拵え師の手がけた仕事だ・・・津田殿、この武具は御者の鍛えた武具か?
もしや、命宿る武具ではないか?」
ボルコスの問い掛けに俺は肯定の意を込めて頷こうとするとスフォルツが、
「何を言い出すのかと思えば・・・鞘から抜けもしない武具や棒切れが命宿る武具だと?馬鹿を言うな!」
真っ向から否定の言葉を発してきた。その言葉に思わずムッとすると、ボルコスは大きなため息を吐き出し諭すように告げた。
「は~ぁ、スフォルツ。お前は何も知らぬようだな。命宿る武具が主と認めた者以外の手で容易く鞘から抜ける訳があるまい。この島から出た事が無いから仕方のない事だが、命宿る武具には必ず主となった者がおってその者か主の許可を得た者にしか抜けぬものなのだ。
津田殿、この二振りの武具。貴殿の持ち物に相違ないであろう、後学の為どうか抜いて見せてやってはくれまいか。」
そう言うと、ボルコスは恭しく掲げて俺に手渡してきた。
俺は八咫と焔を受け取り、確認するようにフィナレとフォルテに視線を振ると、二人とも頷き了承してきた。
そんな二人にスフォルツは慌てて俺から武具を取り上げようと手を伸ばして来たが、そんなスフォルツに
「煩いよ、黙って見てなっ!!」
フィナレからの一喝にスフォルツはその身を硬直させた。そんなスフォルツを尻目に俺は先ず八咫を手に取ると濃口を切り、ゆっくりと刀身を抜く。
流れる様なな曲線を描く打面と柄元から別れる枝鉤、鞘に納められた刀身全てが露わになるのに合わせて俺の肩には三本足の白い烏が姿を現していた。
突然現れた八咫烏に警戒心を露わにし手にしていたトライデントを構えるスフォルツ。だが、フィナレとフォルテの二人に睨まれてスゴスゴと構えを解いたものの俺を睨み付けてきた。そんなスフォルツに心の中で溜息を吐きながら、何食わぬ顔で兜割りを凝視するボルコスに鞘を払った八咫を差し出すと、一瞬おどろた表情を浮かべたが直ぐに手を差し出し八咫を受け取った。
「・・・これが御者の鍛えし武具か。あまり見かけた事の無い物だが、刀身に刃が付いていないところを見るとこれは打撃武具の一種なのだろうのぉ。それにしても見事だ!」
と感嘆の声を口にした。そんなボルコスに八咫を預けたまま、もう一振りの焔の刀身を見せる為にボルコスやフィナレ
達から少し離れようとすると
「何をしている! 何処に行くつもりだ!!」
即座にスフォルツが声を荒げた。
「いや、こいつはちょっと問題児で少し離れて置かないと不味いと思・・」
「何が問題児だ!そんな棒切れを振り回しこの場から逃げ出そうとでも考えたのだろう。おい!此奴が逃げ出さない様に小屋の扉を固めろ!!」
小屋の外に待機していた守手衆に声を掛けると、持っていたトライデントを腰溜めに構えて突き出して来た。いきなり繰り出された三つ又の穂先を避けようと体を反らせたものの、槍や剣などとは違い穂先の幅が広がっているトライデントを躱し切れず、脇腹を掠め着ていた作務衣を切り裂かれてしまった。
そのスフォルツの行動にフィナレとフォルテは制止の声を上げようとしたが、それよりも早くスフォルツは次の刺突を繰り出して来た。俺は仕方なく、
「焔!」
一声掛け太刀の鯉口を切る。途端に鯉口から紅蓮の火焔が吹き出し、鍛冶小屋内を赤く照らした。
行き成り目の前に吹き出した火焔に驚いたのかスフォルツの動きが止まる。その隙を逃さず俺は鞘から解き放った焔をトライデントの穂先へと振り下ろした。
『カラン、カラン』
鍛冶小屋の土間に立ち切られたトライデントの穂先が落ち、軽い音を立てた。
小屋まで先導して来た男は、荒々しく扉を開くとまるで怒鳴りつける様に、
「ボルコス、おるか?邪魔するぞ!」
と小屋の中へと声を掛け返事を待つ事も無くズカズカと入って行った。そんなスフォルツの態度に、一緒に同道してきたフォルテと族長は一瞬眉間に皺を寄せたが、何も言わずソフォルツに続いて小屋の中に入り、俺も周りを囲む男達に押される様にして小屋の中へと足を踏み入れた。
小屋の中はスミス爺さんの鍛冶場ほど広くは無いものの、アルムさんから借りた鍛冶小屋よりは広く、一番奥に炉が設置されていてその炉の前で俺達に背を向ける格好で金鎚を揮う一人の鍛冶師らしき姿があった。
「ボルコス! おいボルコス!!」
小屋に入る前にスフォルツが発した呼び掛けに気付かなかったのかその鍛冶師は、俺たちが小屋の中に入ってもこちらを振り返ることなく金槌を揮い続けていた為に、スフォルツは再度大声を上げ呼び掛けた。すると・・・
「煩いわぃ! そう何度も呼ばずとも分かっておる。じゃが、今は少し手が離せん暫し待っておれ!!」
スフォルツに負けない怒鳴り声で返事を返しつつも仕事を続ける鍛冶師に、俺は興味を惹かれて背後に近づき覗いてみると、丁度トライデントの成形を仕上げを行っている所だった。
トライデント(三つ又槍)は元々漁師が魚を捕らえる為に使用していた銛が武具へと進化した物で、その用途は他の槍に比べて突きに特化している。
銛として使用していた名残で穂先に『返し』がついているため一見すると穂先で斬り払いも出来る様に見えてしまうが、トライデントにはその様な用途は想定されていない。
三つ又に分かれた穂先により突きを繰り出した時に三本の穂先のいずれかが確実に獲物(敵)を捕らえられるように進化してきた武具で、今俺の目の前で鍛えられているトライデントも、同様の作り物だった。
伝統(?)の返しを施された三つ又の穂先は刺突能力を高める為により細く鋭く形が整えられていた。
暫く金槌を振り続けてようやく自分が納得する成形が出来たのか、その鍛冶師はシゲシゲと鍛えたトライデントを見つめてからホッと息を吐き出し、声を掛けて来たスフォルツの方に顔の向きを変える素の最中、
「おぉお!?なんだオメェさんは!?」
背後から覗きこんでいた俺の気配に気が付いたのか後ろを振り返り驚きの声と共に誰何してきた。振り返った鍛冶師は豊かな顎鬚を蓄え、がっしりとした腕や胴からこの鍛冶師がドワーフ氏族の男だと分かった。
ドワーフ氏族の鍛冶師に俺は苦笑を浮かべた。
「すまない、驚かせたようだな。俺は津田驍廣、リンドブルグ街で鍛冶師をしている者だ。リンドブルム街ではあまり見ないトライデントを鍛えているようだったから興味に駆られ、失礼を承知で背中越しに覗かせてもらっていた。」
俺がそう言うと、ボルコスは俺を足元から舐める様に見回し、最後に掌を凝視した後
「ほ~ぉ。見たところドワーフ氏族でも単眼巨人族でも、ましてや妖獣人族の火鼠や狗猿の奴等とも違うが、その手に出来た鎚の痕を見ると・・・御者、なかなかに侮りがたい腕をお持ちの鍛冶師のようだの。
吾輩はボルコスと呼ばれとるしがない流れ者の鍛冶師じゃ、宜しくのぉお若い鍛冶師殿!」
と笑顔で右手を差し出してきた。
これまで会ったドワーフ氏族は、俺が鍛冶師だと言うと胡乱な表情をしまず疑ってかかって来たが、ボルコスは俺の手に出来たマメの痕を見ただけで、俺が鍛冶師だという事を認め握手を求めて来たことに驚き、一瞬握手を躊躇しているとボルコスは顔を顰め、
「御者、ドワーフ氏族の者が迷惑を掛けたようだな。・・・まったく、相変わらず響鎚の者共は自分達ドワーフ氏族の者以外の鍛冶師を認めようとしないんだろう、情けない!」
そう吐き捨てと、改めて右手を差し出した。
「吾輩は昔から色んな街や郷に行っては腕を振るておってな。ドワーフ氏族の者以外にも腕の良い鍛冶師が大勢いる事を知っておる。
だから、御者が何処の何者であろうとその手に出来た鎚マメの痕を見れば御者が名うての鍛冶師だという事が直ぐに分かるというものだて!」
「手のマメを見てそんな風に行ってもらえるとは思いもせず失礼した。『名うて』の鍛冶師かどうかは分からないが、自分なりに精一杯鎚を揮ているつもりでいる。ここで会ったのも何かの縁、よろしくお願いする。」
俺はボルコスの言葉に恐縮しつつ笑みを浮かべ、差し出された手を握り返した。その時、腰を下ろしているボルコスの下半身に目が行き、思わず息をのんだ。
金床の前に座っているボルコスの左足が無かったのだ。正確には太腿だけを残し膝から下が・・・俺の目が自分の左足を見つめている事に気付いたボルコスは苦笑を浮かべ、
「そんな顔をせんでくれ。これは若気の至りってヤツでな、先にも言ったが街や郷を渡り歩いている時に、海を越えた先に魂鋼と呼ばれる国外不出の金属鋼があると耳にしてなぁ。一度でいいからその金属鋼を鍛えてみたいと海を渡ろうとしたんだ。ところが途中で周辺海域を荒らし回っていた海賊船に乗っていた船が襲われて。気が居付いた時にはこの様で島に流れ着いて多って訳だ。
その時に吾輩を介抱してくれたのがそこに居る族長殿でな、それ以来この村で鎚を揮わせてもらっておると言う訳なのだよ。」
と大した事ではないと言うように語るボルコスだったが、左足が無くては自由に動く事も出りず、金属鋼や精霊石、炉に入れる炭などを運ぶのも一苦労だし、鎚を揮うにしても腰を下ろしているとはいえ片足では踏ん張りが利かず、満足に鎚振りが出来るまでには相当な苦労を積み重ねたであろうことが容易に想像出来た。
そんな状態の中で、村の者に信頼されるトライデントを鍛え続けているボルコスに改めて敬意の念を抱いた。
そんな俺の表情に、ボルコスは少し困った様な照れている様な表情を浮かべて傍らで俺達のやり取りを眺めていた族長の方に視線を振ると、族長は俺がボルコスに敬意を抱いた事を知り、まるで自分の事の様にニッコリと優しげな笑みを浮かべていた。
そんな柔らかな空気が鍛冶小屋の中に広がる中、一人空気の読めない者が・・・
「挨拶はそれぐらいで十分だろう!それでボルコス、そいつがこんな物を手にしながら自分は鍛冶師だと口にしているんだ。それでその事をはっきりさせる為に、鍛冶仕事をさせてみたい。少しの間鍛冶小屋を借りるぞ!!」
言い高だかに告げるスフォルツ。その言葉に鍛冶小屋に居る他の者達は一斉に眉を顰めるがスフォルツはその事に気付く様子は無かった。
「・・・スフォルツ、まぁ良い。それで津田殿が持っていた物とはなんだ?見せてみよ!」
スフォルツの言動に諦め顔を浮かべたボルコスは、俺が所持していた物に興味を示し問いかけると、スフォルツは顎でしゃくるようにして配下の者に持ってきた俺の兜割りと太刀をボルコスに渡すように指示した。配下の守手衆は指示に従い八咫と焔をボルコスに渡すと、ボルコスはシゲシゲと二振りの武具の拵えを見て、
「ほ~これは大した物だ。これは名のある拵え師の手がけた仕事だ・・・津田殿、この武具は御者の鍛えた武具か?
もしや、命宿る武具ではないか?」
ボルコスの問い掛けに俺は肯定の意を込めて頷こうとするとスフォルツが、
「何を言い出すのかと思えば・・・鞘から抜けもしない武具や棒切れが命宿る武具だと?馬鹿を言うな!」
真っ向から否定の言葉を発してきた。その言葉に思わずムッとすると、ボルコスは大きなため息を吐き出し諭すように告げた。
「は~ぁ、スフォルツ。お前は何も知らぬようだな。命宿る武具が主と認めた者以外の手で容易く鞘から抜ける訳があるまい。この島から出た事が無いから仕方のない事だが、命宿る武具には必ず主となった者がおってその者か主の許可を得た者にしか抜けぬものなのだ。
津田殿、この二振りの武具。貴殿の持ち物に相違ないであろう、後学の為どうか抜いて見せてやってはくれまいか。」
そう言うと、ボルコスは恭しく掲げて俺に手渡してきた。
俺は八咫と焔を受け取り、確認するようにフィナレとフォルテに視線を振ると、二人とも頷き了承してきた。
そんな二人にスフォルツは慌てて俺から武具を取り上げようと手を伸ばして来たが、そんなスフォルツに
「煩いよ、黙って見てなっ!!」
フィナレからの一喝にスフォルツはその身を硬直させた。そんなスフォルツを尻目に俺は先ず八咫を手に取ると濃口を切り、ゆっくりと刀身を抜く。
流れる様なな曲線を描く打面と柄元から別れる枝鉤、鞘に納められた刀身全てが露わになるのに合わせて俺の肩には三本足の白い烏が姿を現していた。
突然現れた八咫烏に警戒心を露わにし手にしていたトライデントを構えるスフォルツ。だが、フィナレとフォルテの二人に睨まれてスゴスゴと構えを解いたものの俺を睨み付けてきた。そんなスフォルツに心の中で溜息を吐きながら、何食わぬ顔で兜割りを凝視するボルコスに鞘を払った八咫を差し出すと、一瞬おどろた表情を浮かべたが直ぐに手を差し出し八咫を受け取った。
「・・・これが御者の鍛えし武具か。あまり見かけた事の無い物だが、刀身に刃が付いていないところを見るとこれは打撃武具の一種なのだろうのぉ。それにしても見事だ!」
と感嘆の声を口にした。そんなボルコスに八咫を預けたまま、もう一振りの焔の刀身を見せる為にボルコスやフィナレ
達から少し離れようとすると
「何をしている! 何処に行くつもりだ!!」
即座にスフォルツが声を荒げた。
「いや、こいつはちょっと問題児で少し離れて置かないと不味いと思・・」
「何が問題児だ!そんな棒切れを振り回しこの場から逃げ出そうとでも考えたのだろう。おい!此奴が逃げ出さない様に小屋の扉を固めろ!!」
小屋の外に待機していた守手衆に声を掛けると、持っていたトライデントを腰溜めに構えて突き出して来た。いきなり繰り出された三つ又の穂先を避けようと体を反らせたものの、槍や剣などとは違い穂先の幅が広がっているトライデントを躱し切れず、脇腹を掠め着ていた作務衣を切り裂かれてしまった。
そのスフォルツの行動にフィナレとフォルテは制止の声を上げようとしたが、それよりも早くスフォルツは次の刺突を繰り出して来た。俺は仕方なく、
「焔!」
一声掛け太刀の鯉口を切る。途端に鯉口から紅蓮の火焔が吹き出し、鍛冶小屋内を赤く照らした。
行き成り目の前に吹き出した火焔に驚いたのかスフォルツの動きが止まる。その隙を逃さず俺は鞘から解き放った焔をトライデントの穂先へと振り下ろした。
『カラン、カラン』
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