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9巻
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第一章 甲竜街で厄介事が起きそうですが何か!
「へ~、翼竜街の街門を初めて見たときはその堅牢さに驚いたけど、この街の門はまた趣の違う立派な門だなあ……」
俺――津田驍廣と仲間たちは、響鎚の郷を追われるように出立し、途中、リヒャルト率いる豊樹の郷のダークエルフ氏族たちとは別れ、この旅の目的地である甲竜街へとやって来た。そして今、街門の前で立ち止まり、目の前にそそり立つ門を見上げている。
「そうだねえ~。なんか豪奢っていうか、絢爛っていうか……」
紫慧も俺に同意する。
「そうでしょうね。翼竜街は、天竜賜国を人間の侵攻から護る砦としての役目も担っていますから、街門も役目に合わせて堅牢な造りになっていますの。対して、ここ甲竜街は天竜賜国の一大生産拠点、『職人の街』として、その気概を示す意味もあって絢爛豪華な街門を構えていますの。ただ、わたくしとしては少し華美に過ぎる気もいたしますが……」
麗華の説明を聞きながら、俺は目の前の街門を改めて見上げる。
街門は、表一面に浮き彫り細工が施されていた。題材は天竜賜国に伝わる伝承らしく、竜人族をはじめとした様々な種族が外套を纏った骸骨のような怪物と戦っている様子が描かれていた。
その見事な浮き彫りに、感嘆の声が出てしまう。
そんな俺と紫慧の様子を見て、麗華はニコニコと微笑み、満足そうにしながら、引き続き事細かに甲竜街の街門について説明をしてくれる。俺たちはそれを聞きつつ、甲竜街に入る者たちの列に並んで、自分の番が来るのを待っていた。
しばらくして、ようやく俺たちの順番が回ってきた。
前にいた商隊らしき幌馬車に続き、街に入るための手続きをしている守衛の前に進み出る。
街門の守衛は、甲竜人族の衛兵が務めているようで、翼竜街の防具屋でも目にした重厚な歩人甲らしき甲冑を纏っていた。ただ、俺の知る地球の歩人甲とは、若干の違いが見て取れた。
俺の知る歩人甲は、小さい鉄で作られた札を、革紐と鉄の鋲で綴った中華式ラメラアーマーだ。防御力を追求するあまりに、兜から太腿まで覆うべく大量の鉄札を使用したために、重量が三十キロに達するものまで現れた。おかげで、時の権力者から二十九キロまでに重量を抑えるよう勅命が出されたという曰く付きの甲冑で、肩から二の腕を護る肩当ても存在していた。
だが、甲竜人族の衛兵が纏う歩人甲には肩当てが存在せず、代わりに甲竜人族の特徴でもある甲鱗が両の肩から張り出し、自身を護っていた。
そんな衛兵は、俺のことを一瞥し、蔑むような目つきで口元を緩める。
「次の者! なんだ貴様、そのような馬鹿でかい騎獣を連れてこの甲竜街に入るつもり……」
どうやら、一緒にいるサビオの姿に衛兵は驚いたようだったが、次の瞬間――
「お、おい! そこにいる二人はまさかダークエルフ氏族!? 緊急事態発生、緊急事態発生ぇ!!」
ルークスやリリスを見るなり、血相を変えて持っていた長槍を彼女たちへと向けた。
それにあわせて、俺たちの後ろに並んでいた商人などが顔色を青くして、蜘蛛の子を散らすように離れていく。代わりに、街門の近くにあった建物からは、衛兵と同じ甲冑姿の甲竜人族たちが、槍や様々な打撃武具を携え、険しい表情で飛び出してきた。きっと彼らも衛兵なのだろう。あっという間に最初の衛兵を中心にずらっと並び、戦闘陣形を形作る。
俺は訳が分からず、ポカンと事の推移を見守っていた。ただ、甲冑姿の男たちが怒ったように厳しい表情を浮かべているのを見て、また厄介事に巻き込まれたのかと、翼竜街を出てから行く先々で起こった騒動を思い出しつつ天を仰いだ。
「おいおい、今度は一体なんの騒ぎだ?」
そう愚痴を溢せば、騎獣の八脚戦馬の黒翔から降りて、俺の隣にいた麗華も首を傾げている。
「さあ? わたくしにも何が何やら。ですが、あの衛兵はリリスやルークスを見て慌てたような……」
すると、リリスがこの発言に苛立った。
「麗華! その言い方は心外です。大体、わたしもルー君も、甲竜街の衛兵に武具を向けられる覚えはありません」
「そうだな。顔を見た途端、このような対応を取られる謂れはないぞ!」
ルークスも若干お怒りの様子。わずかに漏れ出すルークスの『気』に、長槍を向けた衛兵は、それ以上動くことができなくなっているようだった。
そして、彼以外の衛兵たちは困惑している。おそらく、武具を向けられたにもかかわらず『武具を手にする』や『逃げ出す』などの自衛行動を取らず、一部を除き困惑しているだけの俺たちに、この先どうしたらいいのか分からなくなっているのだろう。
そんな状況の最中、飾り羽を付けた兜に、一際重厚そうな歩人甲を纏い、体を覆い隠すほど大きな楯を持った衛兵が、戦闘陣形を取る仲間を掻き分けて俺たちの前へと進み出た。そして、右手に持っていた錘(球状の打撃部を備えた片手用の打撃武具)を腰に戻すと、長槍を構える衛兵に下がるよう手で合図を送った。
彼は少しホッとした表情を浮かべて、ゆっくり半歩ずつ後退をはじめ、街門から街の中に一歩入った位置まで下がると、腰が抜けたように崩れ落ちた。その後、別の衛兵が肩を貸しながらさらに後方へと連れていかれた。
この様子を横目で確認した飾り羽兜は、改めて俺たちに対して誰何からやり直してきた。
「貴様らは一体何者だ! そこにいる二人は、ダークエルフ氏族の者で間違いないか?」
少し強い口調ではあったが、冷静さが感じられる声だった。それに俺が答えようかと一歩前に踏み出そうとしたら、麗華がそっと手で制して、背負っていた五鈷杵型突撃槍を俺に預けると、飾り羽兜の衛兵と対峙するように一歩前に出た。
「何をお疑いかは分かりませんが、ここにいる者たちは身元の確かな者ばかり。お疑いであれば翼竜街と豊樹の郷にお問い合わせいただければすぐに明らかになります」
麗華の答えに、飾り羽兜の表情は一層険しいものに変わった。
「豊樹の郷に問い合わせろ、だと……ということは、そこの二人は天樹国のダークエルフ氏族で間違いないな」
街門越しにこちらを見ていた街の住人らしき甲竜人族や獣人族たちが、顔を青くして逃げるように建物の中へと隠れた。また、俺たちの前で陣形を組んでいる衛兵たちにも、異常な緊張感が漂いはじめた。その様子に、義憤にかられた麗華が口を開く。
「何なのですか? まさか甲竜街まで、穢呪の病に侵された豊樹の郷の者は街に入ることを禁じるというのですか!? もしそうだとしたら、なんと狭量なことでしょう。恥を知るべきですわ!!」
問いかけなのかそれとも喧嘩を売っているのか分からない麗華の言葉に、飾り羽兜は息を呑み、しばし目を閉じ眉間に皺を寄せ、熟考。そして――
「ふ~む、しばし待たれよ。まず、誤解を解いておきたいのだが、豊樹の郷が穢呪の病に侵されたという報告は、甲竜街には届いていない。そもそも、甲竜街と豊樹の郷はあまり直接的な交流をしていないので、そういった報が届かなくとも不思議なことではない。だが、一つの郷が穢呪の病に侵されたとなれば、調べないわけにはいかぬ事案ではある。しかし、今この場でどうこうという話ではないし、それが理由で街門を護る守衛が槍を向けたわけではない。理由は他にあるのだ。そのことを貴殿らは知らないようだな。さて、困ったことになった。これはどうするべきか……」
本当に困っていそうな顔をしている。それを見た麗華も、怒りから困惑へと表情を変えた。
「一体どういうことなのですか? 甲竜街とダークエルフ氏族の間に何があるというのですか? わたくしたちが知らないことがあるというのならば、お教え願いたいのですが」
麗華の問いかけに、飾り羽兜はもうすっかり警戒心を解いて、破顔した。
「ああ、これは失礼をいたした。ここまでの騒動になっているというのに、こちらばかりで話を纏めようとしたところで無駄であったな。街門を護る我ら甲竜街衛兵団が、そこにおられるダークエルフ氏族のお二方の出現に取り乱したのには訳があるのだ。実は数日前、天樹国からの使者を名乗るハイエルフ氏族の男が領主様の邸宅を訪れ、これまでの甲竜街と天樹国の関係からは考えられないような無理難題を突きつけたのだ。しかも、要求が受け入れられない場合には『戦』も辞さぬと言い放った。おまけに、領主様の邸宅を辞した後、まっすぐ帰ればいいものを、その要求を、街中で声高に吹聴して回ったのだ。おかげで甲竜街は一時騒然となり、今日になってようやく落ち着きを取り戻しはじめたところでな。そんな中、今度は『天樹国の防人』として名高いダークエルフ氏族が街門に姿を現したために、我々が色めき立ってしまったというわけなのだ。そこで、改めて問うが、貴殿らは一体何者なのだ? 何用あって甲竜街を訪れたのだ」
これを聞いて、他の仲間たちと同様に麗華も緊張感を和らげると、拱手をして問いに答えた。
「では改めてお答えいたしますわ。わたくしは翼竜街領主、耀安劉が娘、耀緋麗華と申します。甲竜街領主、壌擁掩様の御舎弟、壌擁彗様と甲竜街の鍛冶師、ダッハート・ヴェヒター殿からの招聘を受けて、翼竜街から参上いたしました。お疑いならば、これをお持ちいただき、擁彗様とダッハート様にご確認いただきたく思います」
続けて、腰に差していた護身用の短剣を鞘ごと抜き、一歩前に進み出た後、懐から出した一枚の布を敷いた上に置くと、元の位置に下がった。
飾り羽兜はゆっくり地面に置かれた短剣を、敷かれた布と一緒に拾い上げた。そして、麗華に目配せをしつつ短剣をわずかに抜いて何かを確認すると、途端に驚いた表情を浮かべ、即座に後方に控える衛兵に、
「擁彗様とダッハート殿をお呼びするのだ! 急げえ!」
と、声を張り上げた。命じられた衛兵は一瞬怪訝な顔をしつつも、すぐに街の中へと消えていった。
それから半刻。
甲竜街への入場待ちの人々から見世物のように見られつつも、飾り羽兜と彼の背後にいる衛兵たちは、そのままの姿勢と緊張感で仲間の帰りを待っていた。
俺や紫慧は、彼らと睨めっこしたところで面白いことはない、と早々に街門から離れて、サビオの腹の陰で楽な姿勢で休みを取る。
だが、麗華とレアンの二人は、いまだ衛兵たちと対峙を続けていた。麗華は戻ってこない衛兵に向けてか、ブツブツと文句を言っており、レアンは彼女を宥めようと四苦八苦していた。
そんな二人のやり取りに苦笑していると、街門からまっすぐに伸びる街路を土埃を上げて駆けてくる人影が見えた。そのことを、レアンを困らせている麗華に告げようとしたとき――
「麗華殿ぉ~! 麗華殿はいずれにおられますかぁ~!?」
麗華を呼ぶ大きな声に再び視線を向けると、その声は土埃を上げ、衛兵を従えて駆けてくる人物からのものだった。
名を呼ばれた麗華の顔は、声がした途端それまで浮かべていた苛立ちが消え、いつもの凛とした雰囲気とは異なる、少しだけ頬を染め、少女然としたものに変わっていた。
一方、衛兵たちは声を聞くなり、驚き、大慌てで居住まいを正し、駆けてくる男たちの方を向いて片膝をつき、拱手した。
彼らの姿に、俺や紫慧は顔を見合わせ、またも厄介なことがやって来たのかと表情を曇らせた。だがアルディリアは何事もないかのように平然と、リリスにルークスの二人は少しニヤニヤしながら、こちらへ走ってくる男たちを見ていた。
ほどなくして俺たちの前に、新たに二人の男が到着した。
一人は衛兵に比べて細身で、優しげな顔立ちに眼鏡をかけ、肩の甲羅が出る形の旗袍を纏った甲竜人族の青年。もう一人は、巌のような頑強な肉体と、その体にピッタリの強面に髭面の、肩が露出していない旗袍を着た年嵩のドワーフ氏族だった。
息を切らして走ってきた二人は、拱手の姿勢で出迎える衛兵を一瞥しただけで、すぐに麗華のもとへとやって来た。
「も、申し訳ありません麗華殿。こちらの手違いによりご不快な思いをしたのではないでしょうか? 守衛の任についた者たちには麗華殿らの来訪を伝えておいたのですが、なにぶん数日前、甲竜街に由々しき報がもたらされたばかりで、彼らも通常とは異なる緊張状態に置かれておりました。衛兵は職務を全うしようとしただけで、他意はございません。麗華殿にはまことに申し訳なく思いますが、なにとぞ寛大な御心でお許しいただきたく伏してお願い申し上げます」
甲竜人族の青年はそう言うと、深く頭を下げながら拱手の礼を取る。すると、麗華は慌てた様子で口を開いた。
「頭をお上げください、擁彗様。なにやら深い事情がおありのご様子。守衛の任に当たりし彼らはやるべき務めを果たしただけのこと、謝罪など必要ありません。それよりも、わたくしたちの方こそ招聘要請に応えるのが遅くなってしまったこと、お詫びを申し上げなければならないところですわ。父、耀安劉に出されました、翼竜街に滞在せし鍛冶師に対する招聘要請を受領し、ただ今甲竜街に当該鍛冶師とその助手を務める鍛冶師見習いをお連れいたしました」
それを聞いた甲竜人族の男――擁彗は、表情を和らげた。
「ああ、そう言っていただけて、胸を撫で下ろしました。急な要請にもかかわらずお応えいただき感謝の念に堪えません。それで、かの御仁はどこにおられますか? 早く会いたいとダッハート殿も駆けつけて――」
「麗華嬢、久しいのぉ! じゃが、挨拶は後じゃ。驍廣殿は、津田驍廣殿はどこにおられる!!」
擁彗の言葉を遮るように前に出てきた強面髭面のドワーフ氏族――ダッハートは、まるで掴みかかるように麗華に詰め寄ってきた。
迫るダッハートから麗華を守ろうと間に入るレアンだったが、彼のあまりの勢いにもみくちゃにされてしまう。しかし、そんな中でも必死に叫んだ。
「ダッハート様、お鎮まりください。あちらのサビオハバリー様の陰におられるのが、津田驍廣さんと紫慧紗さんです……って、驍廣さん! 知らんぷりをしていないで、助けてくださ~い!!」
するとダッハートの視線が、寝そべる巨大な猪の陰で寛ぐ俺たちへと向けられたが……
「狼人族の少年よ、今なんと言ったのじゃ? ワシの耳が老いて遠くなったのかのぉ。今『サビオハバリー様』と聞こえたのじゃが……」
ダッハートは視線をサビオに向けたまま、ゆっくりした口調で投げかける。そして、それに応えたのは、レアンではなかった。
「レアンの言うた通りじゃ。儂はシュバルツティーフェの森を治めておる賢猪サビオハバリーじゃが、それがどうかしたのかな?」
サビオ自身の返答に、ダッハートだけでなく、擁彗をはじめ衛兵たちまで直立不動の姿勢を取ると、一斉に拱手拝礼で頭を下げた。
その中には、サビオを騎獣呼ばわりした衛兵もいた。彼は、傍から見ていて可哀想になるほど顔を青褪めさせ、額に汗を流し震えながら拱手拝礼の姿勢を取っている。まあ、無理もないよな……
「こ、これは賢猪サビオハバリー様でございましたか、失礼いたしました。シュバルツティーフェの森の守護者であらせられる賢猪様に甲竜街にお越しいただけるとは思いもせず……」
青褪める衛兵に気付くことなく、一同を代表して拱手拝礼のまま口上を述べはじめた擁彗に対し、サビオは少し面倒臭そうに苦笑する。
「ブゥッホォ~~、気にせずともよい。今回、儂は驍廣の連れとして甲竜街に赴いただけじゃ。気遣いは無用に願おうかのぉ。儂のことよりも、目当ての者がおるというのに、その者に対しての挨拶が後回しになっておってよいのかな? ……これ驍廣。そのように儂の陰に隠れて様子を窺っているとは人が悪い。こちらに来て、堂々と名乗りを上げぬか」
紫慧たちと一緒にのんびりやり取りを眺めていた俺に、擁彗とダッハートの視線が注がれた。
不躾な視線に居心地の悪さを感じた俺は、顔を顰めつつ一歩前に出た。
「分かってるよサビオ。……お初にお目にかかります。俺が津田驍廣です。それから、俺の隣にいるのが俺とともに鎚を揮う紫慧紗。俺たちは翼竜街の領主・耀安劉殿より、甲竜街からの招聘に応じて欲しいと頼まれて――翼竜街ギルドの職員アルディリア・アシュトレトと、同じく翼竜街の拵え師・曽呂利傑利の一子で俺の武具の拵えを担当してくれている曽呂利斡利を引き連れ、耀緋麗華とその従者レアン・ケルラーリウスを案内役に甲竜街に赴いた次第。他にも翼竜街ギルドで道中の安全のために派遣された魔獣討伐者の設楽優と、豊樹の郷の族長リヒャルト・アーウィンの娘で翼竜街ギルドの職員でもあるリリス・アーウィンに、豊樹の郷・郷守役若頭を務めるルークス・フォルモートン。最後に、甲竜街に滞在中の奥方を訪ねるために同道したダンカン・モアッレと、旅程を少しでも短縮しようと背を貸してくれた賢猪サビオハバリーの、総勢十一名という大所帯で甲竜街へ到着いたしました。すみません、こんな大勢で押しかけるつもりはなかったんですが、色々ありまして……」
そう口上を口にして苦笑いをする俺の顔を、擁彗とダッハートはまじまじと見つめてきた。その視線は、どことなく戸惑っているような気配が見え隠れしている。
「あの……何か俺の顔についてます?」
思わずついて出た俺の一言に、二人は慌てて首を横に振ってはいたが、戸惑いが消えたわけではなさそうだった。
「お二人とも、驚かれましたか? 想像していた人物と随分違うのではありませんか?」
麗華からの問いかけに、バツが悪そうに困り顔をする二人。と、擁彗が口を開いた。
「麗華殿も御人が悪い。まあ顔に出てしまった我らに問題があるのでしょうが、それにしても……この際ですから正直に申しましょう。壌擁恬の話やダッハート殿の弟子テルミーズ・アミードが書き送ってきた手紙から想像していた人物像とは違っておりました。いや、それらから想像される津田殿は随分と荒々しい御仁でしたから、今の口上と穏やかな物腰に驚いております。申し訳ない。ご不快な思いをさせてしまったのならば謝罪いたします。ですが、こうして改めて津田殿を前にいたしますと、確かに体中から『気』が満ち溢れているのが分かります」
「いやいや、擁彗殿、それだけではないぞ。この御仁、なかなか興味深い御方のようじゃぞ。先程からここ街門の周りに様々な精霊たちが集まり、嬉しそうにしておるのじゃよ。儂にはその精霊たちの声が聞こえてきておる。儂は、これほどまでに多くの精霊が好意を寄せる者と出会うたことがないわ。このような御仁が儂らと同じ鍛冶師じゃとすると、一体どのように鍛冶の腕を揮うのか。これは腕前を見るのが今から楽しみだわい! ガッハッハッハッハ♪」
豪快に笑うダッハートの言葉に頷きながら、笑顔を見せる擁彗。そんな二人のやり取りを見て、俺は苦笑しつつ、甲竜街公子はともかく、テルミーズには後でどう手紙に書いたのか、じっくり問い質さないと! と心に決めた。
このとき、麗華、レアン、リリス、ルークスの四人は『荒々しい御仁』という人物像は間違いではなく、今は猫を被っているだけだと言いたかったらしい。しかし、笑みを浮かべながらも瞳の奥に怒りを宿す俺の剣呑な気配に気付いて口を閉ざすことを選んだという。
他方、アルディリアと斡利は、ダッハートが彼の想像のはるか上を行く鍛冶仕事を目の当たりにしたとき、どんな顔をするだろう? と少し意地の悪いことを考えていたようだ。
「ところで、先程衛兵の方がおかしなことというか、物騒なことを言っていたのですが。なんでも天樹国から使者が来て甲竜街に無理難題の要求を突きつけ、要求が受け入れられない場合は『戦』も辞さないと言ったとか……真のことなのですか? 甲竜街と、天樹国の中でもその中心氏族であるハイエルフ氏族の郷である輝樹の郷は、長らく蜜月と呼べるような良好な関係だとお聞きしていました。不躾な質問だと承知してはいるのですが、そのせいでこのような騒ぎとなっておりますので、できましたらお教え願えませんでしょうか?」
守衛役の衛兵の緊張感も和らいできたのを感じ取った麗華が発した言葉は、擁彗とダッハートの笑顔を奪い去り、衛兵たちに再び緊張感を与えることとなった。
しかし、街門での謂れなき詰問と、衛兵らがリリスとルークスに向けた殺気の原因がなんなのか明らかにすることなく甲竜街に入ってしまっては、いつまた不測の事態が起きるか分からない。
翼竜街を発ってからこれまで、行く先々で厄介な出来事に見舞われてきて、麗華も騒動の発端となった原因を知らずに済ますことができなかったのだろう。
擁彗は、緊張する衛兵を抑えるようにサッと手を上げてから、麗華の方へと向き直った。
「そうですね。この騒ぎの原因をお知らせせずに済ませるわけにもいきませんね。……数日前のことなのですが、突然、天樹国の輝樹の郷からハイエルフ氏族の族長センティリオ・ファータ様の使者を名乗る一人のハイエルフ氏族がやって来たのです――」
◇
そのハイエルフ氏族は、名をアモリッツア・スティーゲルと言い、甲竜街と天樹国との長い交流の中で、一度も名を聞いたことがない者でした。
彼は、甲竜街領主の邸宅にやって来てハイエルフ氏族族長センティリオ・ファータ様の使者だと言うと、兄上に挨拶することもなく、いきなり邸宅の奥にいる義姉上様のお部屋へ案内するように告げてきたそうです。
このとき、折悪く兄上は不在で、『兄上が邸宅に戻るまで待ってくれ!』と執事はアモリッツアを押し留めようとしたそうです。しかし、アモリッツアの剣幕に押し切られてしまい、義姉上様のお部屋に入られてしまいました。
アモリッツアが部屋に入った当初は、義姉上様の叱責の声が部屋から漏れてきたそうですが、しばらくすると声が消えました。そして、部屋の扉が乱暴に開かれ、全身から怒気を撒き散らすアモリッツアが出てきたときには、奥から義姉上様のすすり泣く声が聞こえてきたそうです。
そんな事態に、従者たちも只事ではないと色めきだったのですが、アモリッツアは彼らに対して、
「天樹国ハイエルフ氏族族長センティリオ・ファータ様のお言葉を持参した。甲竜街領主、壌擁掩に会いたい。取り継いでいただこう!」
と、言い放ったそうです。立て続けに起こる無礼極まりない出来事に、執事も憤りを感じたものの、態度に出さず、努めて冷静に対応しました。
「擁掩様はただ今甲竜街ギルドの総支配人、秦正路殿との会談中でございます。すぐにお伺いして参りますので、しばしお待ちください。御使者様を控えの間にお連れしなさい」
控えていた女給に案内を頼むと、自身は兄上のもとに急いだそうです。
そして、アモリッツアのことを聞いた兄上は、正路殿との会談を中断して私を伴い、急ぎ邸宅へと戻られました。
兄上と私が領主邸宅に戻ると、執事の話す無礼な振る舞いが事実であることを示すように、女給や従者たちから憤りや苛立ちが噴出していました。その様子に兄上も眉間に皺を寄せ、アモリッツアが待つ控えの間へ急いだのです。
「遠路はるばるご苦労であった。センティリオ殿は息災か? しかし、センティリオ殿の使いとはいえ我の断りもなく我が妻に会い、なおかつこのように我を呼びつけるとはいささか無礼が過ぎるのではないかな? まあ、ここはセンティリオ殿の顔を立てて、これ以上貴殿の態度についてどうこう言うつもりはないが。で、先触れもなく突然の訪問の用向きは何かな?」
兄上にそう言われてもなお尊大な態度を崩さないアモリッツアは、懐から取り出した封書を恭しく頭上に掲げてから封を切り、中から一枚の書面を取り出すと、咳払いをしたのち、
「それでは、センティリオ様からのお言葉をお伝えする」
と前置きして、書面を読み上げたのです。
「甲竜街領主・壌擁掩及び甲竜街に住む全ての者に、我センティリオ・ファータが要求することは二つ。一つ。十五年前に甲竜街へ拉致も同然に奪われた我が妹エクラ・ファータの身柄を即刻返還し、謝罪の証として壌擁掩と壌擁彗の首を我が前に差し出すこと。一つ。今後甲竜街は天樹国から発せられる命に従い、天樹国の辺境街としてその命脈を保証するゆえ、輝樹の郷に参り、臣下の礼を取るべし。以上、二つの要求が受け入られぬ場合は、相応の報いを受けるものと覚悟せよ」
言い終えると、手にした書面を再び封書の中に戻し、顎をしゃくるような仕草で間近に控える執事を呼び寄せると、封書を手渡し、兄上のもとに持っていくよう指示したのです。
顔面蒼白の執事は震える手で封書を受取って兄上に渡すと、逃げるように兄上の傍を離れました。
執事の行動は兄上の気性を知っていたからです。ただし、このときはまだ、兄上は書面の内容をよく理解しておりませんでした。
というよりも、聡明で、いつも兄上とエクラ義姉上のことを気にかけ、甲竜街にも機会がある毎に訪れていたセンティリオ様が、このような書面を送ってくるなど思いもよらなかったからです。
同席した私も我が耳を疑いましたが、書面に目を通した兄上は、それを投げ捨てると、
「センティリオ殿は何を考えておられる? ……とても正気の沙汰とは思えぬ。この書面は本当にあの聡明なセンティリオ殿が記したものなのか!?」
と、声を荒らげ、目の前で不遜な態度を取り続けるアモリッツアを睨みつけました。
私は慌てて床に投げ捨てられた書面を拾い上げて見てみると、確かにアモリッツアが読み上げたことが記されており、しかも文末にはセンティリオ様の署名がなされていたのです。
私にもとても信じられない内容でした。
確かにここ数年は、甲竜街と天樹国の間で、これまでの友好関係が嘘のようにギクシャクしたやり取りが増えました。交易も滞り、甲竜街ギルドでも街中で問題行動を起こした妖精族の魔獣討伐者や冒険者などへの対応に苦慮しています。
ですが、そのことを知ったセンティリオ様は大層お心を痛められ、つい先季(先月)、天樹国内の綱紀粛正と甲竜街との関係改善をお約束されたばかり。
センティリオ様と兄上は、実弟である私よりも親しい仲で、センティリオ様が甲竜街にお越しの際には、エクラ義姉上を交え、いつも三人で談笑されていました。
そもそも、兄上とエクラ義姉上との婚儀は、センティリオ様をはじめ天樹国側から『ぜひに!』と勧められたもの。それを、拉致同然に奪われたなど、濡れ衣もいいところ。とてもセンティリオ様がこのような書簡を送られるとは考えられなかったのです。
だからでしょう、兄上が語気を荒らげてアモリッツアを問い質す気持ちはよく分かります。
ですが、アモリッツアはそんな兄上に見下すような態度を取り続けました。
「その書簡は、直接センティリオ様からお預かりしたものです。お疑いであれば、誰か信を置ける者を天樹国に送ればいいでしょう。では、わたくしはこれにて失礼いたします。くれぐれも、分別を弁えたお返事がもたらされることを希望しておりますよ。甲竜街のためにね。ふっ……」
そしてそう言い捨てると、あまりのことに狼狽えている我々を鼻で笑い、制止の声を上げる兄上の声を無視して、領主邸から去ってしまったのです……
「へ~、翼竜街の街門を初めて見たときはその堅牢さに驚いたけど、この街の門はまた趣の違う立派な門だなあ……」
俺――津田驍廣と仲間たちは、響鎚の郷を追われるように出立し、途中、リヒャルト率いる豊樹の郷のダークエルフ氏族たちとは別れ、この旅の目的地である甲竜街へとやって来た。そして今、街門の前で立ち止まり、目の前にそそり立つ門を見上げている。
「そうだねえ~。なんか豪奢っていうか、絢爛っていうか……」
紫慧も俺に同意する。
「そうでしょうね。翼竜街は、天竜賜国を人間の侵攻から護る砦としての役目も担っていますから、街門も役目に合わせて堅牢な造りになっていますの。対して、ここ甲竜街は天竜賜国の一大生産拠点、『職人の街』として、その気概を示す意味もあって絢爛豪華な街門を構えていますの。ただ、わたくしとしては少し華美に過ぎる気もいたしますが……」
麗華の説明を聞きながら、俺は目の前の街門を改めて見上げる。
街門は、表一面に浮き彫り細工が施されていた。題材は天竜賜国に伝わる伝承らしく、竜人族をはじめとした様々な種族が外套を纏った骸骨のような怪物と戦っている様子が描かれていた。
その見事な浮き彫りに、感嘆の声が出てしまう。
そんな俺と紫慧の様子を見て、麗華はニコニコと微笑み、満足そうにしながら、引き続き事細かに甲竜街の街門について説明をしてくれる。俺たちはそれを聞きつつ、甲竜街に入る者たちの列に並んで、自分の番が来るのを待っていた。
しばらくして、ようやく俺たちの順番が回ってきた。
前にいた商隊らしき幌馬車に続き、街に入るための手続きをしている守衛の前に進み出る。
街門の守衛は、甲竜人族の衛兵が務めているようで、翼竜街の防具屋でも目にした重厚な歩人甲らしき甲冑を纏っていた。ただ、俺の知る地球の歩人甲とは、若干の違いが見て取れた。
俺の知る歩人甲は、小さい鉄で作られた札を、革紐と鉄の鋲で綴った中華式ラメラアーマーだ。防御力を追求するあまりに、兜から太腿まで覆うべく大量の鉄札を使用したために、重量が三十キロに達するものまで現れた。おかげで、時の権力者から二十九キロまでに重量を抑えるよう勅命が出されたという曰く付きの甲冑で、肩から二の腕を護る肩当ても存在していた。
だが、甲竜人族の衛兵が纏う歩人甲には肩当てが存在せず、代わりに甲竜人族の特徴でもある甲鱗が両の肩から張り出し、自身を護っていた。
そんな衛兵は、俺のことを一瞥し、蔑むような目つきで口元を緩める。
「次の者! なんだ貴様、そのような馬鹿でかい騎獣を連れてこの甲竜街に入るつもり……」
どうやら、一緒にいるサビオの姿に衛兵は驚いたようだったが、次の瞬間――
「お、おい! そこにいる二人はまさかダークエルフ氏族!? 緊急事態発生、緊急事態発生ぇ!!」
ルークスやリリスを見るなり、血相を変えて持っていた長槍を彼女たちへと向けた。
それにあわせて、俺たちの後ろに並んでいた商人などが顔色を青くして、蜘蛛の子を散らすように離れていく。代わりに、街門の近くにあった建物からは、衛兵と同じ甲冑姿の甲竜人族たちが、槍や様々な打撃武具を携え、険しい表情で飛び出してきた。きっと彼らも衛兵なのだろう。あっという間に最初の衛兵を中心にずらっと並び、戦闘陣形を形作る。
俺は訳が分からず、ポカンと事の推移を見守っていた。ただ、甲冑姿の男たちが怒ったように厳しい表情を浮かべているのを見て、また厄介事に巻き込まれたのかと、翼竜街を出てから行く先々で起こった騒動を思い出しつつ天を仰いだ。
「おいおい、今度は一体なんの騒ぎだ?」
そう愚痴を溢せば、騎獣の八脚戦馬の黒翔から降りて、俺の隣にいた麗華も首を傾げている。
「さあ? わたくしにも何が何やら。ですが、あの衛兵はリリスやルークスを見て慌てたような……」
すると、リリスがこの発言に苛立った。
「麗華! その言い方は心外です。大体、わたしもルー君も、甲竜街の衛兵に武具を向けられる覚えはありません」
「そうだな。顔を見た途端、このような対応を取られる謂れはないぞ!」
ルークスも若干お怒りの様子。わずかに漏れ出すルークスの『気』に、長槍を向けた衛兵は、それ以上動くことができなくなっているようだった。
そして、彼以外の衛兵たちは困惑している。おそらく、武具を向けられたにもかかわらず『武具を手にする』や『逃げ出す』などの自衛行動を取らず、一部を除き困惑しているだけの俺たちに、この先どうしたらいいのか分からなくなっているのだろう。
そんな状況の最中、飾り羽を付けた兜に、一際重厚そうな歩人甲を纏い、体を覆い隠すほど大きな楯を持った衛兵が、戦闘陣形を取る仲間を掻き分けて俺たちの前へと進み出た。そして、右手に持っていた錘(球状の打撃部を備えた片手用の打撃武具)を腰に戻すと、長槍を構える衛兵に下がるよう手で合図を送った。
彼は少しホッとした表情を浮かべて、ゆっくり半歩ずつ後退をはじめ、街門から街の中に一歩入った位置まで下がると、腰が抜けたように崩れ落ちた。その後、別の衛兵が肩を貸しながらさらに後方へと連れていかれた。
この様子を横目で確認した飾り羽兜は、改めて俺たちに対して誰何からやり直してきた。
「貴様らは一体何者だ! そこにいる二人は、ダークエルフ氏族の者で間違いないか?」
少し強い口調ではあったが、冷静さが感じられる声だった。それに俺が答えようかと一歩前に踏み出そうとしたら、麗華がそっと手で制して、背負っていた五鈷杵型突撃槍を俺に預けると、飾り羽兜の衛兵と対峙するように一歩前に出た。
「何をお疑いかは分かりませんが、ここにいる者たちは身元の確かな者ばかり。お疑いであれば翼竜街と豊樹の郷にお問い合わせいただければすぐに明らかになります」
麗華の答えに、飾り羽兜の表情は一層険しいものに変わった。
「豊樹の郷に問い合わせろ、だと……ということは、そこの二人は天樹国のダークエルフ氏族で間違いないな」
街門越しにこちらを見ていた街の住人らしき甲竜人族や獣人族たちが、顔を青くして逃げるように建物の中へと隠れた。また、俺たちの前で陣形を組んでいる衛兵たちにも、異常な緊張感が漂いはじめた。その様子に、義憤にかられた麗華が口を開く。
「何なのですか? まさか甲竜街まで、穢呪の病に侵された豊樹の郷の者は街に入ることを禁じるというのですか!? もしそうだとしたら、なんと狭量なことでしょう。恥を知るべきですわ!!」
問いかけなのかそれとも喧嘩を売っているのか分からない麗華の言葉に、飾り羽兜は息を呑み、しばし目を閉じ眉間に皺を寄せ、熟考。そして――
「ふ~む、しばし待たれよ。まず、誤解を解いておきたいのだが、豊樹の郷が穢呪の病に侵されたという報告は、甲竜街には届いていない。そもそも、甲竜街と豊樹の郷はあまり直接的な交流をしていないので、そういった報が届かなくとも不思議なことではない。だが、一つの郷が穢呪の病に侵されたとなれば、調べないわけにはいかぬ事案ではある。しかし、今この場でどうこうという話ではないし、それが理由で街門を護る守衛が槍を向けたわけではない。理由は他にあるのだ。そのことを貴殿らは知らないようだな。さて、困ったことになった。これはどうするべきか……」
本当に困っていそうな顔をしている。それを見た麗華も、怒りから困惑へと表情を変えた。
「一体どういうことなのですか? 甲竜街とダークエルフ氏族の間に何があるというのですか? わたくしたちが知らないことがあるというのならば、お教え願いたいのですが」
麗華の問いかけに、飾り羽兜はもうすっかり警戒心を解いて、破顔した。
「ああ、これは失礼をいたした。ここまでの騒動になっているというのに、こちらばかりで話を纏めようとしたところで無駄であったな。街門を護る我ら甲竜街衛兵団が、そこにおられるダークエルフ氏族のお二方の出現に取り乱したのには訳があるのだ。実は数日前、天樹国からの使者を名乗るハイエルフ氏族の男が領主様の邸宅を訪れ、これまでの甲竜街と天樹国の関係からは考えられないような無理難題を突きつけたのだ。しかも、要求が受け入れられない場合には『戦』も辞さぬと言い放った。おまけに、領主様の邸宅を辞した後、まっすぐ帰ればいいものを、その要求を、街中で声高に吹聴して回ったのだ。おかげで甲竜街は一時騒然となり、今日になってようやく落ち着きを取り戻しはじめたところでな。そんな中、今度は『天樹国の防人』として名高いダークエルフ氏族が街門に姿を現したために、我々が色めき立ってしまったというわけなのだ。そこで、改めて問うが、貴殿らは一体何者なのだ? 何用あって甲竜街を訪れたのだ」
これを聞いて、他の仲間たちと同様に麗華も緊張感を和らげると、拱手をして問いに答えた。
「では改めてお答えいたしますわ。わたくしは翼竜街領主、耀安劉が娘、耀緋麗華と申します。甲竜街領主、壌擁掩様の御舎弟、壌擁彗様と甲竜街の鍛冶師、ダッハート・ヴェヒター殿からの招聘を受けて、翼竜街から参上いたしました。お疑いならば、これをお持ちいただき、擁彗様とダッハート様にご確認いただきたく思います」
続けて、腰に差していた護身用の短剣を鞘ごと抜き、一歩前に進み出た後、懐から出した一枚の布を敷いた上に置くと、元の位置に下がった。
飾り羽兜はゆっくり地面に置かれた短剣を、敷かれた布と一緒に拾い上げた。そして、麗華に目配せをしつつ短剣をわずかに抜いて何かを確認すると、途端に驚いた表情を浮かべ、即座に後方に控える衛兵に、
「擁彗様とダッハート殿をお呼びするのだ! 急げえ!」
と、声を張り上げた。命じられた衛兵は一瞬怪訝な顔をしつつも、すぐに街の中へと消えていった。
それから半刻。
甲竜街への入場待ちの人々から見世物のように見られつつも、飾り羽兜と彼の背後にいる衛兵たちは、そのままの姿勢と緊張感で仲間の帰りを待っていた。
俺や紫慧は、彼らと睨めっこしたところで面白いことはない、と早々に街門から離れて、サビオの腹の陰で楽な姿勢で休みを取る。
だが、麗華とレアンの二人は、いまだ衛兵たちと対峙を続けていた。麗華は戻ってこない衛兵に向けてか、ブツブツと文句を言っており、レアンは彼女を宥めようと四苦八苦していた。
そんな二人のやり取りに苦笑していると、街門からまっすぐに伸びる街路を土埃を上げて駆けてくる人影が見えた。そのことを、レアンを困らせている麗華に告げようとしたとき――
「麗華殿ぉ~! 麗華殿はいずれにおられますかぁ~!?」
麗華を呼ぶ大きな声に再び視線を向けると、その声は土埃を上げ、衛兵を従えて駆けてくる人物からのものだった。
名を呼ばれた麗華の顔は、声がした途端それまで浮かべていた苛立ちが消え、いつもの凛とした雰囲気とは異なる、少しだけ頬を染め、少女然としたものに変わっていた。
一方、衛兵たちは声を聞くなり、驚き、大慌てで居住まいを正し、駆けてくる男たちの方を向いて片膝をつき、拱手した。
彼らの姿に、俺や紫慧は顔を見合わせ、またも厄介なことがやって来たのかと表情を曇らせた。だがアルディリアは何事もないかのように平然と、リリスにルークスの二人は少しニヤニヤしながら、こちらへ走ってくる男たちを見ていた。
ほどなくして俺たちの前に、新たに二人の男が到着した。
一人は衛兵に比べて細身で、優しげな顔立ちに眼鏡をかけ、肩の甲羅が出る形の旗袍を纏った甲竜人族の青年。もう一人は、巌のような頑強な肉体と、その体にピッタリの強面に髭面の、肩が露出していない旗袍を着た年嵩のドワーフ氏族だった。
息を切らして走ってきた二人は、拱手の姿勢で出迎える衛兵を一瞥しただけで、すぐに麗華のもとへとやって来た。
「も、申し訳ありません麗華殿。こちらの手違いによりご不快な思いをしたのではないでしょうか? 守衛の任についた者たちには麗華殿らの来訪を伝えておいたのですが、なにぶん数日前、甲竜街に由々しき報がもたらされたばかりで、彼らも通常とは異なる緊張状態に置かれておりました。衛兵は職務を全うしようとしただけで、他意はございません。麗華殿にはまことに申し訳なく思いますが、なにとぞ寛大な御心でお許しいただきたく伏してお願い申し上げます」
甲竜人族の青年はそう言うと、深く頭を下げながら拱手の礼を取る。すると、麗華は慌てた様子で口を開いた。
「頭をお上げください、擁彗様。なにやら深い事情がおありのご様子。守衛の任に当たりし彼らはやるべき務めを果たしただけのこと、謝罪など必要ありません。それよりも、わたくしたちの方こそ招聘要請に応えるのが遅くなってしまったこと、お詫びを申し上げなければならないところですわ。父、耀安劉に出されました、翼竜街に滞在せし鍛冶師に対する招聘要請を受領し、ただ今甲竜街に当該鍛冶師とその助手を務める鍛冶師見習いをお連れいたしました」
それを聞いた甲竜人族の男――擁彗は、表情を和らげた。
「ああ、そう言っていただけて、胸を撫で下ろしました。急な要請にもかかわらずお応えいただき感謝の念に堪えません。それで、かの御仁はどこにおられますか? 早く会いたいとダッハート殿も駆けつけて――」
「麗華嬢、久しいのぉ! じゃが、挨拶は後じゃ。驍廣殿は、津田驍廣殿はどこにおられる!!」
擁彗の言葉を遮るように前に出てきた強面髭面のドワーフ氏族――ダッハートは、まるで掴みかかるように麗華に詰め寄ってきた。
迫るダッハートから麗華を守ろうと間に入るレアンだったが、彼のあまりの勢いにもみくちゃにされてしまう。しかし、そんな中でも必死に叫んだ。
「ダッハート様、お鎮まりください。あちらのサビオハバリー様の陰におられるのが、津田驍廣さんと紫慧紗さんです……って、驍廣さん! 知らんぷりをしていないで、助けてくださ~い!!」
するとダッハートの視線が、寝そべる巨大な猪の陰で寛ぐ俺たちへと向けられたが……
「狼人族の少年よ、今なんと言ったのじゃ? ワシの耳が老いて遠くなったのかのぉ。今『サビオハバリー様』と聞こえたのじゃが……」
ダッハートは視線をサビオに向けたまま、ゆっくりした口調で投げかける。そして、それに応えたのは、レアンではなかった。
「レアンの言うた通りじゃ。儂はシュバルツティーフェの森を治めておる賢猪サビオハバリーじゃが、それがどうかしたのかな?」
サビオ自身の返答に、ダッハートだけでなく、擁彗をはじめ衛兵たちまで直立不動の姿勢を取ると、一斉に拱手拝礼で頭を下げた。
その中には、サビオを騎獣呼ばわりした衛兵もいた。彼は、傍から見ていて可哀想になるほど顔を青褪めさせ、額に汗を流し震えながら拱手拝礼の姿勢を取っている。まあ、無理もないよな……
「こ、これは賢猪サビオハバリー様でございましたか、失礼いたしました。シュバルツティーフェの森の守護者であらせられる賢猪様に甲竜街にお越しいただけるとは思いもせず……」
青褪める衛兵に気付くことなく、一同を代表して拱手拝礼のまま口上を述べはじめた擁彗に対し、サビオは少し面倒臭そうに苦笑する。
「ブゥッホォ~~、気にせずともよい。今回、儂は驍廣の連れとして甲竜街に赴いただけじゃ。気遣いは無用に願おうかのぉ。儂のことよりも、目当ての者がおるというのに、その者に対しての挨拶が後回しになっておってよいのかな? ……これ驍廣。そのように儂の陰に隠れて様子を窺っているとは人が悪い。こちらに来て、堂々と名乗りを上げぬか」
紫慧たちと一緒にのんびりやり取りを眺めていた俺に、擁彗とダッハートの視線が注がれた。
不躾な視線に居心地の悪さを感じた俺は、顔を顰めつつ一歩前に出た。
「分かってるよサビオ。……お初にお目にかかります。俺が津田驍廣です。それから、俺の隣にいるのが俺とともに鎚を揮う紫慧紗。俺たちは翼竜街の領主・耀安劉殿より、甲竜街からの招聘に応じて欲しいと頼まれて――翼竜街ギルドの職員アルディリア・アシュトレトと、同じく翼竜街の拵え師・曽呂利傑利の一子で俺の武具の拵えを担当してくれている曽呂利斡利を引き連れ、耀緋麗華とその従者レアン・ケルラーリウスを案内役に甲竜街に赴いた次第。他にも翼竜街ギルドで道中の安全のために派遣された魔獣討伐者の設楽優と、豊樹の郷の族長リヒャルト・アーウィンの娘で翼竜街ギルドの職員でもあるリリス・アーウィンに、豊樹の郷・郷守役若頭を務めるルークス・フォルモートン。最後に、甲竜街に滞在中の奥方を訪ねるために同道したダンカン・モアッレと、旅程を少しでも短縮しようと背を貸してくれた賢猪サビオハバリーの、総勢十一名という大所帯で甲竜街へ到着いたしました。すみません、こんな大勢で押しかけるつもりはなかったんですが、色々ありまして……」
そう口上を口にして苦笑いをする俺の顔を、擁彗とダッハートはまじまじと見つめてきた。その視線は、どことなく戸惑っているような気配が見え隠れしている。
「あの……何か俺の顔についてます?」
思わずついて出た俺の一言に、二人は慌てて首を横に振ってはいたが、戸惑いが消えたわけではなさそうだった。
「お二人とも、驚かれましたか? 想像していた人物と随分違うのではありませんか?」
麗華からの問いかけに、バツが悪そうに困り顔をする二人。と、擁彗が口を開いた。
「麗華殿も御人が悪い。まあ顔に出てしまった我らに問題があるのでしょうが、それにしても……この際ですから正直に申しましょう。壌擁恬の話やダッハート殿の弟子テルミーズ・アミードが書き送ってきた手紙から想像していた人物像とは違っておりました。いや、それらから想像される津田殿は随分と荒々しい御仁でしたから、今の口上と穏やかな物腰に驚いております。申し訳ない。ご不快な思いをさせてしまったのならば謝罪いたします。ですが、こうして改めて津田殿を前にいたしますと、確かに体中から『気』が満ち溢れているのが分かります」
「いやいや、擁彗殿、それだけではないぞ。この御仁、なかなか興味深い御方のようじゃぞ。先程からここ街門の周りに様々な精霊たちが集まり、嬉しそうにしておるのじゃよ。儂にはその精霊たちの声が聞こえてきておる。儂は、これほどまでに多くの精霊が好意を寄せる者と出会うたことがないわ。このような御仁が儂らと同じ鍛冶師じゃとすると、一体どのように鍛冶の腕を揮うのか。これは腕前を見るのが今から楽しみだわい! ガッハッハッハッハ♪」
豪快に笑うダッハートの言葉に頷きながら、笑顔を見せる擁彗。そんな二人のやり取りを見て、俺は苦笑しつつ、甲竜街公子はともかく、テルミーズには後でどう手紙に書いたのか、じっくり問い質さないと! と心に決めた。
このとき、麗華、レアン、リリス、ルークスの四人は『荒々しい御仁』という人物像は間違いではなく、今は猫を被っているだけだと言いたかったらしい。しかし、笑みを浮かべながらも瞳の奥に怒りを宿す俺の剣呑な気配に気付いて口を閉ざすことを選んだという。
他方、アルディリアと斡利は、ダッハートが彼の想像のはるか上を行く鍛冶仕事を目の当たりにしたとき、どんな顔をするだろう? と少し意地の悪いことを考えていたようだ。
「ところで、先程衛兵の方がおかしなことというか、物騒なことを言っていたのですが。なんでも天樹国から使者が来て甲竜街に無理難題の要求を突きつけ、要求が受け入れられない場合は『戦』も辞さないと言ったとか……真のことなのですか? 甲竜街と、天樹国の中でもその中心氏族であるハイエルフ氏族の郷である輝樹の郷は、長らく蜜月と呼べるような良好な関係だとお聞きしていました。不躾な質問だと承知してはいるのですが、そのせいでこのような騒ぎとなっておりますので、できましたらお教え願えませんでしょうか?」
守衛役の衛兵の緊張感も和らいできたのを感じ取った麗華が発した言葉は、擁彗とダッハートの笑顔を奪い去り、衛兵たちに再び緊張感を与えることとなった。
しかし、街門での謂れなき詰問と、衛兵らがリリスとルークスに向けた殺気の原因がなんなのか明らかにすることなく甲竜街に入ってしまっては、いつまた不測の事態が起きるか分からない。
翼竜街を発ってからこれまで、行く先々で厄介な出来事に見舞われてきて、麗華も騒動の発端となった原因を知らずに済ますことができなかったのだろう。
擁彗は、緊張する衛兵を抑えるようにサッと手を上げてから、麗華の方へと向き直った。
「そうですね。この騒ぎの原因をお知らせせずに済ませるわけにもいきませんね。……数日前のことなのですが、突然、天樹国の輝樹の郷からハイエルフ氏族の族長センティリオ・ファータ様の使者を名乗る一人のハイエルフ氏族がやって来たのです――」
◇
そのハイエルフ氏族は、名をアモリッツア・スティーゲルと言い、甲竜街と天樹国との長い交流の中で、一度も名を聞いたことがない者でした。
彼は、甲竜街領主の邸宅にやって来てハイエルフ氏族族長センティリオ・ファータ様の使者だと言うと、兄上に挨拶することもなく、いきなり邸宅の奥にいる義姉上様のお部屋へ案内するように告げてきたそうです。
このとき、折悪く兄上は不在で、『兄上が邸宅に戻るまで待ってくれ!』と執事はアモリッツアを押し留めようとしたそうです。しかし、アモリッツアの剣幕に押し切られてしまい、義姉上様のお部屋に入られてしまいました。
アモリッツアが部屋に入った当初は、義姉上様の叱責の声が部屋から漏れてきたそうですが、しばらくすると声が消えました。そして、部屋の扉が乱暴に開かれ、全身から怒気を撒き散らすアモリッツアが出てきたときには、奥から義姉上様のすすり泣く声が聞こえてきたそうです。
そんな事態に、従者たちも只事ではないと色めきだったのですが、アモリッツアは彼らに対して、
「天樹国ハイエルフ氏族族長センティリオ・ファータ様のお言葉を持参した。甲竜街領主、壌擁掩に会いたい。取り継いでいただこう!」
と、言い放ったそうです。立て続けに起こる無礼極まりない出来事に、執事も憤りを感じたものの、態度に出さず、努めて冷静に対応しました。
「擁掩様はただ今甲竜街ギルドの総支配人、秦正路殿との会談中でございます。すぐにお伺いして参りますので、しばしお待ちください。御使者様を控えの間にお連れしなさい」
控えていた女給に案内を頼むと、自身は兄上のもとに急いだそうです。
そして、アモリッツアのことを聞いた兄上は、正路殿との会談を中断して私を伴い、急ぎ邸宅へと戻られました。
兄上と私が領主邸宅に戻ると、執事の話す無礼な振る舞いが事実であることを示すように、女給や従者たちから憤りや苛立ちが噴出していました。その様子に兄上も眉間に皺を寄せ、アモリッツアが待つ控えの間へ急いだのです。
「遠路はるばるご苦労であった。センティリオ殿は息災か? しかし、センティリオ殿の使いとはいえ我の断りもなく我が妻に会い、なおかつこのように我を呼びつけるとはいささか無礼が過ぎるのではないかな? まあ、ここはセンティリオ殿の顔を立てて、これ以上貴殿の態度についてどうこう言うつもりはないが。で、先触れもなく突然の訪問の用向きは何かな?」
兄上にそう言われてもなお尊大な態度を崩さないアモリッツアは、懐から取り出した封書を恭しく頭上に掲げてから封を切り、中から一枚の書面を取り出すと、咳払いをしたのち、
「それでは、センティリオ様からのお言葉をお伝えする」
と前置きして、書面を読み上げたのです。
「甲竜街領主・壌擁掩及び甲竜街に住む全ての者に、我センティリオ・ファータが要求することは二つ。一つ。十五年前に甲竜街へ拉致も同然に奪われた我が妹エクラ・ファータの身柄を即刻返還し、謝罪の証として壌擁掩と壌擁彗の首を我が前に差し出すこと。一つ。今後甲竜街は天樹国から発せられる命に従い、天樹国の辺境街としてその命脈を保証するゆえ、輝樹の郷に参り、臣下の礼を取るべし。以上、二つの要求が受け入られぬ場合は、相応の報いを受けるものと覚悟せよ」
言い終えると、手にした書面を再び封書の中に戻し、顎をしゃくるような仕草で間近に控える執事を呼び寄せると、封書を手渡し、兄上のもとに持っていくよう指示したのです。
顔面蒼白の執事は震える手で封書を受取って兄上に渡すと、逃げるように兄上の傍を離れました。
執事の行動は兄上の気性を知っていたからです。ただし、このときはまだ、兄上は書面の内容をよく理解しておりませんでした。
というよりも、聡明で、いつも兄上とエクラ義姉上のことを気にかけ、甲竜街にも機会がある毎に訪れていたセンティリオ様が、このような書面を送ってくるなど思いもよらなかったからです。
同席した私も我が耳を疑いましたが、書面に目を通した兄上は、それを投げ捨てると、
「センティリオ殿は何を考えておられる? ……とても正気の沙汰とは思えぬ。この書面は本当にあの聡明なセンティリオ殿が記したものなのか!?」
と、声を荒らげ、目の前で不遜な態度を取り続けるアモリッツアを睨みつけました。
私は慌てて床に投げ捨てられた書面を拾い上げて見てみると、確かにアモリッツアが読み上げたことが記されており、しかも文末にはセンティリオ様の署名がなされていたのです。
私にもとても信じられない内容でした。
確かにここ数年は、甲竜街と天樹国の間で、これまでの友好関係が嘘のようにギクシャクしたやり取りが増えました。交易も滞り、甲竜街ギルドでも街中で問題行動を起こした妖精族の魔獣討伐者や冒険者などへの対応に苦慮しています。
ですが、そのことを知ったセンティリオ様は大層お心を痛められ、つい先季(先月)、天樹国内の綱紀粛正と甲竜街との関係改善をお約束されたばかり。
センティリオ様と兄上は、実弟である私よりも親しい仲で、センティリオ様が甲竜街にお越しの際には、エクラ義姉上を交え、いつも三人で談笑されていました。
そもそも、兄上とエクラ義姉上との婚儀は、センティリオ様をはじめ天樹国側から『ぜひに!』と勧められたもの。それを、拉致同然に奪われたなど、濡れ衣もいいところ。とてもセンティリオ様がこのような書簡を送られるとは考えられなかったのです。
だからでしょう、兄上が語気を荒らげてアモリッツアを問い質す気持ちはよく分かります。
ですが、アモリッツアはそんな兄上に見下すような態度を取り続けました。
「その書簡は、直接センティリオ様からお預かりしたものです。お疑いであれば、誰か信を置ける者を天樹国に送ればいいでしょう。では、わたくしはこれにて失礼いたします。くれぐれも、分別を弁えたお返事がもたらされることを希望しておりますよ。甲竜街のためにね。ふっ……」
そしてそう言い捨てると、あまりのことに狼狽えている我々を鼻で笑い、制止の声を上げる兄上の声を無視して、領主邸から去ってしまったのです……
応援ありがとうございます!
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