鍛冶師ですが何か!

泣き虫黒鬼

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鍛冶武者修行に出ますが何か!(海竜街編)

第弐百五拾八話 乱の後片付けも終わった様ですが何か!

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「・・・だからぁ、衛兵の反乱と海賊の襲撃があったばかりなのに、領主と提督の二人が鍛冶場に来て武具を鍛える所を暢気に見ていていいのか?
知らないぞ、ポリティスさんがドーファンさんに怒られたって。」

「何を言う! これから鍛えるのは私とモーヴィ爺の武具なのだろ?だったら、武具の所有者となる私達が立ち会わないでどうするのだ。そうじゃないか、モーヴィ爺?」

「さよう、儂らの武具が鍛えるその場に立ち会えると言うのなら、立ち合いを望まぬ者などおりはせんぞ!普通の鍛冶師は、自分の仕事をあまり他人には見せたがらぬものだ。対して鍛冶師殿はこれまでも武具の所有者となる者には武具を鍛える現場を公開して来たと言うではないか、この好機を逃すなど一生の不覚となりかねぬ大事じゃ。
幸い反乱と襲撃の後始末も大方片が付いた。役目は十分に果たしたのだから、残った細々としたモノはポリティスやドーファンに任せておけば良きように計らってくれるじゃろう。儂とお嬢ファレナが鍛冶場に居ようとなんら問題にはならぬわ!」

 レヴィアタン街を襲った衛兵達の反乱と海賊の襲撃は、街へ被害が出る前に終息を迎え、俺は約束していたファレナとモーヴィの武具を鍛える為に真安が手配してくれてレヴィアタン街にある一軒の鍛冶場に来たのだが、その鍛冶場で俺達を待ち構えていたファレナとモーヴィの姿に、思わず天を仰いで思わず口を突いて出た苦言を責める者はいないだろう。

 衛兵団長ミハイル・リヴァイアサンから端を発したレヴィアタン街を襲った乱は、当初ミハイル率いる衛兵団の全勢力を持って領主邸を強襲しファレナの身柄を押さえるか御首みしるしを取る事で、後のトゥラバ・ティブロン率いるケルシュ海賊団を中心に集められた海賊たちの襲撃が円滑に行われる予定だったようだ。
しかし、衛兵団長ミハイルはファレナの身柄を押さえるだけでなく、同時にレヴィアタン街ギルドをも押さえてレヴィアタン街を手中に収めようと考え衛兵団を分けて事に対した。
しかも、ミハイルは羅漢獣王国の商館までも襲撃し、乱の終結後に自分がレヴィアタン街を掌握した時に、商館に人員を人質に羅漢獣王国と有利な取引をと画策した。
しかし、当初は全勢力でもって領主邸を襲撃する筈だった兵力を、ギルドと商館に振り分けた結果、各襲撃場所で各個に撃破されてミハイル以下衛兵団員たちはケルシュ海賊団がレヴィアタン街の周辺海域を守る鎮守船隊の本部である鎮守府を襲撃した時にはその殆どが捕縛されていた。
もし仮に、ミハイルが兵力を分散させず領主邸を襲撃していたら、ファレナの身柄を押さえられる問う事態に陥る事は無かったにしろ、海賊に襲撃された鎮守府はファレナの指揮を得られず、モーヴィの到着を待たず陥落し勢いに乗った海賊たちがレヴィアタン街にまでなだれ込み相応の被害を出していた事だろう。
そう言った意味では、ミハイルの失策によってレヴィアタン街の被害は最小限に食い止められたといえなくもない。
もっとも、ミハイルが乱を起こそうなどと考えなければそもそもが何も無かったのだから、ミハイルとその配下である衛兵達には即日重罰が科せられた。
今回の乱の首謀者、ミハイル・リバイアサンは死罪。反乱に参加した衛兵団員は鎮守船隊の海兵へと編入され海兵見習いとして雑用係として三年から五年の強制労働が命じられた。
ミハイルの死罪に伴い、リヴァイアサン家も取り潰しとなったが、妻子はレヴィアタン街ギルドに新たに設けられた保安部の監視下に置かれる事となった。
と言ってもこの処置は妻子の身の安全を確保するための処置で、これまでミハイルや衛兵団員の横暴な振る舞いにレヴィアタン街の住人は迷惑を被って来たためにその報復を受けない様にするためのものだった。
因みに新たに設けられた保安部だが、これはリンドブルム街に習い街の中で起こった犯罪などを取りしまう部署で、以前は衛兵団が行っていた業務をギルドの一部署が肩代わりするためのものだった。
次に、鎮守府を襲ったケルシュ海賊団をはじめとした海賊たちの処遇だが、実質的な被害は海賊たちによるもの(鎮守府への破壊行為及び海兵への傷害)の方が大きかったのだが、にも拘らずファレナは海賊たちに対し寛大な処分を下した。
 ファレナは海賊たちが港に乗り付けた海賊船の帆を取り外し、岸壁に鎖で固定させるとその海賊船に寝泊まりさせながらレヴィアタン街の住民への無償労働を科した。
しかも、働きの良かった者は一年以上の実労働経過を目安に懲罰を免除した。罪を免じられた海賊たちはその後再び海へと去って行った者もいたが、多くがレヴィアタン街の住人となり海兵やレヴィアタン街の商会の船乗りとなって行った。
これは、乱によって減少した人員を補充した海兵に即戦力としての需要があった事と、乱の被害が街の中にまで及ばず、商会など街の住民にとってこの時の乱は風聞で見聞きするだけだったという事が大きかった。
もし、鎮守府の海兵を突破されてその被害が街中にまで及んでいたならば、海賊たちが受け入れられる事は無かっただろう。
 ただ、一般の海賊たちと違い今回の騒乱を主導したケルシュ海賊団の幹部、特に首領であるトゥラバ・ティブロンはレヴィアタン街では無く竜都カンヘルへ移送される事となった。
 当初、ファレナはトゥラバ・ティブロンに対しても他の海賊と同じく軽い罰に留める予定だった。
トゥラバ・ティブロンはファレナの祖父とは旧知の間柄で、レヴィアタン街がまだ無法者の街だった頃には、各々別の一家を率いる海賊の頭だった。
そんな状態を憂慮しファレナの父である先代のレヴィアタン街領主が自らの父(ファレナの祖父)をはじめ周辺海域を跋扈する海賊たちを打ち倒して傘下に収め、無法者の街を秩序あるレヴィアタン街へと生まれ変わらせた。
だが、トゥラバたち海賊にとって見れば、それまで自由気儘に生活していた場を奪われた事になる。
今回の騒乱は元は自分達の居場所だったレヴィアタン街を取り戻そうとした為に起こしたと言えなくも無かった。
ファレナは自分の街の統治が不十分で、トゥラバたち海賊を捕縛する事しか出来なかったために起きた事だとして、罰を科す予定だったのだが騒乱の前、海賊船を拿捕しようとした時に捕らえていた魔術師を尋問して事態は急変した。
 魔術師は、アンスロポス帝國の裏社会を牛耳る謎の怪人フェアネン・テベリスの命を受けて海賊船へと乗り込んでいた事が分かった。
更に、トゥラバが起こす騒乱にも助力し街を奪取したあかつきには、無法者の街と化したレヴィアタン街の一部をフェアネンに譲渡す事を約束していた。
こうなると、レヴィアタン街だけに留めておく話では無くなってしまい、リンドブルム街や竜都カンヘルへも知らせなければならなくなってしまった。
 これまでアンスポロス帝國の侵攻はシュバルツティーフェの森を横断するリンドブルム街方面だけだった。しかし、帝國の裏社会を牛耳るフェアネンに街の一部とはいえ譲渡す事になれば、レヴィアタン街を拠点に帝國が侵攻、もしくはリンドブルム街方面と併せて二方向から襲撃する事が可能となる事を意味していた。
言うなればカンヘル国存亡の危機を招きかねない事態だったのだ。その為、事態を重く見たレギンとオルデンはトゥラバ以下今回の騒乱を主導した幹部を竜都カンヘルへ召喚したのだった。
 
 これら騒乱の後始末が終わる頃にはレヴィアタン街の街中でも一大勢力を誇っていたティブロン商会の会頭と商会で働く多くの者達が、周辺海域で一際勢力を誇っていたケルシュ海賊団の首領とその配下たちだったと言う驚きの出来事に、ティブロン商会と取引をしていた商人や職人は慌てふためき大変な騒ぎになっていたもののそれも落ち着き、常のレヴィアタン街に戻っていた。
 おかげで鍛冶仕事を出来る様な鍛冶場を借りる事も街が落ち着くまでは出来なかったものの、騒ぎが収まると真安とアプロがお世話になった拵え師の奔安見光月の伝手を頼りにようやく一軒の鍛冶場を借りる事が出来た。
そして、ファレナとモーヴィの武具を鍛えようかと赴いた鍛冶場の前で待ち構えていたファレナとモーヴィと鉢合わせになり、先のやり取りたなった訳だ。
まぁ、ここ数日のファレナとモーヴィの頑張りには、正直領主だから、鎮守船隊提督だからの一言では片付けられない、鬼気迫るものがあった。
そんなレヴィアタン街トップの姿があったから、レヴィアタン街の商人や職人なども一刻も早く街の騒ぎを収めようとしていた様に俺には見え、俺が二人の武具を鍛える数日間くらいは息抜きが許されるかと考えを改めた。

「分かったよ。だけど、ここ鍛冶場に居る事だけはポリティス殿や副官殿に知らせておけよ。何か、重大な問題が起きた時にファレナ達の居場所が分からず騒ぎになると不味いからな。」

そう言って鍛冶場の扉を開け二人を招き入れた。





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