鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

文字の大きさ
上 下
229 / 229
鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百六拾壱話 魂鋼を再び鍛えたら、とんでもないモノになったみたいですが何か!

しおりを挟む
「・・・真安、そんな風に頭を下げられてちゃ話も出来ないじゃないか。頭を上げてくれ。」

魂鋼を提供する代わりに羅漢獣王国に来て欲しいと言って鍛冶場の土間に手をついて頭を下げる真安に、俺は話をするなら頭を上げてくれと言うと、真安はゆっくりと頭を上げたもののその顔には申し訳なさそうは表情をしていた。
真安としては俺を羅漢獣王国に招くために魂鋼を取引の材料にした行為が、真安の商人としての心得と合致せず、俺に対して引け目を感じているのだろう。
それでも、自分の心情に合わない事をしてでも俺を羅漢獣王国に連れて行きたい訳が真安には有るのだろう。
その事を踏まえ、俺は紫慧やアルディリアに視線を向けると、紫慧は何時もと変わらずニコニコと微笑み、アルディリアは苦笑しながら俺の判断に任せると言うように軽く頷いてくれた。
そんな二人の反応を確認して、真安へと視線を向ける。

「で、ファレナの武具に使う為に魂鋼を提供する、その代り武具を鍛え終わったらリンドブルム街に帰る前に羅漢獣王国にも寄って欲しいってことだな。
う~ん、そうだなぁ。
あんまりリンドブルム街へ帰るのが遅くなるとスミス爺さんが無茶をしないか心配にはなるが、スミス爺さんにはテルミーズとタロスの二人がついているから、羅漢獣王国へちょっと・・・・寄り道するくらい大丈夫だろう。
 それに、獣王国にも優秀な鍛冶師が居る様だから、獣王国の鍛冶師とも親交を深めて鍛冶師としての腕を磨いてからリンドブルム街に帰った方がスミス爺さんに良い土産話が出来るし・・・この魂鋼は使わせてもらうぞ♪」

そう言って真安の肩を右手でポンと叩きながら左手でフクス達が持つ木箱の中から魂鋼を取り出して笑顔を見せると、真安は少し驚いたような表情を浮かべたが、直ぐに満足そうに笑い、もう一度深々と頭を下げてフクス達を従えて何事も無かったかのように鍛冶場の壁際へと下がって行った。
 壁際へと下がる真安たちを見送り、何事も無かったかのように手に魂鋼を持って炉の前に移動し鍛冶仕事の準備に入る俺。
だが、それに『待った!』を者が・・・

「か、鍛冶師殿! 私の武具を鍛える為に羅漢獣王国へ渡る約束をされては、リンドブルム街のアルバート殿になんと言ったら良いのか・・・」

少し焦った様に困り顔で、声を上げるファレナ。
 ファレナからすれば、俺は娘のフィーンが難癖をつけ強引にレヴィアタン街に招いたと言う負い目があった。しかも、アルバートは俺と紫慧をリンドブルム街を上げて護ると大々的に宣言し、カンヘル国の各街の領主や天樹国、羅漢獣王国に対しても通達を出している。
その通達に今回レヴィアタン街での諸々抵触するのではという懸念を抱えていた。
その上、ファレナの武具を鍛える金属鋼(魂鋼)を入手するために羅漢獣王国行が決まったとなると、アルバートやリンドブルム街に対して更に負い目を抱える事になると考えたとしても致し方ない事だろう。が、

「ファレナ、気にするな。これは武具製作の依頼を受けた・・が、納得のゆく武具を鍛える為に行う事で、言ってしまえば俺の我儘だ。
アルバートも俺の性格は知っているから経緯を知れば、「仕方のない奴だ」と笑って済ませてくれるさ。
という事で、アリア! 今からポリティスと共にレヴィアタン街のギルドに行って事の経緯をリンドブルム街ギルド経由でアルバートの元に届くように手配を頼むぞ。」

「あぁ、任せておけ。ではポリティス殿、参りましょう!」

とアルディリアは『委細承知!』とばかりにポリティスを促してギルドに向かうように鍛冶場を出て行った。
 その場に残されたファレナと真安たちは、トントン拍子に進んで行く事の成り行きに唖然となり、俺のハチャメチャな行動とその尻拭いに動くアルディリアの働きを何時も目にしている紫慧以下リンドブルム街から来た仲間たちは、『またか!』と苦笑を浮かべていた。
そんな仲間たちに頭を掻き掻き、ニヤリ顔で軽く頭を下げてから自分に喝を入れるように大きく息を吐き出して両頬を『パン!』と叩いて気合を入れ直し、手に持っていた魂鋼の原鋼を炉に入れて熱した。

 魂鋼は前回リンドブルム街で俺の焔の時と同じ要領で炉で熱している時間を利用し、真眼でファレナを視る。

名前:ファレナ・アミール・レヴィアタン
種族:海竜人族
使役精霊:海精霊ネーレーイス
レヴィアタン街領主

これまで、レヴィアタン街の領主として自らも海に出て周辺海域の治安を護る為に戦って来たと聞いていた通り、ファレナには海精霊ネーレーイスとの相性がいいようだ。ここは一も二も無く付与する精霊石粉は真珠パールで間違いないだろうと、懐からゼーメッシュ島から持ってきた真珠パール粉を付与し鍛えて行く事にする。

 当初は、鈍色をしていた魂鋼だったが、真珠粉を付与しながら鍛えて行くと次第に色が変わり、徐々に青というか海の紺碧色を示すようになって行った。その様子を見ていた真安以下羅漢獣王国の者達が驚きの表情と共に漏らした言葉が『青生生魂アポイタカラ』だった。
青生生魂と言えば、緋々色金ヒヒイロカネと同一視される幻想金属の一つだが、まさか魂鋼に真珠を付与する事で真安たちが青生生魂と呼ぶ金属鋼になると・・・。
魂鋼とは一体なんなのか?非常に気になる。これは羅漢獣王国に入ったらその辺の事も詳しく根掘り葉掘りと聞き倒す!と頭の中に刻み込み、そのまま鍛錬を続けて行った。
 結局この日から三日を要し、満足出来る鍛錬をした魂鋼改め青生生魂を二と三十分割に分けた。
先に分けた二分割分の青生生魂は他の三十分割した物よりも分量を多くし、これを扇子で言う所の親骨(外側骨)にし三十分割にした物はその親骨に挟まれる扇子で言う所の中骨と扇面を合わせた物として細い板状に均一に打ち延ばした。
 今回、俺がファレナの為に鍛えようとしている『武具にも使える扇』は俺の鉄扇では無く、檜扇子や白檀扇子と呼ばれる扇面まで親骨などと同じ木製で作られる扇子を金属鋼(青生生魂)に置き換えて作ろうと考えたのだ。
 二本の厚みのある親骨の間に、均一に整えられた板状中骨を配した形状の板扇子。その板状中骨の板面には開閉を容易に行い、尚且つ板中骨同士がバラバラにならない様お互いを繋ぎとめる溝と爪を設け、更に先端には開いた時の補強に鉄喰い蚕の糸を通す穴を開た。
 ここまでの鍛練と成形の間に、魂鋼に宿る水蛇は焔の時と同じように、水蛇~蛟~龍と成長していた。その成長具合で、魂鋼≒青生生魂が順調に鍛錬できている事を確信し、最後の仕上げへと取り掛かる。

 一度組上げて開閉に支障が無い事を確認した後、親骨と板状中骨の一枚一枚に焼き刃土を盛って十分に乾かした後、再び組上げて焼き入れの為に炉に入れる。
 慎重に炉内の温度を上げてゆっくりと板扇子を熱し、両の眼で熱が入り色を変える板扇子の表面を見ながら、額の真眼で魂鋼≒青生生魂に宿る龍の様子を視てその瞬間を待つ・・・と、板扇子の表面が炉の炎で熱せられて一際朱く強い輝きを放ったと時を同じくして、宿りし龍が天へと咆哮を上げた。
その期を逃さず、一気に炉の脇に設置されている水槽へと板扇子を差し入れると、立ち込める水蒸気の中に青く輝く猛々しい青竜が姿を現し、俺に瞳を向けていた。


しおりを挟む
感想 98

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(98件)

郡道
2023.06.22 郡道

書籍も2桁越えしたのに何で打ち切られたんやろ、、、

解除
影野狐仁
2023.06.18 影野狐仁

めっちゃ面白いです。

解除
ハビット
2021.03.30 ハビット

1話目を読んでいる最中なのですが、「、は恥ずかしそうに」など主語が抜けているのは何かしらの技法なのでしょうか? もしくは「は」を余計につけてしまったのでしょうか? 文法に詳しいわけではないので分かりませんけど読みにくいな〜と感じました

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。