鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百六拾話 魂鋼と引き換えにお願いをされましたが何か!

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「さて、それじゃ今日からファレナの武具に取り掛かるとするか。」

前日、モーヴィの長巻を鍛え上げた俺と紫慧は、早朝から今度はファレナの為の武具を鍛える為に鍛冶場に来ていた。勿論、レヴィアタン街から共に来た仲間たちと真安たち羅漢獣王国の者達、それからファレナをはじめフィーンとポリティスまで鍛冶場に顔を出し、多く者達が見つめる中での鍛冶仕事となっていた。

「ところで、ファレナの武具だが一体どんな武具をこれまで使っていたんだ?海賊退治に赴いた際には、船の錨を振り回していたかと思ったら、先日の乱が起こった時には今も腰に差している扇子を使った大立ち回りを演じていたようだったが…そう言えば俺が鍛えた鉄扇の扇面を張って貰うために真安を通してレヴィアタン街に外注に出した時に、フィーンが横槍を入れて来てファレナ好みの扇面を張ってなんて事も起きたが、もしかしてファレナは武具らしい武具は持たず、扇を武具として使う格闘術を修めているのか?」

炉に火を入れながら尋ねる俺の言葉に、フィーンは羞恥からか顔を真っ赤にして下を向いてしまい、そんな娘に視線を向けながらファレナは、

「鍛冶師殿・・・以前、私がモーヴィ爺と共に船に乗り海で海賊相手にしていた時には流星錘(縄の両端に金属製の錘をつけた投擲武具の一種)を振り回していたが、今回の乱でレヴィアタン街周辺海域を縄張りとしていたケルシュ海賊団をはじめとした海賊たちも一網打尽にしたことで、海の事はモーヴィ爺やドーフィンなどの海兵の面々に任せ、私はレヴィアタン街の領主として街の治安の維持や、羅漢獣王国をはじめレヴィアタン街に訪れる諸国や街、郷、島の者達との折衝をポリティスと共に担って行かなくてはと思っている。
そんな私が、折衝の場に腰に流星錘を下げて臨んでは、相手は威圧していると感じ纏まる話もまとまらなくなる事だろう。
だから、フィーンも私の‶護身”の武具に鍛冶師殿のあの・・『鉄扇』を求めたのだ。
やり方は間違っていたが・・・不器用な娘の浅はかな行為と一笑に付してもらいたい。が、私としては娘が母親の事を考えて取ってしまった行動を叱りはしたものの心の何処かで嬉しくも思ってしまっていた。
こんな事を言う私も愚かな母親なのだろうな・・・」

そう言うと苦笑を浮かべていた。
そんな二人の姿に俺は少し困ってしまい、頭をガリガリとかきながら眉間に皺を寄せて暫し考え込む。
と、紫慧がそんな俺の様子を見て心配そうな顔をしていた。

「あ”ぁ~ぁ!もうぉ。悪かったよ、俺の言い方が良くなかった。フィーンを責めるつもりで言ったんじゃないんだが、ファレナやフィーンからしたが未だに俺が怒っていると思ってしまう様な嫌な言い方だった。すまない。」

そう言って頭の被る布を取り頭を下げる俺にフィーンは再びオロオロとしていたが、ファレナは少し嬉しそうな顔をして俺の謝罪を受け入れてくれた。
そんなファレナに、

「それで、改めて聞くがファレナがこれから手元に置くとするなら、パッと見では武具に見えない様なものが良いって事で間違いないな。
その上で、いざという時にはその身を敵の刃から守る事が出来る物という事で構わないな。
だとすれば、レヴィアタン街で先日の乱のような騒動が起きた際に使っていたような扇なら女性の持ち物としても無難だと・・・フィーンもそれで納得だな!?」

少し乱暴に言い放つ俺のの言葉に初めは鳩が豆鉄砲を喰らった様な表情を浮かべたファレナがったが、言葉の意味を理解したのかクスクスと笑いながら肯定の意思を示すように何度も頷き、隣に控えていたフィーンは自分の意を俺が汲み取ったのだと知って目に涙を溜めながらも笑顔で大きく頷いた。

 これでファレナの為に鍛える武具(?)は決まったのだが、次に考えなければならない事が武具としても使える扇の形状と使用する金属鋼だ。
俺が鉄扇を鍛えた時に使った金属鋼は鍛冶師の腕を鈍らせないためにと鋼だけを用いて鍛えたが、あの時の鉄扇は緊急対処のためだけに使う物として鍛えたため、ファレナのみを守るため武具として考えると鋼だけで鍛えるいう訳にはいかない。
やはり此処はアダマンタイトやミスリルそれに鋼を使って複合鋼にした金属鋼で鍛えるのが良いだろうと考えていると、壁際で俺達のやり取りを黙って見ていた真安が、フクスと環さんを伴い近づいてくると、フクスと環さんに持たせてある木箱を俺達の目の前に置いた。

「驍廣殿、ファレナ様。不躾ではございますがこれから鍛えられる武具にこちらをお使いいただけませんでしょうか?」

そう告げた真安の言葉に合わせて、木箱の蓋を開けるフクス。
と、木箱は蓋が外され環さんは中から見たことのある金属鋼の原鋼を取り上げて見せて来た。

「おい、これって確か・・・」

「真安殿!それは魂鋼ではありませぬか?!」

環が取り出した金属鋼を見て物の確認をしようとした俺の声に被せるように、壁際に居たポリティスが驚きの表情を浮かべて大きな声を張り上げた。その大声に、耳を塞ぎたい衝動に駆られたが、それはポリティスの声をまともに浴びた真安も同じだったようで、少し顔を顰めてから、

「ポリティス殿、その様に大きな声を出さなくとも聞こえておるよ。まぁ少し落ち着きなされ。
さて、ポリティス殿が問われた様にこの場にお持ちしたのは羅漢獣王国から運んできた魂鋼で間違いない。
これは、驍廣殿がファレナ様の武具を鍛える耳にし、急ぎ本国より取り寄せたもの。ただ、申し訳ないのだがこの魂鋼を使うに当たって一つ条件があるのだが・・・」

と少し申し訳なさそうな顔をして俺を見詰めた。どうやら魂鋼を使う条件と言うのはレヴィアタン街やファレナに対してでは無く、鍛える俺に対してのものらしい。
その事を察してポリティスやファレナにフィーナの三人は俺の反応に固唾をのみ、紫慧やアルディリアそれにリリスとルークスは苦笑を俺にすべてを任せるつもりの様だった。そんな周りからの視線に大きく溜息を吐き出し、

「はぁ~。で、その条件手のはなんなんだ?言ってみろ、聞かない事には答えようが無いからな。」

と真安に話すように促す。真安は姿勢を正し真剣な表情を浮かべると、

「この魂鋼でファナレ様の武具を鍛えた後の話なのですが、鍛冶師・津田驍廣殿とその御一行を、我が羅漢獣王国にお招きしたく。是非ともここレヴィアタン街から足を延ばし御同道していただければと、伏してお願い申し上げます。」

そう言うと、その場に膝をつき土間に手をついて頭を下げるのだった。







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