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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)
第弐百拾五話 詰問される事になりましたが何か!
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「さて。対面の挨拶はこのくらいにしてそろそろ本題に入るといたしましょう。」
思いもよらないフィーンとの再会&従者就任(レヴィアタン街限定)に動揺を隠せない俺達とは対照的に、ファレナ以下レヴィアタン街の面々はそれがいつもの事の様に淡々と進行されていった。
まず、ファレナの手の一振りを合図にフィーンは再度俺達に対して頭を下げた後、『失礼いたします』の一言を残し部屋から出て行くと、変わってポリティスが着用している衣服と同じデザインの服を着たレヴィアタンギルドの職員と思われる魚の鰭のような形の耳を持つ女性(魚人族?)が、人数分のお茶(出されたのはリンドブルム街で良く飲まれているお茶)を用意して部屋の中央に置かれているテーブルの上に置くとそそくさと退出し、女性職員が部屋の扉を閉めるのを合図にポリティスが俺達にテーブルの両サイドに置かれたソファーに座る様に促し、自分はテーブルの上座(執務机を背にした椅子)にファレナを座らせてその背後にいつもの定位置のように立つと話し始めた。
「私どもレヴィアタン街ギルドが鍛冶師・津田驍廣様と紫慧紗様をお呼びしたのは、リンドブルム街で噂になるほどの腕を持つ津田様に是非此処レヴィアタン街でも武具を鍛えて欲しいと考えてからでございます。
が、その前にまことしやかに流れる噂について幾つか確認をさせていただきたいと思っているのですがよろしいでしょうか?」
そう告げるポリティスの目は何故か剣呑な光を放ち、嘘など決して許さぬという気合が見て取れた。そんなポリティスに、俺は『流れている噂』とは?と尋ねようとしたのだが、そんな俺の機先を制し真安が、
「ポリティス殿! その物言い驍廣さんに対しあまりにも無礼ではありませんか!!
そもそも、招聘したのはポリティス殿らレヴィアタン街なのですぞ!それなのに、その招聘の根拠とした驍廣さんに対する噂をその本人に正すとは、一体どういう了見か!!」
と激昂したように顔を真っ赤にしてソファーから立ち上がり声を上げた。
「真安殿。そんなに憤る様な事では無いだろう?それで、ポリティス殿は俺のどんな噂を確かめたいんだい、俺自身は一体どんな噂が飛び交っているのか知らないんだが。」
俺は真安の肩に手を置き宥める様にして真安を座らせると、ポリティスとファレナに対して少し投げやりな言い方で逆に問いただした。すると、何が可笑しかったのかファレナがクスクスと笑い出し、
「ふっふっふ・・失礼。ポリティス、鍛冶師殿はお前のハッタリなど物の数ではない様だぞ。
流石はアルバート殿やヒルダ嬢、それにフレース殿といったカンヘル国内において一目置かれるお歴々の武具を鍛えてきたと噂される御仁だ、その肝っ玉も座っておられるようだ。
そんな鍛冶師殿に私も尋ねたいことがあったのだがお答え願えるか?
先だってニーズヘッグ街と天樹国との間で諍いが起きたのだが、その際にリンドブルム街からニーズヘッグ街の救援に赴いたアルバート殿とヒルデガルド嬢が用いた武具を鍛えたのは津田殿か?
更に、羅漢獣王国からの送られた魂鋼が、そこにいる波奴真安によって急遽リンドブルム街の鍛冶師の元に届けられたと言われているのだが、その鍛冶師とは貴殿の事か?
仮に貴殿の元に届けられたのだとしたら、その魂鋼は一体何に使われたのかお聞かせねがえぬか?」
それまで話していた淑女然とした口調が、急に荒々しい物に替わった。と、口調の変化と同時にファレナ自身の雰囲気も荒々しい武辺者を彷彿とさせる物に変わり、その瞳には僅かだが俺と隣にいる真安に対しての怒りの心情が見え隠れしていた。
其れを察してか、真安は表情を強張らせゴクリと生唾を飲み込み、俺を守ろうとするかのように口を開こうとしたが、そんな真安にファレナからの鋭い視線に射竦められて一言も発することは出来なかった。
「そんなに怖い目で睨まなくとも質問には答えるよ。先ず、アルバート殿とヒルダの武具を鍛えたのは俺か?だったな。答えは『是』だ。二人の武具、突撃槍と天竜偃月刀は俺が鍛えた。
そして、魂鋼についてだが。その出先が何処かは知らないが確かに真安殿と紗姫が持ってきた魂鋼は俺が貰い受け、俺の武具に鍛え上げた。」
何も臆することなく平然と答える俺に、ファレナもポリティスも呆気にとられたのか暫しの沈黙が支配人室を包んだが・・・
「一介の無名の鍛冶師が領主の武具を鍛えるなど通常では考えられぬ事! 一体どの様な手を使ったのですか!?」
「私の魂鋼で鍛えた武具は一体何処に在るのだ!?」
ファレナは目の前のテーブルを強く叩いて立ち上がり、ポリティスもファレナの背後から歩み寄り同時に俺に掴み掛る様に詰め寄ってきた。
そんな二人に真安の顔は青を通り越し血の気の失せた白色に変わってしまっていたが、紫慧やアルディリアといった俺との付き合い長い面々は『は~また厄介事が舞い込んだか』と諦めたような、呆れたような表情を浮かべてはいたものの、特に慌てる素振りを見せなかった為に真安も俺とレヴィアタン街の首脳陣との間に割って入ろうとはしなかった。
俺はそんな仲間たちの様子を横目でチラ見して内心では『真安を見習って少しは心配する様な顔をしろよ』と思いつつ詰め寄って来たファレナとポリティスに鋭い眼光と共に気合を込めた声で、
「一旦落着け!」
と一喝した後、ニコリと微笑み、
「二人同時に質問されては対応に窮します、先ずは落ち着いてください、順番にお答えしますから。」
諭すように告げた言葉に、俺の一喝で一瞬身を強張らせたファレナとポリティスはお互いの顔を見て恥ずかしそうしながら、
「すみませんでした。つい取り乱してしまって・・・」
「私も確認していた事とはいえ私達の中の常識とはかけ離れている事態だったものですから・・申し訳ありません。」
とファレナは椅子にポリティスはその背後へと身を落ち着けた。
「・・・オホン! 先ほどはお見苦しい姿をお見せし失礼いたしました。それで、私達の質問にお答え願えるとのことでしたので、早速ではございますがファレナ様からのご質問にお答え願えますでしょうか。」
騒ぎが収まるのに合わせ、お茶を用意してくれた女性職員とフィーンが、再び入室して来てファレナがテーブルを叩いた衝撃で毀れてしまったお茶をフィーンが綺麗に片付ける間に、女性職員は人数分のお茶を淹れ直し、一瞬咎める様な視線をファレナとポリティスに向けた後に満面の笑顔で俺達に一礼して退出していった。
そんな女性職員からの視線に一瞬バツの悪そうな表情を浮かべるも直ぐに取り繕い、咳払いをしてポリティスは先ほどの騒ぎの謝罪と共に俺に問うた質問の答えを催促してきた。
俺は用意してくれたお茶を一口飲み口を湿してから、
「え~っとファレナ殿からの質問は、俺が魂鋼を用いて鍛えた武具についてでしたね。それならばこの部屋に入る前に職員の方にお預けしましたが・・」
「誰か! 津田殿が預けたと言う武具を持ってきなさい!!」
と俺が言い終わる前に立ちあがったファレナが大声を上げると、部屋の外から何やらバタバタと騒がしい物音が聞こえて来たと思ったら、蹴り破らんとばかりの勢いで扉が開き、年の頃はリンドブルム家のバトレルさんと同じに見えながらもその体格は筋骨隆々の屈強な如何にも海の男といった風貌の魚人族の爺さんが俺が預けた『焔』を手に飛び込んで来た。
「お嬢!」
とても領主に対する呼称とは思えない言葉を口にしながら、飛び込んで来た爺さんにポリティスは渋面を作るものの特に咎めるような事はせず、ファレナに至っては子供の様な笑顔を作って、
「モービィ爺♪」と呼び、嬉しそうに迎え入れていた。そして、爺さんが持ってきた『焔』を受け取ると子供のような笑顔のままで、
「鍛冶師殿、魂鋼で鍛えたと言う武具はこれに間違いは無いな!」
と問われ、その勢いに思わず頭を縦に振ると、玩具を目の前にしたようなキラキラとした瞳でジッと俺の顔を見つめて、
「・・・これまでに見た事も無い様な頑強な造りの『倭刀』しかも太刀か。鍛冶師殿、不躾な事は重々承知の上で敢えてお願いするのだが、この太刀抜いてみても良いだろうか?」
とお願いされてしまい、俺は即答できずに躊躇していると『モービィ爺』と呼ばれた爺さんに、
「御客人。お嬢の頼み、まさか否と言う訳じゃあるめぇなぁ。」
と、海の潮で嗄れたガラガラ声で凄まれたが、そんな爺さんにポリティスから『モービィ提督!』と咎める様な声が飛ぶと、チラリとポリティスの顔を一瞥して何故か大人しく引き下がった。そんなレヴィアタン街三名のやり取りに思わず苦笑が漏れる。
「ファレナ殿。そのご要望にお応えできたら良いのですが、その太刀は俺以外には抜くことは出来ないと・・・「なんじゃそれは!?」「静かにしてください提督!」お疑いでしたらどうぞ試していただいても構いませんよ。」
ファレナに焔は俺以外には抜けないと告げると後ろに控えていたモービィ爺さんが疑問の声を上げそれをポリティスが諌めるといったやり取りが聞こえて来たので、抜けるか試しても良いと告げる。俺の言葉にチラリと背後の二人に目を向けてからファレナは真剣な表情になり、
「ありがたい。では早速試させていただく。」
と告げて、焔を自分の前に掲げて鯉口を切ろうと、喰出鍔に指を掛けて押すも隙間さえ出来ず、それでも諦められないのか柄と鞘を両の手で握り力任せに引っ張っても全く抜ける気配すら見いだせず、悪戦苦闘の末に肩で息をしながら、
「鍛冶師殿、本当にこの太刀は抜けるのか?実は太刀の姿を模した杖か棍だったのか??」
と疑いの目で俺を睨み付けて来た。俺は苦笑と共に頭を掻きながらファレナに近づき焔を受け取り、
「焔・・抑えろよ。ノウマク サンマンダ バサラ ダン カン!」
焔に一声かけた後、不動明王真言と共にほんの僅か鯉口を切ると、途端に火炎を纏った応龍(焔)が姿を現した。その様子に度肝を抜かれたのか、モービィ爺さんは後退り。ポリティスは腰を抜かしたようにその場に座り込む。
俺の間近に居たファレナは焔の体から吹き上がる火炎を避ける様に顔を背けつつも必死に応龍の姿を見つめて、
「・・・魂鋼で鍛えた武具には『龍』が宿ると聞いてはいたが、まさか『応龍』の宿る武具だなんて。」
と呟き絶句していた。
思いもよらないフィーンとの再会&従者就任(レヴィアタン街限定)に動揺を隠せない俺達とは対照的に、ファレナ以下レヴィアタン街の面々はそれがいつもの事の様に淡々と進行されていった。
まず、ファレナの手の一振りを合図にフィーンは再度俺達に対して頭を下げた後、『失礼いたします』の一言を残し部屋から出て行くと、変わってポリティスが着用している衣服と同じデザインの服を着たレヴィアタンギルドの職員と思われる魚の鰭のような形の耳を持つ女性(魚人族?)が、人数分のお茶(出されたのはリンドブルム街で良く飲まれているお茶)を用意して部屋の中央に置かれているテーブルの上に置くとそそくさと退出し、女性職員が部屋の扉を閉めるのを合図にポリティスが俺達にテーブルの両サイドに置かれたソファーに座る様に促し、自分はテーブルの上座(執務机を背にした椅子)にファレナを座らせてその背後にいつもの定位置のように立つと話し始めた。
「私どもレヴィアタン街ギルドが鍛冶師・津田驍廣様と紫慧紗様をお呼びしたのは、リンドブルム街で噂になるほどの腕を持つ津田様に是非此処レヴィアタン街でも武具を鍛えて欲しいと考えてからでございます。
が、その前にまことしやかに流れる噂について幾つか確認をさせていただきたいと思っているのですがよろしいでしょうか?」
そう告げるポリティスの目は何故か剣呑な光を放ち、嘘など決して許さぬという気合が見て取れた。そんなポリティスに、俺は『流れている噂』とは?と尋ねようとしたのだが、そんな俺の機先を制し真安が、
「ポリティス殿! その物言い驍廣さんに対しあまりにも無礼ではありませんか!!
そもそも、招聘したのはポリティス殿らレヴィアタン街なのですぞ!それなのに、その招聘の根拠とした驍廣さんに対する噂をその本人に正すとは、一体どういう了見か!!」
と激昂したように顔を真っ赤にしてソファーから立ち上がり声を上げた。
「真安殿。そんなに憤る様な事では無いだろう?それで、ポリティス殿は俺のどんな噂を確かめたいんだい、俺自身は一体どんな噂が飛び交っているのか知らないんだが。」
俺は真安の肩に手を置き宥める様にして真安を座らせると、ポリティスとファレナに対して少し投げやりな言い方で逆に問いただした。すると、何が可笑しかったのかファレナがクスクスと笑い出し、
「ふっふっふ・・失礼。ポリティス、鍛冶師殿はお前のハッタリなど物の数ではない様だぞ。
流石はアルバート殿やヒルダ嬢、それにフレース殿といったカンヘル国内において一目置かれるお歴々の武具を鍛えてきたと噂される御仁だ、その肝っ玉も座っておられるようだ。
そんな鍛冶師殿に私も尋ねたいことがあったのだがお答え願えるか?
先だってニーズヘッグ街と天樹国との間で諍いが起きたのだが、その際にリンドブルム街からニーズヘッグ街の救援に赴いたアルバート殿とヒルデガルド嬢が用いた武具を鍛えたのは津田殿か?
更に、羅漢獣王国からの送られた魂鋼が、そこにいる波奴真安によって急遽リンドブルム街の鍛冶師の元に届けられたと言われているのだが、その鍛冶師とは貴殿の事か?
仮に貴殿の元に届けられたのだとしたら、その魂鋼は一体何に使われたのかお聞かせねがえぬか?」
それまで話していた淑女然とした口調が、急に荒々しい物に替わった。と、口調の変化と同時にファレナ自身の雰囲気も荒々しい武辺者を彷彿とさせる物に変わり、その瞳には僅かだが俺と隣にいる真安に対しての怒りの心情が見え隠れしていた。
其れを察してか、真安は表情を強張らせゴクリと生唾を飲み込み、俺を守ろうとするかのように口を開こうとしたが、そんな真安にファレナからの鋭い視線に射竦められて一言も発することは出来なかった。
「そんなに怖い目で睨まなくとも質問には答えるよ。先ず、アルバート殿とヒルダの武具を鍛えたのは俺か?だったな。答えは『是』だ。二人の武具、突撃槍と天竜偃月刀は俺が鍛えた。
そして、魂鋼についてだが。その出先が何処かは知らないが確かに真安殿と紗姫が持ってきた魂鋼は俺が貰い受け、俺の武具に鍛え上げた。」
何も臆することなく平然と答える俺に、ファレナもポリティスも呆気にとられたのか暫しの沈黙が支配人室を包んだが・・・
「一介の無名の鍛冶師が領主の武具を鍛えるなど通常では考えられぬ事! 一体どの様な手を使ったのですか!?」
「私の魂鋼で鍛えた武具は一体何処に在るのだ!?」
ファレナは目の前のテーブルを強く叩いて立ち上がり、ポリティスもファレナの背後から歩み寄り同時に俺に掴み掛る様に詰め寄ってきた。
そんな二人に真安の顔は青を通り越し血の気の失せた白色に変わってしまっていたが、紫慧やアルディリアといった俺との付き合い長い面々は『は~また厄介事が舞い込んだか』と諦めたような、呆れたような表情を浮かべてはいたものの、特に慌てる素振りを見せなかった為に真安も俺とレヴィアタン街の首脳陣との間に割って入ろうとはしなかった。
俺はそんな仲間たちの様子を横目でチラ見して内心では『真安を見習って少しは心配する様な顔をしろよ』と思いつつ詰め寄って来たファレナとポリティスに鋭い眼光と共に気合を込めた声で、
「一旦落着け!」
と一喝した後、ニコリと微笑み、
「二人同時に質問されては対応に窮します、先ずは落ち着いてください、順番にお答えしますから。」
諭すように告げた言葉に、俺の一喝で一瞬身を強張らせたファレナとポリティスはお互いの顔を見て恥ずかしそうしながら、
「すみませんでした。つい取り乱してしまって・・・」
「私も確認していた事とはいえ私達の中の常識とはかけ離れている事態だったものですから・・申し訳ありません。」
とファレナは椅子にポリティスはその背後へと身を落ち着けた。
「・・・オホン! 先ほどはお見苦しい姿をお見せし失礼いたしました。それで、私達の質問にお答え願えるとのことでしたので、早速ではございますがファレナ様からのご質問にお答え願えますでしょうか。」
騒ぎが収まるのに合わせ、お茶を用意してくれた女性職員とフィーンが、再び入室して来てファレナがテーブルを叩いた衝撃で毀れてしまったお茶をフィーンが綺麗に片付ける間に、女性職員は人数分のお茶を淹れ直し、一瞬咎める様な視線をファレナとポリティスに向けた後に満面の笑顔で俺達に一礼して退出していった。
そんな女性職員からの視線に一瞬バツの悪そうな表情を浮かべるも直ぐに取り繕い、咳払いをしてポリティスは先ほどの騒ぎの謝罪と共に俺に問うた質問の答えを催促してきた。
俺は用意してくれたお茶を一口飲み口を湿してから、
「え~っとファレナ殿からの質問は、俺が魂鋼を用いて鍛えた武具についてでしたね。それならばこの部屋に入る前に職員の方にお預けしましたが・・」
「誰か! 津田殿が預けたと言う武具を持ってきなさい!!」
と俺が言い終わる前に立ちあがったファレナが大声を上げると、部屋の外から何やらバタバタと騒がしい物音が聞こえて来たと思ったら、蹴り破らんとばかりの勢いで扉が開き、年の頃はリンドブルム家のバトレルさんと同じに見えながらもその体格は筋骨隆々の屈強な如何にも海の男といった風貌の魚人族の爺さんが俺が預けた『焔』を手に飛び込んで来た。
「お嬢!」
とても領主に対する呼称とは思えない言葉を口にしながら、飛び込んで来た爺さんにポリティスは渋面を作るものの特に咎めるような事はせず、ファレナに至っては子供の様な笑顔を作って、
「モービィ爺♪」と呼び、嬉しそうに迎え入れていた。そして、爺さんが持ってきた『焔』を受け取ると子供のような笑顔のままで、
「鍛冶師殿、魂鋼で鍛えたと言う武具はこれに間違いは無いな!」
と問われ、その勢いに思わず頭を縦に振ると、玩具を目の前にしたようなキラキラとした瞳でジッと俺の顔を見つめて、
「・・・これまでに見た事も無い様な頑強な造りの『倭刀』しかも太刀か。鍛冶師殿、不躾な事は重々承知の上で敢えてお願いするのだが、この太刀抜いてみても良いだろうか?」
とお願いされてしまい、俺は即答できずに躊躇していると『モービィ爺』と呼ばれた爺さんに、
「御客人。お嬢の頼み、まさか否と言う訳じゃあるめぇなぁ。」
と、海の潮で嗄れたガラガラ声で凄まれたが、そんな爺さんにポリティスから『モービィ提督!』と咎める様な声が飛ぶと、チラリとポリティスの顔を一瞥して何故か大人しく引き下がった。そんなレヴィアタン街三名のやり取りに思わず苦笑が漏れる。
「ファレナ殿。そのご要望にお応えできたら良いのですが、その太刀は俺以外には抜くことは出来ないと・・・「なんじゃそれは!?」「静かにしてください提督!」お疑いでしたらどうぞ試していただいても構いませんよ。」
ファレナに焔は俺以外には抜けないと告げると後ろに控えていたモービィ爺さんが疑問の声を上げそれをポリティスが諌めるといったやり取りが聞こえて来たので、抜けるか試しても良いと告げる。俺の言葉にチラリと背後の二人に目を向けてからファレナは真剣な表情になり、
「ありがたい。では早速試させていただく。」
と告げて、焔を自分の前に掲げて鯉口を切ろうと、喰出鍔に指を掛けて押すも隙間さえ出来ず、それでも諦められないのか柄と鞘を両の手で握り力任せに引っ張っても全く抜ける気配すら見いだせず、悪戦苦闘の末に肩で息をしながら、
「鍛冶師殿、本当にこの太刀は抜けるのか?実は太刀の姿を模した杖か棍だったのか??」
と疑いの目で俺を睨み付けて来た。俺は苦笑と共に頭を掻きながらファレナに近づき焔を受け取り、
「焔・・抑えろよ。ノウマク サンマンダ バサラ ダン カン!」
焔に一声かけた後、不動明王真言と共にほんの僅か鯉口を切ると、途端に火炎を纏った応龍(焔)が姿を現した。その様子に度肝を抜かれたのか、モービィ爺さんは後退り。ポリティスは腰を抜かしたようにその場に座り込む。
俺の間近に居たファレナは焔の体から吹き上がる火炎を避ける様に顔を背けつつも必死に応龍の姿を見つめて、
「・・・魂鋼で鍛えた武具には『龍』が宿ると聞いてはいたが、まさか『応龍』の宿る武具だなんて。」
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